ベートーヴェンのフランス語の歌曲「愛する喜び(Plaisir d'aimer, WoO. 128)」
★愛する喜び(Plaisir d'aimer), WoO. 128 (Hess 131, Biamonti 201)
Plaisir d'aimer (Romance), WoO. 128
Plaisir d'aimer, besoin d'une âme tendre
Que vous avez de pouvoir sur mon coeur.
De vous, hélas, en voulant me défendre
Je perds la paix sans trouver le bonheur.
詩:anonymous
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)
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ベートーヴェンは1798年から99年にこの作者不詳の短い詩による歌曲スケッチを書きました。
愛する喜びは優しい心が必要なのに相手の力ゆえに私は幸せも見いだせず平安を失ったと歌われます。フランス語に疎いのであくまで想像ですが、相手の強烈な引力ゆえに心の平静を失ってしまったというところでしょうか。「糸を紡ぐグレートヒェン」に近い感覚かなと思いました。
はじめて出版されたのは、もう一つのフランス語の歌曲「何と時は長く(Que le temps me dure), WoO. 116」の第1稿と同様、1902年の「Die Musik. – 1 (1901/1902), H. 12」で、「何と時は長く」の楽譜に続けて掲載されています。
そこでは3つのスケッチの後に、演奏できる形にした楽譜が掲載されています(Beethoven-Haus Bonnのリンク先で閲覧可能です)。
「Die Musik. – 1 (1901/1902), H. 12」に掲載された楽譜
スケッチ(未完)
[C (4/4拍子)]
ト長調(G-dur)
●パメラ・コバーン(S), レナード・ホカンソン(P)
Pamela Coburn(S), Leonard Hokanson(P)
コバーンのメロディーラインを丁寧に紡ぐ歌唱が美しかったです。
●マリオ・アカール(BR), クロード・コレ(P)
Mario Hacquard(BR), Claude Collet(P)
アカールは歌手と同時に俳優業もしているそうで、語るような歌が印象的でした。コレのピアノも雄弁で良かったです。
●ペーター・シュライアー(T), ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T), Walter Olbertz(P)
シュライアーの真摯な歌いかけが心に沁みます。
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(参照)
《愛の喜び》——フランス語の詩にのせた11小節の歌曲(平野昭)
『ベートーヴェン全集 第6巻』:1999年3月20日第1刷 講談社(「Plaisir d'aimer」の解説:村田千尋)
『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(歌曲の解説:藤本一子)
Staatsbibliothek zu Berlin: Digitalisierte Sammlungen (スケッチ)
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コメント
フランツさん、こんばんは。
9月半ば過ぎからめまいがまだ出始めてご無沙汰していました。
また少しずつ拝見しますね(*^^*)
投稿: 真子 | 2022年10月14日 (金曜日) 18時06分
真子さん、こんばんは。
めまいだったのですね。お見舞い申し上げます。
めまいは辛いとよく聞きます。
くれぐれもお大事になさって下さい。
耳が関係していることもあるらしいので安易なことは言えないのですが、お好きな音楽で気分転換できたらいいですね。
投稿: フランツ | 2022年10月14日 (金曜日) 19時50分
フランツさん、こんにちは。
あたたかいお言葉ありがとうございます。10数年前に大きなめまいを起こしたときは、3ヶ月ほど耳が過敏になって、プライさんすら聞けない状況でした。
今回は、小さめの音量でプライさんと、菅三英子さんの「讃美歌21を歌う」を聞いていました。菅さんの温かくて純なソプラノに癒されました。
菅さんの声には、メゾの持つ母性のようなものが含まれているように思います。若い頃のコロラトゥーラの演奏はめくるめくような華やかさときらめきがありますが)
さて、この曲は繊細で優しく悲しい曲ですね。
詩は、イタリア古典歌曲にもあるマルティーニの「愛の喜びは」と似ています。
題は愛の喜びだけど、苦しみは一生続くと歌われます。
一旦、恋という沼に足を踏み入れてしまったら、苦しみの方が多いのですね。そんなため息が聞こえて来るようなパメラ·コバーンの演奏でした。
彼女の、深みがあって、甘いメロディラインのある演奏、美しかったです。
投稿: 真子 | 2022年10月16日 (日曜日) 15時10分
真子さん、こんばんは。
やはりめまいの時は耳が過敏になってしまうのですね。音楽好きな真子さんにとってはお辛かったことと思います。
今回は小さな音量でプライと菅三英子さんの讃美歌を聞かれたとのこと、以前ご紹介いただいた菅さんの讃美歌の録音、素敵ですよね。菅さんの清水のような美声で包まれるような広がりをもって歌われるとヒーリングの効果もありそうですね。
このベートーヴェンのフランス語歌曲も聴いていただき有難うございます。
長調なのに哀感のこもったコバーンの歌唱、素敵ですね。実体験が反映されているのでしょうか。声から思いがこぼれ落ちてくるような感じがしました。
マルティーニの「愛の喜び」は私の恩師から昔伺った話だと、タイトルが結婚式にぴったりと誤解されて、歌われてしまうことが多かったようなので、翻訳をブックレットに掲載する際に「愛の喜びは」というタイトルにしたそうです(文章の一部だと分かれば愛の喜び賛歌ではないと気付くかもしれませんからね)。披露宴などで「愛の喜びは一瞬で、悲しみは生涯続く」などと歌われたと知ったらびっくりですよね。メロディーが親しみやすいので、詩の内容を確認せずに歌ってしまうことが多かったのでしょうね。
投稿: フランツ | 2022年10月16日 (日曜日) 19時04分
フランツさん、こんばんは。
>菅さんの清水のような美声で包まれるような広がりをもって歌われるとヒーリングの効果もありそうですね。
清水のような、、素敵な表現ですね。
まさに清らかな水が流れて行くような透明感と清涼感がありますよね。
でも暖かみもあって。
もし、若い頃日本で活躍されていたら、もっと録音も多かったのかな、と残念です。
最近、菅さんもソプラノソロを歌っている、マーラー交響曲「千人の交響曲」を買いました。1998年の若々しく華やかな高音がキラキラしています!
投稿: 真子 | 2022年10月30日 (日曜日) 21時44分
真子さん、こんばんは。
菅三英子さんの録音をご紹介いただけて良かったです。本当に澄んだ声をしている方だと思います。
録音の多い少ないは、演奏家の価値とは全く無関係ですよね。タイミングと運とある程度の世渡りも関係しているのかもしれません。
菅さんのマーラーを購入されたのですね。ソロだけでなく、大勢のアンサンブルの中での歌唱もまた歌手にとって重要ですよね。
投稿: フランツ | 2022年10月31日 (月曜日) 21時01分
フランツさん、こんばんは。
菅さんが共演されているということで、アルフレード·クラウスの1996年東京公演のDVDをAmazonに注文しました。クラウスのサヨナラ公演のライヴだそうです。
37歳時の初々しい菅さんと、引退前の円熟したクラウスの姿と演奏が楽しみです。
フロリダから来るようなのでまだしばらくかかるようです。
菅さんの映像をYouTubeで見ていますが、物腰が柔らかく、歌う前のトークが終わってマイクを係の人に返す仕草など可愛らしくて(何度も会釈されて)。
ますますファンになりました。
そういえば、幸田浩子さんも素敵な方でした。
実演を聞いたあと買ったCDにサインをいただけたんですが、ライナーノーツか、CD本体にか迷っていたら、にっこりされて「じゃあ両方に書きますね」と、2ヵ所にサインしてくださいました。
歌をやっている友人が、幸田さんとお仕事したことがあるんですが、幸田さんは、本当に人柄のいい方だと言っていました。
好きなアーティストのそういう姿を見ると、ファンとしては本当に嬉しいです(*^^*)
投稿: 真子 | 2022年11月 8日 (火曜日) 21時57分
真子さん、こんばんは。
菅さんはアルフレード·クラウスと共演していたのですか!それは素晴らしいですね。
舞台に立つ人はアクの強いイメージが強いですが(偏見に過ぎませんが)、菅さんは穏やかなお人柄なのですね。そんな感じしますよね。1mmの隙もない完璧な姿を見せるカリスマ的な方ももちろん素晴らしいですが、人柄の伝わってくるような歌を歌う方はそれだけで惹きつけられますね。
幸田浩子さんは容姿も美しい方ですが性格も優しそうという印象を持っていました。声も美しいですよね。男声歌手と3人で「早春賦」を歌う動画があり、最高でした!
そんな素敵なエピソードがあったのですね。真子さんにとって心温まる時間でしたね。ファンに優しいアーティストは応援したくなりますよね。
昭和のアーティストは個性の強いイメージが強いですが、最近のアーティストはもっとフレンドリーで聴き手との壁がなくなってきているのかなと思っています。
投稿: フランツ | 2022年11月 9日 (水曜日) 18時46分