ベートーヴェン「太鼓が鳴る(Die Trommel gerühret, Op. 84/1)」(悲劇『エグモント』のための音楽("Egmont" Musik zu J. W. von Goethes Trauerspiel, Op. 84)より)
Die Trommel gerühret
太鼓が鳴る
Die Trommel gerühret,
Das Pfeifchen gespielt!
Mein Liebster gewaffnet
Dem Haufen befiehlt,
Die Lanze hoch führet,
Die Leute regieret.
Wie klopft mir das Herz!
Wie wallt mir das Blut!
O hätt' ich ein Wämslein
Und Hosen und Hut!
太鼓が鳴り
笛を吹く音がします!
武装した私の恋人が
部隊に指令すると、
槍を高く掲げ
人々を制御するのです。
私の心臓はなんとどきどきするのでしょう!
私の血はなんとたぎっていることでしょう!
おお、私にも胴着や
ズボンや帽子があればいいのに!
Ich folgt' ihm zum Tor 'naus
mit mutigem Schritt,
Ging' durch die Provinzen,
ging' überall mit.
Die Feinde schon weichen,
Wir schiessen da drein;
Welch' Glück sondergleichen,
Ein Mannsbild zu sein!
そうしたら門の外へ彼のあとについて
勇敢な足取りで進み
いろんな州を渡り
あらゆる場所に一緒に行くでしょう。
敵はすでに退去し、
私たちは敵めがけて撃つのです。
このうえない幸せです、
男になるのは!
詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), no title, appears in Egmont
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827), "Klärchens Lied I", alternate title: "Die Trommel gerühret", op. 84 no. 1, from the stage composition Egmont, no. 2
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ベートーヴェンは、ゲーテの『エグモント』のための音楽を1809年秋から1810年6月にかけて作曲しました。
ベートーヴェンが「悲劇『エグモント』のための音楽」として作曲した音楽の内容は下記の通りです。
序曲(Ouverture)
1. リート(Lied. Die Trommel gerühret):第1幕第3場
2. 幕間の音楽(Entracte I):第1幕後
3. 幕間の音楽(Entracte II):第2幕後
4. リート(Lied. Freudvoll und leidvoll, gedankenvoll sein):第3幕第2場
5. 幕間の音楽(Entracte III):第3幕後
6. 幕間の音楽(Entracte IV):第4幕終わり
7. クレールヒェンの死を示して(Clärchens Tod bezeichnend):第5幕第3場
8. メロドラマ(Melodrama):第5幕
9. 勝利の交響曲(Siegessymphonie):劇の最後
ゲーテの『エグモント』については「小澤和也 音楽ノート」様や「サーシャのひとり言」様がとても明快で分かりやすく書かれていますので、ぜひご覧ください。
現在入手しやすい日本語訳は、潮出版社から1979年に発行されたものの新装版として2003年10月5日に発行された『ゲーテ全集 4 戯曲 新装普及版』でしょうか。「エグモント」の訳者は内垣啓一氏です。
ゲーテの原作では第1幕(Erster Aufzug)の第3場、町役場(Bürgerhaus)の場面で、クラーラ(愛称クレールヒェン)が糸を巻きながら彼女に片思いするブラッケンブルクと共に歌うという設定になっています(こちら)。
1812年にBreitkopf & Härtel社からオリジナルのオーケストラ版だけでなく、ピアノ編曲版も出版されました。オリジナルに付け加えたり修正したりすることはなく、忠実にピアノで演奏できるようにしています。
テキストの最後まで歌うと、1番括弧で再度歌の始めから繰り返します。最後の後奏は静かに消えていくかと思いきや、勇壮な3つの拍打ちで締めくくります。
1812年Breitkopf & Härtel社出版ピアノ編曲版の冒頭
2/4拍子
ヘ短調(f-moll)
Vivace
●アナ・プロハスカ(S), エリック・シュナイダー(P)
Anna Prohaska(S), Eric Schneider(P)
プロハスカの美声はチャーミングですね。シュナイダーの鋭利な演奏が印象的でした。
●イルムガルト・ゼーフリート(S), エリク・ヴェルバ(P)
Irmgard Seefried(S), Erik Werba(P)
1957年ライヴ録音。ゼーフリートの芯のある声は訴求力が強く感じられます。
●マリーア・ミュラー(S), ミヒャエル・ラウハイゼン(P)
Maria Müller(S), Michael Raucheisen(P)
往年のソプラノ、ミュラー(1898–1958)はドラマティックで勇壮ですね。おそらく歌曲のアンソロジーを続々と録音していたラウハイゼンの企画の一環として録音されたのではないかと思います。
●オリジナルのオーケストラ伴奏版
グンドゥラ・ヤノヴィツ(S), ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団, ヘルベルト・フォン・カラヤン(C)
Gundula Janowitz(S), Berliner Philharmoniker, Herbert von Karajan(C)
ヤノヴィツの気品のある美声がクレールヒェンのキャラクターを想像させてくれます。
●フランツ・リストによるピアノ独奏用編曲
6 Lieder von Goethe, S. 468/R. 123 (Arr. F. Liszt for Solo Piano) : No. 6, Die Trommel geruhret
ジュゼッペ・ブルーノ(P)
Giuseppe Bruno(P)
リストはこの曲もピアノ独奏用に編曲していました。
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(参考)
『ベートーヴェン全集 第7巻』:1999年7月14日第1刷 講談社(「太鼓が鳴る」の解説:高橋浩子)
『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(歌曲の解説:藤本一子)
付曲が難しいと言われていたゲーテ作品のための音楽「舞台劇(悲劇)《エグモント》」(平野昭)
『ゲーテ全集 4 戯曲 』(潮出版社 2003年10月5日新装普及版(1979年7月10日初版))(「エグモント」の訳:内垣啓一)
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