江崎皓介ピアノリサイタル(2022年12月10日 ミューザ川崎シンフォニーホール 音楽工房 市民交流室)
江崎皓介ピアノリサイタル
フランク生誕200周年&スクリャービン生誕150周年プログラム
~ピアノで織りなす神秘劇~
2022年12月10日(土)19:00開演(18:30開場)
ミューザ川崎シンフォニーホール 音楽工房 市民交流室
江崎皓介(ピアノ)
フランク(バウアー編):前奏曲、フーガと変奏曲 Op.18
フランク:前奏曲、コラールとフーガ M.21
フランク:前奏曲、アリアと終曲 M.23
~休憩(15分)~
スクリャービン:10のマズルカ Op.3
スクリャービン:ピアノソナタ第4番 Op.30
アンコール
シューマン:「子供の情景」~トロイメライ
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毎年恒例の江崎皓介氏のピアノリサイタルを聞いてきました。今回は川口ではなくミューザ川崎で、神奈川出身でありながら一度も行ったことがなかったので楽しみでした。
JR川崎駅中央改札を出て、地上に降りずにそのまま一本道で会場まで行けるのが便利でした(徒歩3分ぐらい)。会場前にはおそらく音符を模したと思われるモニュメントがいくつか設置されていました。
ミューザ川崎の建物に入り、長いエスカレーターを上ると、シンフォニーホールがありましたが、今回はそちらではなく音楽工房 市民交流室という小さなホールで、ピアノを聞くにはちょうどいいスペースでした。
ちょうどこの日はセザール・フランク(César Franck: 1822年12月10日 - 1890年11月8日)の生誕200回目の誕生日にあたり、その当日に彼の代表的な鍵盤作品3作が聴けるという贅沢な時間でした。
この日は前半がフランク、後半は今年が生誕150周年にあたるスクリャービン(Alexandre Scriàbine: 1872年1月6日 - 1915年4月27日)の作品で、アニバーサリー・イヤーの作曲家の作品を堪能できる素晴らしいプログラミングでした。
最初のフランク「前奏曲、フーガと変奏曲 Op.18」はもともとオルガン独奏用に作曲され、その後フランク自身によってハルモニウムとピアノの為に編曲されましたが、今回はかなり広く弾かれているハロルド・バウアー編曲によるピアノ独奏版です。前奏曲とフーガの間のつなぎのLargoの部分にピアノ版では急速なパッセージが追加されていますが、概して原曲に忠実な編曲なのではないでしょうか。冒頭のフレーズはあまりにも印象的で、一度聞けば耳から離れない魔力のようなものがあります。個人的にはいにしえの響きのようでもあり、フィリップ・グラスの作品を予感させるようにも感じられます。
続く「前奏曲、コラールとフーガ M.21」はフランクのピアノ曲の中でも特に有名なもので、アルペッジョの美しいフレーズはとりわけ印象的です。
前半最後の「前奏曲、アリアと終曲 M.23」は親しみやすいフレーズで始まる前奏曲、息の長いメロディのアリア、それと対照的に激しく蠢く終曲からなり、規模は大きめではないでしょうか。
江崎さんはこのかなりエネルギーを要すると思われるこの3作から実に細やかなポリフォニーを描き分け、それぞれの声部が浮かんでは背後に沈み、音が生き物のように胸に迫ってきました。かなりダイナミクスの幅は大きくとられ、渾身の演奏でした。
前半だけで55分というボリュームで、休憩15分をはさんで後半はスクリャービンです。
最初に「10のマズルカ Op.3」が演奏されましたが、私は寡聞にしてスクリャービンがマズルカを作曲していることを知りませんでした。なんでもスクリャービンはショパンの影響を受けていたそうで、このOp.3は10代後半に散発的に作曲されたのだとか。確かにショパンの香り漂う作品群でした。
江崎さんは昨年ショパンのエチュード全曲を聞かせていただき、素晴らしかったのを記憶していますが、プロフィールによると第14回スクリャービン国際コンクールで第一位を取られているとのこと。スラブ系の音楽は特に十八番なのでしょう。
スクリャービンのマズルカ、ショパンに近いものがありながらも曲調はそれぞれ異なり、それぞれの曲の中でも異なる曲調が併存しており、楽しめました。江崎さんは第4曲の後で一回拍手にこたえておられました。
最終曲は後半で執拗に繰り返される変ハ音(Ces)(ロ音と同じ音)が強迫観念のように聴き手の不安を煽ります。
私の記憶では江崎さんはこの最後の変ハ音を鳴らしたまま、次のピアノソナタ第4番Op.30の冒頭の異名同音のロ音(H)につなげて演奏していました。このソナタ冒頭の模糊とした雰囲気にすんなり溶け込んでいて、とても興味深い試みだと思いました。このソナタ、まだスクリャービンが単一楽章でソナタを作る前の作品で、2楽章からなりますが、短くあっという間に終わってしまいます。両楽章の性格は全く異なり、模糊とした1楽章から霧が晴れたような2楽章へと切れ目なく続き、単一楽章ソナタへの予兆と見ることも出来るかもしれません。江崎さんは深く踏み込んだ表現で素晴らしかったです。
この日のアンコールはシューマンの「トロイメライ」。快適なテンポで美しく歌われていました。終演は21時。かなりのボリュームでしたが、集中力がとだえることなく、二人の偉大な作曲家の魅力を存分に堪能させていただきました。
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