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ベートーヴェン「恋する女性が別れを望んだとき、あるいはリューディアの不実における感情(Als die Geliebte sich trennen wollte, oder Empfindungen bei Lydiens Untreue, WoO. 132)」

Als die Geliebte sich trennen wollte, oder Empfindungen bei Lydiens Untreue, WoO. 132
 恋する女性が別れを望んだとき、あるいはリューディアの不実における感情

Der Hoffnung letzter Schimmer sinkt dahin,
Sie brach die Schwüre all' mit flücht'gem Sinn;
So schwinde mir zum Trost auch immerdar
Bewußtsein, Bewußtsein, daß ich zu glücklich war!
 希望の最後のともしびが沈み去る、
 彼女は出来心で誓いをみな破った。
 だから慰めのためにも永久に私から消えておくれ、
 あまりに幸せだったという意識よ、意識よ。

Was sprach ich? Nein, von diesen meinen Ketten
Kann kein Entschluß, kann keine Macht mich retten;
Ach! selbst am Rande der Verzweifelung,
Bleibt ewig, bleibt ewig süß mir die Erinnerung!
 私はいったい何を話しているんだ?いや、この私を縛るものから
 自分を救うことの出来る決断もなければ力もない。
 ああ!絶望のふちにいてさえも
 永遠に、永遠に思い出は甘美なままだ!

Ha! holde Hoffnung, kehr' zu mir zurücke,
Reg' all mein Feuer auf mit einem Blicke,
Der Liebe Leiden seien noch so groß,
Wer liebt, wer liebt, fühlt ganz unglücklich nie sein Los!
 さあ!いとしい希望よ、私のもとに戻ってきておくれ、
 一瞥で私のすべての炎をかきたてておくれ、
 愛の苦悩がまだこれほど大きくても、
 愛する者は、愛する者は、自分の運命を決して不幸とは思わない。

Und du, die treue Lieb' mit Kränkung lohnet,
Fürcht' nicht die Brust, in der dein Bild noch wohnet,
Dich hassen könnte nie dies fühlend' Herz,
Vergessen, vergessen? eh' erliegt es seinem Schmerz.
 そしておまえ、誠実な愛に侮辱で報いるおまえ、
 おまえの姿がまだ住みついたままのこの胸を恐れないでくれ、
 この繊細な心はおまえを憎むことなど出来ないし、
 まして忘れる、忘れることなど出来ようか、むしろ心の苦痛に屈するほうがましだ。

詩:Stephan von Breuning (1774-1827)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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歌曲「恋する女性が別れを望んだとき、あるいはリューディアの不実における感情」はフランス語の詩をもとにしたシュテファン・フォン・ブロイニング(Stephan von Breuning: 1774-1827)のドイツ語の訳詩に1806年5月から1809年11月の間に作曲されました。オリジナルの詩はかつてはフレデリック・スリエ(Frédéric Soulié)の作とみなされていましたが、現在ではフランソワ・ブノワ・オフマン(François Benoît Hoffmann: 1760-1828)の詩"Je te perds, fugitive espérance"であることが判明しています。

ベートーヴェンの曲は4節からなる変形有節形式で、第4節でピアノ声部に大きな変化が聞かれ、歌声部も終結を意識した形になっています。不実を働かれたという内容にもかかわらずどこか能天気な音楽は失恋に耐性が付いている主人公を描いているのでしょうか。

第2節最終行の"die Erinnerung"の"die Er-"はそれぞれ十六分音符があてられていて非常に発音が難しそうです。前節の第4行より1音節多いので仕方ないのかもしれませんが。

4/4拍子
変ホ長調 (Es-dur)
Sehr bewegt (非常に活発に)

●アン・ソフィー・フォン・オッター(MS), メルヴィン・タン(Fortepiano)
Anne Sofie von Otter(MS), Melvyn Tan(Fortepiano)

この恋人に裏切られた男の詩を、オッターはコケティッシュに歌い、あわよくば復縁できるかもと考える少年のようです。タンのフォルテピアノは感情豊かなオッターと素晴らしく一心同体になっていました。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), イェルク・デームス(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Jörg Demus(P)

F=ディースカウの堂々たる歌唱はどこか冷静に事態を外側から見ているような印象です。

●ペーター・シュライアー(T), ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T), Walter Olbertz(P)

「非常に活発な」というベートーヴェンの指示よりは落ち着いたゆったりしたテンポですが、さすがシュライアーは芝居っけたっぷりに演じてみせます。

●ヘルマン・プライ(BR), レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR), Leonard Hokanson(P)

プライの歌からは酸いも甘いも嚙み分けた男性像が思い浮かびます。

●ロデリック・ウィリアムズ(BR), イアン・バーンサイド(P)
Roderick Williams(BR), Iain Burnside(P)

ウィリアムズのゆっくりとしたテンポでの噛みしめるような歌唱から、強がってみせても悲哀が感じられる男性が感じられました。

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(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

Hyperion Records

「恋人が別れたいと思ったとき」——大作に挟まれた感情豊かな歌曲 (平野昭)

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