« ベートーヴェン「約束を守る男(Der Mann von Wort, Op. 99)」 | トップページ | ベートーヴェン「あれかそれか(So oder so, WoO. 148)」 »

ベートーヴェン「山からの呼び声(Ruf vom Berge, WoO. 147)」

Ruf vom Berge, WoO. 147
 山からの呼び声

1.
Wenn ich ein Vöglein wär'
Und auch zwei Flüglein hätt',
Flög ich zu dir!
Weils aber nicht kann sein,
Bleib ich allhier.
 もし僕が小鳥で
 二つの羽があれば
 君のもとへ飛んで行くのに!
 だがそれは出来ないので
 ここにいるのだ。

2.
Wenn ich ein Sternlein wär'
Und auch viel Strahlen hätt',
Strahlt' ich dich an.
Und du säh'st freundlich auf,
Grüßtest hinan.
 もし僕が星で
 多くの光があったら
 君を照らすだろうに。
 すると君はやさしく見上げて
 挨拶してくれるだろう。

3.
Wenn ich ein Bächlein wär'
Und auch viel Wellen hätt',
Rauscht' ich durch's Grün.
Nahte dem kleinen Fuß,
Küßte wohl ihn.
 もし僕が小川で
 多くの波があったら
 緑野を通りさらさらと進み、
 あの小さな足に近づいて
 口づけするだろう。

4.
Würd' ich zur Abendluft,
Nähm' ich mir Blütenduft,
Hauchte dir zu.
Weilend auf Brust und Mund,
Fänd' ich dort Ruh'.
 僕が夕風になったら
 花の香りを奪って
 君に吐きかけるだろう、
 胸と口にとどまり
 そこで僕は憩いを見出すだろう。

5.
Geht doch kein' Stund der Nacht,
Ohn' daß mein Herz erwacht
Und an dich denkt.
Wie du mir tausendmal
Dein Herz geschenkt.
 夜の時が進むことはない、
 僕の心が目覚めて
 君のことを思うことなしには。
 なんと君は僕に千回も
 君の心を贈ってくれたのだ。

6.
Wohl dringen Bach und Stern,
Lüftlein und Vöglein fern,
Kommen zu dir.
Ich nur bin festgebannt,
Weine allhier.
 小川や星、
 そよ風や鳥がはるばる突き進み
 君のもとへとやってくる。
 僕はただ動くことも出来ず
 ここで泣くのみ。

詩:Georg Friedrich Treitschke (1776-1842), "Ruf vom Berge"
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

------------

ゲオルク・フリードリヒ・トライチュケの詩による「山からの呼び声」は、1816年に作曲されました。

詩は、もし僕が小鳥なら彼女のもとに飛んでいくのに、もし星なら彼女を照らすのにという具合に、はるか遠くにいる恋人のもとに飛んでいきたいのに行けない気持ちを妄想をまじえて描いています。歌曲集『遥かな恋人に寄せて』を思い出しますね。

ベートーヴェンの音楽も民謡調のテキストの持ち味を生かした素朴な有節形式で作曲しています。ピアノパートの右手最高音がほぼ歌の旋律をなぞっていることも、素朴でのどかな印象を強めています。最終節で主人公は彼女のもとに行けないことに対して涙を流すのですが、そこはベートーヴェンによって特に変化がつけられることはなく、歌手の表現力にかかっていると言えそうです。

一番最後のピアノの後奏にかっこうの鳴き声を思わせる音型があらわれ、主人公が自然に囲まれている様がイメージされます。素朴ですがなかなか魅力的な作品で、もっと演奏されるようになるといいなと思います。

3/8拍子
イ長調(A-dur)
Etwas lebhaft (いくぶん生き生きと)

●ペーター・シュライアー(T), ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T), Walter Olbertz(P)

1-6節。シュライアーはすべての節を歌っています。各節前半はかなり威勢よく元気に歌い、後半の抑えた感情表現との対比が見事でした!

●ジョン・マーク・エインスリー(T), イアン・バーンサイド(P)
John Mark Ainsley(T), Iain Burnside(P)

1-6節。エインスリーは第3連の小川のくだりで装飾を加えていました。清々しく爽やかな歌とピアノでした。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), イェルク・デームス(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Jörg Demus(P)

1,2,3,5,6節。ここでは第4節以外は歌われています。さすが軽やかな歌唱ですね。F=ディースカウは後年ヘルともこの曲を録音していますが、そちらも同じく第4節を除いて歌っていました。

●ヘルマン・プライ(BR), レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR), Leonard Hokanson(P)

1,2,3,5,6節。プライは柔らかい声で慈しむように歌っていました。

-----------

(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

歌曲「山からの呼び声」——《フィデリオ》決定稿の台本作家による詩に作曲(平野昭)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(歌曲の解説:藤本一子)

IMSLP (楽譜のダウンロード)

Georg Friedrich Treitschke (Wikipedia)

| |

« ベートーヴェン「約束を守る男(Der Mann von Wort, Op. 99)」 | トップページ | ベートーヴェン「あれかそれか(So oder so, WoO. 148)」 »

音楽」カテゴリの記事

」カテゴリの記事

ベートーヴェン」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« ベートーヴェン「約束を守る男(Der Mann von Wort, Op. 99)」 | トップページ | ベートーヴェン「あれかそれか(So oder so, WoO. 148)」 »