エリー・アーメリング(Elly Ameling)は1960年代にオランダを代表するピアニスト、指揮者のフェーリクス・ドゥ・ノーベル(Felix de Nobel)とコンサートや放送録音などで頻繁に共演していました。ノーベルは若く才能のある彼女の演奏を記録しておこうと思ったのかもしれません。アーメリングとノーベルは26歳差があり、この年齢差はF=ディースカウとムーアの年齢差、あるいはプライとアドルフ・シュタウホ(プライは若かりし頃ベルリンでのシュタウホ教授のリート発展史の講義で演奏する歌手として採用されて、毎週数曲暗譜で新曲を歌ったそうです)の年齢差と同じです。 歌曲のピアニストは一世代若い優れた歌手と共演することで、自身のこれまでの経験を伝えていこうとしているのかもしれません。
Drei Kön'ge wandern aus Morgenland; Ein Sternlein führt sie zum Jordanstrand. In Juda fragen und forschen die drei, Wo der neugeborene König sei? Sie wollen Weihrauch, Myrrhen und Gold Dem Kinde spenden zum Opfersold. 三王が東方から歩いてくる。 ある小さな星が彼らをヨルダン川の川辺へと導く。 ユダ王国で三王は尋ねて探す、 産まれたての王は何処かと。 彼らは乳香、没薬と黄金を 供物としてこの子に与えたいと思っている。
Und hell erglänzet des Sternes Schein: Zum Stalle gehen die Kön'ge ein; Das Knäblein schauen sie wonniglich, Anbetend neigen die Kön'ge sich; Sie bringen Weihrauch, Myrrhen und Gold Zum Opfer dar dem Knäblein hold. そしてその星が明るく輝くと 厩舎へ三王は入っていく。 彼らは喜んで幼な児を見つめ 賛美して身をかがめる。 彼らは供物としていとしい幼な児に 乳香、没薬と黄金を捧げる。
O Menschenkind! halte treulich Schritt! Die Kön'ge wandern, o wandre mit! Der Stern der Liebe, der Gnade Stern Erhelle dein Ziel, so du suchst den Herrn, Und fehlen Weihrauch, Myrrhen und Gold, Schenke dein Herz dem Knäblein hold! おお、人の子よ!誠実に歩み続けよ! 三王は歩く、おお、一緒に行こう! 愛の星、慈悲の星よ、 あなたの目的地を明るく照らせ、あなたは主を探し、 乳香、没薬と黄金がなくなったら あなたの心をいとしい幼な児に贈りたまえ。
詩:Peter Cornelius (1824-1874), "Die Könige", appears in Gedichte, in 2. Zu eignen Weisen, in Weihnachtslieder 曲:Peter Cornelius (1824-1874), "Die Könige", op. 8 no. 3 (1856), published 1871 [voice and piano], from Weihnachtslieder, no. 3, Leipzig, Fritzsch
●ペーター・シュライアー(Boy alto), カール=ディートフリート・アーダム(P) Peter Schreier(Boy alto), Karl-Dietfried Adam(P)
●ペーター・シュライアー(T), ノーマン・シェトラー(P) Peter Schreier(T), Norman Shetler(P)
●ヘルマン・プライ(BR), レナード・ホカンソン(P) Hermann Prey(BR), Leonard Hokanson(P)
●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), ジェラルド・ムーア(P) Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Gerald Moore(P)
●東方の三王(第1作) Die Könige (1st Version) クリスティーナ・ランツハマー(S), マティアス・ファイト(P) Christina Landshamer(S), Matthias Veit(P)
Hab' ich tausendmal geschworen Dieser Flasche nicht zu trauen, Bin ich doch wie neugeboren, Läßt mein Schenke fern sie schauen. 私は千回も誓った、 この酒瓶を信用しないと、 だが私は生まれたばかりのようになってしまう、 私の酌人が遠くから瓶を見せてくると。
Alles ist an ihr zu loben, Glaskristall und Purpurwein; Wird der Propf herausgehoben, Sie ist leer und ich nicht mein. すべては酒瓶をほめたたえるためのもの、 クリスタルガラスに深紅のワイン、 栓が抜かれると、 瓶は空になり、私は自分を見失ってしまう。
Hab' ich tausendmal geschworen, Dieser Falschen nicht zu trauen, Und doch bin ich neugeboren, Läßt sie sich ins Auge schauen. 私は千回も誓った、 この不実な女を信用しないと、 だが私は生まれたての赤子になってしまう、 この不実な女が目に入ると。
Mag sie doch mit mir verfahren, Wie's dem stärksten Mann geschah. Deine Scher' in meinen Haaren, Allerliebste Delila! 私に振る舞うというのならそうすればいい、 最強の男の身にふりかかったように。 おまえのはさみを私の髪に入れればいいさ、 最愛のデリラよ!
詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), "Unüberwindlich", first published 1860 曲:Johannes Brahms (1833-1897), "Unüberwindlich", op. 72 (Fünf Gesänge) no. 5 (1875), published 1877 [voice and piano], Berlin, Simrock
ゲーテは、旧約聖書の士師記13章〜16章に登場するサムソンの話に関心を持っていて、ヘンデルのオラトリオ『サムソン』も知っていたということです(HyperionレーベルのGraham Johnsonによる解説による:リンクをクリックすると解説書のPDFがダウンロードされます。この曲の解説は22~23ページです)。この詩の最後にデリラ(Delila)という女性の名前が出てきますが、彼女はサムソンの妻で、第4連2行目の最強の男(dem stärksten Mann)であるサムソンの弱点が髪にあることを本人から聞き、寝ている間に髪を剃り、ペリシテ人に売り渡すという聖書の記述に基づいています(サン=サーンスのオペラ『サムソンとデリラ(Samson et Dalila)』ではその話が描かれています)。この詩の第4連3行目「私の髪におまえのはさみを入れればいいさ(Deine Scher' in meinen Haaren)」というのは、弱点をさらして彼女の誘惑に逆らう心を自ら差し出してしまうわけですね。酒と女に打ち勝つと千回(tausendmal)も誓ったのに結局その沼から抜け出す気持ちは毛頭ないということが分かります。
Den Wirbel schlag' ich gar so stark, Daß euch erzittert Bein und Mark, Drum denk' ich ans schön Schätzelein, Blaugrau, Blau, Blaugrau, Blau Ist seiner Augen Schein. 俺はこんなにも強くドラムロールする、 あなたたちの身も心も震わせるほどに、 だから美しい恋人のことを思い出してしまうんだ、 ブルーグレー ブルー ブルーグレー ブルー はあの子の瞳の輝き。
Und denk' ich an den Schein so hell, Von selber dämpft das Trommelfell, Den wilden Ton, klingt hell und rein: Blaugrau, Blau, Blaugrau, Blau Sind Liebchens Äugelein. そして明るいあの輝きのことを思うと 太鼓の皮がおのずと 荒々しい音を和らげ、明るく澄んだ響きになる。 ブルーグレー ブルー ブルーグレー ブルー は恋人のかわいい瞳の色。
私がクラシック音楽を聞き始めた頃はまだ学生で小遣いも少なかった為、FMラジオから流れてくるコンサートのライヴ放送がとても有難かったものです。ザルツブルク音楽祭のシーズンが終わると歌曲のコンサートがいくつか放送され、それをカセットテープに録音して繰り返し聞いたりしていました。F=ディースカウがヘルとブラームスのコンサートを催した時の放送もラジカセの前に鎮座してタイミングよく録音ボタンを押すべく奮闘したものでした。ディースカウは一般的によく歌われるブラームス歌曲だけでなく当時はかなり珍しかった曲を散りばめたプログラミングだったのが印象的でしたが、そんな中「夜に飛び起きて(Wie rafft ich mich auf in der Nacht)」や「エオリアンハープに寄せて(An eine Äolsharfe)」のようなとびきり素晴らしい作品に出合えて夢中になって聴いていました。「鼓手の歌」もこのディースカウ&ヘルのザルツブルク・ライヴ放送で初めて聞き、軽快で楽しい曲だなぁと印象に残っていました。
これまでブラームスの『リートとゲザングOp.32(Lieder und Gesänge, Op. 32)』を1曲ずつ聞いてきました。ちなみにリートとゲサングという言葉はどちらも「歌」を意味し、それほど厳密な区別がされているわけではないのですが、おおまかに言って前者が有節歌曲、後者が通作歌曲を指すことが多いようです。日本語でも同じような意味の言葉をつなげたりすることがありますが、それに近いのかなぁと思っています(あくまで個人的な所感です。違っていたらすみません)。
●オラフ・ベーア(BR), ジェフリー・パーソンズ(P) Olaf Bär(BR), Geoffrey Parsons(P) レーベル:EMI; ETERNA 録音:April 1987, Studio Lukaskirche, Dresden Discogs
●ジョゼ・ヴァン・ダム(BR), マチェイ・ピクルスキー(P) José van Dam(BR), Maciej Pikulski(P) レーベル:Forlane 録音:décembre 1994, Théâtre Jean Lurçat d'Aubusson Discogs Amazon
●アンドレアス・シュミット(BR), ヘルムート・ドイチュ(P) Andreas Schmidt(BR), Helmut Deutsch(P) レーベル:cpo (Brahms - Complete Edition, Vol. 2) 録音:August, December 1996 Discogs
●トーマス・クヴァストホフ(BR), ユストゥス・ツァイエン(P) Thomas Quasthoff(BR), Justus Zeyen(P) レーベル:Deutsche Grammophon 録音:Oct. 1999, Teldec Studio, Berlin Deutsche Grammophon
●イアン・ボストリッジ(T), グレアム・ジョンソン(P) Ian Bostridge(T), Graham Johnson(P) レーベル:Hyperion Records (Brahms - The Complete Songs, Vol. 6) 録音:3-5 June 2013, All Saints' Church, East Finchley, London Hyperion Records
●マティアス・ゲルネ(BR), クリストフ・エッシェンバハ(P) Matthias Goerne(BR), Christoph Eschenbach(P) レーベル:harmonia mundi 録音:April 2013 & December 2015, Teldex Studio Berlin Discogs
●サイモン・ウォルフィッシュ(BR), エドワード・ラッシュトン(P) Simon Wallfisch(BR), Edward Rushton(P) レーベル:Resonus Classics (Songs of Loss and Betrayal) 録音:25-27 November 2019, St John the Evangelist, Oxford Resonus Classics
●ヤニナ・ベヒレ(MS), マルクス・ハドゥラ(P) Janina Baechle(MS), Markus Hadulla(P) レーベル:Capriccio Capriccio Discogs
●クリストフ・プレガルディアン(T), ウルリヒ・アイゼンローア(P) Christoph Prégardien(T), Ulrich Eisenlohr(P) レーベル:NAXOS (Brahms: Complete Songs, 1) 録音:21-24 September 2020, Hans-Rosbaud-Studio, SWR, Baden-Baden NAXOS
●コンスタンティン・クリンメル(BR), エレーヌ・グリモー(P) Konstantin Krimmel(BR), Hélène Grimaud(P) レーベル:Deutsche Grammophon (For Clara) 録音:28-30 August 2022, Turbine Hall at Lake Stienitz Universal Music Japan
★抜粋だが曲数が多い録音
●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), ヘルタ・クルスト(P) Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Hertha Klust(P) レーベル:His Master's Voice; Angel Records 録音:25 May 1955, Berlin-Zehlendorf Op.32/1,2,3,4,6,5,9 Discogs
●リュート・ファン・デル・メール(BR), ルドルフ・ヤンセン(P) Ruud van der Meer(BR), Rudolf Jansen(P) レーベル:ottavo 録音:21,22 & 27 Dec. 1986, 'de Doelen', Rotterdam Op.32/1,2,3,4,5,6,9 Muziekweb
★YouTubeで聴けるOp.32全曲
●ヴォルフガング・シュヴァイガー(BR), バルバラ・モーザー(P) Wolfgang Schwaiger, Bariton - Brahms op 32 Wolfgang Schwaiger, baritone Barbara Moser, piano
Wie bist du, meine Königin, Op. 32, No. 9 なんとあなたは、僕の女王よ
Wie bist du, meine Königin, Durch sanfte Güte wonnevoll! Du lächle nur, Lenzdüfte wehn Durch mein Gemüte, wonnevoll! なんとあなたは、僕の女王よ、 穏やかで親切な気質によって喜びに満ちていることか! あなたが微笑むだけで、春の香りが 僕の心を吹き抜けて、喜びに溢れるのだ!
Frisch aufgeblühter Rosen Glanz, Vergleich ich ihn dem deinigen? Ach, über alles, was da blüht, Ist deine Blüte wonnevoll! 咲いたばかりのバラの輝き、 それを私はあなたの輝きと比べようか。 ああ、ここに咲いているすべてにまさって あなたという花は喜びにあふれている!
Durch tote Wüsten wandle hin, Und grüne Schatten breiten sich, Ob fürchterliche Schwüle dort Ohn Ende brüte, wonnevoll! 荒涼とした砂漠を歩いて行くと、 緑の陰が広がっている、 そこではひどい蒸し暑さに 果てしなく襲われているのに、喜びに満ちている!
Laß mich vergehn in deinem Arm! Es ist in ihm ja selbst der Tod, Ob auch die herbste Todesqual Die Brust durchwüte, wonnevoll! 僕をあなたの腕の中で死なせてください! その腕の中では、死さえも、 最もつらい死の苦痛が 胸を荒れ狂っていたとしても、喜びいっぱいなのだ!
詩:Georg Friedrich Daumer (1800-1875), no title, appears in Hafis - Eine Sammlung persischer Gedichte, in Hafis, first published 1846 曲:Johannes Brahms (1833-1897), "Wie bist du, meine Königin", op. 32 (Neun Lieder und Gesänge) no. 9, published 1865 [ voice and piano ], Winterthur, Rieter-Biedermann
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ダウマーとプラーテンの詩によるブラームスの『リートとゲザング(Lieder und Gesänge)』Op. 32の9曲目(最終曲)はハーフィズの詩のダウマー独訳による「なんとあなたは、僕の女王よ(Wie bist du, meine Königin, Op. 32, No. 9)」です。ブラームスの全歌曲の中で最もよく歌われる人気の高い作品です。
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