ベートーヴェン「愛 "ぼくは腕の中できみを揺り動かす"(Liebe "Ich wiege dich in meinem Arm", Hess 137)」(数年前にスケッチが発見され2013年に初演された歌曲)
Liebe "Ich wiege dich in meinem Arm", Hess 137
愛 "ぼくは腕の中できみを揺り動かす"
1:
Ich wiege dich in meinem Arm.
Wovon ist dir dein Händchen warm?
Ach! ist so warm von Liebe!
ぼくは腕の中できみを揺り動かす。
きみのお手々はどうして温かいのかい?
ああ!愛ゆえにこんなに温かいのです!
2:
Wovon, mein liebes Mädchen, o!
Wovon brennt dir die Wange so?
Ach! brennt dir so von Liebe!
どうして、いとしい娘よ、おお!
どうしてきみの頬はこんなにほてっているのかい?
ああ!あなたへの愛ゆえにほてっているのです!
3:
Wovon, mein liebes Mädchen, o!
Wovon schlägt dir dein Herzchen so?
Ach! schlägt dir so von Liebe!
どうして、いとしい娘よ、おお!
どうしてきみの心臓はこんなにどきどきしているんだい?
ああ!あなたへの愛ゆえにどきどきしているのです!
4:
Wovon, o Mädchen, schmeichelt so
Dein blaues Auge mild und froh?
Ach! schmeichelt so von Liebe!
どうして、おお娘よ、
穏やかで明るいきみの青い瞳は甘えた視線を向けるんだい?
ああ!愛ゆえに甘えているのです!
5:
Wovon, ach! ist dein Kuss so süss,
Wie Pisang war im Paradies?
Ach! ist so süss von Liebe!
どうして、ああ!きみのキスはこんなに甘いんだい、
バナナが天国で甘かったように?
ああ!愛ゆえにこんなに甘いのです!
6:
Und deiner Engelstimme Ton,
O! flötet ja so süss! wovon?
Ach! flötet so von Liebe!
それからきみの天使の声のような響き、
おお!笛のようにこんなに甘美な声!どうしてなんだい?
ああ!愛ゆえにこんな甘い声になるのです!
7:
Ich wieg' in meinem Arme dich;
Sieh her! mit Thränen freu' ich mich,
O Mädchen, deiner Liebe!
ぼくは腕の中できみを揺り動かす。
こっちを見て!ぼくは涙を流して喜んでいるんだ、
おお娘よ、きみが愛してくれるので!
詩:Friedrich Wilhelm August Schmidt (1764-1838)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)
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The Unheard Beethovenというサイトは未録音および未発表のベートーベン作品の音源をネット上で公開しています。
同サイトのMark S. Zimmer氏とWillem Holsbergen氏による「愛 "ぼくは腕の中できみを揺り動かす"(Liebe "Ich wiege dich in meinem Arm", Hess 137)」という歌曲の捜索と発見の経緯をこちらで語っています。
もともとベートーヴェンが出版社のペータース社に曲の提供をもちかけて、ペータースに断られたことは判明していたのですが、そのスケッチが数年前まで見つかっていなかったそうです。
1822年のベートーヴェンの価格リストに書かれていた表記がおそらく悪筆だった為か、研究者たちは"Ich schwinge dich in meinem Dom(大聖堂できみを揺り動かす)"という誤った詩行で長年に渡り楽譜を捜索してきましたが見つからず、後にAlan Tyson氏が"Ich wiege dich in meinem Arm"と転記した記事を発表して誤りが正されたそうです。
最終的にWillem Holsbergen氏が曲中の"Pisang war im Paradies"という詩行(第5連)を以前に見たことを思い出し、大英図書館のカフカ雑録(Kafka Miscellany)の中で見つけたとのことです。
フリードリヒ・ヴィルヘルム・アウグスト・シュミット(Friedrich Wilhelm August Schmidt)の詩の原題は「愛(Liebe)」で、「ヘンリエッテB.に(An Henriette B.)」という副題が付いています。この副題はシュミットの妻ヘンリエッテ・ブレンデル(Henriette Brendel)のことで、この詩が初めて出版された1790年に詩人と結婚しましたが、1809年に39歳の若さで亡くなっています。
このスケッチが書かれたのは、筆跡と紙の年代から1797年 (あるいは1796年後半)と推定されるそうです。
歌声部はほぼ完成していて、ピアノパートは断片的とのことです。
初演は2013年9月8日(土)Chicago Beethoven Festivalにおいてテノールのドミニク・アームストロング(Dominic Armstrong)とピアニストのジョージ・ルポー(George Lepauw)によって行われました。その音源はThe Unheard Beethovenのサイトからmp3の形で公開されています。
全7連のテキストに通作形式で作曲されていますが、最終連で第1連の音楽が回帰しています。
●アルベルト・ヴィレム・ホルスベルヘン復元版
Reconstr. Albert Willem Holsbergen
エリーザベト・ブロイアー(S), ベルナデッテ・バルトス(P)
Elisabeth Breuer(S), Bernadette Bartos(P)
録音:2018年9月28日, 4tune Audio Productions, Wien。初演から5年後にNAXOSレーベルでスタジオ録音が実現したのですね。7連もあり、詩行の繰り返しもあるので、意外と規模の大きい作品ですが、歌声部はほぼ完成していて前述のように出版も視野に入れていたようで、なかなかの力作ではないかと思います(ホルスベルヘンによって復元された形で演奏されています)。ブロイアーの美声が心地よいです。
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(参考)
The Unheard Beethoven: "A Lost Beethoven Song is Found"
Il Centro Ricerche Musicali (C.R.M.)
Wisconsin Foundation and Alumni Association
Broadway World Classical Music
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