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ベートーヴェン「ヴィーン市民への別れの歌(Abschiedsgesang an Wiens Bürger, WoO. 121)」

Abschiedsgesang an Wiens Bürger, WoO. 121
 ヴィーン市民への別れの歌

1:
Keine Klage soll erschallen,
Wenn vom hier die Fahne zieht,
Tränen keinem Aug' entfallen,
Das im Scheiden nach ihr sieht.
Es ist Stolz auf diese Zierde
Und Gefühl der Bürgerwürde,
Was auf Aller Wangen glüht.
 嘆きの声を響かせるな、
 ここから旗を持って行くとき
 涙は目から消え
 目は別れの場面で彼女を見る。
 この装飾は誇らしく、
 市民としての尊厳を感じる、
 それは皆の頬に燃え上がる。

2:
Freunde! wünscht ihr Siegestönen
Uns zur edlen Reise Glück.
Heiter, folg' uns nach ihr Schönen!
Euer seelenvoller Blick!
Unser's Landes Ruhm zu mehren,
Zieh'n wir mutig hin und kehren
Würdiger zu euch zurück.
 友人たちよ!勝利の音を願え、
 我らの気高き旅に幸運を。
 元気を出せ!我らの後を続け、美しい彼女の方へ!
 君たちの心のこもった眼差し!
 我らの国の栄誉を増すために
 我らは勇敢にも進軍し
 堂々と君たちのもとに帰るのだ。

3:
Trotzend steh'n vor Donnerschlünden
Kann wohl auch der Bösewicht.
Milden Sinn und Mut verbinden,
Menschheit ehren kann er nicht!
Nie das Glück der Tugend trüben,
Brüderlich den Landmann lieben:
Das ist deutscher Helden Pflicht!
 反抗して雷の源の前に
 立つことなら悪者でもできる。
 穏やかな感覚と勇気を結び付けて
 人を敬うことが悪者には出来ないのだ!
 徳の幸運が曇ることはなく
 同胞として国民を愛す。
 これこそドイツの英雄の義務なのだ!

4:
Freu't euch, Väter, jubelt, Mütter!
Nirgend, wo das Corps erscheint,
Nicht bei Feinden, wird ihm bitter
Von der Unschuld nachgeweint.
Edel wollen wir uns rächen,
Schweigen bis die Taten sprechen,
Sie bewund're selbst der Feind!
 喜べ、父親たち、歓呼せよ、母親たち!
 軍があらわれる所どこでも
 敵軍のところでも
 純真さゆえに彼との別れを悲しんでさめざめと泣くことはない。
 高潔さをもって我らは報復しよう、
 行動が語るまでは沈黙だ、
 敵でさえ彼らには敬意を表する!

5:
Bess're Menschen, bess're Bürger,
Als wir nun von hinnen geh'n,
Keine sittenlose Würger,
Sollt ihr in uns wiederseh'n.
Unser Wien empfängt uns wieder,
Ruhmbekränzet, stark und bieder;
Auf! laßt hoch die Fahne weh'n!
 より良い人たちよ、より良い市民たちよ、
 我らが死ぬとき、
 不品行な絞殺者でなく
 君たちは我らに再会してほしい。
 我らのヴィーンは再び我らを出迎える、
 栄誉の冠をかぶり、力強く、実直に。
 さあ!高く旗をなびかせろ!

6:
Laßt uns folgen dieser Fahne,
Durch Theresens Kunstwerk reich;
Deren Goldband uns ermahne:
Tugend mach uns Fürsten gleich.
Ha! wenn wir zurück sie bringen,
Wollen wir im Jubel singen:
Dieses Band hielt Österreich!
 この旗のあとに続いて行こう、
 テレージアの見事な芸術作品によって、
 その金のリボンは我らに戒めるだろう、
 徳は我らも侯爵も平等にするのだと、
 さあ!我らが旗を持ち帰るとき
 歓声をあげて歌おう、
 このリボンがオーストリアを守ってきたのだ!

詩:Josef Friedelberg (1781?-1800)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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この歌曲の成立事情は平野昭氏の解説に詳しく書かれています。
https://ontomo-mag.com/article/playlist/oyasumi094-20200318/

当時オーストリアはナポレオン軍に脅かされ、その状況の中で義勇軍が組織されます。この詩を書いたヨーゼフ・フリーデルベルクはヴィーンの義勇軍少尉だそうです。旗には王妃直筆の言葉が刺繍されていたそうで(初版楽譜のコメントによる)、テキストの「装飾」とか「芸術作品」というのはそのことを指しているものと思われます。

ベートーヴェンは、この曲を1796年10月終わり、あるいは1796年11月始めに作曲しました。
全6節の有節歌曲で、各節最後の3行が繰り返されますが、多くの録音ではその繰り返しを合唱団が歌います(楽譜にはその指示はありません)。

ちなみにこの曲の初版楽譜では、タイトルは「ヴィーン義勇兵団の軍旗師団出発に際してのヴィーン市民への別れの歌(Abschiedsgesang an Wiens Bürger beim Auszug der Fahnendivision des Corps der Wiener Freiwilligen)」と記されています。

4/4拍子
ト長調(G-dur)
Entschlossen und feurig (決然として熱っぽく)

●ヘルマン・プライ(BR) & ハインリヒ・シュッツ・クライス・ベルリン & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Heinrich Schütz Kreis, Berlin & Leonard Hokanson(P)

1,2,6節。プライが歌うと別れの場面でも力強く背中を押されるような気がします。プライは最終節の合唱団のパートでも一緒に歌っていますが、その一番最後の締めのところを是非聞いてみて下さい!

●フローリアン・プライ(BR) & 合唱団 & ノルベルト・グロート(P)
Florian Prey(BR) & Chor & Norbert Groht(P)

1,2,5,6節。フローリアンの歌唱は先導するリーダーシップがありながらもノーブルな気品が漂っているように思いました。

●ギュンター・ライプ(BR) & ヴァルター・オルベルツ(P)
Günther Leib(BR) & Walter Olbertz(P)

1,3,5節。穏やかなライプの響きは聴いていて心地よいです。

●コンスタンティン・グラーフ・フォン・ヴァルダードルフ(BR) & ヴィーン・グスタフ・マーラー合唱団 & クリスティン・オーカーランド(P)
Constantin Graf von Walderdorff(BR) & Gustav Mahler Chor Wien & Kristin Okerlund(P)

1-6節。全節を歌った貴重な録音。ヴァルダードルフの朴訥とした響きがいいです。

●ヴァンサン・リエーヴル=ピカール(T) & ジャン=ピエール・アルマンゴー(P)
Vincent Lièvre-Picard(T) & Jean-Pierre Armengaud(P)

1,2,5,6節。実直な歌い方がこの曲に合っているように感じられます。

(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

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コメント

プランツさん、こんにちは。

別れの歌とはなっていますが、勇ましい曲ですね。
間奏のビアノがかわいいです(^^)

プライさんが歌うと、特に貼んねんの歌唱には包まれます。
最後の1オクターブ高く歌う所は、声域の広い彼ならではですね。

フローリアンさんは、爽やかな美声ですね。父ヘルマンさんの声がとこれろどころ見えますよね。この曲によくあった声に思えました。

ライプという歌手は、昔から気になっていました。
今のように何でもネット検索できない時代に、分厚いCDの総合目録を買ってきて、膨大な文字の中からプライの三文字を探していました。
そのときによく飛び込んできたのが、ライプの三文字でした。
最初は誤植かしら?なんて思っていました。
このような声の人だったのですね。

ヴァルダードルフも、初めて聞きましたが、訥々とした歌いぶりも趣がありますね。

リエーヴル=ピカールの歌はまっすぐで爽やかでした。
癖のない歌い方は、聴いている方で色々な思いを重ねられるように思います。

投稿: 真子 | 2021年6月18日 (金曜日) 14時50分

真子さん、こんばんは。

今回もコメントを有難うございます(^^)

ピアノ間奏と後奏、チャーミングですよね。
軍歌はいずこも勇ましいですね。
別れの寂しさは禁句なのかもしれません。

プライの最後の1オクターブ上げて歌うところ、軍の士気を高めるように盛り上げていて素晴らしいと思います。

フローリアンは、父親よりも高めですが、おっしゃるように時々父親の響きを彷彿とさせる瞬間がありますよね。そんなところも彼を聴く楽しみの一つだと思います。

ギュンター・ライプ、言われるまで気付きませんでしたが、プライを入れ替えるとライプになりますね!確かに誤植だと思ってしまいますよね。CDの総合目録を買ってきて文字を追っていた時代が懐かしいです。重くて外出時に携帯できませんでしたが。

ヴァルダードルフは巧まない良さがありますよね。

リエーヴル=ピカールの癖のなさはおっしゃるように聴き手で想像をふくらませる余地を残してくれていますね。

投稿: フランツ | 2021年6月18日 (金曜日) 19時53分

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