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マーク・パドモア&内田光子 デュオリサイタル(2022年11月24日 東京オペラシティ コンサートホール)

マーク・パドモア&内田光子 デュオリサイタル

2022年11月24日(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール

マーク・パドモア(T)
内田光子(P)

ベートーヴェン:
「希望に寄せて」(第2作)op. 94
「あきらめ」WoO 149
「星空の下の夕べの歌」WoO 150
歌曲集『遥かなる恋人に』op. 98
第1曲:丘の上に腰をおろし
第2曲:灰色の霧の中から
第3曲:天空を行く軽い帆船よ
第4曲:天空を行くあの雲も
第5曲:五月は戻り、野に花咲き
第6曲:愛する人よ、あなたのために

~休憩(20分)~

シューベルト:歌曲集『白鳥の歌』D 957/D 965a
第1曲:愛の使い
第2曲:戦士の予感
第3曲:春の憧れ
第4曲:セレナーデ
第5曲:すみか
第6曲:遠い地で
第7曲:別れ
第8曲:アトラス
第9曲:彼女の肖像
第10曲:漁師の娘
第11曲:都会
第12曲:海辺で
第13曲:影法師
第14曲:鳩の便り

(※日本語表記はプログラム冊子に従いました)

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Mark Padmore & Mitsuko Uchida Duo Recital 2022

November 24, 2022, 7:00 pm
Tokyo Opera City, Concert Hall

Mark Padmore, tenor
Mitsuko Uchida, piano

Ludwig van Beethoven: An die Hoffnung, Op. 94
Ludwig van Beethoven: Resignation, WoO 149
Ludwig van Beethoven: Abendlied unterm gestirnten Himmel, WoO 150

Ludwig van Beethoven: "An die ferne Geliebte", Op. 98
1. Auf dem Hügel sitz ich spähend
2. Wo die Berge so blau
3. Leichte Segler in den Höhen
4. Diese Wolken in den Höhen
5. Es kehret der Maien, es blühet die Au
6. Nimm sie hin denn, diese Lieder

- Intermission (20 min.) -

Franz Schubert: "Schwanengesang", D 957/D 965a
1. Liebesbotschaft
2. Kriegers Ahnung
3. Frühlingssehnsucht
4. Ständchen
5. Aufenthalt
6. In der Ferne
7. Abschied
8. Der Atlas
9. Ihr Bild
10. Das Fischermädchen
11. Die Stadt
12. Am Meer
13. Der Doppelgänger
14. Die Taubenpost

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テノールのマーク・パドモアがベートーヴェンとシューベルトの歌曲を歌うというので初台の東京オペラシティに行ってきました。
すでに先週の土曜日には「冬の旅」を歌ったそうです。

過去にパドモアの実演を聴いたのはトッパンホール(2008,2011)と王子ホール(2014)で、2008年10月のイモジェン・クーパーとの「冬の旅」、2011年12月のティル・フェルナーとの「美しい水車屋の娘」と「白鳥の歌」他の2夜、2014年12月のポール・ルイスとの「美しい水車屋の娘」と「白鳥の歌」他の2夜と、5回も聴いていました。我ながらよく聞いたものだと思います(笑)クーパーとルイスは独奏者としても大好きなピアニストなので、彼らのピアノも目当てのうちだったのです。

トッパンホールは408席、王子ホールは315席と歌曲を聴くのにうってつけの広さで、演奏家と客席の一体感が魅力でした。今回の東京オペラシティ コンサートホールは1632席とトッパンホールの4倍、王子ホールの5倍以上です。こんな広いホールでパドモアを聴いたことがなかったので期待と不安の入り混じった気持ちで聴きに来ました。

今回の共演者はあの内田光子です!彼女のソロリサイタル(モーツァルト、シューマン、シューベルトの曲)も過去に聴いたことがあり、歌うようなとても美しい響きを奏でるピアニストなので、歌曲ではどんな感じなのか楽しみでもありました。

私の席は3階左側の後方でした。前に落下防止の手すりがあるので舞台はあまり見えません。パドモアは前方のお客さんが身を乗り出さない時に顔がかろうじて見えましたが、内田さんは位置的に演奏中は全く見えず、拍手にこたえて中央寄りに来た時にちらっと見えるぐらいでした。でもずっと顔を左に向けて聴くのもきついので、1階のお客さんのあたりに視線を落としながら耳を澄まして演奏を楽しむという感じでほとんどの時間を過ごしました。

これまで幸いなことに全盛期の実演を何度も聴くことが出来たパドモアがすでに60代だったことに驚きましたが、年齢による声の変化は生身の人間である限り避けられないのは当然でしょう。
強声の時は美しくふくよかな響きが私の席まで充分に届いてきましたが、ソットヴォーチェの時は響きがやせ気味になることがありちょっと年齢を感じました。ただ、それでも声が全く聞こえないということはなかったので、鍛錬を積んだ歌手は凄いですね。
パドモアは大きめのホールだからといって表現を大振りにするということはなく、フォルテからピアニッシモまで多様な響きでリートの繊細な世界をそのまま提示してくれていたのが心地よかったです。

冒頭のベートーヴェンの単独の3曲はいずれも内省的な趣で共通している選曲で、訴えかけるように歌うパドモアの表現が生きていました。驚くほど澄み切った響きの内田のピアノがパドモアの語るような歌唱を優しく包み、導いていました。ソリストにありがちな歌とピアノの衝突はなく、内田が磨きぬいたタッチでパドモアの声を包み込んでいました。

連作歌曲集『遥かな恋人に』は真摯なパドモアの描く人物がこの詩の主人公に重なります。内田は第6曲の前奏などこのうえなく美しく歌って奏でていました。それにしても第5曲「五月は戻り、野に花咲き」の冒頭から歌手は高いト音(G)を出さなければならず、歌手泣かせだなと思いました(パドモアはもちろん出していましたが、やはり楽ではなさそうです)。

休憩は20分とのことで、席に座っていると、15分ぐらい経った頃にステージ向い側の2階席に向けて拍手が起こり、なんと上皇后美智子様がおいでになりました。後半のプログラムを最後の拍手が終わるまでご覧になられ、楽しまれておられたようです。

後半はシューベルトの『白鳥の歌』で、通常のハスリンガー出版譜の曲順のまま14曲演奏されました。10月に聴いたプレガルティアンは曲順を入れ替えたりしていましたが、個人的にはこの通常の曲順が好きです。
これらの晩年の歌曲の底知れぬ深さと凄みをこの二人の名手の演奏からあらためて感じさせてもらえた時間でした。

パドモアは、例えば第1曲「愛の使い」の第3連"Wenn sie am Ufer,"の"Wenn"を"Wann"と歌っていたので、新シューベルト全集(Neue Gesamtausgabe)の楽譜を使用したものと思われます。
「戦士の予感」「すみか」での強靭な声の威力は健在でした。
内田は「セレナーデ」の右手のギターを模した音型を徹底してスタッカート気味に演奏して、見事な聞きものとなっていましたが、次の「すみか」でちょっと疲れが出た感もありました。もちろん概して作品の世界を見事に描いていたと思います。
後半のハイネ歌曲は切り詰めた音を用いた傑作群で、この名手たちの演奏の素晴らしさもあって、シューベルトが新しい境地に足を踏み入れた凄みが一層切実に感じられた時間でした。
「影法師」など内田は決して急激なアッチェレランドをかけたりせず、その和音の重みで徐々に緊迫感を出していて凄かったです。パドモアはほとんど語り部のような趣でこの曲の凄みを表現し尽くしていました。
このハイネ歌曲の厳しく緊迫した時間があったからこそ、最後の「鳩の便り」が生来のシューベルトらしい純粋な響きで聴き手の気持ちを解放してくれるのだと思います。この曲では両者は比較的ゆっくりめのテンポで丁寧に演奏していました。新しい境地と従来の抒情の間を自在に行き来するシューベルトの天才と、それを素晴らしく再現した二人の巨匠演奏家たちに拍手を送りたいと思います。

盛大な拍手に何度も呼び出された二人でしたがアンコールはありませんでした。でもこれだけボリュームたっぷりの充実したプログラムを聞かせてもらえれば聴き手ももうおなかいっぱいです。終演はちょうど9時頃でした。

オペラシティに来たのは随分久しぶりだなと思い、ブログの管理画面で検索してみたところ、2015年9月のオッター&ティリング&ドレイクのコンサート以来7年ぶりでした。だんだん実演から録音音源にシフトしつつあった私ですが、こうしてたまに生の音を浴びるとやはりいいものですね。

2022

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ベートーヴェン「お前のことはよくわかる(愛の嘆き) (T'intendo, sì, mio cor (Liebes-Klage), Op. 82/2)」(『4つのアリエッタと1つの二重唱曲(Vier Arietten und ein Duett, Op. 82)』より)

T'intendo, sì, mio cor (Liebes-Klage), Op. 82/2
 お前のことはよくわかる (愛の嘆き)

T'intendo, sì, mio cor,
Con tanto palpitar!
So che ti vuoi lagnar,
Che amante sei.
Ah! taci il tuo dolor,
Soffri il tuo martir.
Tacilo, e non tradir
L'affetti miei!

(対訳:「詩と音楽」藤井宏行氏)

詩:Pietro Antonio Domenico Bonaventura Trapassi (1698-1782), as Pietro Metastasio
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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1809年に作曲された『4つのアリエッタと1つの二重唱曲(Vier Arietten und ein Duett, Op. 82)』の第2曲目はメタスタージオのテキストによる「T'intendo, sì, mio cor(お前のことはよくわかる)」で、ドイツ語タイトル訳は「Liebes-Klage(愛の嘆き)」となっています。

メタスタージオのテキストは「内気な恋(Amor timido)」の第2連から採られています。詩は、どきどき高鳴る自分の心臓に向けて、恋をしていることをばらすなよと必死で平静を保とうとする主人公のけなげな姿を描いています。

(試訳)

私はおまえのことを分かっている、そう、
とてもどきどきしている心臓よ!
私はおまえが嘆きたがっていること、
恋をしていることを知っている。
ああ!苦しみを内に秘めよ。
苦痛に耐えるのだ。
静かにしなさい、そして漏らすな、
私の気持ちを。

ベートーヴェンの曲はテキストの最後まで歌われた後、冒頭に戻り、3~4行目を除いて最終行まで繰り返されます(テキストが繰り返される時の音楽は必ずしも最初と同じではありません)。

いつものようにベートーヴェンのテキストの繰り返しをすべて書き出してみます([ ]内が繰り返し)。

T'intendo, sì, mio cor,
con tanto palpitar!
So che ti vuoi lagnar,
che amante sei,
 [che amante sei.]
Ah! taci il tuo dolor,
[ah!] soffri il tuo martir.
Tacilo, [tacilo] e non tradir
l'affetti miei[, l'affetti miei]!
 [T'intendo, sì, mio cor,]
 [con tanto palpitar,]
 [ah! taci il tuo dolor,]
 [ah! soffri il tuo martir.]
 [Tacilo, tacilo e non tradir]
 [l'affetti miei, l'affetti miei,]
 [tacilo, tacilo!]

ベートーヴェンの音楽は、ピアノの前奏で心臓の鼓動を模しているような音型が現れ、これが曲全体を通して頻繁に現れます。この鼓動は2つの音の後に休符が入ることによってドクドクではなく、ドクッドクッという感じに聞こえます。私には恋のはじまりのような初々しさが表現されているように思うのですがいかがでしょう。
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歌声は基本的に長調の穏やかな雰囲気のまま進みますが、"amante(恋をしている人)"という単語に装飾音や細かいメリスマを付けて強調しているのは意図的なものでしょう。
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03

鼓動に対して「静まれ(tacilo)」と言う箇所で突然タッタタンというリズムが現れ、鼓動を遮ろうとしているようですが、結局鼓動のリズムはすぐに現れ、最後まで消えることはありません。
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曲の最後には「静まれ(tacilo)」という言葉にもはや決然としたリズムは現れず、鼓動のリズムにその言葉はかき消されてしまったかのようです。ベートーヴェンにとってはこの詩の主人公の鼓動は恋の続く限り打ち続けるということなのでしょう。
05

2/4拍子
ニ長調(D-dur)
Adagio ma non troppo

●チェチーリア・バルトリ(MS), アンドラーシュ・シフ(P)
Cecilia Bartoli(MS), András Schiff(P)

ニュアンスに富んだバルトリの歌声は最高でした。もし彼女がドイツリートにも進出してくれたらどんなに良かったことでしょう。シフも細やかなタッチで良かったです。

●ペーター・シュライアー(T), ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T), Walter Olbertz(P)

シュライアーの情熱的な歌いぶりがこの曲に似つかわしく感じられました。

●アン・ソフィー・フォン・オッター(MS), メルヴィン・タン(Fortepiano)
Anne Sofie von Otter(MS), Melvyn Tan(Fortepiano)

恋するがゆえの制御しがたい鼓動に対してそっと落ち着かせようと試みる繊細なオッターの語り掛けが素晴らしいです!

●ジョイス・ディドナート(MS), デイヴィッド・ゾーベル(P)
Joyce DiDonato(MS), David Zobel(P)

2010.1.18, Madrid録音。ディドナートの歌は声質ゆえかケルビーノのような思春期の青年の趣を感じました。

●パメラ・コバーン(S), レナード・ホカンソン(P)
Pamela Coburn(S), Leonard Hokanson(P)

コバーンは芯のある声で丁寧にメロディーラインを聞かせてくれます。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), イェルク・デームス(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Jörg Demus(P)

デームスが右手の鼓動の音型をペダルで柔らかく表現していたのが他のピアニストたちと異なっていて印象的でした。F=ディースカウはダイナミクスの幅広さで主人公の心情を見事に表現していたと思います。

●ルネ・ヤーコプス(Countertenor), ジョス・ファン・インメルセール(Pianoforte)
René Jacobs(Countertenor), Jos van Immerseel(Pianoforte)

ヤーコプスは自らの恋の鼓動をむしろ楽しんでいるかのような余裕が感じられる歌いぶりでした。

●ヴィンチツォ・リギーニ(Vincenzo Righini: 1756-1812)作曲による「お前のことはよくわかる」
“T'intendo, si, mio cor” by Vincenzo Righini
パトリス・マイクルズ・ベディ(S), デイヴィッド・シュレイダー(Fortepiano)
Patrice Michaels Bedi(S), David Schrader(Fortepiano)

ボローニャ出身の作曲家で歌手でもあったリギーニはベートーヴェンより14歳年長ということになります。流麗なピアノの分散和音にのって開放的なメロディーラインが心地よく響きます。

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(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

4つのアリエッタとひとつの二重唱——作曲動機不明のイタリア歌曲(平野昭)

『ベートーヴェン全集 第6巻』:1999年3月20日第1刷 講談社(「Vier Arietten und ein Duett, Op. 82」の解説:高橋浩子)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(歌曲の解説:藤本一子)

IMSLP (楽譜のダウンロード)

RISM(国際音楽資料目録)

PIETRO METASTASIO: Amor timido

ヴィンチェンツォ・リギーニ(Wikipedia)

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ベートーヴェン「言っておくれ、愛しい人 (希望) (Dimmi, ben mio, che m'ami (Hoffnung), Op. 82/1)」(『4つのアリエッタと1つの二重唱曲(Vier Arietten und ein Duett, Op. 82)』より)

Dimmi, ben mio (Hoffnung), Op. 82, No. 1
 言っておくれ、愛しい人 (希望)

Dimmi, ben mio, che m'ami,
Dimmi che mia tu sei.
E non invidio ai Dei
La lor' divinità!
Con un tuo sguardo solo,
Cara, con un sorriso
Tu m'apri il paradiso
Di mia felicità!

(対訳:「詩と音楽」藤井宏行氏)

詩:anonymous
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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1809年に作曲された『4つのアリエッタと1つの二重唱曲(Vier Arietten und ein Duett, Op. 82)』は、1811年にロンドンのクレメンティ社(Clementi)とライプツィヒのブライトコプフ&ヘルテル社(Breitkopf und Härtel)から出版されました。5曲ともイタリア語の歌曲集ですが、ブライトコプフ&ヘルテル版は初版からドイツ語歌詞も併記されていて、どちらの言語でも歌えるようになっています(クレメンティ版は未確認です)。ただし、両言語の音節の違いが楽譜のぼう(符幹)の上下で区別されている為(ぼうが上に付いている方がイタリア語)、若干分かりにくい感は否めません。

第1曲のタイトルは「Hoffnung(希望)」とドイツ語で記載されていて、作者不詳のテキストの内容はおおよそ次のようなものです。

私を愛していると言って、愛しい人、あなたは私のものと言ってください、私は神々の神性などうらやましくないのです。
あなたの一瞥だけで、愛しい人、あなたの微笑みだけで、あなたは至福の楽園を私に見せてくれるのです。

ここでも、ベートーヴェンのテキストの繰り返しをすべて書き出してみます([ ]内が繰り返し)。

Dimmi, ben mio, che m'ami,
dimmi che mia tu sei,
e non invidio ai Dei
la lor' divinità!
Con un tuo sguardo solo,
cara, con un sorriso
tu m'apri il paradiso
di mia felicità!
 [di mia felicità!]
 [, di mia felicità!]
 [Dimmi, dimmi, dimmi che m'ami,]
 [dimmi, ben mio, che m'ami,]
 [dimmi che mia tu sei;]
 [con un tuo sguardo solo,]
 [cara, cara, con un sorriso]
 [tu m'apri il paradiso]
 [di mia felicità!]
 [Con un tuo sguardo solo,]
 [cara, cara, con un sorriso]
 [tu m'apri il paradiso]
 [di mia felicità!]
 [, di mia felicità!]

赤字の"sì"はオリジナルにないベートーヴェンの追加ですが、これは英語でいうところの"yes"、つまりドイツ語の"ja"です。"ja"の追加がベートーヴェンのドイツ語歌曲にどれほど多くあったかを私たちはこれまでの記事で見てきましたが、イタリア語においても同じ意味の"sì"を追加していたというのは面白いなと思いました。同時代の他の作曲家の単語の追加の傾向を調べるのも一つの研究テーマとして成立する気がします。

この曲では、一通りすべての歌詞をそのまま歌った後に最後の行を繰り返して、冒頭から順に繰り返していくという形をとっています。
ただ、第3~4行目(私は神々の神性などうらやましくない)のみ全く繰り返されていないので、ベートーヴェンは機械的に全部繰り返すわけではなく、繰り返すテキストを吟味していることが分かります。
楽譜を見ると、ベートーヴェンがこの短いテキストからいかに細やかに内容を描き出そうとしたかが伝わってきます。"Con un tuo sguardo solo, / cara, con un sorriso(あなたの一瞥だけで、愛しい人、あなたの微笑みだけで)"でritardandoしながらピアノはアルペッジョのみになって恋人の一瞥や微笑みに主人公が恍惚となり動きが止まるさまを表す点、"paradiso(天国)"で突然細かい分散和音になり天国の雰囲気を表現している点、繰り返し箇所の"m'ami(私を愛している)"の長いメリスマなど、テキストの描写が徹底しているように感じます。これらが停滞することなく短い作品の中に詰め込まれている点が素晴らしいなと思います。

・譜例(長いメリスマ箇所)

20221015_1 

C (4/4拍子)
イ長調(A-dur)
Allegretto moderato

●チェチーリア・バルトリ(MS), アンドラーシュ・シフ(P)
Cecilia Bartoli(MS), András Schiff(P)

愛らしく魅力的なバリトリの語り口は素敵ですね。

●ジョイス・ディドナート(MS), デイヴィッド・ゾーベル(P)
Joyce DiDonato(MS), David Zobel(P)

ディドナートの明晰な言葉の扱いと表現力はオペラで培った部分も大きいのかもしれませんね。

●ジャン・ジロドー(T), ジャック=デュポン(P)
Jean Giraudeau(T), Jacque-Dupont(P)

ジロドーの軽やかな歌声がなんとも爽快です。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), イェルク・デームス(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Jörg Demus(P)

ディースカウは全体の設計がとてもうまく感じられました。

●ヘルマン・プライ(BR), レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR), Leonard Hokanson(P)

プライはここで若かりし頃の恋の情熱を表現しようとしたかのように切迫感をもって表現していたように感じました。

●ペーター・シュライアー(T), ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T), Walter Olbertz(P)

シュライアーの抑えた歌いぶりは、恋の喜びに浮かれている様子は皆無で、心ここにあらずな状態を表現しているのでしょうか。

●第1稿
Early version of Op. 82, No. 1. Hess 140 (c. 1809?)
ライナー・トロースト(T), ベルナデッテ・バルトス(P)
Rainer Trost(T), Bernadette Bartos(P)

2018.12.6, Wien録音。楽譜を見ていないのではっきりとは分かりませんが、聞いた限りでは終わりの方の繰り返し箇所が第2稿よりも長くなっていて、歌声部の違いがありました。トローストの凛々しい歌声は熱烈な恋文を聞いているかのようでした。

●第2稿(パリ自筆譜版)
Paris autograph version of Op. 82, No. 1. Hess 140 (1811)
ライナー・トロースト(T), ベルナデッテ・バルトス(P)
Rainer Trost(T), Bernadette Bartos(P)

2018.12.6, Wien録音。ほぼ第2稿(Op. 82, No. 1)と一緒で、後半少しだけ異なる箇所があるようです(音符と単語の割り当てが若干ずれている箇所もありました)。

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(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

4つのアリエッタとひとつの二重唱——作曲動機不明のイタリア歌曲(平野昭)

『ベートーヴェン全集 第6巻』:1999年3月20日第1刷 講談社(「Vier Arietten und ein Duett, Op. 82」の解説:高橋浩子)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(歌曲の解説:藤本一子)

IMSLP (楽譜のダウンロード)

RISM(国際音楽資料目録)

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ベートーヴェン「この暗い墓の中で(In questa tomba oscura, WoO 133)」

In questa tomba oscura, WoO 133
 この暗い墓の中で

In questa tomba oscura
Lasciami riposar;
Quando vivevo, ingrata,
Dovevi a me pensar.

Lascia che l'ombre ignude
Godansi pace almen
E non, e non bagnar mie ceneri
D'inutile velen.

(対訳:「詩と音楽」藤井宏行氏)

詩:Giuseppe Carpani (1752-1825)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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ジュゼッペ・カルパーニのテキストによる「この暗い墓の中で(In questa tomba oscura, WoO 133)」は、ベートーヴェンのイタリア語の歌曲の中でとりわけ人気が高く、古くはシャリアピンやシュルスヌスから、デル・モナコ、パヴァロッティといったオペラを中心に活動する歌手たちもこの曲をレパートリーに加えているほどです。せっかくの機会ですので、今回の聞き比べは普段登場しない演奏家を中心に選びました。いつもの名演奏家たちは動画サイトで検索していただければすぐに聞くことが出来ると思います。

1808年に詩人のカルパーニ自身も含んだ46人の作曲家による「この暗い墓の中で」のテキストによる63曲の歌曲がまとめて出版されました。この"In questa tomba oscura, Arietta con accompagnamento di piano-forte composta in diverse maniere da molti autori"にはチェルニー、ダンツィ、クサーヴァー・モーツァルト、サリエーリ、トマーシェク、ツェルター等が含まれ、最後にベートーヴェンの曲が置かれています。同じテキストによる複数の作曲家の競作集ですね(タイトル、序文、目次はIMSLPのこちらからダウンロード出来ます)。

Beethoven-Haus Bonnの記載によると、ベートーヴェンによるこの曲の第1稿は1806年初頭から秋の間、第2稿は1807年晩夏/秋に作曲されました。

詩の内容は「この暗い墓の中で休ませておくれ、私が生きていたときにこそ、恩知らずの女(ひと)よ、私のことを思ってくれるべきだった。せめて平安のまま楽しませてほしい。私の灰に無駄な毒を注がないでおくれ」というものです。最後の行は女性の涙を毒と言っているように思います。シューベルトの「海辺にて(Am Meer, D957/12)」を思い出しますね。

この曲の中で"ingrata"という言葉が特に印象的ですが(曲の最後にも2回繰り返しています)、イタリア語辞典によれば"ingrato"の女性の形として「恩知らず(の人), 忘恩の徒」と訳されていました(伊和中辞典 2版)。このテキストの文脈では、愛情を注いだにもかかわらず振り向いてくれなかった女性をなじっているということなのでしょう。ただこの主人公は自分の思いを「恩知らずの女性」に伝えたのでしょうか。背景の描写を省くことでテキストを読む人の様々な想像を掻き立ててくれます。

ベートーヴェンの曲はテキストの第1連はピアノの和音の上で比較的穏やかな雰囲気のまま進みます。2行目最後の"riposar"は変イ長調のドが充てられていますが、4行目の最後の2回繰り返される"pensar"の最後はドではなくソで不安定なまま終わり、詩の恨み節を反映しているかのようです。第2連はピアノが細かいトレモロになり、歌・ピアノ共にクレッシェンドで盛り上がり、最後の"velen(毒)"で平行調のヘ短調のドミナントとなります。"velen"と歌う箇所の1オクターブの下降はベートーヴェンのこの単語への思いが感じられます。その後第1連のテキストと音楽に回帰します。最後に"ingrata(恩知らずの女(ひと)よ)"をソのまま歌い終わり、ピアノパートは変イ長調の主和音で終わります。
ピアノパートは基本的に長調の響きの中で墓の中の平安を表現しているように感じられますが、一方の歌声部はソで不安定なまま終わり、本来平安であるはずの場所にいながら真の安息を得られない主人公の思いを表現しようとしているように思いました。

2/4拍子
変イ長調(As-dur)
Lento

●フョードル・シャリアピン(BS), 管弦楽団, アルバート・コーツ(C)
Feodor Chaliapin(BS), Albert Coates(C)

シャリアピンはこの曲を何種類か録音しているようです。"l'ombre"でのフェルマータは、この時代の歌手に求められていたものの一端を垣間見たような気がします。声の表情の豊かさは確かに感じられますね。

●ハインリヒ・シュルスヌス(BR), フランツ・ルップ(P)
Heinrich Schlusnus(BR), Franz Rupp(P)

1932年録音。シュルスヌスは速めのテンポで折り目正しく歌っていました。ルップはクライスラーやM.アンダーソンの共演者としても知られていて、ここでもしっかりとした安定感のある演奏をしています。

●ローザ・ポンセル(S), イゴリ・シハゴフ(P)
Rosa Ponselle(S), Igor Chichagov(P)

アメリカの往年のソプラノ歌手ポンセルは、メゾのような深みのある声で第1連と第2連を異なる表現で見事に歌い分け、ぐっと引き込まれる歌唱でした。

●マリオ・デル・モナコ(T), ブライアン・ラネット(ORG)
Mario del Monaco(T), Brian Runnett(ORG)

1965年録音。まずデル・モナコがこの曲を歌っていたという事実に驚きました。あたかも鼻歌でも歌っているかのように気楽な雰囲気で歌いながら聴き手をいつの間にかその歌の世界に引き込んでしまいます。

●ルチアーノ・パヴァロッティ(T), フィルハーモニア管弦楽団, ピエロ・ガンバ(C)
Luciano Pavarotti(T), Philharmonia Orchestra, Piero Gamba(C)

なんといい声!途切れることなく流れる泉のような美声です。パヴァロッティがこの曲を歌うと、舞台装置のついたステージで悲劇の主人公が聞かせどころのモノローグを歌う情景が思い浮かびます。

●ハンス・ホッター(BSBR), ハンス・ドコウピル(P)
Hans Hotter(BSBR), Hans Dokupil(P)

さすがホッター、リートの名人ならではの知的なアプローチで主人公の心情を描いてみせてくれます。"ingrata"への思いの強さも伝わってきます。

●ルネ・ヤーコプス(Countertenor), ジョス・ファン・インメルセール(Pianoforte)
René Jacobs(Countertenor), Jos van Immerseel(Pianoforte)

1981年1月, Antwerpen録音。ヤーコプスは速めのテンポで抑制しつつも細やかな表情を付けて歌っていました。第2連最終行の"velen"の低音もしっかり出ていて凄みがありました。

●レナート・ブルゾン(BR), マーカス・クリード(P)
Renato Bruson(BR), Marcus Creed(P)

レナート・ブルゾンの折り目正しい歌いぶりはあたかもリートを歌うドイツ人歌手のようです。この曲を歌う時のお手本のような歌唱でした。第2連の高音が輝かしかったです。

●チェチーリア・バルトリ(MS), アンドラーシュ・シフ(P)
Cecilia Bartoli(MS), András Schiff(P)

バルトリの歌唱は荘厳でありながら聴き手を慰撫するような温かみも感じられて素晴らしいです。

●第1稿(1806年)
1806 Version
リカルド・ボホルケス(BS), ベルナデッテ・バルトス(P)
Ricardo Bojórquez(BS), Bernadette Bartos(P)

2019年録音。貴重な第1稿の演奏です。普段歌われる第2稿と基本的には同じ音楽ですが、第1稿は"Pensar"、"pace"などで高く上行し、感情の起伏が大きめです。また第2稿は歌のフレーズ最後がドで終わることは最初の1回だけで、それ以外はソで終わりますが、この第1稿ではその他の箇所もドで終わる箇所がありました。数回これを聞くと第2稿の優れた出来栄えを実感すると共に、第1稿も勢いが感じられます。ベートーヴェンの中でどのように曲が出来上がっていくのかを知ることの出来る貴重な録音だと思います。

●アントーニオ・サリエーリ作曲「この暗い墓の中で」(第1作)
Antonio Salieri (1750-1825): In questa tomba oscura (1st setting - D minor)
Krisztina Laki(S), Gábor Kósa(P)

2001年録音。サリエーリによる第1作では放心状態のようなそこはかとない悲しみがコンパクトにまとめられていました。

●アントーニオ・サリエーリ作曲「この暗い墓の中で」(第2作)
Antonio Salieri: In questa tomba oscura (2nd setting - A minor)
Annelie Sophie Müller(S), Ulrich Eisenlohr(P)

サリエーリの第2作は、第1作よりも激しい感情の横溢が感じられました。

●ヨーゼフ・ヴァイグル作曲「この暗い墓の中で」
Joseph Weigl (1766-1846): In questa tomba oscura
Donald George(T), Lucy Mauro(Fortepiano)

ヴァイグルはベートーヴェンより4歳年上のオーストリアの作曲家、指揮者で、サリエーリの弟子。この曲は素朴に主人公の悲しみを訴えている印象です。最後の"D'inutile velen"だけ繰り返しているのは、作曲家にとってもインパクトの強い詩句なのでしょう。

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(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

「この暗い墓の中で」——激しく苦悩を訴えるイタリア語歌曲(平野昭)

『ベートーヴェン全集 第6巻』:1999年3月20日第1刷 講談社(「In questa tomba oscura」の解説:村田千尋)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(歌曲の解説:藤本一子)

IMSLP (楽譜のダウンロード)

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生誕150年!ヴォーン・ウィリアムズ「リンデン・リー(Linden Lea)」

Linden Lea
 リンデン・リー

Within the woodlands, flow'ry gladed,
By the oak trees' mossy moot,
The shining grass blades, timber shaded,
Now do quiver underfoot;
And birds do whistle overhead,
And water's bubbling in its bed;
And there for me, the apple tree
Do lean down low in Linden Lea.
 森の中、花咲く空き地の
 苔むしたオークの切り株のそばで、
 輝く草は、木の陰になり、
 足元で震えている。
 鳥たちは頭上でさえずり、
 水は河床でぶくぶく沸いている、
 そしてそこでは、私に向かって、りんごの木が
 低く垂れさがるのだ、リンデン・リーで。

When leaves, that lately were a-springing,
Now do fade within the copse,
And painted birds do hush their singing,
Up upon the timber tops;
And brown leaved fruit's a-turning red,
In cloudless sunshine overhead,
With fruit for me, the apple tree
Do lean down low in Linden Lea.
 葉は最近芽吹いていたのに、
 今や林の中でしおれている、
 色鮮やかな鳥たちは歌うのをやめる、
 木の頂上で。
 そして茶色い葉の果実は赤くなる、
 頭上の雲一つない日の光の中で。
 果実とともに、私に向かって、りんごの木が
 低く垂れさがるのだ、リンデン・リーで。

Let other folk make money faster,
In the air of dark-room'd towns;
I don't dread a peevish master,
Though no man may heed my frowns.
I be free to go abroad,
Or take again my homeward road,
To where, for me, the apple tree
Do lean down low in Linden Lea.
 他の人々にはせっせと金を稼がせておけ、
 暗い寄宿生活を過ごした町の空気の中で。
 私は気難しい雇い主を恐れたりしない、
 私がまゆをひそめても気に掛ける人などいないかもしれないが。
 私はいつでも海外に行けるし、
 再び家路にもつける。
 そこへも、私に向かって、りんごの木が
 低く垂れさがるのだ、リンデン・リーで。

詩:William Barnes (1801-1886)
曲:Ralph Vaughan Williams (1872-1958), "Linden Lea", alternate title: "In Linden Lea", 1901, published 1902

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2022年が生誕150年にあたるレイフ・ヴォーン・ウィリアムズ(Ralph Vaughan Williams: 1872.10.12-1958.8.26)はイギリスの代表的な作曲家であり、歌曲も数多く残しています(The Ralph Vaughan Williams Societyの作品リストによると、独唱曲98曲、二重唱曲8曲)。歌曲集『生命の家(The house of life)』(特に「静かな午後(Silent noon)」が有名)、歌曲集『旅の歌(Songs of travel)』、歌曲集『ウェンロック・エッジで(On Wenlock Edge)』などがよく知られていますが、今回はとりわけ広く親しまれている「リンデン・リー(Linden Lea)」という歌曲をご紹介したいと思います。

1901年に作曲された歌曲「リンデン・リー」は、ウィリアム・バーンズ(William Barnes)がドーセット地方(イングランド南西部の地域)の方言で書いたテキストによるもので、1912年ロンドンのBoosey & Co.社出版の楽譜には標準語とドーセット方言が並行して記載されています(1902年の初版は今のところ閲覧できていません)。副題には「ドーセットの歌(A Dorset Song)」と書かれています。

ヴォーン・ウィリアムズの曲は基本的にはテキストの各節に同じ音楽を付けた有節形式ですが、各節冒頭の歌のパートに異なる強弱記号を付け、mp(1節)、mf(2節)、f(3節)と徐々に強くなるように配置しています。3節ではさらにAnimato(いきいきと)という指示まで付けています。
1、2節が故郷の田園風景を懐かしく回顧する一方、3節では都会で働く主人公が世知辛い現状を吐露しており、"f"は主人公の憤りが反映されているものと思われます(ピアノパートのスタッカートもその反映でしょう)。3節は冒頭だけでなく、その後も頻繁な強弱と速度の変更の指示があり、ヴォーン・ウィリアムズのテキストの解釈を知ることが出来ます。
各節最後の2行では故郷のりんごの木が低く垂れている情景を繰り返し、主人公の心のよすがになっていることを想像させます。最後の行"Do lean down low in Linden Lea."の"L"の頭韻が美しく響きますね。

ところで「リンデン・リー」とは何なのでしょう?地名のように使われていますが、Lindenはドイツ語でもお馴染みの「セイヨウボダイジュ(シナノキ)」のことで、Leaは詩語で「草原、草地、牧草地」をあらわすそうです。詩人の思い入れのあるシナノキの立った草原でしょうか。都会に出稼ぎに出て嫌な思いをしていても、主人公の心の中には故郷のシナノキ林に立っているりんごの木があり、いつでもそこに戻ることが出来るのだと言い聞かせているかのように感じました。

それにしてもイギリスのメロディーは何故か日本人の琴線に触れるものが多く、懐かしさを呼び起こされるのが不思議です。日本人の胸を打つ要素が何かあるのかもしれませんね。そのへんを研究対象にしたら面白いかもしれません。

3/4拍子
ト長調(G major)
Andante con moto

●ロデリック・ウィリアムズ(BR), イアン・バーンサイド(P)
Roderick Williams(BR), Iain Burnside(P)

優しく慰撫するようなウィリアムズの柔らかい表現に心が洗われるようです。感動的な演奏でした!

●デイム・ジャネット・ベイカー(MS), ジェラルド・ムーア(P)
Dame Janet Baker(MS), Gerald Moore(P)

日本ではあまり知られていませんが、イギリス歌曲を精力的に歌ってきたジャネット・ベイカーの歌声は温かみがあり素晴らしいです。

●ジョン・シャーリー=クワーク(BR), ヴァイオラ・タナード(P)
John Shirley-Quirk(BR), Viola Tunnard(P)

シャーリー=クワークの深みのある歌声はホッターのような包容力を感じました。表現もしみじみとした味わいがあり、非常に胸打たれました。タナードのピアノも歌声に共通する包容力があり素敵でした。

●ブリン・ターフェル(BR), マルコム・マーティノー(P)
Bryn Terfel(BR), Malcolm Martineau(P)

速めのテンポですが、ターフェルはテキストに敏感に反応した歌唱で良かったです。

●ロバート・ティアー(T), フィリップ・レッジャー(P)
Robert Tear(T), Philip Ledger(P)

楽譜付きの映像です。ティアーはかなりドラマティックな歌いぶりで、テキストの第3節の怒りが根底にあるのかなと感じました。

●ピアノパートのみ
Vaughan Williams - Linden Lea - Accompaniment: G major

チャンネル名:Simon Walton
とても美しい演奏です。ピアノパートだけ聞いていても心に響くものがありました。

動画サイトにはないですが、加耒徹(BR)&松岡あさひ(P)の録音は滑らかなディクションと真摯な表現で魅了されました。
もう1組、辻裕久(T)&なかにしあかね(P)はイギリス歌曲を精力的に演奏しているコンビで、この曲の録音も伸びやかな美声と味わい深いピアノの響きで素晴らしかったです。機会があればぜひお聴きください。

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(参考)

Liedernet

IMSLP(楽譜のダウンロード)

The Ralph Vaughan Williams Society (作品表)

William Barnes (Wikipedia: 英語)

Dorset (Wikipedia: 英語)

「詩と音楽」:2008.09.30 藤井宏行氏の対訳と解説

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