ベートーヴェン「田園カンタータ(Cantata campestre, WoO 103)」
Cantata campestre, WoO 103
田園カンタータ
1.
Un lieto brindisi,
Tutti a Giovanni
Cantiam così.
2.
Viva lunghi anni
Sempre felici
Utile al mondo,
Caro agli amici,
Nuovo Esculapio
Dei nostri dì!
3.
Viva Giovanni!
Viva, ed al solito
Febbri e malanni
Segua a sanar.
4.
Viva lunghi anni
Sempre felici
Utile al mondo,
Caro agli amici,
Nuovo Esculapio
Dei nostri dì!
5.
Viva Giovanni!
Viva ed il tempo
Sospenda i vanni,
E sì bei giorni
Tardi a troncar.
6.
Viva lunghi anni
Sempre felici
Utile al mondo,
Caro agli amici,
Nuovo Esculapio
Dei nostri dì!
詩:Clemente Bondi (1742-1821)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)
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ソプラノ、2声のテノール、バスとピアノの為のカンタータ「田園カンタータ(Cantata campestre, WoO 103)」は、宮廷図書館員クレメンテ・ボンディのイタリア語のテキストに1814年に作曲されました。
平野昭氏の解説によれば「1806年からベートーヴェンのかかりつけの医師のひとりで、友人でもあったヨゼフ・フォン・ベルトリーニ(1784~1861)が、1814年に彼の恩師である医師ヨハン(イタリア名ジョヴァンニ)・マルファッティ(1775~1859)の霊名祝日のお祝いとして、ボンディにイタリア語の詩を、ベートーヴェンに作曲を依頼したもの」とのことです。ちなみに霊名祝日というのは、カトリック教会の伝統において洗礼を受けた信者の洗礼名の聖人の祝い日(記念日)のことだそうです(Wikipediaより)。この医師ジョヴァンニのドイツ語名ヨハンに該当する聖人はヨハネで、その霊名祝日の6月24日(Wikipedia)にマルファッティ邸で演奏されたようです。
●以下は英訳なども参照にした試訳です。正確ではありませんので、あくまで大意をつかむ程度にして下さい。
1.
愉快に乾杯、
みんなでジョヴァンニに
このように歌おう。
2.
彼が長生きして
ずっと幸せで
世界の役に立ち、
友人たちにとって大切な存在でありますように、
我らの時代の
新しい※アスクレーピオスよ!
3.
ジョヴァンニ万歳!
彼が長生きして、いつものように
発熱や病気を
治療しに行きますように。
4.
彼が長生きして
ずっと幸せで
世界の役に立ち、
友人たちにとって大切な存在でありますように、
我らの時代の
新しいアスクレーピオスよ!
5.
ジョヴァンニ万歳!
彼が長生きしますように、そして時が
翼の動きを止めて
こんな良き日々を
打ち切るのが遅くなりますように!
6.
彼が長生きして
ずっと幸せで
世界の役に立ち、
友人たちにとって大切な存在でありますように、
我らの時代の
新しいアスクレーピオスよ!
(※アスクレーピオス:ギリシャ神話の名医。薬方の神)
英訳:Beethoven: Secular Vocal Works (NAXOS) - Booklet
1945年にWinterthurのVerlag der Literarischen Vereinigungから初版が出版された時はドイツ語の歌詞のみが付されていて、解説をWilly Hessが書いていました。
1974年にLeipzigのVEB Deutscher Verlag für Musik社からようやくイタリア語歌詞版がはじめて出版されます。Harry Goldschmidtの"Die Erscheinung Beethoven"という論文の中に掲載され、楽譜の後にはドイツ語歌詞もまとめて記載されています。
オリジナルのイタリア語歌詞よりもドイツ語歌詞版が先に出版されたというのは不思議な気がしますが、機会作品ゆえに作曲されてから100年以上経ってようやく日の目を見たということになるのでしょう。
ちなみにドイツ語のテキストも下記に記しておきます。
Johannisfeier
begehn wir heute!
Wie sonst es war,
sei's heute auch!
Freudig erhebt euch,
liebe Leute,
leert das Glas
nach altem Brauch!
Wir wissen schon, wem
man heute trinkt!
Auf! leert das Glas
nach altem Brauch!
Wir wissen schon, wem
man heute trinkt!
Freudig erhebt euch,
liebe Leute,
auf leert das Glas!
Bei uns geborgen,
laß ab von Sorgen,
Freude dir winkt!
Tausend Gebete
schweben dankbar
aus allen Herzen,
die du zum Leben
einst auferweckt.
Trost bringst du den Armen,
Hilfst ihnen gern;
wo die Hoffnung schon fern,
spendest du Erbarmen.
Retter du der Kranken!
Sieh uns verzagt!
Würdig zu danken,
bebend von uns
niemand wagt.
Dir, Johannes,
Dank die Nachwelt sagt!
6/8拍子(1小節) - 2/4拍子(50小節) - 6/8拍子(97小節)
変ロ長調(B-dur) - ト長調(G-dur) - 変ロ長調(B-dur) - 変ホ長調(Es-dur) - 変ロ長調(B-dur)
Allegro(1小節) - Adagio(50小節) - Tempo primo(97小節)
※曲の最後に"Dal Segno al Fine(セーニョ記号に戻ってフィーネ(Fine)まで)"と記載あり(13小節に戻って33小節まで演奏して終える)
●カントゥス・ノヴス・ヴィーン, ディアナ・フックス(P), トマス・ホームズ(Musical Director)
Cantus Novus Wien, Diána Fuchs(P), Thomas Holmes(Musical Director)
イタリア語版です。合唱で歌われています。聞いた感じだとテノールⅠをアルトが歌っているようです(混声四部合唱ですね)。ハーモニーが美しく響いていて良いですね。
●バルバラ・エミラ・シェーデル(S), ダニエル・シュライバー(T), ライナー・テーテンベルク(T), ミヒャエル・ヴァーグナー(P)
Barbara Emilia Schedel(S), Daniel Schreiber(T), Rainer Tetenberg(T),
Michael Wagner(P)
ドイツ語版で歌われています。各声部1人ずつの重唱による演奏です。生き生きとした活気に満ちた演奏で、聞いていて楽しくなります。
●スイス・イタリア語放送合唱団, アンドレア・マルコン(P), ディエゴ・ファソリス(C)
Coro della Radio Svizzera, Andrea Marcon(P), Diego Fasolis(C)
ドイツ語版です。合唱で歌われています。こちらの合唱団も活気にあふれていました。
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(参考)
「田園カンタータ《楽しい乾杯の歌》」——かかりつけ医師の依頼で書かれたイタリア語作品(平野昭)
『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社(「田園カンタータ WoO 103」の解説:藤本一子)
『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(「田園カンタータ WoO 103 (Hess 127)」の解説:藤本一子、小林宗生)
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