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ベートーヴェン「人は燃えあがる心を隠そうとするものだ(Man strebt die Flamme zu verhehlen, WoO. 120)」

Man strebt die Flamme zu verhehlen, WoO. 120
 人は燃えあがる心を隠そうとするものだ

Man strebt, die Flamme zu verhehlen,
Die bei gefühlvoll edlen Seelen
Sich unbemerkt ins Herze stiehlt;
Geheimnisvoll schließt man die Lippen,
Jedoch verrät sich bald mit Blicken,
Wie sehr man, ach, die Liebe fühlt.
 人は燃えあがる心を隠そうとするものだ、
 その心は、感情豊かで高潔な魂のそばで
 気づかれないまま心の中に忍び入る、
 いわくありげに唇を閉じるが
 すぐに視線で本心がばれる、
 人は、ああ、どれほど愛を感じるものなのだろう。

Ein Blick sagt mehr als tausend Worte,
Ein Blick entriegelt oft die Pforte
Der lang verhehlten Leidenschaft;
Er zeigt dem Teuren, den ich liebe,
Des Herzens reine, zarte Triebe
Und gibt ihm auszuharren Kraft.
 千の言葉よりも一瞥の方が雄弁だ、
 一瞥はしばしば
 長く秘めた情熱の門の閂(かんぬき)をはずす、
 一瞥は私の愛する人に
 心の純粋でやわな衝動を示し、
 待ち続ける力を与えるのだ。

詩:Anonymous
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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この歌曲は、旧全集で初めて出版され「歌(フォン・ヴァイセントゥルン夫人のために)(Lied (für Frau von Weissenthurn))」というタイトルが付けられました。この曲が作曲されたいきさつは平野昭氏の文章に詳しいです。この女優ヨハンナ・フラヌル・フォン・ヴァイセントゥルン(Johanna Franul von Weissenthurn: 1773-1847)がブルク劇場での上演時に歌ったらしいことから上演日1800年5月12日より前に作曲されたとみなされています。
この詩は最新の研究によるとヴァイセントゥルン自身が書いた可能性があるそうです

千の言葉よりも一瞥の方が多くを語ると愛の力を歌っています。

2節の完全な有節形式で、各節後半の3行は繰り返されます。
恋の熱い気持ちを人は隠したがると歌う詩にふさわしく、平静さを装ったかのような穏やかな音楽です。

4/4拍子
ヘ長調(F-Dur)
Andante

●ナタリー・ペレス(MS) & ジャン=ピエール・アルマンゴー(P)
Natalie Pérez(MS) & Jean-Pierre Armengaud(P)

ペレスの深みと奥行きのある歌は素晴らしかったです。

●アデーレ・シュトルテ(S) & ヴァルター・オルベルツ(P)
Adele Stolte(S) & Walter Olbertz(P)

シュトルテの落ち着いた美しい声が心地よく感じられました。

●ヘルマン・プライ(BR) & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Leonard Hokanson(P)

女性目線のテキストをプライが歌うのは珍しいように思います。いつも通り温かみのあるプライの語りかけは胸に沁みます。

●アンナ・ハーゼ(MS) & ノルベルト・グロー(P)
Anna Haase(MS) & Norbert Groh(P)

はじめて聴いた歌手ですが、伸びやかで細やかな歌いぶりがいいですね。

●ハイディ・ブルナー(MS) & クリスティン・オーカーランド(P)
Heidi Brunner(MS) & Kristin Okerlund(P)

ブルナーは素直な歌唱でした。

(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

The Complete Beethoven

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コメント

フランツさん、こんばんは。

「目は口ほどにものを言う」ですね。
百人一首の「忍ぶれど色に出にけり我が恋は ものや思うと人の問うまで」(平兼盛) を思いおこしました。

〉すぐに視線で本心がばれる、、
好きな人のことは、ついつい目で追ってしまうのは、古今東西変わらないのですね。
熱い思いの歌詞を、穏やかなメロディで包んだ美しい曲ですね。ピアノもかわいいですね。

プライさんからは、息子の初恋を見守る父のような温かさを感じました。娘ですと、心穏やかでいられないと思いますので笑

ペレスの深い声は、情熱だけに走らない賢さを感じますね。

シュトルテは、美しい声ですね。初々しい恋の思いが伝わって来ました。

Haaseは、まっすぐな声ですね。憧れの彼をまっすぐに見つめている、ひたむきな恋ですね。

ブルナーは、他の誰より思いを胸に秘めながら、物陰から彼を見つめている姿が浮かびました。ほんの少し、あの人の姿が見えるだけで、声が聞こえるだけで幸せだと思っているかのようで。

同じ曲でも、色んな恋の形がある事を感じさせてくれる聞き比べでした(^.^)

投稿: 真子 | 2021年7月 9日 (金曜日) 22時07分

真子さん、こんばんは。

>「目は口ほどにものを言う」ですね。

まさにおっしゃる通りですね(^^)女性が相手の視線に敏感なのはいつの世も同じなのでしょう。

>百人一首の「忍ぶれど色に出にけり我が恋は ものや思うと人の問うまで」(平兼盛) を思いおこしました。

素敵な歌ですね。顔色に恋心があらわれてしまったということでしょうか。言葉よりも表情の方がその人の偽らざる感情が伝わるのかもしれませんね。

この詩の第2節の歌詞に"Er zeigt dem Teuren, den ich liebe,"とあり、"den"は男性を指す為、女性から男性への愛を指すと考えられます(あくまで一般的な言葉の上での解釈なので、男性から男性という解釈ももちろん成り立つと思います)。
プライがここで第2節を歌っていないのは、この歌詞ゆえなのでしょう。第1節だけなら普遍的な愛の真理を歌う内容ですからね。

女声歌手たちの歌から真子さんの感じられたそれぞれの愛の表現、とても興味深く拝見しました。
愛のさまを形容するのはなかなか難しく、真子さんのコメント素晴らしいと思いました!

ブルナーのご感想「ほんの少し、あの人の姿が見えるだけで、声が聞こえるだけで幸せだと思っているかのようで。」シューマンの『女の愛と生涯』に通じるイメージですね。

素敵なコメントを有難うございました!

投稿: フランツ | 2021年7月10日 (土曜日) 20時28分

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