ベートーヴェン「修道僧の歌(Gesang der Mönche, WoO 104)」
Gesang der Mönche, WoO 104
修道僧の歌
Rasch tritt der Tod den Menschen an,
Es ist ihm keine Frist gegeben,
Es stürzt ihn mitten in der Bahn,
Es reißt ihn fort vom vollen Leben,
Bereitet oder nicht, zu gehen.
Er muß vor seinem Richter stehen!
迅速に死がその人間に襲いかかる、
彼に猶予はなかった、
彼を道半ばに突き落とし、
彼を人生からさらっていく、
行く支度をしていようがしていなかろうが。
彼は審判者の前に立たねばならない!
詩:Friedrich von Schiller (1759-1805), no title, appears in Wilhelm Tell
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)
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フリードリヒ・フォン・シラーの『ヴィルヘルム・テル(Wilhelm Tell)』(日本では「ウィリアム・テル」という英語読みで知られていますね)第四幕、第三場の最後に歌われるテキストによる男声3声(テノール2声、バス、無伴奏)の為の「修道僧の歌(Gesang der Mönche, WoO 104)」は、1817年5月3日に作曲されました。
友人の音楽学者フランツ・サレス・カンドラー(Franz Sales Kandler: 1792-1831)の記念帳に記された自筆譜には「我らがクルンプホルツの1817年5月3日の不慮の死を偲んで(Zur Erinnerung an den schnellen unverhofften Tod unsers Krumpholz am 3 Mai 1817.)」と書かれています。クルンプホルツというのはベートーヴェンの友人だったヴァイオリニストで、その死を偲びつつ、ヴィーンを離れるカンドラーの記念帳に書いたようです。
・自筆譜
ヴィルヘルム・テルの話は、テルが息子の頭上に置いた林檎を矢で射落とす場面が有名ですが、シラーの『ヴィルヘルム・テル』では第三幕第三場にこのエピソードがあります。
第四幕、第三場で庶民を苦しめてきた悪代官のヘルマン・ゲスラーをテルが射て倒すわけですが、「死者をかこんで半円をつくり、低い調子で歌う」(野島正城訳)というト書きの後にこの「修道僧の歌」が歌われます。
そして「終わりの数行がくりかえされるうちに幕下りる」(野島正城訳)というト書きがあり、この第四幕、第三場は終わります。
※以下が原文
Barmherzige Brüder schließen einen Halbkreis um den Toten und singen in tiefem Ton:
Rasch tritt der Tod den Menschen an,
Es ist ihm keine Frist gegeben,
Es stürzt ihn mitten in der Bahn,
Es reisst ihn fort vom vollen Leben,
Bereitet oder nicht, zu gehen,
Er muss vor seinen Richter stehen!
Indem die letzten Zeilen wiederholt werden, fällt der Vorhang.
ベートーヴェンの音楽は、順次進行や同音反復などの動きの少なさで重苦しい雰囲気を引きずって進みます。最終行の"er(彼は)"の繰り返しは、最初はsf(スフォルツァンド)、2回目はfp(フォルテピアノ)でこの悪代官を糾弾するような鋭い響きを与えています。あっという間に終わるコンパクトな作品ですが、テキストの内容を見事に表現した作品だと思います。
C (4/4拍子)
ハ短調(c-moll)
Ziemlich langsam
●マイケル・コネア(T), ヤン・コボウ(T), ラルフ・グローベ(BSBR), アンドレアス・プルイス(BS)
Michael Connaire(T), Jan Kobow(T), Ralf Grobe(BSBR), Andreas Pruys(BS)
録音: 11 May 2009, Bückeburger Stadtkirche, Germany。重唱で歌われています。各声部が主張していて死への畏怖が感じられました。
●カントゥス・ノヴス・ヴィーン, トマス・ホームズ(C)
Cantus Novus Wien, Thomas Holmes(C)
録音: 20 January 2019, 4tune audio productions, Wien。合唱で聞くと沈潜した雰囲気が強く出ていました。
●ヨアヒム・フォークト(T), ギュンター・バイアー(T), ズィークフリート・ハウスマン(BS), ディートリヒ・クノーテ(C)
Joachim Vogt(T), Günther Beyer(T), Siegfried Hausmann(BS), Dietrich Knothe(C)
録音: May, June 1976, Berlin。重唱で歌われていますが、それぞれの声が溶け合って美しかったです。
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(参考)
《修道僧の歌》——シラーの戯曲『ヴィルヘルム・テル』から作曲した無伴奏男声三重唱(平野昭)
『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社(「修道僧の歌 WoO 104」の解説:藤本一子)
『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(「修道僧の歌 WoO 104」の解説:小林宗生)
Wilhelm Tell – Text: 4. Aufzug, 3. Szene
フリードリヒ・シラー『シラー名作集≪新装復刊≫』:内垣啓一他訳(「ヴィルヘルム・テル」(P.331~)は野島正城訳):2022年5月25日発行、白水社(元本は1972年刊行)
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