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ベートーヴェン「神の力と摂理(Gottes Macht und Vorsehung, Op. 48, No. 5)」(『ゲレルトの詩による6つの歌曲』より)

Gottes Macht und Vorsehung, Op. 48, No. 5
 神の力と摂理

1.
Gott ist mein Lied!
Er ist der Gott der Stärke,
Hehr ist sein Nam'
Und groß sind seine Werke,
Und alle Himmel sein Gebiet.
 神はわが歌だ!
 その方は強靭さの神であり、
 その御名は崇高であり、
 神の作品は偉大であり、
 そして天すべてが神の地である。

2.(この節にはベートーヴェンは作曲していない)
Er will und spricht's;
So sind und leben Welten.
Und er gebeut;
so fallen durch sein Schelten
Die Himmel wieder in ihr Nichts.
 その方は望み、こう言われる:
 世界はかくあり、かく生きるのだ、
 そしてその方は命じた、
 その方の叱責により
 天は再び無に落ちた。

3.(この節にはベートーヴェンは作曲していない)
Licht ist sein Kleid,
Und seine Wahl das Beste;
Er herrscht als Gott,
und seines Thrones Feste
Ist Wahrheit und Gerechtigkeit.
 光はその方の衣装で
 その方の選択は最良だ。
 その方は神として支配し、
 その玉座の要塞は
 真理と正義だ。 

4.(この節にはベートーヴェンは作曲していない)
Unendlich reich,
Ein Meer von Seligkeiten,
Ohn Anfang Gott,
und Gott in ewgen Zeiten!
Herr aller Welt, wer ist dir gleich?
 無限に豊かだ、
 至福の海は。
 神に始まりなく、
 神は永遠の時におられる。
 あらゆる世界を統べる主よ、誰があなたにたとえられようか。

5.(この節にはベートーヴェンは作曲していない)
Was ist und war,
In Himmel, Erd und Meere,
Das kennet Gott,
und seiner Werke Heere
Sind ewig vor ihm offenbar.
 何であり、何だったのか、
 天、地、海の中は、
 それを神は知っておられますように。
 そして神の創造物の群れは
 永遠に御前に明らかだ。

6.(この節にはベートーヴェンは作曲していない)
Er ist um mich,
Schafft, daß ich sicher ruhe;
Er schafft, was ich
vor oder nachmals tue,
Und er erforschet mich und dich.
 その方は私のまわりにおられ、
 私が安心して休めるように創造された。
 その方は成し遂げられた、私が
 以前したこと、後にすることを、
 そして私やあなたのことを探られる。

7.(この節にはベートーヴェンは作曲していない)
Er ist dir nah,
Du sitzest oder gehest;
Ob du ans Meer,
ob du gen Himmel flöhest:
So ist er allenthalben da.
 その方はあなたの近くにおられる、
 あなたが座っていようが歩いていようが、
 あなたが海に行こうが、
 天上にのぼっていこうが。
 その方はいたるところにおられる。

8.(この節にはベートーヴェンは作曲していない)
Er kennt mein Flehn
Und allen Rat der Seele.
Er weiß, wie oft
ich Gutes tu und fehle,
Und eilt, mir gnädig beizustehn.
 その方は私の懇願と
 魂のあらゆる助言を知る。
 その方は、どれほど頻繁に
 私が善行をし、足りないかを知っていて、
 私に慈悲深くも助力しようと急ぐ。

9.(この節にはベートーヴェンは作曲していない)
Er wog mir dar,
Was er mir geben wollte,
Schrieb auf sein Buch,
wie lang ich leben sollte,
Da ich noch unbereitet war.
 その方は私のために考えて
 私に与えようとしたものを
 自身の書物に書いた、
 どれほどの間私が生きられるかを、
 私がまだ心の準備が出来ていなかった為に。

10.(この節にはベートーヴェンは作曲していない)
Nichts, nichts ist mein,
Das Gott nicht angehöre.
Herr, immerdar
soll deines Namens Ehre,
Dein Lob in meinem Munde sein!
 何も、何もない、
 神に属さない私のものは。
 主よ、永久に
 御身の名の栄誉にかけて
 わが口によって御身を賛美させてくださいますように!

11.(この節にはベートーヴェンは作曲していない)
Wer kann die Pracht
Von deinen Wundern fassen?
Ein jeder Staub,
den du hast werden lassen,
Verkündigt seines Schöpfers Macht.
 誰が
 御身の奇跡の壮麗さを表現できようか。
 塵埃が、
 御身がのこした塵埃が、
 自分を創造した方の力を伝えるのだ。

12.(この節にはベートーヴェンは作曲していない)
Der kleinste Halm
Ist deiner Weisheit Spiegel.
Du, Luft und Meer,
ihr Auen, Tal und Hügel,
Ihr seid sein Loblied und sein Psalm!
 一番小さな茎が
 御身の知恵の鑑である。
 御身、空気、海、
 緑野、谷、丘、
 きみたちはあの方の賛歌であり讃美歌である。

13.(この節にはベートーヴェンは作曲していない)
Du tränkst das Land,
Führst uns auf grüne Weiden;
Und Nacht und Tag,
und Korn und Wein und Freud
Empfangen wir aus deiner Hand.
 御身は大地を享受し
 われわれを緑の牧草地に連れていく。
 そして夜に昼に
 穀物やワインや楽しいことを
 われわれは御身の手から受け取るのだろうか。

14.(この節にはベートーヴェンは作曲していない)
Kein Sperling fällt,
Herr, ohne deinen Willen;
Sollt ich mein Herz
nicht mit dem Troste stillen,
Daß deine Hand mein Leben hält?
 雀は下降しない、
 主よ、御身の意思なしには。
 わが心を
 慰められないまま鎮めなければならないのか、
 御手が私の生命を守っておられるのに。

15.(この節にはベートーヴェンは作曲していない)
Ist Gott mein Schutz,
Will Gott mein Retter werden:
So frag ich nichts
nach Himmel und nach Erden,
Und biete selbst der Hölle Trutz.
 神はわが庇護者なのか、
 神は私の救い主になろうとしているか、
 私は何も尋ねない、
 天にも地にも、
 そして私は自ら地獄に抵抗するのだ。

L. Beethoven sets stanza 1
Carl Loewe (1796 - 1869), "Gott ist mein Lied", 1826

詩:Christian Fürchtegott Gellert (1715-1769)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827), "Gottes Macht und Vorsehung", op. 48 no. 5 (1803), stanza 1, from Sechs Lieder nach Gedichten von Gellert, no. 5

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『ゲレルトの詩による6つの歌曲』から第5曲は「神の力と摂理」です。
神の威容と摂理について説く内容になっています。

全15節からなるゲレルトの詩の第1節のみにベートーヴェンは作曲しました。この曲の終わりにはダル・セーニョ記号も繰り返し記号もありませんが、他の節を繰り返して歌うことも可能で、そのような演奏もあります(下に引用した中ではプライ&サヴァリシュ、ゲルネ&リシエツキが追加していました)。

歌とピアノの右手が最初のうちユニゾンで演奏されていることもあり、曲の趣が、前曲の「自然における神の栄光」と似たものに感じられます。
f(フォルテ)とff(フォルティッシモ)のみが使われていて、ベートーヴェンがこの曲に力強さを求めていることが分かります。
短く奇をてらわない素朴な音楽が、偉大な存在への賛歌としてふさわしく感じられました。

2/2拍子
ハ長調(C-dur)
Mit Kraft und Feuer (力と熱気をもって)

なお、ゲレルト歌曲集の他の曲と同じテキストにC.P.E.バッハは作曲していましたが、このテキストには作曲しなかったようです。また、カール・レーヴェがこの詩に作曲していたようですが、残念ながら音源を見つけることが出来ませんでした。

●ジェスィー・ノーマン(S), ジェイムズ・レヴァイン(P)
Jessye Norman(S), James Levine(P)

神と民衆の仲立ちをする人の祈りの言葉のように聞こえました。朗々と響き渡るノーマンの歌は素晴らしいです。

●ヘルマン・プライ(BR), ヴォルフガング・サヴァリシュ(P)
Hermann Prey(BR), Wolfgang Sawallisch(P)

1,11,15節。プライのびんびん響く力強い歌唱が神への強い信頼を感じさせてくれました。サヴァリシュの明晰なピアノも聴きものです。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), イェルク・デームス(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Jörg Demus(P)

めりはりのきいたF=ディースカウらしい歌唱でした。

●マティアス・ゲルネ(BR), ヤン・リシエツキ(P)
Matthias Goerne(BR), Jan Lisiecki(P)

1,2,8,10,15節演奏。ゲルネは他の節も追加して軽快に神の摂理を説いていきます。

●ペーター・シュライアー(T), ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T), Walter Olbertz(P)

シュライアーは宗教的な題材の歌曲を歌う時、ゆったりとしたテンポ設定で丁寧に歌うことが多いですね。伝えようという意思が感じられて聞き入ってしまいます。

●ロベルト・ホル(BSBR), デイヴィッド・ラッツ(P)
Robert Holl(BSBR), David Lutz(P)

ホルの重厚な歌唱は威厳のある曲の雰囲気にぴったりでした。

●ピアノパートのみ(Marco Santià (piano))
Sing with me - L. V. Beethoven - Gottes Macht und Vorsehung (high voice)

原調(ハ長調)での演奏です。ピアノの最高音が歌のパートをなぞっているので、歌がなくても曲を知ることが出来ます。

●リストによるピアノ独奏用編曲(Ian Yungwook Yoo (piano))
Beethoven - 6 Geistliche Lieder, S. 467/R. 122: No. 1, Gottes Macht und Vorsehung · Ian Yungwook Yoo

リストは、まずベートーヴェンの原曲にかなり忠実に若干和音の厚みを加えて通し、2回目にリストらしい技巧を盛り込んだ変奏を聞かせています。

●ハイドンによる作曲(Győr Girl's Choir, Miklós Szabó(C))
Joseph Haydn: Gottes Macht und Vorsehung, Hob XXVIIb:8

ハイドンはゲレルトの詩の最終節である第15節にカノンの形で作曲しています。軽快で喜ばしい雰囲気の作品ですね。

(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

「ゲレルトの詩による6つの歌(リート)」——伯爵夫人の死に際して出版された歌曲集

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コメント

フランツさん、こんにちは。

今回も長いゲレルトの翻訳、お疲れ様でした。
今回の詩は、聖書の複数箇所を咀嚼して、自らの思いを乗せている感じがしました。

プライさんの声、本当にビンビン響きますね。この時期のDENONに入れた声について、吉田秀和さんが、「世界の演奏家」の中でこう書いておられます。
『プライは昔から声の非常に美しい人だった。そんなことは、今さらいうまでもない。そのプライにしても、格段に充実した艶やかさとつよさとが同居している。 中略 プライの力のこもった、十分に歌いきった声は、···より深く低い、バス·バリトン的なものだから、 中略 ピアノとユニゾンで書かれているような場合になると、いやがうえにも豊かな倍音をともなって見事な響きを作り出すことになる。
そのうえ、その響きは、単に響きの次元にとどまらず、ドイツ人たちのよくいうAusstrahlung 何と訳せばいいのかしら、要するに、人間の深いところから出てくる「輝き」、精神的光輝とでもいったものと切り離しがたく結びついているのである。』
これは、1984年録音DENON盤「冬の旅」の評(P401~402)なのですが、この1981年録音の同じDENON盤ベートーベン歌曲集にも言えるように思います。

私がプライさんの歌に惹かれる理由の一つもここにあります。
彼の声の音色や歌いぶりも大好きなんですが、一心に声の響き、輝きに聞き入っている時間があります。

井辻朱美さんは、『オペラ 名歌手201』の中で、「彼の歌には涙がいっぱいたたえられていて、ときどき細かにのぼってくだる音形に張られたその薄い被膜がきらきらするので、ひとは音程やリズムのゆがみなどものかは、その無防備さに、心のもっともやわらかな部分に触れられたように感じてしまう。あるいは、音節の途中でふっと何もかも忘れたように、二つ三つの音にだけのめりこんでいく瞬間があり、その瞬間の自己放棄の美しさが、彼のリートの身上だった。···天衣無縫の歌役者だった。」(P158より)

引用ばかりが長くなりましたが、井辻さんが、書かれているように、彼の声の二つ三つ、時には一音の音色や響きに引き込まれてその音に身を浸していることがよくあるんです。

今回は、プライさんの声に特化して掘り下げてみました。

投稿: 真子 | 2021年8月29日 (日曜日) 11時44分

真子さん、こんばんは。

今回の曲も長い詩で難しかったですが、おっしゃるように聖書に書かれていることを基にしているのかなと思いました。

プライの声について吉田秀和さんがこういうことを書いておられたのですね。
DENONレーベルのビアンコニとの『冬の旅』、久しぶりに今聴いていますが、やはりいいですね。プライは1980年代前半に新たな境地に足を踏み入れたように感じました。吉田さん言うところの「倍音」の響きなのでしょうか、ただでさえ豊かな響きがさらに何色にも重なって輝くかのような。今ちょうど「凍った涙」の歌いっぷりがいいなぁと思いながら聴いていました。「バスバリトン」というとホッターがまず思い浮かびますが、ホッターとプライは全く違いますよね。
ホッターはどこをとっても低い響きの中に包まれるところに心地よさや温もりを感じますが、プライは低く重厚な響きもありながら、高い方ではそれこそビンビン響くような輝かしい高音を堪能できるので、やはりバリトン歌手というのがぴったりくるように感じます。
80年代前半のプライだと、おっしゃるようにシューベルトの「冬の旅」も「ベートーヴェン歌曲集」も名盤ですが、「シューベルト・ゲーテ歌曲集」や「ブラームス歌曲集」「マゲローネのロマンス」などもありますね。
井辻朱美さんという方は存じ上げなかったのですが、オペラ名歌手という本でプライについて書かれているのですね。
「無防備」の魅力というのはなんとなく分かる気がします。血肉となっているからこそあえてさらけだした歌の魅力があると思います。「音に身を浸」すというのは素敵な聞き方ですね。

プライの考察を有難うございました。

投稿: フランツ | 2021年8月29日 (日曜日) 20時24分

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