ベートーヴェン「オーストリア人の戦の歌(Kriegslied der Österreicher, WoO. 122)」
Kriegslied der Österreicher, WoO. 122
オーストリア人の戦の歌
1:
Ein großes deutsches Volk sind wir,
Sind mächtig und gerecht.
Ihr Franken das bezweifelt ihr?
Ihr Franken kennt uns schlecht!
Denn unser Fürst ist gut,
Erhaben unser Mut,
Süß uns'rer Trauben Blut,
Und uns're Weiber schön;
Wie kann's uns beßer geh'n?
我らは偉大なるドイツ民族、
強力で公正だ。
君たちフランク人は疑っているのか?
君たちフランク人は我々のことを知らなすぎる!
なぜなら我らの君主は善良で
我らの気力は崇高だ、
我らの赤ワインは甘く
我らの女房はべっぴんだ、
どうして我らに勝てようか。
2:
Wir streiten nicht für Ruhm und Sold,
Nur für des Friedens Glück!
Wir kehren, arm an fremden Gold,
Zu unser'm Herd zurück.
Denn guten Bürgern nur
Blüht Segen der Natur
Auf Weinberg, Wald und Flur.
Gerecht ist unser Krieg;
Uns, uns gehört der Sieg!
我らが戦うのは栄誉や金のためではなく、
ただ平和の幸せのためなのだ!
我らは異国の金などほとんど持たずに
我が家に帰還する。
なぜなら善良な国民のみに
自然の祝福が花咲くから
ワイン畑や森や野原に。
我らの戦争は正当だ、
我らのもの、勝利は我らのもの!
3:
Mit Piken, Sensen und Geschoß
Eilt Klein und Groß herbei!
Für's Vaterland stimmt Klein und Groß,
Stimmt an das Feldgeschrei!
Da steh'n wir unverwandt
Für Haus und Hof und Land
Mit Waffen in der Hand
Und schlagen mutig d'rein,
Wie viel auch ihrer sei'n!
長槍、大鎌や弾丸を装備して
子供も大人も急いでこっちに来い!
祖国のためを思い、子供も大人も
合言葉はぴったり合う!
そこに我らは目をそらさず立つ、
家や庭や土地のために
手に武器を持ち
勇敢に殴るのだ、
相手が何人いようと!
4:
Mann, Weib und Kind in Österreich
Fühlt tief den eig'nen Wert.
Nie, Franken! werden wir von euch
Besieget, nie betört.
Denn unser Fürst ist gut,
Erhaben unser Mut,
Süß uns'rer Trauben Blut,
Und uns're Weiber schön;
Wie kann's uns beßer geh'n?
オーストリアの男も女も子供も
心深く固有の価値を感じている。
フランク人よ!決して我らは君たちに
負けたり魅了されたりはしない。
なぜなら我らの君主は善良で
我らの気力は崇高だ、
我らの赤ワインは甘く
我らの女房はべっぴんだ、
どうして我らに勝てようか。
詩:Josef Friedelberg (1781?-1800)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)
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1年前の作品「ヴィーン市民への別れの歌(Abschiedsgesang an Wiens Bürger, WoO. 121)」の詩を書いた義勇軍少尉ヨーゼフ・フリーデルベルクがこの曲でも詩を採用されています。
作曲の経緯については、平野昭氏が下記リンク先に記しておられます。
「オーストリアの戦いの歌(クリークスリート)」――ナポレオン進軍に抗う軍歌
作曲は1797年3月下旬から4月上旬とのことです。
この曲は楽譜に合唱の歌う箇所(各節最後の1行)が明記されています。
それにしてもこういうドイツ系の戦争の歌は暗黙の了解でこう作曲するというような決まり事があるのでしょうか。進軍する様を模しているように一定のリズムが貫かれていたり、クライマックスに向けて音を段階的に高めていく手法など、どことなくモーツァルトの「私の願い(ドイツの戦の歌)K 539」を思い出しました。
2/2拍子
ハ長調 (C-dur)
Muthig (勇敢に)
●ヘルマン・プライ(BR) & ハインリヒ・シュッツ・クライス・ベルリン & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Heinrich Schütz Kreis, Berlin & Leonard Hokanson(P)
1~4節。プライは親分肌で周囲をぐいぐい引っ張っていく感じがします。
●フローリアン・プライ(BR) & 合唱 & ノルベルト・グロート(P)
Florian Prey(BR) & Chor & Norbert Groht(P)
1~4節。フローリアンの清涼感のある声は、軍を引っ張っていくというよりも周りから慕われている同僚という印象を受けました。
●コンスタンティン・グラーフ・フォン・ヴァルダードルフ(BR) & ヴィーン・グスタフ・マーラー合唱団 & クリスティン・オーカーランド(P)
Constantin Graf von Walderdorff(BR) & Gustav Mahler Chor Wien & Kristin Okerlund(P)
1~4節。ヴァルダードルフのいつもながらの朴訥とした歌唱が、戦争の歌であることを忘れさせてくれます。
●ヴァンサン・リエーヴル=ピカール(T) & ジョン・バーナード(T) & ジャン=フランソワ・ルッション(BR) & ジャン=ピエール・アルマンゴー(P)
Vincent Lièvre-Picard(T) & John Bernard(T) & Jean-François Rouchon(BR) & Jean-Pierre Armengaud(P)
1,4節。リエーヴル=ピカールの素直な歌いぶりは大衆の歌であることを思い出させてくれます。
●ピアノパートのみ(Marco Santià(P))(原調による演奏)
Sing with me - L. V. Beethoven - Kriegslied der Österreicher (high/medium voice)
ピアノパートのみですが、右手が歌声部を完全になぞっているので、これだけでも作品として成立しています。4回演奏しているので、全節歌えます!
(参考)
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コメント
プランツさん、こんばんは。
戦争になれば軍歌は生まれますが、こういう曲は、今の世、ステージにはかけにくいですよね。
歌詞を全く見ずに、まずプライさんを聞きました。ドイツ語が分からない利点と言いますか、勇ましい曲だとは思いましたが、軍歌とはわからなかったです。
酒場のドイツ民謡にも聞こえます。
当たり前ですが、言葉って重要ですね。
なぜ、ドイツ人のベートーベンがこの歌詞に曲をつけたのかも、平野さんの、記事でわかりました。
さて、歌詞を読んで(いつもながら、翻訳ありがとうございます)、フローリアンさん。
出始めの音、父ヘルマンさんかと思うような声でした!!
でも、演奏の雰囲気は全然ちがいますね。
フローリアンさんは、偉大な父親を持ったゆえに、真っ白な目で見てもらえない部分も多かったでしょうね。
プライさんの息子さんという事を外して聴いても、魅力的な歌手だと思います。
フローリアンさんのベートーベン、いいですね。このCD欲しいです!
コーラスに女声が入っていることもあり、確かにヴァルダードルフ版は、軍歌に聞こえませんね。朴訥な演奏もいいですね。
テノールで聞くと、バリトンでの曲とは印象が全然違いますね。
なかなか、自らは聞かない曲でしたので、聞き比べて楽しみました(^^)
投稿: 真子 | 2021年6月19日 (土曜日) 18時47分
真子さん、こんにちは。
軍歌はその背景を考えると気楽に歌ったり聞いたりするのは憚られるという側面は確かにありますよね。
しかし、一つの文化として、こういう作品がどういう心境で作られたのか等と思いを馳せるのは後世の人にとって意味のあることなのかもしれません。
純粋に音楽作品として聴くことも後世の人たちには許されているのではないかとも思います。
この曲、歌詞が見なければおっしゃる通り酒場の歌という感じですよね。
曲調や演奏形態(独唱と合唱)など相通ずるところがあるのでしょうね。
プライは勇ましいですよね。
息子のフローリアンはより繊細さが強いという感じでしょうか。
フローリアンはおそらく父親と常に比較されて大変な思いもされているのではと察しますが、父と瓜二つの歌唱ではないのは救いだと思います。
このベートーヴェンの珍しい歌曲の録音、とてもいいですよね。
雄弁な歌、朴訥な歌、それぞれの味の違いがありますよね。
聞き比べを楽しんでいただけたなら嬉しいです!
投稿: フランツ | 2021年6月20日 (日曜日) 15時40分
プランツさん、こんにちは。
おっしゃっる通り、芸術作品として聞いたり、また、その時代の文化や社会を考える上でも、このような作品を埋もらせてしまわない方がいいですよね。
ただ、最近は何かと過敏なのでステージに上げるのは、勇気がいるだろうなあと、思った次第です。
数日前、続けて1960年㈹の日本映画をみたのですが、強烈ですね、昭和笑。
今ならあんな映画は作られないだろうなあと、ビックリ半分で観ました。
平成、令和も、やがて古い過去のものになった時(平成初期は既に、昔感が出始めていますが)、後世の人はどんな感想を抱くのでしょうね。
そういう意味でも、様々な作品や演奏は、ぜひ後世に残して行きたいと思います。
録画していた、「ラ・ボエーム」の最後の、テバルディの「ミミのアリア」も視聴しました。
まさに王道のイタリアオペラですね。
そして、オペラの歌唱も、時代と共に変わってきている事をかんじました。
最近、ダムラムがスザンナを歌った「フィガロの結婚」のブルーレイを買いました。このオペラは一番好きなので、DVDを集めています。
ダムラウは、本当に魅力的な声ですよね。表情もチャーミングで。
他の配役の皆さんも、声、姿も含めとても良かったです(^^)
投稿: 真子 | 2021年6月21日 (月曜日) 12時24分
真子さん、こんばんは。
>ただ、最近は何かと過敏なのでステージに上げるのは、勇気がいるだろうなあと、思った次第です。
本当に私も思います。あれもだめ、これもだめ、とすぐにクレームが来るので、思い切ったことが出来なくなってきましたね。
昭和時代がおおらか過ぎたのかもしれませんし、今の方がいい面も沢山あると思うのですが、それでも言葉狩りのような過敏な反応に発信者がびくびくしなければならないのはもったいない気がします。
映画やテレビは昭和時代のような表現はもう今では出来ないでしょうね。でも黒塗りで完全に削除するのではなく、後世の為にも記録として残しておいてほしいと思います。
>そういう意味でも、様々な作品や演奏は、ぜひ後世に残して行きたいと思います。
同感です!
テバルディの録画、ご覧になったのですね。
遠い過去の伝説がこうして映像に収録されて放送されるのはとても意義深いですし、毎週でもやってほしいぐらいです。
真子さんは「フィガロの結婚」がお好きなのですね。ダムラウがスザンナを歌っているのですね。
以前、新国立劇場でこのオペラを見た時は、大きな箱がいくつも出てきて、それを組み合わせたり移動させたりした現代風の演出でした。読み替え演出は面白い時もあるのですが、演出の意図が難しくてよく分からないまま終わってしまうこともありますね。
投稿: フランツ | 2021年6月21日 (月曜日) 19時06分