ベートーヴェン「結婚式の歌(Hochzeitslied, WoO 105 (Hess 125, 124))」
Hochzeitslied, WoO 105 (Hess 125, 124)
結婚式の歌
Auf, Freunde, singt dem Gott der Ehen!
Preist Hymen hoch am Festaltar,
Daß wir des Glückes Huld erflehen,
Erflehen für ein edles Paar!
Vor allem laßt in frohen Weisen
Den würd'gen Doppelstamm uns preisen,
Dem dieses edle Paar entsproß!
さあ、友人たちよ、婚礼の神に歌うのだ!
祝宴の祭壇で高らかにヒュメナイオスを讃えよ、
幸せの恩寵を
お似合いの夫婦のために懇願するのだ!
何よりも、陽気な調べで
品格のある2人の一族を讃えよう、
そこからこのお似合いの夫婦が生まれたのだ!
※ヒュメナイオス:ギリシャ神話で婚礼の神
詩:Anton Joseph Stein (1759–1844)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)
------------
アントン・ヨーゼフ・シュタインのテキストによる「結婚式の歌(Hochzeitslied, WoO 105」は、マリア・アンナ・ジャンナタズィオ・デル・リオ(Maria Anna Giannatasio del Rio)と官吏レオポルト・シュメルリング(Leopold Schmerling)の結婚式の為に1819年1月14日に作曲され、結婚式当日(1819年2月6日)に初演されました。この夫婦の娘によると「母が教会の結婚式から家に戻ると美しい男声四重唱がきこえ、それがやんだとき、隠れていたベートーヴェンが姿を現し、心からなるお祝いの言葉とともに今歌われた男声四重唱の自筆譜を手渡した」とのことです(藤本一子解説:『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社)。
結婚式にふさわしい華やかな小品です。ベートーヴェンは2つの稿を作り、どちらもジャンナタズィオ家に贈られたそうです(前述の藤本氏の解説)。
楽譜には4回繰り返すように指示がある為、歌詞が4番まであったと思われますが、現在分かっているのは1番のみのようです。
第1稿の楽譜(Der Bär : Jahrbuch der Firma Breitkopf & Härtel – 1927)
【第1稿】(Hess 125)
独唱、斉唱、ピアノ
1819年1月14日作曲
C (4/4拍子)
ハ長調(C-dur)
Mit Feuer, doch verständlich und deutlich
【第2稿】(Hess 124)
独唱、合唱、ピアノ
C (4/4拍子)
イ長調(A-dur)
(Mit Feuer, doch verständlich und deutlich)
●【第2稿】(Hess 124)
2. Fassung
ヘルマン・プライ(BR), ハインリヒ・シュッツ・クライス・ベルリン, レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR), Heinrich Schütz Kreis, Berlin, Leonard Hokanson(P)
録音: 1987-1989, Studio 10, RIAS, Berlin. プライが先導して合唱を率いるのは本当に合っていますね。ホカンソンがいかにも楽しそうにパリパリと弾いているのもいいです。
●【第2稿】(Hess 124)
2. Fassung
マンフレート・ビットナー(BS), ハイケ・ハイルマン(S), アネ・ビーアヴィルト(CA), ダニエル・ヨハンソン(T), エリーザベト・グリューネルト(P)
Manfred Bittner(BS), Heike Heilmann(S), Anne Bierwirth(CA), Daniel Johannsen(T), Elisabeth Grünert(P)
録音: 15 February 2007, Bauer Studios Ludwigsburg. バスのビットナーが独唱し、合唱パートはハイルマン、ビーアヴィルト、ヨハンソンが加わっています。
●【第2稿】(Hess 124)
2. Fassung
タベア・ゲルストグラッサー(S), シュテファン・タウバー(T), カントゥス・ノヴス・ヴィーン, ディアナ・フックス(P), トマス・ホームズ(C)
Tabea Gerstgrasser(S), Stefan Tauber(T), Cantus Novus Wien, Diána Fuchs(P), Thomas Holmes(C)
録音: 20 January 2019, 4tune audio productions, Wien. ここでは独唱パートをソプラノとテノールが一緒に歌っています。結婚する二人が歌う設定でしょうか。素朴で優しい歌い方で微笑ましいです。
●【第2稿】(Hess 124)
2. Fassung
ジャン=フランソワ・ルッション(BR), ダニア・エル・ゼイン(S), ナタリー・ペレス(MS), ヴァンサン・リエーヴル=ピカール(T), ジャン=ピエール・アルマンゴー(P)
Jean-François Rouchon(BR), Dania El Zein(S), Natalie Pérez(MS), Vincent Lièvre-Picard(T), Jean-Pierre Armengaud(P)
録音: August 2019. バリトンのルッションが独唱し、合唱パートで他の歌手たちが加わっています。
●【第1稿】(Hess 125)
1. Fassung
ヴァンサン・リエーヴル=ピカール(T), ナタリー・ペレス(MS), ジャン=ピエール・アルマンゴー(P)
Vincent Lièvre-Picard(T), Natalie Pérez(MS), Jean-Pierre Armengaud(P)
録音: August 2019. テノールのリエーヴル=ピカールが独唱し、斉唱パートでメゾのペレスが加わる形で演奏されています。
●【第1稿】(Hess 125)
1. Fassung
ハイディ・ブルナー(MS), ヴィーン・グスタフ・マーラー合唱団, クリスティン・オーカーランド(P)
Heidi Brunner(MS), Gustav Mahler Chor Wien, Kristin Okerlund(P)
第1稿の演奏。第2稿との違いは最後の詩行が混成四部合唱ではなくユニゾン(斉唱)で歌われ、第2稿より3度高い点、ピアノパートの若干の違いだけのようですので、聞いているとほぼ同じ印象を受けます。
-----------
(参考)
『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社(「婚礼の歌 WoO 105」の解説:藤本一子)
『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(「さあ、友よ結婚の神を讃美せよ(結婚歌) WoO 105」の解説:藤本一子)
| 固定リンク | 0
« ベートーヴェン「修道僧の歌(Gesang der Mönche, WoO 104)」 | トップページ | ベートーヴェン「ロプコヴィツ・カンタータ(Lobkowitz-Cantate, WoO 106)」 »
「音楽」カテゴリの記事
- ブラームス「嘆き」(Brahms: Klage, Op. 105, No. 3)を聴く(2024.09.14)
- エリーの要点「美」(Elly's Essentials; “Beauty”)(2024.09.07)
- ジークフリート・ローレンツ(Siegfried Lorenz)逝去(2024.08.31)
- エリーの要点「25年前から乗っているトヨタ車」(Elly's Essentials; “25 year old Toyota”)(2024.08.24)
「詩」カテゴリの記事
- ブラームス「嘆き」(Brahms: Klage, Op. 105, No. 3)を聴く(2024.09.14)
- エリーの要点「25年前から乗っているトヨタ車」(Elly's Essentials; “25 year old Toyota”)(2024.08.24)
- エリー・アーメリング(Elly Ameling)の「Musings on Music」シリーズ:ラヴェル-歌曲集『シェエラザード(Shéhérazade)』~3.「つれない人(L'Indifférent)」(2024.08.18)
- レーヴェ「海の燐光」(Loewe: Meeresleuchten, Op. 145, No. 1)を聴く(2024.08.10)
- レーヴェ「牧師の娘(Carl Loewe: Das Pfarrjüngferchen, Op. 62, Heft 2, No. 4)」を聴く(2024.07.27)
「ベートーヴェン Ludwig van Beethoven」カテゴリの記事
- ベートーヴェン「喜びに満ちては、苦しみにあふれ(Freudvoll und leidvoll, Op. 84/4)」(悲劇『エグモント』のための音楽("Egmont" Musik zu J. W. von Goethes Trauerspiel, Op. 84)より)(2023.04.15)
- ベートーヴェン「太鼓が鳴る(Die Trommel gerühret, Op. 84/1)」(悲劇『エグモント』のための音楽("Egmont" Musik zu J. W. von Goethes Trauerspiel, Op. 84)より)(2023.04.15)
- ベートーヴェン「ロプコヴィツ・カンタータ(Lobkowitz-Cantate, WoO 106)」(2023.01.20)
- ベートーヴェン「結婚式の歌(Hochzeitslied, WoO 105 (Hess 125, 124))」(2023.01.13)
- ベートーヴェン「修道僧の歌(Gesang der Mönche, WoO 104)」(2023.01.06)
コメント
フランツさん、こんにちは。
華やかなピアノ前奏に続いて朗々と響くプライさんのバリトンソロ~合唱。
楽しく荘厳な演奏でした。合唱を導くプライさん、かっこいいですね!
次の演奏は、バリトンに続いて合唱ではなく重奏でまた趣を異にしますね。
合唱と重奏でこんなに印象が変わるものなんですね。
タベア・ゲルストグラッサーと シュテファン・タウバーの男女ペアによる歌唱から入るこの演奏は、しっとりとしていて、素敵な雰囲気ですね。ソプラノの初々しい感じが新婦の雰囲気を醸していました。
ヴァンサン・リエーヴル=ピカール(T)以下の演奏は、同じように男女を使っていても(合唱がなく使い方はちがいますが)、印象がちがいますね。
こちらの夫婦は、先程のペアと違い対等な夫婦と言う感じがしました。
この歌曲は、演奏形態が多彩なんですね。なかなか興味深かったです。
投稿: 真子 | 2023年1月17日 (火曜日) 15時11分
真子さん、こんばんは。
コメント有難うございます!
プライはこのタイプの曲を歌ったら本当に無敵ですね。人生経験を経た男性が背中で語るイメージが浮かんできました。お酒の歌もそうですが、リーダーシップをとって仲間を率いる歌がこれほど似合う人もそうそういないのではと思います。
>合唱と重奏でこんなに印象が変わるものなんですね。
本当にそうですよね。重唱はそれぞれの個人に焦点が当たり、合唱は全体としての厚みのある響きが魅力的ですね。
男女のペアで独唱パートを一緒に歌うというのはなかなか粋な試みですよね。素朴な響きの歌手なのでおっしゃるように初々しいですね。
重唱と合唱は、各声部を一人で歌うか複数で歌うかの違いですが、こんなにも趣が異なるのは面白いなぁと思いました。
短いながらとても魅力的な作品なので、もっと演奏される機会が増えるといいですね。
投稿: フランツ | 2023年1月17日 (火曜日) 20時09分