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ベートーヴェン/歌曲集『遥かな恋人に寄せて("An die ferne Geliebte", Op. 98)』総括

1816年4月に作曲され、同年10月にヴィーンのTobias Haslinger社から出版された6曲からなるベートーヴェンの連作歌曲集『遥かな恋人に寄せて(An die ferne Geliebte, Op. 98)』は、当時ヴィーンの医学生だったアロイス・イズィドア・ヤイテレス(Alois Isidor Jeitteles: 20 June 1794 - 16 April 1858)のテキストによるものでしたが、ヤイテレスの詩がどうやってベートーヴェンの目にとまったのか諸説あるようで、確実には分かっていないようです。恋多きベートーヴェンが1812年に「わが不滅の恋人(Meine Unsterbliche Geliebte)」にあてて書き、引き出しにしまったままにしていた手紙とこの歌曲集のテーマとの関連が指摘されることもあり、それももちろん無縁ではなかったでしょうが、生涯恋をし続けて成就しなかったベートーヴェンの少年のように純粋で真っすぐな心情がこの歌曲集に集約されて、そのあまりにもピュアな響きに後世の我々は深く感銘を受けるのだと思います。

歌詞対訳を一つにまとめてPDF化したものをシェアします。翻訳の精度については保証できかねますので、ご自身の判断でお使いいただければと思います。

PDFダウンロード (Beethoven - An die ferne Geliebte対訳)

第1曲
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第2曲
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第3曲
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第4曲
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第5曲
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第6曲
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●加耒 徹(BR), 松岡あさひ(P)
Toru Kaku(BR), Asahi Matsuoka(P)
[@CIMF2020 Archives] Toru Kaku Online Baritone Recital

調布国際音楽祭2020の一環として公式から配信された演奏のアーカイブです。『遙かなる恋人に寄す』は冒頭に歌われています。明瞭なディクションとむらのない声の響きで聴きごたえあります。もし余裕があれば続けて『詩人の恋』も聞かれることをお勧めします。加耒さんは今最も脂ののっているバリトン歌手で、オペラ、バッハなどの宗教曲、コンサートに引っ張りだこですが、歌曲もしっかり歌ってくれているのが嬉しいです。そして松岡さんのピアノも自然な音楽の運び方が素晴らしいです。最近出たアルバムではシューベルト、マーラー、フィンズィ、日本歌曲など多彩さを一望できる充実した内容になっていました。
0:25- ベートーヴェン:遙かなる恋人に寄す Op. 98
13:45- シューマン:詩人の恋 Op. 48
44:24- シューマン:献呈 Op. 25-1

●タイラー・ダンカン(BR), エリカ・スウィッツァー(P)
Tyler Duncan(BR), Erika Switzer(P)

概要欄(音が出ます)
2020年8月10日録画。カナダ出身のバリトン、ダンカンは最初聴いた時、テノールかと思ったほど声が若々しく感じられました。また名前からドイツ語圏の出身ではないことは想像できたのですが、ディクションの美しさに驚かされました。まだまだ知らない才能は沢山いるのだなぁと思い知りました。スウィッツァーは実に生き生きと心象風景を描いていました。

●サーシャ・クック(MS), マイラ・ホアン(P)
Sasha Cooke(MS), Myra Huang(P)

この歌曲集を映像化した作品で、心温まります。著名なアメリカ人歌手クックが公園にいたりボートを漕いだり、最後は部屋でいとしい俳優に向けて手紙を書いたり茶目っ気のあるクックの表情に魅了されます。水の音なども入っているので、リモートのピアノに合わせてその場で録音しているように思います。クックの温かみのあるメゾの声は聴く者を癒してくれますね。

●フランツ・リスト編曲:『遥かな恋人に寄せて』(福間洸太朗(P))
Beethoven - Liszt : An die ferne Geliebte / Kotaro Fukuma

リストの歌曲編曲は超絶技巧を盛り込むことが多いのですが、この曲に関しては全く技巧の見せ場を入れず、一貫して原曲に忠実です。ベートーヴェンへの敬意ゆえでしょうか。ここ数年レアなピアノ曲を様々なピアニストに演奏してもらうシリーズを企画する等意欲的に活動されている福間さんがこの曲をレパートリーに選んだきっかけが気になります。原曲を彷彿とさせるいい演奏だったと思います。

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(参考)

国立音楽大学『音楽研究所年報』第15集(2001年度)
青木やよひ「ベートーヴェン《不滅の恋人》研究の現在」(こちらのサイトからPDFがダウンロード出来ます)

ベートーヴェンと不滅の恋人 前編:初恋~28歳 (平野昭)

ベートーヴェンと不滅の恋人 後編:30歳から晩年まで (平野昭)

Kunitachi College of Music Library: A Catalogue of Early Printed Editions of the Works of L.v.Beethoven
(国立音楽大学附属図書館所蔵 ベートーヴェン初期印刷楽譜目録)

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コメント

フランツさん、こんにちは。

加耒 徹さんの「遥かなる恋人によせて」「詩人の恋」聞きました。
豊かなで粒の揃った響きを持ったバリトンですね。

感情を極端に表に出すタイプの演奏ではなかったですが、歌詞にしたがってとても思いのこもった箇所があり、惹き付けられました。

まだお若い方でしょうか。これからのご活躍が楽しみですね。

投稿: 真子   | 2022年7月23日 (土曜日) 17時39分

真子さん、こんばんは。

加耒 徹さんの「遥かなる恋人によせて」「詩人の恋」を聞いてくださり、有難うございます。
おっしゃる通りですよね。
音楽的に充実したバリトン歌手だと思います。
バッハ・コレギウム・ジャパンのソリストを務めたり、あちこちのオペラに出演したりと多忙を極める方ですが、歌曲もとても合っているように思います。
歌手としてはお若い方だと思いますが、すでにかなり経験を積んでおられるように思います。
最近リリースされた歌曲アルバムはシューベルトやマーラーだけでなく、イギリス・日本歌曲なども含まれていて、守備範囲の広さも強みだと思います。

投稿: フランツ | 2022年7月23日 (土曜日) 18時53分

フランツさん、こんにちは。

メゾのクックの動画、興味深く聞きました。
レコーディング用の録音でもなく、ライブ会場の響きでもなく、実に生声を感じますね。

レッスンの時、真横で聞く先生の声が客席で聞く声と違うことを経験しました。
クックのこの動画を拝見しながら、そんなことを思い出しました。
屋内での演奏で言えば、録音で音声調整もしていない、ホールの音響の影響も受けていない、言わば原音のような(どんな録りかたをしているか分かりませんが)とても貴重な音源に思いました。
屋内と室内では、やや音質が違うきはがするのですが、気のせいでしょうか、、。

映像的にも楽しませていただきました。
メゾならではの母性的な音色で、メゾも魅力的ですね。
この曲集は本当に大好きです!

投稿: 真子 | 2022年7月24日 (日曜日) 09時07分

加耒 徹さんについて。

色々教えてくださってありがとうございます。
今年で38歳になられるお年のようで、声楽家としては、まさに今から脂がどんどん乗って行く年齢ですよね。
プライさんも、この年齢あたりから声の艶が増して行ったように思います。

バッハやヘンデルのソリストもされているところから、リートきいても感じる誠実さが培われたのかもしれませんね。
そんな加耒さんが歌うドン ジョバンニ、どんな演奏なのでしょうか。

アルバムの曲目も、魅力的な曲揃いでした。日本歌曲も好きな私は、体系だてて日本の歌もたくさん録音してほしいなあと思います。

それにしても最近の声楽家は、スタイルも容姿もいい方が多いですよね。
加耒さんも、お若い頃の写真など俳優なみのルックスをされていますね。
今後のご活躍が楽しみです。

投稿: 真子 | 2022年7月24日 (日曜日) 09時32分

連コメント失礼します。

訂正です。
クックについてのコメントの、9行目。
「屋内での演奏で言えば」は、「屋外での、、」の間違いです。
申し訳ありません。

投稿: 真子 | 2022年7月24日 (日曜日) 09時37分

真子さん、こんばんは。

クックの音源についても聴いていただき、コメントも有難うございます。
今は誰でも気軽に録画して動画を発信出来る時代なので、外で撮った音源をつなぎ合わせることも出来るのでしょうね。おっしゃるように最後の場面の屋内の録音が外撮りの音と少し違うように感じましたが、特に調整せずに、それぞれの場面で撮った音を採用しているのかもしれませんね。それがこの歌曲集に「動き」をもたらしてくれたのが興味深かったです。

レッスンの時の貴重な体験談も有難うございます。聞く場所によって響きが変わるということは大いにあると思います。先生の声を真横で聞くというのは生徒さんだけの特権ですね。

クックの歌唱も外で多くの人がジョギングをしている中でも素晴らしい歌声を聞かせているのはさすがプロだなぁと思いました。お人柄もよさそうですね。
女声で聴くのも楽しいですね。

加耒徹さんはYouTubeのチャンネルも持っておられて、そこで様々な歌をアップしてくださっています。まだまだこれから楽しませてくれることでしょうね。
実は私の家の近くのホールでほぼ毎年夏に他のバリトン歌手たちと一緒のコンサートを開いているのは知っていたのですが、今年は行われないようです。まだ一度も実演を聞いていないのでいつか聴いてみたいと思っています。

容姿端麗なのは、歌手にとって必須ではないけれども、それがマイナスに働くことはないですよね。観客はただ歌を聞くだけではなく、その姿も見るわけですから、容姿に恵まれた人はそれもアピールポイントの一つになりえると思います。
メディアなどでも容姿に恵まれた人が推されやすいという傾向は昔からあるように思います。ただ、容姿で引き付けやすい分、肝心の演奏へのハードルも高くなると思いますので、そういう意味では大変かもしれませんね。

投稿: フランツ | 2022年7月24日 (日曜日) 20時17分

フランツさん、こんにちは。

>メディアなどでも容姿に恵まれた人が推されやすいという傾向は昔からあるように思います。ただ、容姿で引き付けやすい分、肝心の演奏へのハードルも高くなると思いますので、そういう意味では大変かもしれませんね。

おっしゃる通りですね。
私の友人なども、容姿から、あるオペラ歌手のファンになっていました。
元々、あまりクラシックになじみのない友人でしたから、最初はどんな形でも、と思っています(プロ野球でも同じ事が言われています。昔ながらのファンの中には、野球選手はアイドルちゃう!とお怒りの人もいます)

一方で、やっぱり演奏ですよね。
1990年代にキャスリーン·バトルが「オペラは歌よ!」と、歌唱演奏の重要性を語っていた記事を読んだことがあります。
オペラは総合芸術だから、舞台美術、演出も含めて楽しむものですが、たしかに、歌手の容姿が良いほど演奏も厳しい目で見られるように思います。
歌手の方も大変ですよね。

プライさんも、リートでは辛口の評論家からも、「軽やかな身のこなし」「容姿がいい」なんて褒められて?いました。
彼のロッシーニ「セビリアの理髪師」、モーツァルト「フィガロの結婚」におけるフィガロ役はドイツ人にして一世風靡しましたものね。
何かから解き放たれたような楽しいフィガロでした!
また、1959年のヴンダーリヒと共演した「セビリアの理髪師」では、またほっそりしていて長身で、衣装が映えて素敵でした。

ちなみに、私はオペラは現代的解釈や美術より、「フィガロの結婚」等は昔のお城や調度品が、衣装が使われた古典的でゴージャスな舞台が好きです。
こんなお話をしていたら、ゴージャスな舞台美術のオペラが見たくなって来ました。

投稿: 真子 | 2022年7月25日 (月曜日) 08時15分

真子さん、こんばんは。

裾野を広げるうえでは、普段無縁な人と接する機会を設けたり、本質とは必ずしも一致しないアピールポイントを前面に押し出したりするのも大事ですよね。私も中学校の音楽の授業で「魔王」を聞かなかったらドイツ歌曲など知らないまま一生を過ごしていたかもしれません。
容姿でもなんでも入口となるならばそれは意味があることだと思います。音楽業界でもスポーツ界でも昔ながらの考え方に固執する人がいるのも分かりますが、一度はまってしまえば同じですからね。

容姿と歌唱の両方を満たしてくれる歌手や演奏家をステージで見ることが出来るのは素晴らしいことですが、容姿というのは整っているというだけでなく、なんかほっとできるものを持っておられる方もいますよね。お顔に人柄があらわれているような。そういう面も含めて視覚、聴覚を楽しませてくれる方は素敵だなと思います。

プライの芝居のうまさは辛口の評論家でさえ認めるほどなのですね。おそらく同じ演出家のオペラにはほぼ同じ演技指導が入るのでしょうが、プライが演じるときっと華のようなものがあらわれるのでしょうね。演技のはずなのに自然そのものの表情をしているのがすごいと思います。7月はプライの生誕祭と命日の両方があったので、真子さんもいつも以上にプライを堪能されたのではないかと想像しています。

>昔のお城や調度品が、衣装が使われた古典的でゴージャスな舞台が好きです。

作曲家のト書きに忠実な舞台もいいですよね。
そういえば今新国立劇場の「ドン・パスクワーレ」の公演を期間限定で無料配信しています。
9/8の昼12時までなので私も見たいと思っています。
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/don_pasquale_stream22/

投稿: フランツ | 2022年7月25日 (月曜日) 20時46分

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