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ブラームス/鼓手の歌(Tambourliedchen, Op. 69/5)を聞く

Tambourliedchen, Op. 69/5
 鼓手の歌

Den Wirbel schlag' ich gar so stark,
Daß euch erzittert Bein und Mark,
Drum denk' ich ans schön Schätzelein,
Blaugrau,
Blau,
Blaugrau,
Blau
Ist seiner Augen Schein.
 俺はこんなにも強くドラムロールする、
 あなたたちの身も心も震わせるほどに、
 だから美しい恋人のことを思い出してしまうんだ、
 ブルーグレー
 ブルー
 ブルーグレー
 ブルー
 はあの子の瞳の輝き。

Und denk' ich an den Schein so hell,
Von selber dämpft das Trommelfell,
Den wilden Ton, klingt hell und rein:
Blaugrau,
Blau,
Blaugrau,
Blau
Sind Liebchens Äugelein.
 そして明るいあの輝きのことを思うと
 太鼓の皮がおのずと
 荒々しい音を和らげ、明るく澄んだ響きになる。
 ブルーグレー
 ブルー
 ブルーグレー
 ブルー
 は恋人のかわいい瞳の色。
 
詩:Karl August Candidus (1817 - 1872), "Tambourliedchen"
曲:Johannes Brahms (1833 - 1897), "Tambourliedchen", op. 69 (Neun Gesänge) no. 5, published 1877

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私がクラシック音楽を聞き始めた頃はまだ学生で小遣いも少なかった為、FMラジオから流れてくるコンサートのライヴ放送がとても有難かったものです。ザルツブルク音楽祭のシーズンが終わると歌曲のコンサートがいくつか放送され、それをカセットテープに録音して繰り返し聞いたりしていました。F=ディースカウがヘルとブラームスのコンサートを催した時の放送もラジカセの前に鎮座してタイミングよく録音ボタンを押すべく奮闘したものでした。ディースカウは一般的によく歌われるブラームス歌曲だけでなく当時はかなり珍しかった曲を散りばめたプログラミングだったのが印象的でしたが、そんな中「夜に飛び起きて(Wie rafft ich mich auf in der Nacht)」や「エオリアンハープに寄せて(An eine Äolsharfe)」のようなとびきり素晴らしい作品に出合えて夢中になって聴いていました。「鼓手の歌」もこのディースカウ&ヘルのザルツブルク・ライヴ放送で初めて聞き、軽快で楽しい曲だなぁと印象に残っていました。

カール・アウグスト・カンディドゥスのテキストによるこの歌曲は1877年3月にヴィーンで作曲され、同年8月に出版されました。恋人と遠く離れてドラムロールを奏でる主人公はその荒々しい振動につい恋人のことを思い出してしまいます。その恋人の目の色が青灰色であることをリズミカルに歌います。青灰色(Blaugrau)というのはリンク先のような色のことだそうです。そして第2連では彼女の目の輝きを思い出しているうちに荒々しい太鼓の響きが明るい澄んだ響きに変わっていくと歌います。演奏が恋人の目に影響されるということですね。なんとも微笑ましい情景にも思えますが、太鼓を叩いているということは戦場にいる可能性もあります。マーラーのいくつかの歌曲を想起するまでもなく、死と隣り合わせの地でつかの間の夢想に浸っているという情景なのかもしれません。そうだとするとこの詩がただの明るい歌ではなく、空元気を出して自らを奮い立たせている若い兵士の悲哀がこめられているのかもしれないとすら思えてきます。

このテキストに付けたブラームスの音楽には悲劇的な要素はありません。ドラムロールを模したピアノパートに乗って、威勢よく元気に歌われる2節の有節歌曲として作曲されました。勝利の凱旋の太鼓なのかもしれませんね。Blaugrau blauと繰り返される"(b)lau"と"(g)rau"が韻を踏んで心地よい響きを作っています。外国人の歌手にとっては"l"と"r"の訓練にもなりますね。

アッラ・ブレーヴェ (2/2拍子)
イ長調(A-Dur)
Sehr lebhaft (非常に生き生きと)

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), ダニエル・バレンボイム(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Daniel Barenboim(P)

ディースカウは威勢のいいところと恋人を思い起こすところの表情の違いが印象的でした。バレンボイムの切れ味鋭いピアノは、この太鼓叩きが物凄い名手に聞こえてきます。

●エルンスト・ヘフリガー(T), ヘルタ・クルスト(P)
Ernst Haefliger(T), Hertha Klust(P)

ヘフリガーの折り目正しい歌が主人公の性格を想起させて楽しいです。

●テオ・アーダム(BR), ルドルフ・ドゥンケル(P)
Theo Adam(BR), Rudolf Dunckel(P)

アーダムの「武士のよう」と形容される佇まいがこの歌曲に気品を与えていました。ドゥンケルの雄弁なピアノも魅力的でした。

●シュテファニー・イラーニ(MS), ヘルムート・ドイチュ(P)
Stefanie Irányi(MS), Helmut Deutsch(P)

イラーニの表情の細やかさとドイチュの完璧な表現力で素敵な演奏でした。

●マリ=ニコル・ルミュー(CA), マイクル・マクマホン(P)
Marie-Nicole Lemieux(CA), Michael McMahon(P)

茶目っ気のある語り口がなんとも魅力的なルミューの歌でした。

●アンドレアス・シュミット(BR), ヘルムート・ドイチュ(P)
Andreas Schmidt(BR), Helmut Deutsch(P)

シュミットは丁寧な歌いぶりで、ここでもドイチュが見事なまでにドラムの響きを表現しています。

●ウィリアム・パーカー(BR), ウィリアム・ハッカビー(P)
William Parker(BR), William Huckaby(P)

ウィリアム・パーカーはEMIのプーランク歌曲全集に参加していた人ですが、ドイツリートも見事にこなしています。

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(参考)

The LiederNet Archive

IMSLP (楽譜)

Deutsche Biographie (Candidus, Carl August)

Münchener Digitalisierung Zentrum - Candidus, Karl August: Gedichte eines Elsässers (テキスト)

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