ベートーヴェン「別れの歌(Abschiedsgesang, WoO 102)」
Abschiedsgesang, WoO 102
別れの歌
Die Stunde schlägt, wir müssen scheiden,
bald sucht vergebens dich mein Blick;
am Busen ländlich stiller Freuden
erringst du dir ein neues Glück.
Geliebter Freund! du bleibst uns theuer,
ging auch die Reise nach dem Belt;
doch ist zum guten Glück Stadt Steyer,
noch nicht am Ende dieser Welt.
時が来た、僕らは別れねばならない、
すぐに僕の目はむなしくきみをさがす。
田舎の静かな喜びを胸に抱いて
きみは新たな幸せを手に入れるだろう。
いとしい友よ!きみは僕らにとってかけがえのない存在で居続ける、
ベルト海峡へ旅立っても。
幸運にもシュタイアーの町は
地の果てというわけでもない。
Und kommen die Freunde um dich zu besuchen,
so sei nur hübsch freundlich und back' ihnen Kuchen,
auch werden, so wie sich's für Deutsche gehört,
auf's Wohlsein der Gäste die Humpen geleert.
Dann bringen wir froh im gezuckerten Weine
ein Gläschen dem ewigen Freundschaftsvereine,
dein Töchterlein mache den Ganymed,
ich weiss, dass sie gerne dazu sich versteht.
きみの友人たちが訪ねてきたら
友好的に迎えてケーキでも焼いてくれよ。
ドイツ人の作法に従い
客の健康を祈って大ジョッキを空にするだろう。
そうしたら砂糖入りのワインの入ったグラスを
永遠の友情の絆のためにもってこよう。
きみの娘は若いしもべを作んなきゃな、
あの娘にその心得があることは知っているさ。
Die Stunde schlägt, wir müssen scheiden,
bald sucht vergebens dich mein Blick;
am Busen ländlich stiller Freuden
erringst du dir ein neues Glück.
Geliebter Bruder! Lebe wohl!
時が来た、僕らは別れねばならない、
すぐに僕の目はむなしくきみをさがす。
田舎の静かな喜びを胸に抱いて
きみは新たな幸せを手に入れるだろう。
いとしい同胞よ!さらば!
詩:Joseph Ritter von Seyfried (1780-1849)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)
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ベートーヴェンは、友人の治安判事マティアス・フォン・トゥッシャー(Mathias von Tuscher)から、シュタイアー(Steyer)に引っ越すレオポルト・ヴァイス博士(Dr. Leopold Weiss)の送別会のための作品を依頼されました。
ヨーゼフ・リッター・フォン・ザイフリートのテキストによる「別れの歌(Abschiedsgesang, WoO 102)」は、2声のテノールと1声のバスのための無伴奏の作品で、1814年5月に作曲されました。旧全集(1888年)ではじめて出版されました。
詩は田舎から都会に出ようとする友をみんなで送り出そうという内容です。
ベートーヴェンは第1連に別れのせつなさを反映したようなメロディーを付け、第2連では対照的に軽快で明るい曲調で友人同士の冗談を表現し、第3連で後ろ髪を引かれるように締めくくります。
旧全集の記載によると、ベートーヴェンは「ベートーヴェンにこれ以上侮辱されないために(Von Beethoven, um nicht weiter tuschirt zu werden)」と追記しているそうです。ベートーヴェンにいじめられないように遠くに引っ越すのだねとこの友人へ冗談を言っているわけですね。さらに講談社の『ベートーヴェン全集第8巻』の藤本一子氏の解説を読んではっとしたのですが、"tuschirt(「侮辱する」という意味の"tuschieren"の過去分詞)"という単語は作曲の依頼主のトゥッシャー(Tuscher)の名前にかけているわけです。こういう悪戯っぽいというか茶目っ気のある感じを知るとベートーヴェンがもっと身近な存在になりますね。ただ曲を聞くと、この言葉は別れの辛さを誤魔化そうとあえて言っているようにも感じられます。
C (4/4拍子) - 6/8拍子 - C (4/4拍子)
変ロ長調(B-dur) - ト長調(G-dur) - 変ロ長調(B-dur)
Andante ma non troppo - Lebhaft (doch nicht zu sehr) - Tempo I
●カントゥス・ノヴス・ヴィーン, トマス・ホームズ(C)
Cantus Novus Wien, Thomas Holmes(C)
2019年録音。無伴奏男声合唱によってこのテキストの状況が目に浮かぶようです。寂しいけれど友人同士ならではの軽口もたたきながら送り出す感じがして、聞きながら感情移入してしまいました。
●ヨアヒム・フォークト(T), ギュンター・バイアー(T), ズィークフリート・ハウスマン(BS), ディートリヒ・クノーテ(C)
Joachim Vogt(T), Günther Beyer(T), Siegfried Hausmann(BS), Dietrich Knothe(C)
こちらは重唱による録音で、各声部1人ずつの3人で1人の友人を送り出すのはよりリアリティがある気がします。中間部が元気(空元気かもしれませんが)な分、両端の穏やかな部分がより切なく感じられます。
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(参考)
The Complete Beethoven: DAY 268
《別れの歌》——転勤する聖職者を朗らかに送り出す三重唱曲(平野昭)
『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社(「別れの歌 WoO 102」の解説:藤本一子)
『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(「別れの歌 WoO 102」の解説:小林宗生)
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