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ベートーヴェン「おお、いとしい森よ(O care selve, WoO. 119)」

O care selve, WoO. 119
 おお、いとしい森よ

CORO
O care selve, o cara
Felice libertà!

ARGENE
Qui, se un piacer si gode,
Parte non v'ha la frode,
Ma lo condisce a gara
Amore e fedeltà.

(対訳:「詩と音楽」藤井宏行氏)

詩:Pietro Antonio Domenico Bonaventura Trapassi (1698-1782), as Pietro Metastasio, appears in Olimpiade
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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ベートーヴェンはイタリア語の歌曲もいくつか作曲しています。これらも「詩と音楽」の藤井さんの対訳にリンクさせていただきながらご紹介していきたいと思います。

まずはメタスタージオの音楽劇『オリンピアーデ(Olimpiade)』の中の第1幕第4場からとられた一場面による「おお、いとしい森よ(O care selve, WoO. 119)」で、ベートーヴェン24、25歳頃の1794/95年に作曲されました。

メタスタージオのテキストに従って、合唱(Coro)(正確には斉唱ですが)と独唱(Una voce)によって歌われます。旧全集を見ると繰り返し記号が付けられていないので、それに従うと「A(合唱)-B(独唱)」と演奏されることになります。ただ、最後にAを繰り返して終わる演奏もあり、下記参考文献における藤本一子氏、村田千尋氏も共にA-B-Aのダ・カーポ形式と解説されていますので、自筆譜をインターネットで探したところ、こちらのHenle社のブログに大英図書館(British Library)のカフカ雑録(Kafka Miscellany)に保管されている自筆譜の写真が掲載されていました(複数ある写真のうち一番上の楽譜)。Aの部分の終わりにフェルマータ記号があり、Bの最後に「Dal Segno(ダル・セーニョ)」と書かれているのが見て取れました。ただ戻る場所のセーニョ記号が書かれていないので、ダ・カーポと判断していいように思いますし、おそらく新全集ではそうなっているのでしょう。

6/8拍子のリズムにのって素直なメロディーが歌われます。のどかで素朴な雰囲気をもった親しみやすい作品です。Bの後のピアノ間奏は独唱の締めのひとふしをそのまま繰り返しています。

6/8拍子
ト長調(G-dur)
Allegretto

●ヘルマン・プライ(BR), ハインリヒ・シュッツ・クライス・ベルリン, レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR), Heinrich Schütz Kreis, Berlin, Leonard Hokanson(P)

合唱(A)-独唱(B)-合唱(A)。プライの独唱の後に冒頭の合唱を繰り返す形で演奏しています。合唱パートを女声合唱にしたことで、円熟のプライの歌唱と対比されて美しい演奏でした。

●ペーター・シュライアー(T), ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T), Walter Olbertz(P)

合唱のパートも含めて、シュライアーが一人で歌っています(A-B)。シュライアーは感情のこもった歌でした。

●ルイーズ・トッピン(S), ジョン・オブライエン(Fortepiano)
Louise Toppin(S), John O'Brien(Fortepiano)

2014年3月8-10日録音。合唱のパートも含めて、トッピンが一人で歌っています(A-B)。トッピンは声の色合いの豊かな歌を聞かせてくれています。

●アンナ・ボニタティブス(MS), アデーレ・ダロンゾ(P)
Anna Bonitatibus(MS), Adele D'Aronzo(P)

合唱のパートも含めて、ボニタティブスが一人で歌っています。最後に合唱パートを繰り返していました(A-B-A)。イタリア人ボニタティブスは速めのテンポでかなり抑揚をつけて歌っていました。

●コンスタンティン・グラーフ・フォン・ヴァルダードルフ(BR), ヴィーン・グスタフ・マーラー合唱団, クリスティン・オーカーランド(P)
Constantin Graf von Walderdorff(BR), Gustav Mahler Chor Wien, Kristin Okerlund(P)

ここでは、ベートーヴェンが省いたメタスタージオのテキストの続きを復元して歌っています。資料的にも貴重ですね。合唱は混声合唱で歌っています。

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(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

『ベートーヴェン全集 第6巻』:1999年3月20日第1刷 講談社(「O care selve」の解説:村田千尋)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(歌曲の解説:藤本一子)

IMSLP (楽譜のダウンロード)

G. Henle Verlag: "Beethoven's “Unfinished” (compositions)" (自筆譜の写真)

L’olimpiade, Vienna, van Ghelen, 1733 (メタスタージオの原文)

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コメント

フランツさん、こんばんは。

短いけれど、穏やかな美しい曲ですね。イタリア語についているためか、柔らかいですよね。ベートーベンの多才さを感じます。

プライさんと共演の合唱団、少年合唱団のようにも聴こえるフレッシュな歌声ですね。
温もりのあるプライさんの声が、優しいメロディと柔らかなイタリア語とマッチして癒されます。民謡のようにも聞こえますね。

トッピンの独唱は表情豊かですね。
表情豊かなボニタティブスは、イタリア人ならではの感覚があるのでしょうね。

混声合唱になると、また雰囲気が変わりますね。ゆったりとしたテンポでの演奏も美しかったです。

投稿: 真子 | 2022年10月30日 (日曜日) 20時32分

真子さん、こんばんは。

いろんな記事にコメントをくださり有難うございます!
順にご返事していきますね。

この曲、素朴ですがきれいですよね。

プライと合唱団の組み合わせ、いいですよね。クリスマスソングなどでもそうですが、プライの先導で合唱団が生き生きとしてくるような気がします。

トッピンやボニタティブスは今回はじめて聴きましたが、それぞれの良さがありますよね。

独唱と合唱の組み合わせをベートーヴェンはいくつか作っていますが、お酒や友情の歌のイメージが強いので、この曲のようなタイプは珍しいかもしれません。

投稿: フランツ | 2022年10月31日 (月曜日) 20時59分

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