ベートーヴェン「約束を守る男(Der Mann von Wort, Op. 99)」
Der Mann von Wort, Op. 99
約束を守る男
1.
Du sagtest, Freund, an diesen Ort
komm ich zurück, das war dein Wort.
Du kamest nicht; ist das ein Mann,
auf dessen Wort man trauen kann?
きみは言ったよな、友よ、この場所に
俺は帰ってくると、これはきみが言ったのだ。
きみは来なかった、
これでも、言ったことを信頼できる男だというのか?
2.
Fast größer bild' ich mir nichts ein,
als seines Wortes Mann zu sein;
wer Worte, gleich den Weibern, bricht,
verdient des Mannes Namen nicht.
俺は約束を守る男ほど偉大なものは
ほとんどないと思っている。
女のように約束を破る者は
男の名に値しない。
3.
Ein Wort, ein Mann, war deutscher Klang,
der von dem Mund zum Herzen drang,
und das der Schlag von deutscher Hand,
gleich heil'gen Eiden, fest verband.
男は約束を守る、これはドイツの言い回しであり、
口で語り、心へとしみ入ったものだった。
その約束にはドイツ人の手による一撃が
聖なる誓いのように、固く結びついていた。
4.
Und dieses Wort, das er dir gab,
brach nicht die Furcht am nahen Grab,
nicht Weibergunst, noch Menschenzwang,
nicht Gold, nicht Gut, noch Fürstenrang.
そして彼がきみにしたこの約束を
破ったのは、近くの墓での恐怖心からでも、
女性の好意でも、人の強要でも
金でも、財産でも、侯爵の身分でもなかった。
5.
Wenn so dein deutscher Ahne sprach,
dann folg', als Sohn, dem Vater nach,
der seinen Eid: Ein Wort, ein Mann,
als Mann von Wort verbürgen kann.
そのようにきみのドイツの先祖が語ったら
息子として父親に従うがいい、
男は約束を守ると誓ったならば
約束を守る男として保証できる。
6.
Nun sind wir auch der Deutschen wert,
des Volkes, das die Welt verehrt.
Hier meine Hand; wir schlagen ein,
und wollen deutsche Männer sein.
今や俺たちもドイツ人にふさわしい、
世界が敬う民族であるドイツ人に。
この俺の手をとって。握手しよう、
ドイツの男でありたいものだ。
詩:Friedrich August Kleinschmidt (1749-1838)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)
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フリードリヒ・アウグスト・クラインシュミットの詩による「約束を守る男」Op.99は1816年初夏に作曲されました。自筆譜は詩の1節のみが記されていましたが、初版以降の出版楽譜では6つの詩節すべてがリピート記号を使わずに記されています。
"ein Mann, ein Wort"(男子の一言)というのは、「男は約束を守る」という決まった言い方らしいです。詩は、約束を守る真のドイツの男になりたいという内容です。
ベートーヴェンの曲はどことなく酒宴歌や軍歌の趣が感じられます。仲間うちで語る内容の時はこのようながっしりした音楽を付けることが多いようですね。曲の冒頭に"Gemäss dem verschiedenen Ausdruck in den Versen piano und forte (詩行の強弱の様々な表情に従って)"という指示が記されているのは、有節形式であっても節ごとに表情を変えて演奏してほしいというベートーヴェンの希望なのでしょう。
3/4拍子
ト長調(G-dur)
Gemäss dem verschiedenen Ausdruck in den Versen piano und forte (詩行の強弱の様々な表情に従って)
●ヘルマン・プライ(BR), レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR), Leonard Hokanson(P)
1,2,3,4,5,6節。プライは全節を歌っています。プライの円熟期の含蓄のある響きがこの曲のテキストによくマッチしていました。
●フローリアン・プライ(BR), ノルベルト・グロー(P)
Florian Prey(BR), Norbert Groh(P)
1,2,3,4,5,6節。父親と同じくすべての節を歌っています。速めのテンポで威勢よく歌っています。
●ロデリック・ウィリアムズ(BR), イアン・バーンサイド(P)
Roderick Williams(BR), Iain Burnside(P)
1,3,6節。丁寧なウィリアムズの歌はこの歌曲を親しみやすいものにしていました。
●ヴァンサン・リエーヴル=ピカール(T), ジャン=ピエール・アルマンゴー(P)
Vincent Lièvre-Picard(T), Jean-Pierre Armengaud(P)
1,3,5節。リエーヴル=ピカールは優しい響きですね。
●ギュンター・ライプ(BR), ヴァルター・オルベルツ(P)
Günther Leib(BR), Walter Olbertz(P)
1節。1節だけでなくもっと聞いていたい歌唱ですね。オルベルツのがっちりしたピアノも充実していました。
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(参考)
『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(歌曲の解説:藤本一子)
Friedrich August Kleinschmidt (Österreichisches Biographisches Lexikon)
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コメント
フランツさん、こんばんは。
ドイツリートと言うのは、このような詩に曲をつけたものがしばしばありますね。国民性なのでしょうか。
2番の歌詞は、女性としてはちょっともの申したいですが(笑)
この歌曲と円熟期のプライさんの歌唱はよく合っていますね。古き良き時代のドイツ紳士を思わせます。
父と子の演奏を続けて聞きくらべられる喜びをかんじます!
父より速めのテンポで爽やかに歌うフローリアンさんは、現代的なドイツ男性でしょうか。
まさに世代の違いが現れていて興味深いです。
ウィルアムズの穏やかな演奏から、優しい男性像が浮かびます。
リエーヴル=ピカールのテノール、繊細な響きですね。
ウィリアムズ共々選んだ節からも現代的な感覚がうかがわれます。そのためか、男の友情の歌にも聞こえました。
ピカールはフランスの方でしょうか?
ライプは、昔、まだネットなどなく、分厚い冊子でCDを探していた頃、プライ!と見間違った(文字が小さいので) 歌手でした。
爽やかないいバリトンですね。
おっしゃる通り、もっと聞きたいですね!
投稿: 真子 | 2022年7月30日 (土曜日) 19時31分
真子さん、こんにちは。
ドイツリートには仲間内の友情の歌の類が確かに多い印象を受けます。国民性もあるのでしょうね。
テキストの2番は正直訳しにくかったです(笑)
詩人が実体験の女性の嘘で痛い目にあったとかでしょうか。
今の時代の詩人はこういうこと書かないでしょうね。
プライは恋愛ものだけでなく、男の友情や絆を歌ったものもとてもいいですよね。酒場で先導して歌って周りがそれにこたえるというような情景がごく自然に目に浮かびます。
プライ親子の違いは世代の違いというのもあるでしょうね。重厚感をもったヘルマンと現代的でスマートなフローリアンの聴き比べ、興味深かったです。
ピカールは出身は不明ですが、フランスで学んでいるようなので、フランス人の可能性が高いですね。フランス人の歌うドイツリートは特有の味わいがありますよね。どの節を選んで歌ったかもその演奏家の解釈が反映されているのでしょうね。
ライプはプライと順序を入れ替えただけなので、一瞬誤植かと思いますよね。
ハイバリトンの美しい響きがいいですね。1927年生まれでご健在だそうです。
投稿: フランツ | 2022年7月31日 (日曜日) 10時40分