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NPO Radio4で、エリー・アーメリング(Elly Ameling)の特集ページ公開

オランダのラジオ局NPO Radio4のサイトで、エリー・アーメリング(Elly Ameling)の特集ページが公開されました。

Elly Ameling

オランダ語で彼女の経歴が書かれているほか、貴重な写真も掲載されていて、ファンにはたまらない内容になっています!

1963年のフォレ「レクイエム」とヴェルディ「聖歌四篇」は数年前からずっとアップされたままですが、その他のいくつかの音源が久しぶりにアップされているのは嬉しいです。

30 november 1963: Elly Ameling zingt Fauré
フォレ:「レクイエム」とヴェルディ:「聖歌四篇」

1963年11月30日, Concertgebouw, Amsterdam(コンセルトヘバウ、アムステルダム)

Elly Ameling, sopraan
Bernhard Kruysen, bariton (Fauré)
Bernard Bartelink, orgel (Fauré)
Radio Filharmonisch Orkest
Groot Omroepkoor
Carlo Maria Giulini, dirigent

エリー・アーメリング(ソプラノ)
ベルナルト・クラウセン(バリトン)(フォレ)
ベルナルト・バルテリンク(オルガン)(フォレ)
オランダ放送大合唱団
オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団
カルロ・マリア・ジュリーニ(指揮)

Gabriel Fauré - Requiem
フォレ:レクイエム(19:15頃からアーメリングの「ピエ・イエズ」)

Giuseppe Verdi - Quattro pezzi sacri (Ave Maria; Stabat Mater; Laudi alla Vergine Maria; Te Deum)
ヴェルディ:「聖歌四篇」(アーメリングは4曲目「テ・デウム」の最後の方37:35からわずかな出番のみ)

Die Zauberflöte door RFO o.l.v Bernard Haitink met Fritz Wunderlich
モーツァルト:歌劇「魔笛」全曲(アーメリングは第一の童子、ヴンダーリヒがタミーノ)

1958年5月24日

Maria van Dongen(マリア・ファン・ドンゲン) (Pamina; sopraan)(パミーナ)
Fritz Wunderlich(フリッツ・ヴンダーリヒ) (Tamino; tenor)(タミーノ)
Albert van Haasteren(アルベルト・ファン・ハーステレン) (Sarastro/spreker; bas)(ザラストロ、弁者)
Juliane Farkas(ユリアーナ・ファルカス) (Köningin der Nacht; sopraan)(夜の女王)
Jan Derksen(ヤン・デルクセン) (Papageno; bariton)(パパゲーノ)
Nel Duval(ネル・デュヴァル) (Papagena; sopraan)(パパゲーナ)
Annette de la Bije(アネッテ・ド・ラ・ベイエ) (Erste Dame; sopraan)(第一の侍女)
Lucienne Bouwman(ルシエネ・バウマン) (Zweite Dame; mezzosopraan)(第二の侍女)
Annie Deloirie(アニー・デローリ) (Dritte Dame; mezzosopraan)(第三の侍女)
Reinier Schweppe(レニエ・シュヴェッペ) (Monostatos; tenor)(モノスタートス)
Elly Ameling(エリー・アーメリング) (Erste knabe)(第一の童子)
Thea van de Steen(テア・ファン・デア・ステーン) (Zweite knabe)(第二の童子)
Cora Canne Meyer(コーラ・カネ=メイアー) (Dritte knabe)(第三の童子)
Jan Waayer(ヤン・ヴァイアー) (Erster Priester & Erster geharnischter Mann; bas)(第一の僧、第一の武士)
Sybert van Keeken(シーベルト・ファン・ケーケン) (Zweiter Priester & Zweiter geharnischter Mann; bas)(第二の僧、第二の武士)
Nederlands Omroep Koor(オランダ放送合唱団)
Radio Filharmonisch Orkest(オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団)
Bernard Haitink(ベルナルト・ハイティンク) (Dirigent)

Wolfgang Amadeus Mozart - Die Zauberflöte, KV 620
モーツァルト:歌劇「魔笛」全曲

Elly Ameling en Bernard Haitink
モーツァルト:モテット「踊れ、喜べ、幸いなる魂よ」、マーラー:交響曲第2番

1969年11月8日, Concertgebouw, Amsterdam

Elly Ameling (sopraan)
Aafje Heynis (alt)
Groot Omroepkoor
Radio Filharmonisch Orkest
Bernard Haitink (Dirigent)

エリー・アーメリング(ソプラノ)
アーフィエ・ヘイニス(アルト)
オランダ放送大合唱団
オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団
ベルナルト・ハイティンク(指揮)

Wolfgang Amadeus Mozart - Motet voor sopraan en orkest KV.165, "Exsultate, jubilate"
モーツァルト:モテット「踊れ、喜べ、幸いなる魂よ」

Gustav Mahler - Symfonie nr. 2 in c "Auferstehung"
マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」

※上記のサイトから当日のプログラムをPDFでダウンロード出来ます(Mediaという見出しの下の行のリンクを右クリックして「名前をつけてリンク先を保存」)。

Elly Ameling zingt Schubert
シューベルト・リサイタル(ドルトン・ボールドウィン:ピアノ)

1978年4月14日, Concertgebouw, Amsterdam

Elly Ameling (sopraan)
Dalton Baldwin (piano)

エリー・アーメリング(ソプラノ)
ドルトン・ボールドウィン(ピアノ)

Franz Schubert

1. Ellens Gesang nr.1 (エレンの歌Ⅰ“憩いなさい、兵士よ”D837)
2. Ellens Gesang nr.2 (エレンの歌Ⅱ“狩人よ、休みなさい”D838)
3. Ellens Gesang nr.3 (エレンの歌Ⅲ“アヴェ・マリア”D839)
4. Rosamunde, Fürstin von Zypern D.797: Romanze "Der Vollmond strahlt" (「キプロスの女王ロザムンデ」D797より~ロマンツェ“満月は輝き”)
5. Amalia (アマーリアD195)
6. Das Mädchen (娘D652)
7. Refrainlieder: Die Männer sind méchant (「4つのリフレイン歌曲」より~男はみんなこんなものD866-3)
8. Suleika I (ズライカⅠD720)
9. Der König in Thule (トゥーレの王D367)
10.Gretchens Bitte (グレートヒェンの祈りD564)
11.Gretchen am Spinnrade (糸を紡ぐグレートヒェンD118)
12.Claudine von Villa Bella: "Liebe schwärmt auf allen Wegen" (「ヴィラ・ベラのクラウディーネ」D239より“愛はいたるところに”)
13.Die Liebende schreibt (恋する娘が手紙を書くD673)
14.Nähe des Geliebten (恋人のそばD162)
15.Liebhaber in allen Gestalten (あらゆる姿をとる恋人D558)
16.Heidenröslein (野ばらD257)
17.Der Schmetterling (蝶々D633)

Elly Ameling en Irwin Gage spelen Schubert
シューベルト・リサイタル(アーウィン・ゲイジ:ピアノ)

1975年6月19日, Circustheater, Scheveningen

Elly Ameling (sopraan)
Irwin Gage (piano)

エリー・アーメリング(ソプラノ)
アーウィン・ゲイジ(ピアノ)

Franz Schubert

An Sylvia(シルヴィアにD891)
Ganymed(ガニュメデスD544)
Der Musensohn(ミューズの息子D764)
Ellens Gesang I: Raste, Krieger(エレンの歌ⅠD837:憩いなさい、兵士よ)
Ellens Gesang II: Jäger, ruhe(エレンの歌ⅡD838:狩人よ、狩をお休みなさい)
Ellens Gesang III: Ave Maria(エレンの歌ⅢD839:アヴェ・マリア)
Im Frühling(春にD882)
Suleika I(ズライカⅠD720)
Frühlingsglaube(春の思いD686)
Heimliches Lieben(ひそやかな愛D922)
Der Einsame(孤独な男D800)
Du liebst mich nicht(あなたは私を愛していないD756)
Auf dem Wasser zu singen(水の上で歌うD774)
Gretchen am Spinnrade(糸を紡ぐグレートヒェンD118)
Seligkeit(幸福D433)
Lachen und Weinen(笑ったり泣いたりD777)
Suleika II(ズライカⅡD717)
"Claudine von Villa Bella": Liebe schwärmt auf allen Wegen(「ヴィラ・ベラのクラウディーネ」D239~愛はいたるところに)
An die Musik(音楽に寄せてD547)
Romanze aus "Rosamunde": Der Vollmond strahlt(「ロザムンデ」D797~ロマンス:満月は輝き)
Die Forelle(ますD550)

アーメリングのマスタークラス
Podium Witteman Masterclass: Elly Ameling - 29 augustus

2021年8月29日放送

7分頃~
Lucie Horsch (mezzo soprano), Hans Eijsackers (piano)

Schumann: Widmung, Op. 25-1
シューマン:献呈

25分頃~
Noëlle Drost (soprano), Hans Eijsackers (piano)

Debussy: Mandoline
ドビュッシー:マンドリン

43分頃~
Vincent Kusters (baritone), Hans Eijsackers (piano)

Fauré: Après un rêve, Op. 7-1
フォレ:夢のあとで

Schumann: Widmung, Op. 25-1
シューマン:献呈

Wie is... Elly Ameling?

タイトルを訳すと「アーメリングってどんな人?」という感じでしょうか。
いくつかの動画も引用されていますが、このサイトでは彼女の秘話がオランダ語で紹介されています。Google翻訳の助けを借りて読むと、小さい頃から歌好きだったアーメリングは母親に連れられて行ったジェラール・スゼーのリサイタルに啓示を受け、この時のことを「歌手人生の始まり」とみなしたとのこと。そして引退を決意した時もスゼーの言葉を引用しました「精神的に成熟した瞬間に楽器が劣化してしまうのが歌手の悲劇です」。Google翻訳でぜひ読んでみて下さい。

De Gouden Opnamen van Elly Ameling

タイトルは「エリー・アーメリングのゴールド・ディスク」という感じでしょうか。アーメリングの優れた録音をいろいろな人が日替わりで選ぶ企画のようです。

初日の月曜日はバスバリトンのロベルト・ホル(Robert Holl)がシューベルトの「音楽に寄せて」を、De Podiumというこの番組のスタッフがラヴェルの「シェエラザード」を選びます。
「Speel fragment af」をクリックすると、これらの録音やホルの祝福の言葉を聞くことが出来ます。

火曜日はオーボエ奏者のハン・ドゥ・フリース(Han de Vries)セレクトのバッハ「結婚カンタータ」BWVから"Sich üben im Lieben"と、番組スタッフセレクトのマーラー「交響曲第4番」の第4楽章です。

水曜日はフォレ「夢のあとに」、ドビュッシー「美しい夕暮れ」、ベルリオーズ『夏の夜』~「ばらの精」

木曜日はアーメリングの弟子のバリトン、ラウル・ステファーニ(Raoul Steffani)の選んだシューマン『リーダークライスOp.39』~第1・2曲と、番組のセレクトによるバッハの「マタイ受難曲」より「私の心は涙の中を漂っています-私はあなたに私の心を捧げます(Wiewohl mein Herz in Tränen schwimmt - Ich will dir mein Herze schenken)」

金曜日はアーメリングの弟子のソプラノ、レネケ・ラウテン(Lenneke Ruiten)の選んだシューベルト「岩の上の羊飼い」がオーケストラ伴奏版で放送されます。

土曜日は意外なところで、今大きく売り出し中のアイスランドのピアニスト、ヴィキングル・オラフソン(Víkingur Ólafsson)がアイスランドに来た彼女の声を聞いて「私の人生を変えた」とコメント

Elly Ameling in podcast Hollandse Helden

「オランダの英雄たち」というポッドキャストにエリー・アーメリングも加わりました。説明の他に動画が2つ掲載されていて、一つはNOS Radio 1 Journaalのパーソナリティとの電話の会話。もう一つは最近のアーメリングの姿を映した動画でハンス・ハフマンス(Hans Haffmans)と会話しながら衣装やスーツケースをお披露目し、最後には貴重な運転姿まで披露しています。
肝心のポッドキャストですが、残念ながら日本からは聞けない仕様になっているようです。

SOPRANISTIN ELLY AMELING
Eine Stimme aus Kristall

Jürgen Kestingによるアーメリングの経歴と歌唱に関する独語のエッセーです。彼女が賞を獲得した後、しばらく音楽から離れて本屋に勤めていたこと、その後復帰したこと、それからベルナック門下の彼女の歌うフランス歌曲について等が書かれています。

Elly Ameling (90): Weet u welk liedje mijn moeder voor me zong als ik slapen ging?

オランダの日刊紙Trouwのインタビュー記事ですが、料金を払わないと記事は見れません。ヘッダーに白髪のアーメリングのアップ写真が掲載されています。

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ベートーヴェン「ロプコヴィツ・カンタータ(Lobkowitz-Cantate, WoO 106)」

Lobkowitz-Cantate (Es lebe unser teurer Fürst), WoO 106
 ロプコヴィツ・カンタータ(親愛なる侯爵閣下万歳)

SOLO
Es lebe, es lebe unser teurer, teurer Fürst!
Er lebe, er lebe, er lebe!
(独唱)
 親愛なる、親愛なる侯爵閣下万歳!
 万歳、万歳、万歳!

CHORUS
Er lebe, er lebe, er lebe!
(合唱)
 万歳、万歳、万歳!

SOLO
Edel, edel, edel handeln, ja edel handeln,
sei sein schönster Beruf!
Dann, Dann wird ihm nicht entgehen der schönste, schönste Lohn, der schönste, schönste Lohn.
Es lebe, es lebe unser teurer, teurer Fürst!
Er lebe, er lebe, er lebe!
(独唱)
 高潔な、高潔な、高潔な行動をされる、そう 高潔な行動をされる、
 閣下の素晴らしき職務が高潔であらんことを!
 すると、すると素晴らしき、素晴らしき報いから閣下は逃れられないでしょう、素晴らしき、素晴らしき報いから。
 万歳、親愛なる、親愛なる侯爵閣下万歳!
 万歳、万歳、万歳!

CHORUS
Er lebe, er lebe, er lebe ja!
Es lebe, es lebe unser teurer, teurer Fürst!
Unser teurer, teurer Fürst!
Er lebe, er lebe, er lebe, er lebe!
(合唱)
 万歳、万歳、万歳!
 万歳、親愛なる、親愛なる侯爵閣下万歳!
 親愛なる、親愛なる侯爵閣下!
 万歳、万歳、万歳、万歳!

詩:Ludwig van Beethoven (1770-1827)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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独唱、高声2声、バス2声、ピアノの為の「ロプコヴィツ・カンタータ(Lobkowitz-Cantate, WoO 106)」は、ベートーヴェン自身の詩によって1823年(楽譜には1823年と書かれていますが1822年の可能性もあるそうです)4月12日に作曲されました。

独唱、高声2声、バス2声、ピアノの為の「ロプコヴィツ・カンタータ(Lobkowitz-Cantate, WoO 106)」は、ベートーヴェン自身の詩によって1822年(もしくは1823年)4月12日に作曲されました。

藤本一子氏の解説によると「かつての支援者フランツ・ヨーゼフ・フォン・ロプコヴィツ侯爵の長子フェルディナント侯爵の誕生日のために作曲」されたそうです(『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社)。
知り合いの息子の誕生日のために自作の詩による歌を送るなんてベートーヴェンの優しい一面が垣間見えますね。
侯爵邸の官吏カール・ペータースの妻が歌うことを想定していたそうです(前述の藤本一子氏の解説)。"schönste Lohn"の箇所に技巧的な装飾があるのもこの女性のために見せ場を作ったのではないでしょうか。

4/4拍子
変ホ長調(Es-dur)
Allegro non troppo - Adagio assai - Tempo primo

●エルヴィラ・ビル(MS), クリストファー・ブルックマン(P), コーアヴェルク・ルーア, フローリアン・ヘルガート(C)
Elvira Bill(MS), Christopher Bruckman(P), Chorwerk Ruhr, Florian Helgath(C)

ソロを務めるエルヴィラ・ビルの声の美しいこと!クリストフ・プレガルディアン門下なのだそうです。

●クリスタ・イェーザー(S), ヴァルター・オルベルツ(P), ベルリン・ゾリステン, ディートリヒ・クノーテ(C)
Christa Jehser(S), Walter Olbertz(P), Berliner Solisten, Dietrich Knothe(C)

録音: Nov, Dec. 1973, Berlin. 歌と合唱とピアノの親密な雰囲気がいいですね。

●パメラ・コバーン(S), ハインリヒ・シュッツ・クライス・ベルリン, レナード・ホカンソン(P)
Pamela Coburn(S), Heinrich Schütz Kreis, Berlin, Leonard Hokanson(P)

録音: 1987-1989, Studio 10, RIAS, Berlin. コバーンは合唱パートも一緒に歌っています。

●ハイディ・ブルナー(MS), ヴィーン・グスタフ・マーラー合唱団, クリスティン・オーカーランド(P)
Heidi Brunner(MS), Gustav Mahler Chor Wien, Kristin Okerlund(P)

ブルナーの"schönster"における抑制した歌い方に惹きこまれました。

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(参考)

Beethoven-Haus Bonn

The "Complete" Beethoven: Day 333

『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社(「ロプコヴィツ・カンタータ WoO 106」の解説:藤本一子)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(「ロプコヴィツ・カンタータ WoO 106」の解説:藤本一子、小林宗生)

IMSLP (楽譜のダウンロード)

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ベートーヴェン「結婚式の歌(Hochzeitslied, WoO 105 (Hess 125, 124))」

Hochzeitslied, WoO 105 (Hess 125, 124)
 結婚式の歌

Auf, Freunde, singt dem Gott der Ehen!
Preist Hymen hoch am Festaltar,
Daß wir des Glückes Huld erflehen,
Erflehen für ein edles Paar!
Vor allem laßt in frohen Weisen
Den würd'gen Doppelstamm uns preisen,
Dem dieses edle Paar entsproß!
 さあ、友人たちよ、婚礼の神に歌うのだ!
 祝宴の祭壇で高らかにヒュメナイオスを讃えよ、
 幸せの恩寵を
 お似合いの夫婦のために懇願するのだ!
 何よりも、陽気な調べで
 品格のある2人の一族を讃えよう、
 そこからこのお似合いの夫婦が生まれたのだ!

※ヒュメナイオス:ギリシャ神話で婚礼の神

詩:Anton Joseph Stein (1759–1844)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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アントン・ヨーゼフ・シュタインのテキストによる「結婚式の歌(Hochzeitslied, WoO 105」は、マリア・アンナ・ジャンナタズィオ・デル・リオ(Maria Anna Giannatasio del Rio)と官吏レオポルト・シュメルリング(Leopold Schmerling)の結婚式の為に1819年1月14日に作曲され、結婚式当日(1819年2月6日)に初演されました。この夫婦の娘によると「母が教会の結婚式から家に戻ると美しい男声四重唱がきこえ、それがやんだとき、隠れていたベートーヴェンが姿を現し、心からなるお祝いの言葉とともに今歌われた男声四重唱の自筆譜を手渡した」とのことです(藤本一子解説:『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社)。

結婚式にふさわしい華やかな小品です。ベートーヴェンは2つの稿を作り、どちらもジャンナタズィオ家に贈られたそうです(前述の藤本氏の解説)。

楽譜には4回繰り返すように指示がある為、歌詞が4番まであったと思われますが、現在分かっているのは1番のみのようです。

第1稿の楽譜(Der Bär : Jahrbuch der Firma Breitkopf & Härtel – 1927)
1_20230104132001
2_20230104132001
3_20230104132001

【第1稿】(Hess 125)
独唱、斉唱、ピアノ
1819年1月14日作曲
C (4/4拍子)
ハ長調(C-dur)
Mit Feuer, doch verständlich und deutlich

【第2稿】(Hess 124)
独唱、合唱、ピアノ
C (4/4拍子)
イ長調(A-dur)
(Mit Feuer, doch verständlich und deutlich)

●【第2稿】(Hess 124)
2. Fassung
ヘルマン・プライ(BR), ハインリヒ・シュッツ・クライス・ベルリン, レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR), Heinrich Schütz Kreis, Berlin, Leonard Hokanson(P)

録音: 1987-1989, Studio 10, RIAS, Berlin. プライが先導して合唱を率いるのは本当に合っていますね。ホカンソンがいかにも楽しそうにパリパリと弾いているのもいいです。

●【第2稿】(Hess 124)
2. Fassung
マンフレート・ビットナー(BS), ハイケ・ハイルマン(S), アネ・ビーアヴィルト(CA), ダニエル・ヨハンソン(T), エリーザベト・グリューネルト(P)
Manfred Bittner(BS), Heike Heilmann(S), Anne Bierwirth(CA), Daniel Johannsen(T), Elisabeth Grünert(P)

録音: 15 February 2007, Bauer Studios Ludwigsburg. バスのビットナーが独唱し、合唱パートはハイルマン、ビーアヴィルト、ヨハンソンが加わっています。

●【第2稿】(Hess 124)
2. Fassung
タベア・ゲルストグラッサー(S), シュテファン・タウバー(T), カントゥス・ノヴス・ヴィーン, ディアナ・フックス(P), トマス・ホームズ(C)
Tabea Gerstgrasser(S), Stefan Tauber(T), Cantus Novus Wien, Diána Fuchs(P), Thomas Holmes(C)

録音: 20 January 2019, 4tune audio productions, Wien. ここでは独唱パートをソプラノとテノールが一緒に歌っています。結婚する二人が歌う設定でしょうか。素朴で優しい歌い方で微笑ましいです。

●【第2稿】(Hess 124)
2. Fassung
ジャン=フランソワ・ルッション(BR), ダニア・エル・ゼイン(S), ナタリー・ペレス(MS), ヴァンサン・リエーヴル=ピカール(T), ジャン=ピエール・アルマンゴー(P)
Jean-François Rouchon(BR), Dania El Zein(S), Natalie Pérez(MS), Vincent Lièvre-Picard(T), Jean-Pierre Armengaud(P)

録音: August 2019. バリトンのルッションが独唱し、合唱パートで他の歌手たちが加わっています。

●【第1稿】(Hess 125)
1. Fassung
ヴァンサン・リエーヴル=ピカール(T), ナタリー・ペレス(MS), ジャン=ピエール・アルマンゴー(P)
Vincent Lièvre-Picard(T), Natalie Pérez(MS), Jean-Pierre Armengaud(P)

録音: August 2019. テノールのリエーヴル=ピカールが独唱し、斉唱パートでメゾのペレスが加わる形で演奏されています。

●【第1稿】(Hess 125)
1. Fassung
ハイディ・ブルナー(MS), ヴィーン・グスタフ・マーラー合唱団, クリスティン・オーカーランド(P)
Heidi Brunner(MS), Gustav Mahler Chor Wien, Kristin Okerlund(P)

第1稿の演奏。第2稿との違いは最後の詩行が混成四部合唱ではなくユニゾン(斉唱)で歌われ、第2稿より3度高い点、ピアノパートの若干の違いだけのようですので、聞いているとほぼ同じ印象を受けます。

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(参考)

Beethoven-Haus Bonn

『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社(「婚礼の歌 WoO 105」の解説:藤本一子)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(「さあ、友よ結婚の神を讃美せよ(結婚歌) WoO 105」の解説:藤本一子)

Ludwig van Beethoven, "Hochzeitslied" für Tenor, Chor und Klavier WoO 105, Partitur, Bär (1924) (第1稿の楽譜)

Anton Joseph Stein (Wikipedia: 独語)

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ベートーヴェン「修道僧の歌(Gesang der Mönche, WoO 104)」

Gesang der Mönche, WoO 104
 修道僧の歌

Rasch tritt der Tod den Menschen an,
Es ist ihm keine Frist gegeben,
Es stürzt ihn mitten in der Bahn,
Es reißt ihn fort vom vollen Leben,
Bereitet oder nicht, zu gehen.
Er muß vor seinem Richter stehen!
 迅速に死がその人間に襲いかかる、
 彼に猶予はなかった、
 彼を道半ばに突き落とし、
 彼を人生からさらっていく、
 行く支度をしていようがしていなかろうが。
 彼は審判者の前に立たねばならない!

詩:Friedrich von Schiller (1759-1805), no title, appears in Wilhelm Tell 
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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フリードリヒ・フォン・シラーの『ヴィルヘルム・テル(Wilhelm Tell)』(日本では「ウィリアム・テル」という英語読みで知られていますね)第四幕、第三場の最後に歌われるテキストによる男声3声(テノール2声、バス、無伴奏)の為の「修道僧の歌(Gesang der Mönche, WoO 104)」は、1817年5月3日に作曲されました。

友人の音楽学者フランツ・サレス・カンドラー(Franz Sales Kandler: 1792-1831)の記念帳に記された自筆譜には「我らがクルンプホルツの1817年5月3日の不慮の死を偲んで(Zur Erinnerung an den schnellen unverhofften Tod unsers Krumpholz am 3 Mai 1817.)」と書かれています。クルンプホルツというのはベートーヴェンの友人だったヴァイオリニストで、その死を偲びつつ、ヴィーンを離れるカンドラーの記念帳に書いたようです。

・自筆譜

Gesang-der-monche

ヴィルヘルム・テルの話は、テルが息子の頭上に置いた林檎を矢で射落とす場面が有名ですが、シラーの『ヴィルヘルム・テル』では第三幕第三場にこのエピソードがあります。
第四幕、第三場で庶民を苦しめてきた悪代官のヘルマン・ゲスラーをテルが射て倒すわけですが、「死者をかこんで半円をつくり、低い調子で歌う」(野島正城訳)というト書きの後にこの「修道僧の歌」が歌われます。
そして「終わりの数行がくりかえされるうちに幕下りる」(野島正城訳)というト書きがあり、この第四幕、第三場は終わります。

※以下が原文

Barmherzige Brüder schließen einen Halbkreis um den Toten und singen in tiefem Ton:
Rasch tritt der Tod den Menschen an,
Es ist ihm keine Frist gegeben,
Es stürzt ihn mitten in der Bahn,
Es reisst ihn fort vom vollen Leben,
Bereitet oder nicht, zu gehen,
Er muss vor seinen Richter stehen!

Indem die letzten Zeilen wiederholt werden, fällt der Vorhang.

ベートーヴェンの音楽は、順次進行や同音反復などの動きの少なさで重苦しい雰囲気を引きずって進みます。最終行の"er(彼は)"の繰り返しは、最初はsf(スフォルツァンド)、2回目はfp(フォルテピアノ)でこの悪代官を糾弾するような鋭い響きを与えています。あっという間に終わるコンパクトな作品ですが、テキストの内容を見事に表現した作品だと思います。

C (4/4拍子)
ハ短調(c-moll)
Ziemlich langsam

●マイケル・コネア(T), ヤン・コボウ(T), ラルフ・グローベ(BSBR), アンドレアス・プルイス(BS)
Michael Connaire(T), Jan Kobow(T), Ralf Grobe(BSBR), Andreas Pruys(BS)

録音: 11 May 2009, Bückeburger Stadtkirche, Germany。重唱で歌われています。各声部が主張していて死への畏怖が感じられました。

●カントゥス・ノヴス・ヴィーン, トマス・ホームズ(C)
Cantus Novus Wien, Thomas Holmes(C)

録音: 20 January 2019, 4tune audio productions, Wien。合唱で聞くと沈潜した雰囲気が強く出ていました。

●ヨアヒム・フォークト(T), ギュンター・バイアー(T), ズィークフリート・ハウスマン(BS), ディートリヒ・クノーテ(C)
Joachim Vogt(T), Günther Beyer(T), Siegfried Hausmann(BS), Dietrich Knothe(C)

録音: May, June 1976, Berlin。重唱で歌われていますが、それぞれの声が溶け合って美しかったです。

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(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

《修道僧の歌》——シラーの戯曲『ヴィルヘルム・テル』から作曲した無伴奏男声三重唱(平野昭)

『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社(「修道僧の歌 WoO 104」の解説:藤本一子)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(「修道僧の歌 WoO 104」の解説:小林宗生)

IMSLP (楽譜のダウンロード)

Wilhelm Tell – Text: 4. Aufzug, 3. Szene

フリードリヒ・シラー『シラー名作集≪新装復刊≫』:内垣啓一他訳(「ヴィルヘルム・テル」(P.331~)は野島正城訳):2022年5月25日発行、白水社(元本は1972年刊行)

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2023年 本年もよろしくお願いいたします

皆様、旧年中は大変お世話になりました。
2023年も何卒よろしくお願いいたします。

2021年1月1日にスタートしたベートーヴェン歌曲シリーズは2023年2月にようやく完了する予定です。当初はドイツ語の独唱歌曲のみを扱う予定でしたが、せっかくの機会なので仏語、伊語の独唱歌曲、さらに無伴奏もしくはピアノ伴奏の重唱曲(合唱曲)、それから劇音楽『エグモント』の中の2つのリート(ピアノ伴奏に編曲した版でもよく演奏される為)についても対象とすることにしました。このあとは重唱曲(合唱曲)の残り数曲と『エグモント』の中のリートを残すのみとなりました。ここまでおつきあいいただきました皆様有難うございました!あと少しおつきあいいただければ幸いです。
これまでなまけ癖に鞭打って毎週金曜日の18時にアップしてきましたが、ベートーヴェンシリーズが終わったら少しだけお休みをいただこうと思っています。お休み中はインプットに集中しようと考えています。

今年はシューベルトの歌曲をいくつか記事に出来たらいいなと思っています。

そんなわけで皆様にとって今年も素晴らしい年になりますようお祈り申し上げます。引き続き音楽を楽しんでいきましょう!

追伸:今年の2月にアーメリング様が90歳のお誕生日を迎えられます。ファンとしてはずっとお元気でいらっしゃることを願っています。そして7月にはヘルマン・プライの没後25年となります。早いものですね。現役時代が懐かしいです(最近知ったのですが、バリトンのエーバーハルト・ヴェヒターはプライの生まれた3日前が誕生日だそうです。ヴェヒターもよい歌手でしたが録音が少なかったですね)。

●ベートーヴェン:三声のカノン「新年おめでとう!」WoO 176
Canon a 3 voces “Glück zum neuen Jahr!” (“Felicidad para el nuevo año”), WoO 176. L.v. Beethoven
ペーター・マウス(T), フォルカー・ホルン(T), ラルフ・ルーカス(BR)
Peter Maus(T), Volker Horn(T), Ralf Lukas(BR)

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