ブラームス「恋人の誓い(Des Liebsten Schwur, Op. 69, No. 4)」を聴く
Des Liebsten Schwur, Op. 69, No. 4
恋人の誓い
Ei, schmollte mein Vater nicht wach und im Schlaf,
So sagt' ich ihm, wen ich im Gärtelein traf.
Und schmolle nur, Vater, und schmolle nur fort,
Ich traf den Geliebten im Gärtelein dort.
ねえ、お父さんが起きているときも眠っているときもふてくされないのなら
私はお父さんに言ったことでしょう、私が小さなお庭で誰と会っていたのかを。
さあすねるがいいわ、さらにすねていなさい、
私はあそこの小さなお庭で恋人と会っていたのよ。
Ei, zankte mein Vater nicht wieder sich ab,
So sagt' ich ihm, was der Geliebte mir gab.
Und zanke nur, Vater, mein Väterchen du,
Er gab mir ein Küßchen und eines dazu.
ねえ、お父さんがもう言い争いをしないのなら
私はお父さんに言ったことでしょう、恋人が何を私にくれたのかを。
がみがみ言うがいいわ、お父さん、あたしのお父ちゃん、
彼は私に一回キスしてくれて、さらにもう一回してくれたのよ。
Ei, klänge dem Vater nicht staunend das Ohr,
So sagt' ich ihm, was der Geliebte mir schwor.
Und staune nur, Vater, und staune noch mehr,
Du gibst mich doch einmal mit Freuden noch her.
ねえ、お父さんが驚いてくしゃみをしたりしないのなら
私はお父さんに言ったことでしょう、恋人が私に何を誓ったのかを。
さあ驚くがいいわ、お父さん、さらに驚きなさいな、
あなたは私を喜んで差し出すでしょう。
Mir schwor der Geliebte so fest und gewiß,
Bevor er aus meiner Umarmung sich riß:
Ich hätte am längsten zu Hause gesäumt,
Bis lustig im Felde die Weizensaat keimt.
恋人は私に確かに誓ってくれたの、
彼が私の抱擁から身をもぎ離す前に:
私が家でぐずぐずできるのも長くて
小麦の種が畑で元気に発芽するころまでだと。
詩:Josef Wenzig (1807-1876), "Des Liebsten Schwur", appears in Westslawischer Märchenschatz, Leipzig, first published 1857
曲:Johannes Brahms (1833-1897), "Des Liebsten Schwur", op. 69 (Neun Gesänge) no. 4 (1877), published 1877, first performed 1877 [voice and piano], Berlin, Simrock
------------
何故か分からないけれど大好きな曲というのがあります。
私は好きになる曲のパターンとして、第一印象ですぐに好きになる場合と何度も聴くうちにどんどんのめりこんでいく場合がありますが、このブラームスの「恋人の誓い」は前者だったと思います。
聴いてすぐに一耳惚れして以来、何度もリピートしてしまう曲の一つです。
快活な歌のメロディーも雄弁なピアノもわくわくしますが、歌とピアノの絡み方(特に最終節)がもう絶妙です!
この詩の主人公は思春期のうら若き女性と思われます。
父親と言い争っている時に、実は私には彼氏がいて結婚の約束までしているんだからとほくそ笑んでいるという感じでしょうか。
3/4拍子
ヘ長調(F-dur)
Sehr belebt und heimlich (非常に活気をもって、ひそやかに)
●ヘレン・ワッツ(CA) & ジェフリー・パーソンズ(P)
Helen Watts(CA) & Geoffrey Parsons(P)
宗教曲などでお馴染みのヘレン・ワッツは歌曲もとてもいいです。声の表情の豊かさと細やかさがこの録音でも感じられると思います。パーソンズのしっかりとした骨格のピアノもいつもながら素晴らしいです。
●ジェシー・ノーマン(S) & ダニエル・バレンボイム(P)
Jessye Norman(S) & Daniel Barenboim(P)
ノーマンはステージでの神々しさを忘れさせるぐらいの愛らしい表情を聞かせてくれます。
●モリカ・グロープ(MS) & アレクセイ・リュビモフ(P)
Monica Groop(MS) & Alexei Lubimov(P)
グロープは落ち着いた美声で伸びやかさと強さがある魅力的な歌唱です。
●シュテファニー・イラーニ(MS) & ヘルムート・ドイチュ(P)
Stefanie Irányi(MS) & Helmut Deutsch(P)
イラーニの声はとても心地よく、生き生きとした歌唱がいいですね。ドイチュの堅実で安定したピアノも魅力的です。
●エリカ・ケート(S) & ペーター・バックハウス(P)
Erika Köth(S) & Peter Backhaus(P)
ケートの可愛らしい声はこの詩の女性を魅力的に想起させてくれます。
●ルネ・フレミング(S) & ハルトムート・ヘル(P)
Renée Fleming(S) & Hartmut Höll(P)
フレミングは詩から感じられる若い娘というよりは成熟した女性が過去を回想しているように感じました。
●エレナ・ゲアハルト(MS) & ジェラルド・ムーア(P)
Elena Gerhardt(MS) & Gerald Moore(P)
歴史的な録音です。往年の歌曲の名人ゲアハルトの伸縮自在でありながら客観的な視点も併せ持っている歌唱は古さを感じさせません。生き生きとした歌がなんとも魅力的です。
●テオドア・キルヒナー(Theodor Kirchner: 1823-1903)によるピアノ独奏用の編曲版
Uriel Tsachor(P)
ブラームスやクラーラ・シューマン等とも親交を結んだ作曲家・ピアニスト・編曲家のキルヒナーによるピアノ編曲版です。原曲を生かした楽しい編曲ですね。
(参考)
| 固定リンク | 0
« エリー・アーメリングのブラームス歌曲集(Elly Ameling: Brahms Lieder) | トップページ | ベートーヴェン「人は燃えあがる心を隠そうとするものだ(Man strebt die Flamme zu verhehlen, WoO. 120)」 »
「音楽」カテゴリの記事
- ドルトムント国際シューベルトコンクール、リート ドゥオ2023(Internationaler Schubert-Wettbewerb Dortmund: LiedDuo 2023)(2023.09.30)
- エリー・アーメリングの参加したブリテン「春の交響曲」Promsライヴ音源(2023.09.16)
- Stationen eines Interpreten:ヘルマン・プライ・ドキュメンタリー(2023.07.22)
- ヘルマン・プライ(Hermann Prey)の歌曲ディスコグラフィ(2023.07.11)
- ヘルマン・プライ(Hermann Prey)没後25年を記念して:ヴィーン・シューベルティアーデ(2023.07.22)
「詩」カテゴリの記事
- シューベルト/子守歌(Schubert: Wiegenlied, D 498)を聞く(2023.09.02)
「ブラームス」カテゴリの記事
- ブラームス(Brahms)/「春の慰め(Frühlingstrost, Op. 63, No. 1)」を聴く(2022.04.08)
- エリー・アーメリング他(Ameling, Watkinson, Meens, Holl, Jansen, Brautigam)/ブラームス:四重唱曲、二重唱曲他 初出音源(1983年1月14日, アムステルダム・コンセルトヘバウ(live)他)(2021.07.30)
- エリー・アーメリングのブラームス歌曲集(Elly Ameling: Brahms Lieder)(2021.06.29)
- ブラームス「恋人の誓い(Des Liebsten Schwur, Op. 69, No. 4)」を聴く(2021.07.02)
コメント
フランツさん、こんにちは。
この曲は初めて聴きました。
いつの世も父と娘はこんな感じなんですよね(笑)
短調を効果的に使った曲ですね。
ワッツは深みのある気品に満ちた演奏でした。
ノーマンがいつもの堂々としたかんじから、乙女になりきって歌っているのが印象的でした。
グローブは、大人の女性を感じさせる演奏でした。
イラーニの声いいですね。私はついつい声に耳が行き、好きな声なら歌詞がわからなくてもずっと聞いていられます。もっとも気に入った曲は、詩や背景をしりたくなりますが。
ケートのような声で歌われたら、お父さんもメロメロになり、許さざるを得ないでしょう。
フレーミングとケートだと全くイメージが違いますね。
歌詞を読まなければ、娘をいさめる母親に聞こえます(笑)
ゲアハルトの昔の録音もいいですね。
古き良き時代の香りがしてくるようでした。
投稿: 真子 | 2021年7月 4日 (日曜日) 16時02分
真子さん、こんばんは。
今回も聴いてくださり、有難うございます。
父と娘の関係をコミカルに描いている詩ですよね。
いつの世も父親は娘のことが心配であれこれ口出しするので「うるさいなぁ」と思われてしまうのですね。
ワッツはおっしゃるように気品があって魅力的ですね。彼女とパーソンズの歌曲アルバムはおそらく日本では発売されなかったと思いますが、名盤です。
ノーマンは荘厳な曲から、このような可愛らしい曲まで変幻自在に表現できる歌手だと思います。
グロープは低く落ち着いた声がいいですよね。声にいろんな色が感じられます。
イラーニの声いいですよね!清涼感があってすこんと抜ける感じが聞いていて気持ちいいです。
ケートの可愛らしい声は持って生まれたものなのでしょうね。
フレミングは大人の女性という感じですね。
ゲアハルトはほとんどオペラは歌わず、歌曲を中心に活躍した歌手でした。ジェラルド・ムーアが自伝で彼女のことに1つの章をあてて賞賛していました。こういう「古き良き時代」の演奏がいつまでも聴かれ続けているのは凄いことだと思います。
投稿: フランツ | 2021年7月 5日 (月曜日) 18時45分