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ベートーヴェン「キス(Der Kuß, Op. 128)」

Der Kuß (Ariette), Op. 128
 キス (アリエッタ) (※初版ではOp. 121として出版され、後にOp. 128に変更された)

1.
Ich war bei Chloen ganz allein,
Und küssen wollt' ich sie.
Jedoch sie sprach, sie würde schrein,
Es sei vergebne Müh!
 僕はクローエと二人きりだった、
 そして彼女にキスしようとした。
 だが彼女は言い放った、そんなことしたら叫ぶからね、
 しようとしても無駄よ!

2.
Ich wagt' es doch und küßte sie,
Trotz ihrer Gegenwehr.
Und schrie sie nicht? Jawohl, sie schrie --
Doch lange hinterher.
 でも僕は思い切って彼女にキスした、
 彼女が抵抗するのをものともせず。
 それで彼女は叫ばなかったのかって?そのとおり、彼女は叫んださ、
 でもずっと後になってからだけどね。

詩:Christian Felix Weisse (1726-1804), "Der Kuss", written 1758, appears in Scherzhafte Lieder, Leipzig
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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クリスティアン・フェリクス・ヴァイセの詩による「キス(Der Kuß, Op. 128)」は1798年終わりに着手、旋律の草稿は完成。1822年秋にスケッチが書かれ、1822年11月か12月までに作曲されました(Beethoven-Haus Bonn)。

詩は説明するまでもなく、女性と二人きりの男性が無理やりキスした顛末が歌われています。キスしたら声出すわよと言った彼女が実際に声を出したのはずっと後だったというちょっと官能的な情景がさらりとユーモラスに描かれています。

私の個人的なイメージですが、田園的な情景が浮かんできました(例えば、こちらの絵画:東京富士美術館Webサイトより)。

ピアノ前奏は歌いだしの2行の歌声部を先取りしていますが、歌が始まるとピアノはほぼ和音に終始します。しかし、歌を展開させる為に重要な立場を与えられているのは言うまでもありません。

ベートーヴェンは例によってこの曲でも詩句の繰り返しを多用しています。
繰り返し詩句を[ ]に入れて全体を記してみます(日本語訳も繰り返しに合わせてみました)。

1.
Ich war bei Chloen ganz allein,
Und küssen wollt' ich sie,
 [Und küssen, küssen, küssen wollt' ich sie:]
Jedoch sie sprach, sie würde schrein,
 [sie würde schrein, sie würde schrein, sie würde schrein,]
Es sei vergebne Müh,
 [vergebne Müh, Es sei vergebne, vergebne Müh.]
 僕はクローエと二人きりだった、
 そして彼女にキスしようとした、
 [キスを、キスを、キスをしようとした。]
 だが彼女は言い放った、そんなことしたら叫ぶからね、
 [叫ぶからね、叫ぶからね、叫ぶからね。]
 しようとしても無駄よ、
 [無駄よ、しようとしても無駄、無駄よ。]

2.
Ich wagt' es doch, und küßte sie,
 [und küßte sie,]
Trotz ihrer Gegenwehr,
 [Trotz ihrer Gegenwehr.]
Und schrie sie nicht? Jawohl, sie schrie,
 [sie schrie;...]
Doch [, doch, doch] lange hinterher,
 [doch, ja doch! doch lange hinterher,]
 [sie schrie, doch lange, lange, lange, lange, lange, lange, lange, lange, lange hinterher,]
 [hinterher, ja lange, lange hinterher.]
 でも僕は思い切って、彼女にキスした、
 [彼女にキスした、]
 彼女が抵抗するのをものともせず、
 [彼女が抵抗するのをものともせず。]
 それで彼女は叫ばなかったのかって?そのとおり、彼女は叫んださ、
 [彼女は叫んださ、]
 でも[でも、でも、]ずっと後になってからだけどね、
 [でも、そう でも!でもずっと後になってからね、]
 [彼女は叫んださ、でもずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと後になってからね、]
 [後になってから、そう ずっと、ずっと後になってからね。]

詩の最終行"lange(ずっと)"を何度も何度も繰り返しています。これによってキスから随分時間が経ってからようやく彼女が声を出したということをベートーヴェンが表現しているのは明らかですね。どうしてずっと後になって声を出したのかを解説するのは野暮というものですね。ネイティブの聴衆を前にしたライヴではここの箇所で笑いが起きることがあります。

蛇足ですが、この最終行の繰り返しの中にもベートーヴェンはお得意の"ja"を2回追加しています。この2箇所の"ja"は歌のメロディーに1音節の音をどうしても置きたかったので穴埋めに使用したように思えます。ただ無くても成立するとは思うので、もしかしたらベートーヴェンの口癖なのかもしれませんね。

若いカップルの「僕たちこんなふうにいちゃついています」という告白にベートーヴェンのお茶目な遊び心が存分に発揮されたユーモラスな名作で人気の高い作品です。最初に着手したのが28歳頃でメロディーはこの時に出来ていたそうですが、最終的な形に完成したのが52歳頃とは随分寝かせていたものですね。どういう経緯で若い頃のスケッチを完成させようと思ったのでしょう。ベートーヴェンのお堅いイメージを覆すにはうってつけの作品ですね。

3/4拍子
イ長調(A-dur)
Mit Lebhaftigkeit jedoch nicht in zu geschwindem Zeitmassee, und scherzend vorgetragen (活気をもって、しかし速すぎないテンポで諧謔的に演奏する)

●ヘルマン・プライ(BR), ジェラルド・ムーア(P)
Hermann Prey(BR), Gerald Moore(P)

こういうユーモラスなタイプの曲を歌うプライの素晴らしさについて言葉で形容してもしきれない気がします。間合いといい、声の表情といい、聞けば分かる最高の歌唱です。湧き出るような声の充実感もいいですね。曲を締めくくるムーアのコミカルな表現もさすがです!

●オーラフ・ベーア(BR), ジェフリー・パーソンズ(P)
Olaf Bär(BR), Geoffrey Parsons(P)

ベーアは今ではあまり目立たなくなってしまいましたが、この録音を聞くと、ディクションの美しさ、声に喜怒哀楽をのせる上手さなど際立った才能の持ち主であることが分かります。

●アン・ソフィー・フォン・オッター(MS), メルヴィン・タン(Fortepiano)
Anne Sofie von Otter(MS), Melvyn Tan(Fortepiano)

オッターのあまりのうまさに舌を巻きます!生き生きとした思春期の少年のように聞こえます。彼女がズボン役を得意としていたこともプラスに働いているのでしょう。

●ペーター・シュライアー(T), ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T), Walter Olbertz(P)

シュライアーは誠実な青年像が浮かんできますね。相変わらずディクションが素晴らしいです。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), ヘルタ・クルスト(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Hertha Klust(P)

若かりしF=ディースカウの甘い声で巧みに歌っています。

●フリッツ・ヴンダーリヒ(T), フーベルト・ギーゼン(P)
Fritz Wunderlich(T), Hubert Giesen(P)

ヴンダーリヒは輝かしい美声に魅了されてしまいます。あえて表情をつけすぎずにメロディーラインを美しく響かせていました。

●ダニエル・ベーレ(T), ヤン・シュルツ(Fortepiano)
Daniel Behle(T), Jan Schultsz(Fortepiano)

2020年8月14日,Church of Saanenでのライヴ映像。こうして映像で見ると臨場感があってより身近に感じられますよね。リートにも力を入れているベーレの見事な歌唱と、シュルツの美しいフォルテピアノの響きが堪能できます。

●ピアノパートのみ
Der Kuss(L.v. Beethoven) 성악반주 Piano accompaniment

チャンネル名:My Pianist
楽譜が映るので、ピアノに合わせて歌えますね。ピアノパートがどうなっているのかを知るうえでも興味深かったです。そして演奏もとても良かったです。

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(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

アリエッテ「くちづけ」——少年の楽しい自慢話(平野昭)

『ベートーヴェン全集 第6巻』:1999年3月20日第1刷 講談社(「Der Kuß」の解説:村田千尋)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(歌曲の解説:藤本一子)

IMSLP (楽譜のダウンロード)

RISM(国際音楽資料目録)

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コメント

フランツさん、こんばんは。
lange(ずっと)"を何度も何度も繰り返すところでは、ネイティブの方が笑われるのですか。初めて知りました。ここ、ずっと意味が分からなかったんです。
官能的と解説されているので、ちょっと聞きにくいのですが(^-^;、そのあたり教えていただけますか?

こう歌を歌わせたら、若き日のプライさんは最高ですね!理屈抜きに楽しませてくれます。
うまい!としか言いようがないですよね。ppからffまでのレンジの広さも魅力です。?

ベーアのこのCD持っています。若き日のプライさんの演奏が徹底的に「歌」ならば、語りを意識した演奏ですよね。

たしかにオッターのこのような歌を聞くと、ケルビーノが新曲を披露しているかのように聞こえますね。

若き日のディースカウさん、オペラアリアのような表情をつけて歌っていますね。昔、声楽を習っていた時の先生が、大のディースカウファンで、よくドイツリートはフレーズが切れる事を恐れないで、と言われていました。
私は残念ながらドイツ語に堪能でないので、シュライアーやディースカウさんなどのディクションのよさがあまりわかっていないのだと思います。
フランツさんの解説で、こういう感じがディクションがいいと言うことなんだな、と感覚で感じています。

表情をあえてつけなくても、ヴンダーリヒが歌うとそれだけで「歌」になりますよね。

リートリサイタルで、譜面を前に歌うのも珍しいですね。表情豊かなべーレ。オペラのみならずリートも映像付きで試聴するのは楽しいです。

このような曲を聞いていて思うのは、向こうの人はこのような歌詞を歌うのに、恥ずかしさは感じないのかなあ、と言うことです。
イタリア歌曲もですが(恋が成就しなくてよく奈落におちます)、日本語じゃないから平気で歌ってましたが(笑)
日本歌曲にも「髪」など艶かしいものがありますが、やはり国民性の違いなのでしょうかね。


投稿: 真子 | 2022年9月17日 (土曜日) 19時26分

真子さん、こんばんは。

ドイツ語圏のリーダーアーベントの映像などを見ていると、ネイティブの人がかなり反応していることがあって、やはり言葉が直に理解できる人の反応だなぁと思ったりします。
このベートーヴェンの「キス」は歌っている人も割り切って堂々と語り部に徹すればきっと恥ずかしくないのでしょうね。歌手は惚れた腫れたを頻繁に歌わなければならず、メンタルをうまく切り替える手法があるのかもしれません。

ベートーヴェンの「キス」の最後に聴衆が笑うという意味なのですが、ちょっと説明しにくいのですが、主人公の男子が(うわべは)嫌がる女子(クローエ)に無理やりキスした段階ではこの女子は声をあげなかったわけです。つまり嫌がっている素振りだけで、実際にはキスを受け入れ、さらに戯れが始まり、体を重ね、最終的な局面で声を上げるということだと思います(嫌がっているのとは正反対の声ですね)。これでうまく伝わるといいのですが、ちょっと回りくどい説明ですみません(^^;)。

この曲は気楽に楽しめるのがいいですよね。プライはやはりこういう曲の適性がずば抜けていますね。ベートーヴェンはこんなに茶目っ気があるのだと知ったら、しかめっつらをしたベートーヴェンのイメージが少しは変わるのではないかと思います。

ディクションについてはシュライアーやディースカウは確かにうまいのですが、その進化形がオラフ・ベーアではないかと思っています。ベーアのディクションは聞きほれてしまいます。余程しっかりした訓練をしたのではないかと思います。

ダニエル・ベーレの映像、目で見ると楽しいですよね。あまりふざけた感じではなく、語り部に徹した歌唱で、聴衆も笑いをもらしてはいませんでしたが、こういう第三者的な歌唱もまた一つの解釈としてありだと思います。

ドイツリートやイタリア語の詩(「よく奈落におちます」というコメント、面白かったです^^)は日本人は外国語として接するのでそれほど照れずに済みそうですが、ネイティヴの歌手たちも堂々と歌っていますよね。
表現する仕事を選んだ方はもう割り切ってその役に入り込むのかもしれませんね。

ディースカウファンの声楽の先生がドイツリートはフレーズが切れる事を恐れないでとおっしゃっていたのですね。
確かにディースカウはフレーズよりも言葉を強調する感じですよね。
アーメリングはマスタークラスなどでフレーズの目的地を意識しながらレガートにつなげることを重視していました。歌手の考え方も様々ですね。

投稿: フランツ | 2022年9月17日 (土曜日) 20時50分

フランツさん、こんにちは。

解説をありがとうございました。
そういう意味だったんですね。説明しにくいことを申し訳なかったです(^-^;
てもお陰で、歌詞の謎が解けました。

ディクションの良さを聞き取れれば、リートをもっと楽しめるのでしょうね。その昔、「プライのヴォルフは、、」と酷評されている記事を読んだことがあります。逆に、「プライの発音は美しい」と書いている人もいました。
私には判断する力がないです。フランツさんはどう思われますか?

ただ、エンゲルとの「美しい水車小屋の娘」の最終曲の2節、Kristallenen Kammerlein を聞いた時、美しいと思いました。もしかしたら、ディクションではなく歌い回しがかっこいいのかもしれませんが(彼は歌い回しがかっこいいと思う事が多々あります)。

アメリングは、「フレーズの目的地を意識しながらレガートにつなげることを重視」されていたのですね。
声楽を習うと確かにこのように指導されます。

プライさんは、フレージングと言う幕の中で言葉を豊かに表現するイメージです。一方、ディースカウさんは、時にフレージングの幕を破っても言葉を際立たせるイメージです。

ドイツ語は複子音が多いから、母音の響きを伴わない瞬間もあって、実質フレーズが切れる事にはなりますよね。
けれど、大きな弧としてのフレーズは切らさない、気持ちはつなげていなくてはならないということなんだと思います。

私がよりプライさんの歌にひかれるのは、言葉でわからない部分を音で分からせてくれるタイプの歌手だからなのかもしれません。
彼の伸びやかで滑らかなフレージングは、本当に魅力的です!

アメリングのPHILIPS盤など(ボックスで持っています)歌の魅力も、言葉への深いアプローチがありながら、ご本人の言葉とおりの息の長いフレーズがあるからかな、と思いました。

件の先生の言葉は、歯切れの良いディースカウさんの歌いぶりを頭にそう表現したのかもしれないです。

ベーアは、シュライアーやディースカウさんの進化形のディクションとのこと。この当たり教えていただけると嬉しいです。

投稿: 真子   | 2022年9月18日 (日曜日) 12時49分

真子さん、こんばんは。

歌詞の謎が解けたとのこと、良かったです(^^)
歌曲のテキストの中にはこの曲のようにほのめかす程度のものから露骨に描写しているものまで様々です。
プーランクの「陽気な歌」という作者不詳のテキストによる8曲からなる歌曲集があるのですが、これなど強烈に露骨です。音楽だけ聴いている分にはプーランクらしいバラエティに富んだ魅力的な音楽で、まさか歌詞が下ネタとはフランス語の話者でもなければ気づかないでしょう。5曲目の「バッカスのクープレ」という曲は中高生の頃スゼーの来日公演のラジオ放送で初めて聞き、歌詞の内容も知らずに楽しい曲だなと思ったものでした。
いつもお世話になっている「詩と音楽」の藤井さんの訳のリンクを記しておきますね。
http://www7b.biglobe.ne.jp/~lyricssongs/TEXT/SET303.htm

「プライのヴォルフは・・・」と評している人はおそらく脳裏にF=ディースカウがあるのだと思います。批評で収入を得ているからには基準が必要なのは分かるのですが、時に先入観だけで決めつけていないだろうかと思うこともありますね。ディースカウのヴォルフはもちろん最高に素晴らしいものは沢山ありますが、中には他の人の演奏により惹かれることもあります。それぞれの持ち味、個性がある以上、曲の向き不向きはあると思います。
言葉のメリハリやドラマティックな鋭利さを指摘されるF=ディースカウはもうそれだけで他の歌手よりヴォルフが素晴らしいという先入観を持ってしまい、他の演奏を受け付けなくなるという傾向をもつ人はいるかもしれませんね。
ヴォルフの「イタリア歌曲集」は個人的にはプライこそ最もテキストの主人公にふさわしい一人だと思い、「詩と音楽」に投稿した時もプライの歌に惹かれました。それから「アイヒェンドルフ歌曲集」はその曲集の性格上批評家の方からも好評だったと記憶しています。

ディクションについてはプライの語りはとても美しいと思います。あまりそれが指摘されないのはプライが歌のメロディを犠牲にせず、歌の流れの中で言葉を自然にのせていることが多いからかなと思います。音楽の流れの中に言葉を溶け込ませるようなイメージがあります(真子さんのおっしゃる「歌いまわしのかっこよさ」と通じるところがあるかもしれませんね)。
ディースカウやシュライアーは言葉のメリハリを前面に押し出すので、それが際立って聞こえやすいということはあると思います。後者は福音史家を歌ったりする時にそれが必要になってくるでしょうし。
オラフ・ベーアのディクションは、ドイツ語の詩の朗読をたまに聴き比べの時に引用してきたりしますが、あの朗読の感じを思わせてくれます。朗読は音楽がないので、リズムや抑揚、呼吸、声色などで詩の世界を表現します。そこに音楽のような心地よさを感じさせてくれる名手の方もおられると思いますが、ベーアのディクションはそういう朗読の上手な方がさらに歌も歌っているという印象を受けます。この曲の例でいうと、"küssen"の"k"、"hinterher"の"t"の音はドイツリートの歌手の方は多かれ少なかれ強めに発音するのですが、その音が立っていてとてもきれいに響いてくるように感じられるのです。それから4行目の"vergebne"を何度か繰り返しますが、その最後の繰り返しの"ver"を聞いてみて下さい。同じ"ver"でも随分表情が違うのがベーアの凄いところです。
進化形というのはディースカウやシュライアーにおこがましいかもしれませんが、2人の先輩以上にディクションの明瞭さが歌に溶け込んでいる感じがするのです。あくまで個人的な感想ですが、歌のラインもしっかり味わわせてくれつつ言葉もしっかり立っているというのがベーアの非凡なところだと思っています。

ドイツ語の特性上フレーズが切れることになるけれど大きな弧としてのフレーズは切らないようにするというご指摘、まさに同感です!ベートーヴェンの歌曲で複数の音節をもった一つの単語の間にあえて休符を入れる歌曲が意外と沢山あって驚いたのですが、あれも休符をはさみながらも一つの単語であることを感じさせないと聞いている人に伝わらないですよね。フレーズについても同様だと思います。
プライの歌はメロディーラインがきれいに響いてきますよね。そこがいいですよね。

アーメリングについても有難うございます。おっしゃること同感です。彼女も単語の表情にこだわる方だと思うのですが、歌のフレーズがしっかりつながっていてきれいに聞こえますよね。

ディースカウファンの先生はご自分なりにディースカウの歌を分析して伝えてくださっているのかもしれませんね。

投稿: フランツ | 2022年9月18日 (日曜日) 20時12分

標題とは違うことですみません。

ボニーを滑らかに伸びやかにしたような今見つけました。知らないのですが。

Sheva Tehoval, soprano
Gerold Huber, piano

https://www.youtube.com/watch?v=xtK4_pq3mqw

投稿: tada | 2022年9月24日 (土曜日) 19時15分

tadaさん、ご無沙汰しております。
お元気でしたか?

コメント有難うございます!
ご紹介いただいたソプラノ歌手知りませんでした。
R.シュトラウスの歌曲を名手フーバーと共演したコンサートの映像、早速楽しませていただきました。Op.10の全8曲をまとめて披露するというプログラミングも素敵でした。
まさにボニーの系統の歌手ですね。
とてもきれいな声のリリックソプラノで歌曲にうってつけという感じがします。
ベルギー出身とのこと、今後ますます活躍されるのでしょうね。
注目していきたいですね。

投稿: フランツ | 2022年9月24日 (土曜日) 20時26分

またしても、標題とは違いますすみません。

コメントでは絶賛していますが? マティスのスイス?
ttps://www.youtube.com/watch?v=o_fA-Ls4RXk  
Regula Mühlemann: Exsultate Jubilate - W. A. Mozart

絵を見なければだれ,日本人だとは。
ttps://www.youtube.com/watch?v=J3uCqH6vc3U  Chisa Tanigaki
ttps://www.youtube.com/watch?v=mbTPoE8UixA

オマケ
ttps://www.youtube.com/watch?v=dqnk9Q-eGY0   Anna Lucia Richter and Gerold Huber

投稿: tada | 2022年10月29日 (土曜日) 00時03分

tadaさん、こんにちは。

ご紹介有難うございます。
tadaさんは現役の才能ある演奏家たちを見つけるのがお得意なのですね。
最後のリヒターとフーバーはすでにバリバリで活躍しているので存じ上げていましたが、最初の2つの演奏家たちは初めて知りました。

Regula Mühlemannはスイスの歌手なのですね(マティスの後輩ということになりますね)。清楚な美声が魅力的ですね。調べたらまだ30代半ばとのこと、これから楽しみですね!

谷垣千沙さんは神戸出身のソプラノ歌手なのだそうです。歌曲ととても相性のよい声と表現力を持っているように感じました。ヨーロッパで活動しているようで、彼女もこれから楽しみですね。ここで歌っている「歌の翼に」がメンデルスゾーンではなく、フランツ・ラハナー作曲というところも興味深かったです。この曲初めて聞きました。
もう1曲もシューマンの『女の愛と生涯』第1曲と同じテキストにラハナーが作曲した珍しい作品ですね。どちらもクラリネットの助奏が付いているのが特徴ですね。どういう経緯で作曲したのか気になるところです。

ご紹介いただいたものを見終えた後、たまたまおすすめ動画に出てきたものにRegula Mühlemannがキリ・テ・カナワのマスタークラスで指導を受けているものがありました。「こうもり」のアリアのようですが、笑い声を歌声に乗せるのは結構大変そうですね。でもすでに完成されたアーティストのような貫禄があり素晴らしかったです。

https://www.youtube.com/watch?v=X1uC32WRyqA

tadaさんのお好きな声の系統が私と近いようですね。楽しませていただきました!有難うございます!

投稿: フランツ | 2022年10月29日 (土曜日) 14時36分

また、画面を汚す事になります。
https://www.youtube.com/watch?v=wAjMQ8K3occ
https://www.youtube.com/watch?v=31UA8bVs-m4

https://www.youtube.com/watch?v=_zIejj1SFt0&list=RDfYWXwtGeq2Q&index=18
https://www.youtube.com/watch?v=_zIejj1SFt0&list=RDfYWXwtGeq2Q&index=19
   (Emőke Baráth, Anastasia Razvalyaeva)
https://www.youtube.com/watch?v=cN4fmp1SAjU Fatma Said

Alice Sara Ott ピアノ 鋭い演奏ながら歌がある、とにかく凄い。

投稿: tada | 2022年11月 4日 (金曜日) 00時42分

tadaさん、こんにちは。
コメント有難うございます!

今日休暇をとって外出していて、ご返事は明日の夜になってしまいそうです。
すみません。それまでお待ちいただければと思います。
よろしくお願いいたします。

投稿: フランツ | 2022年11月 4日 (金曜日) 13時48分

tadaさん、こんばんは。
ご紹介いただいた動画を見てみました。

フィッシャー=ディースカウのマスタークラスの動画、ヴォルフの曲で楽しませていただきました。「ミニョン」は女声用の曲でディースカウが録音していないので興味深かったです。たまに歌ってみせてくれるのがマスタークラスの嬉しいところですね。
この動画をあげてくださったM.Wolfという女性は、F=ディースカウの研究者で、彼のディスコグラフィーを書いたり、演奏記録をネット上で公開したりしている方ですが、YouTubeにも動画をあげているとは知りませんでした。
もう一本ヴォルフの「ヴァイラの歌」の指導動画もありましたが、こちらのハンナ=エリーザベト・ミュラーは現在CDもいくつか出しているようで活躍されていますね。とてもきれいな歌声で気に入りました。

シューマンの"Ach neige, du Schmerzenreiche"ははじめて聴きましたが、「ゲーテのファウストからの情景」の中で普段オーケストラ伴奏で歌われる曲をピアノ版で演奏しているようです。シューベルトやレーヴェ、ヴォルフが同じテキストに歌曲として作曲しているので、比較すると面白かったです。Marie-Laure Garnier(マリー=ロール・ガルニエ)は南米ガイアナという国の出身だそうで、その声は美しさと強靭さをもっているように感じました。

Emőke Baráthの歌うシューベルトの「おやすみ」はハープ版という珍しい録音ですね。ハープだと少し浮世離れした天上の世界のような印象を受けました。Baráthはハンガリー出身とのことで、古楽をよく歌っているようです。ソプラノ歌手ですが声にコクがあって味わい深い歌声ですね。

ファトマ・サイードは私も知っていました。エジプト出身のソプラノ歌手で、ビゼーの「アラブの女主人の別れ」という歌曲で、異国情緒たっぷりな歌いまわしをしていて印象に残っていました。ご紹介いただいた動画はサルスエラの中の曲のようですね。スペインの曲は独特な雰囲気があって、サイードの歌いまわしが生きていて魅力的でした。

Alice Sara Ottは今、大活躍ですね。ご両親がドイツと日本出身とのことで、日本も含めて国際的に活動されていますね。以前たまたまドキュメンタリーを見たことがあり、病気と闘いながら活動を続けておられるようです。ルーツの面でどちらの国でも外国人と見られるというようなことを言っていたのが印象に残っています。良くなることを祈っています。

投稿: フランツ | 2022年11月 5日 (土曜日) 18時41分

詳細な解説ありがとう御座います。
自分ではなかなか分からないので、丸投げすみません。

恥ずかしいので黙っておこうかと思ったのですが。
Hanna-Elisabeth Müller を聞いている時出て来て
オッ、と思ったのを載せて見たものです。
いわゆる、ミーハーですネ。

(最高に良いものを愛聴する分けでもなかったり、
敬遠したりもします。)

投稿: tada | 2022年11月 6日 (日曜日) 14時37分

tadaさん、こんにちは。
返信有難うございます。

Hanna-Elisabeth Müllerの件、そうだったのですね。
でも音楽家や作曲家のファンになるということはミーハー心が必要だと思っていますし、私が好きになるアーティストたちもミーハーな気持ちでいろいろ検索しています。Müllerはディースカウのマスタークラスでもすでに完成された歌のように感じました。若いうちから才能に恵まれていたのでしょうね。

>最高に良いものを愛聴する分けでもなかったり、敬遠したりもします。

なかなか深いですね。最高=好きとは限らないということと理解しましたが、それは私も同じですよ。私の場合敬遠はしませんが、ベストな演奏を頻繁に聞くかというとそうでもないですし。好きになったものが最高に思えたりします。他の最高なものを差し置いてというところはあるかもしれません。

投稿: フランツ | 2022年11月 6日 (日曜日) 15時26分

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