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コルネーリウス/「一つの音(Cornelius: Ein Ton, Op. 3, No. 3)」(歌曲集『悲しみと慰め(Trauer und Trost, Op. 3)』より)を聞く

Ein Ton, Op. 3, No. 3
 一つの音

Mir klingt ein Ton so wunderbar
In Herz und Sinnen immerdar.
Ist es der Hauch, der Dir entschwebt,
Als einmal noch Dein Mund gebebt?
Ist es des Glöckleins trüber Klang,
Der Dir gefolgt den Weg entlang?
Mir klingt der Ton so voll und rein,
Als schlöß er Deine Seele ein.
Als stiegest liebend nieder Du
Und sängest meinen Schmerz in Ruh.
 一つの音がとても素晴らしく
 いつも私の心と感覚に響いている、
 それはあなたから漏れて消えた息吹だろうか、
 かつてまだあなたの口が震えていたときの。
 それとも悲しみの鐘の響きだろうか、
 道沿いにあなたの後ろで奏されたあの響き。
 私にはその音はとても豊かで澄んで響く、
 あたかもあなたの魂を包んでいるかのように。
 あなたが愛をこめて降りてきて
 私の苦しみを鎮めて歌ってくれるかのように。

詩:Peter Cornelius (1824-1874), "Ein Ton", appears in Gedichte, in 2. Zu eignen Weisen, in Trauer und Trost
曲:Peter Cornelius (1824-1874), "Ein Ton", op. 3 no. 3 (1854), from Trauer und Trost, no. 3

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ペーター・コルネーリウス(Peter Cornelius)は自作の歌曲のテキストをほとんど自分で手掛ける文才の持ち主でした。ヴァイオリニスト兼俳優としてキャリアを始め、音楽評論家として雑誌に投稿もしていました。多くの詩人(アイヒェンドルフ、ハイゼ)や音楽家(リスト、ヴァーグナー等)とも交流があり、代表作の歌劇『バグダッドの理髪師』の初演はリストが指揮をしました。歌曲の作曲が多く、特に歌曲集『クリスマスの歌Op. 8』は現在まで広く親しまれています。

今回取り上げる歌曲「一つの音(Ein Ton)」はカール・ヘスターマン(Carl Hestermann: 1804-1876)という商人・政治家に捧げられた6曲からなる歌曲集『悲しみと慰め(Trauer und Trost, Op.3)』の第3曲で、1854年11月にヴァイマル(Weimar)で自身のテキストによって作曲されました。

この歌曲、まず聞いていただくとあることに気づくと思いますので、最初に演奏を聞いてみましょう。

●フェリスィティ・ロット(S), グレアム・ジョンソン(P)
Felicity Lott(S), Graham Johnson(P)

チャンネル名:SOLRACPILINO EL IMPROVISADOR CUBANO(オリジナルのサイトはこちらのリンク先です。音が出ますので注意!)

歌手は最初から最後までロ音(H)のみを歌います。これがテキストのタイトル"Ein Ton(一つの音=ある音)"に由来していることは間違いないでしょう。ピアノパートが陰影に富んだ美しいハーモニーを奏でる為、曲として全く違和感なく成立していますが、こうした作品は他の作曲家の前例が何かあるのでしょうか。少なくとも古今の歌曲においては私の知る限り他に例はないと思います。

Ex-1_20240203180601 

ピアノパートの前奏と後奏でも右手のみでロ音が2回奏でられますが、主人公が「あなた(Du)」と呼ぶ相手(おそらく恋人)が亡くなった際の葬列の鐘の音と想像されます。

歌声部はロ音しか歌わないので、あとはリズムによって変化をつけますが、基本的に重要な音節に長い音価を与えて語るようなリズムが与えられています。ただ、「Glöckleins trüber (Klang)(鐘の悲しい(響き))」と歌われるところのみシンコペーションのリズムになり、弔いの鐘への主人公の動揺を表現しているように思われます。

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音楽はホ短調(e-moll)が基本で、テキスト7-8行(あの響きはとても豊かであなたを包んでいるかのようだ)で畳みかけるように盛り上がり、亡き恋人の歌ってくれる響きが主人公の苦しみを和らげてくれるという9-10行でホ長調(E-dur)に転調して、主人公の気持ちが救われたことを暗示します。後奏で再びホ短調に戻り、後奏の最後のロ音が2回鳴り、主人公の中で恋人の響きが途切れることなく続いていくことを示しているかのようです。

Ex-3_20240203180701 

3/4拍子
ホ短調(e-moll)
Etwas bewegt (Poco mosso)

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), ヘルマン・ロイター(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Hermann Reutter(P)

F=ディースカウは同音反復でも演劇的な素晴らしさが際立っています。作曲家ロイターのピアノも魅力的でした。

●ヘルマン・プライ(BR), レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR), Leonard Hokanson(P)

プライは落ち着いたテンポでソット・ヴォーチェを美しく貫きます。ホカンソンの繊細な響きの美しさも聞きどころです。

●マーガレット・プライス(S), グレアム・ジョンソン(P)
Margaret Price(S), Graham Johnson(P)

プライスの豊かな声も素敵でした。ジョンソンも緩急自在でいい演奏でした。

●ロッテ・レーマン(S), ポール・ウラノウスキ(P)
Lotte Lehmann(S), Paul Ulanowsky(P)

レーマンの落ち着いたテンポで語るような歌が説得力がありました。ウラノウスキも細やかな響きでした。

●2024年が生誕150年(没後70年)のチャールズ・アイヴズによる作品「一つの音」
Charles Ives (1874-1954): Ein Ton
トマス・ハンプソン(BR), アルメン・グゼリミアン(P)
Thomas Hampson(BR), Armen Guzelimian(P)

アイヴズは「一つの」音に全くこだわっておらず、美しい哀感漂う作品に仕上がっていました。ハンプソン、グゼリミアンともに素晴らしい演奏です。

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(参考)

The LiederNet Archive

IMSLP (楽譜)

ペーター・コルネリウス(Wikipedia)

Peter Cornelius (Komponist)(Wikipedia)

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コメント

フランツさん、こんばんは。

ロ音だけを歌っているのに、どの歌手も表情豊かですね。
流石は名歌手達!
プライさんの吐息が混ざったようなソットボーチェには悲しみがいっぱいつまっていました。途中から声を鳴らして強い響きに持って行くところは、彼ならではの高揚感があり、引き込まれます。

同じ音を繋いでいくこの曲では、ディースカウさんの巧みな語り口が生きてきますね。巧みであり匠でした!

プライスの1本筋の通ったソプラノで聞くと悲しみが切々と伝わってきました。

レーマンの語り口も素晴らしかったです。微妙に揺れるテンポがいいですね。

ハンプソンの哀愁に満ちた一つの音も美しかったです。

一つの音にロ音を選んだのは、この音が一番悲しく響くからでしょうか?

投稿: 真子 | 2024年2月 7日 (水曜日) 20時45分

真子さん、こんにちは。
コメント有難うございます^^

一つの音だけで表情豊かな歌を歌う歌手たちは本当に凄いですよね。ロ音ならばどの声種の歌手でも無理なく出せるので歌の教材としても良さそうだなと思いました。

プライは本当に含蓄のある歌ですよね。食材に出汁がたっぷりきいている感じがします。

ディースカウはまさにおっしゃる通り巧みですね。プライと異なる資質なのでどちらも楽しめます。

女声歌手もまた違った良さがありますね。

コルネーリウスがロ音を選んだ理由も気になりますね。この音楽にふさわしいと感じたのでしょうね。

ハンプソンの演奏はアイヴズ作曲の作品ですが、歌曲のテキストとしてコルネーリウス本人以外にも興味を持たれたというのは詩人としても優れているということなのでしょうね。

投稿: フランツ | 2024年2月 8日 (木曜日) 07時53分

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