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エリー・アーメリングのブラームス歌曲集(Elly Ameling: Brahms Lieder)

エリー・アーメリング(Elly Ameling)のYouTube公式チャンネルで、今度はブラームス歌曲集がアップされました!アーメリングの歌うブラームスも最高なんです!!!

今回の録音はおそらく4種類のスタジオ録音(うち3種類はブラームス歌曲集として発売されたスタジオ録音)と1種類のライヴ音源と思われます。編集のThom Janssenは、歌詞のアルファベット順に配置したようです。おそらくアーメリング自身の書き込みの入った楽譜が表示されますので、ブラームス歌曲を勉強している方向けなのだと思いますが、私のような単なる音楽ファンにとっても嬉しいです。

全部が聴き所だと思いますが、個人的に好きなのは「湖上で」「黄昏は上方から降り来て」「リンデの木に霜がおり」「野の孤独」「別れはなければならないのか」「夢遊病者」「五月の夜」「使い」あたりでしょうか。もちろん他の録音も素晴らしいです。ヴィオラ助奏の「宗教的な子守歌」が彼女の歌で聴けるのは嬉しいですね。彼女のブラームスは、この作曲家の渋いイメージを払拭してくれるのではないでしょうか。いつも通りの細やかなアプローチが素晴らしいですが、ブラームスらしいメロディーラインもしっかり響かせています。そしてルドルフ・ヤンセン、ドルトン・ボールドウィン、ノーマン・シェトラーといった名手たちのピアノも素晴らしいです。ぜひお好きな曲だけでも楽しんでみて下さい。

1977年録音のボールドウィンとのLP録音は未だにB面の収録曲がほとんどCD化されていないので、今回期待したのですが、残念ながら収録されていませんでした。レコード会社に望むのは難しそうなので、こちらのチャンネルに期待したいです。

●1977年録音のDalton Baldwin共演盤の未CD化作品
Botschaft
Komm bald
Des Liebsten Schwur
Dein blaues Auge
Das Mädchen spricht
Von ewiger Liebe
Sandmännchen

特に「恋人の誓い(Des Liebsten Schwur)」はライヴなどの他音源も今のところありませんので、この曲だけでも復活希望です!(他の曲は別の時期の録音で聴くことが出来ます)


Elly Ameling; Brahms Lieder

00:00:05 Ach, wende diesen Blick (op 57/4) ¹ (ああ、この視線をそらして)
00:01:55 Am Sonntag Morgen, zierlich angetan (op 49/1) ⁵ (日曜日の朝に)
00:03:17 Auf die Nacht in der Spinnstub’n (op 107/5 Mädchenlied) ⁵ (娘の歌 "夜に糸紡ぎの部屋で")
00:05:09 Blauer Himmel (op 59/2 Auf dem See) ³ (湖上で)
00:08:09 Da unten in Tale läuft Wasser so trüb (WoO 33/6) ⁴ (あの谷底で)
00:10:57 Dämmrung senkte sich von oben (op 59/1) ³ (黄昏は上方から降り来て)
00:15:00 Dein blaues Auge (op 59/8) ¹ (あなたの青い目)
00:17:28 Der Mond steht über dem Berge (op 106/1 Ständchen) ⁵ (セレナード)
00:19:06 Die Blümelein sie schlafen (WoO 31/4 Sandmännchen) ² (眠りの精)
00:22:56 Die ihr schwebet um diese Palmen (op 91/2 Geistliches Wiegenlied) ⁴* (宗教的な子守歌)
00:29:11 Du milchjunger Knabe (op 86/1 Therese) ³ (テレーゼ)
00:31:01 Dunkel, wie dunkel (op 43/1 Von ewiger Liebe) (永遠の愛について)
00:35:36 Es hing der Reif im Lindenbaum (op 106/3) ¹ (リンデの木に霜がおり)
00:39:00 Es lockt und säusselt (op 6/2 Der Frühling) ⁴ (春)
00:41:40 Es steht ein Lind in jenem Tal (WoO 33/41) ⁵ (リンデが立っている)
00:44:26 Es träumte mir, ich sei dir teuer (op 57/3) ¹ (私は夢を見た)
00:47:58 Feinsliebchen, du sollst mir nicht barfuß gehn (WoO 33/12) ⁵ (美しい恋人よ、裸足で来ては駄目だよ)
00:51:10 Geuss’ nicht so laut (op 46/4 An Die Nachtigall) ³ (サヨナキドリに寄せて)
00:54:02 Guten Abend, gut’ Nacht (op 49/4 Wiegenlied) ⁴ (子守歌)
00:56:11 Guten Abend, mein Schatz (op 84/4 Vergebliches Ständchen) ¹ (甲斐なきセレナード)
00:57:59 Ich ruhe still, im hohen grünen Gras (op 86/2 Feldeinsamkeit) ³ (野の孤独)
01:02:13 Immer leiser wird mein Schlummer (op 105/2) ¹ (わが眠りはますます浅くなり)
01:06:24 In dem Schatten meiner Locken (op 6/1 Spanisches Lied) ⁴ (スペインの歌)
01:08:44 In stiller Nacht, zur ersten Wacht (WoO 33/42) ⁵ (静かな夜に)
01:11:39 Mei Mueter mag mi net (op 7/5 Die Trauerende) ⁴ (悲しむ娘)
01:13:28 Mein Lieb ist ein Jäger (op 95/4 Der Jäger) ⁴ (狩人)
01:14:38 Mein wundes Herz verlangt nach milder ruh (op 59/7) ³ (私の傷ついた心)
01:16:20 Meine Liebe ist grün (op 63/5) ³ (わが恋は緑)
01:17:53 Muss es eine Trennung geben (op 33/12) ³ (別れはなければならないのか)
01:21:30 O Frühlingsabenddämmerung (op 71/3 Geheimnis) ³ (秘密)
01:23:28 O kühler Wald, wo rauschest du (op 72/3) ³ (おお涼しい森よ)
01:25:42 O Nachtigall, dein süsser Schall (op 97/1 Nachtigall) ³ (サヨナキドリ)
01:28:16 O versenk’ dein Leid (op 3/1 Liebestreu) ³ (愛の誠)
01:31:08 O wüsst ich doch den Weg zurück (op 63/8) ¹ (おお帰り道を知っていたならば)
01:35:07 Och Modr, ich well en Ding han (WoO 33/33) ⁵ (おお お母さん、ほしいものがあるの)
01:36:49 Rosenzeit, wie schnell vorbei (op 59/5 Agnes) ⁴ (アグネス)
01:40:00 Ruhe, Süssliebchen (op 33/9 Ruhe, Süssliebchen) ³ (憩え、かわいい恋人よ)
01:46:27 Schwalbe, sag’ mir an (op 107/3 Das Mädchen spricht) ⁵ (娘は語る)
01:47:48 Schwesterlein, wann gehn wir nach Haus (WoO 33/15) ⁵ (お姉ちゃん)
01:50:42 Singe Mädchen, hell und klar (op 84/3 In Den Beeren) ⁴ (いちご畑で)
01:52:16 Störe nicht den leisen Schlummer (op 86/3 Nachtwandler) ³ (夢遊病者)
01:56:28 Unbewegte laue Luft (op 57/8) ¹ (そよがぬ生ぬるい風)
02:00:21 Voller, dichter tropft ums Dach da (op 58/2 Während des Regens) ⁵ (雨の間)
02:01:37 Von waldbekränzter Höhe (op 57/1) ⁴ (森に覆われた丘から)
02:04:01 Wann der silberne Mond (op 43/2 Die Mainacht) ³ (五月の夜)
02:07:23 Warum den warten von Tag zu Tag (op 97/3 Komm bald) ¹ (早くおいで)
02:10:03 Wehe, Lüftchen, lind und lieblich (op 47/1 Botschaft) ¹ (使い)
02:12:10 Wenn du nur zuweilen lächelst (op 57/2) ¹ (あなたがほんの時折でも微笑んでくれたら)
02:13:53 Wie Melodien zieht es mir (op 105/1) ¹ (メロディのように)
02:16:08 Wir wandelten, wir zwei zusammen (op 96/2) ¹ (私たちは歩き回った)

Elly Ameling
Rudolf Jansen (1983) ¹→おそらく5枚組CDボックス"80 jaar"に収録された1983年1月14日Concertgebouwでのライヴ録音と思われる。ただし「わが眠りはますます浅くなり」と「便り」は"80 jaar"では1978年10月3日Concertgebouw録音と記載されている。
Rudolf Jansen (1988) ²→おそらくPhilipsレーベルに録音した「歌の翼に」と題されたオムニバス歌曲集と同一音源
Rudolf Jansen (1990) ³→おそらくHyperionレーベルに録音した「ブラームス歌曲集」と同一音源
Dalton Baldwin (1977) ⁴→おそらくPhilipsレーベルに録音した「ブラームス歌曲集」と同一音源
Norman Shetler (1967) ⁵→おそらくHarmonia Mundiレーベルに録音した「ブラームス歌曲集」と同一音源
George Szende - viola *

Editing: Thom Janssen

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ベートーヴェン「女暴君(La tiranna, WoO. 125)」

La tiranna (Canzonetta), WoO. 125
 女暴君 (カンツォネッタ)

Ah, grief to think! Ah, woe to name,
The doom that fate has destined mine!
Forbid to fan my wayward flame,
And, slave to silence, hopeless pine!
 ああ、思うのも悲しい!ああ、名前を言うのも辛い、
 運命の女神が私に予定していた運命!
 私の気まぐれな炎をあおるのを禁じよ、
 そして、沈黙の奴隷よ、絶望した切望よ!

Imperious fair! In fatal hour
I marked the vivid lightning's roll,
That gave to know thy ruthless power
And gleamed destruction on my soul.
 傲慢な美女よ!運命の時に
 私は鮮烈な稲妻の轟の跡をつけた、
 それで汝の無慈悲な力を知るようになり、
 わが魂に破滅が光を放った。

詩:William Wennington (?-?)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827), "La tiranna", WoO. 125 (1798/9)

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もともとタイトルが示すようにイタリア語の詩で、ウィリアム・ウェニントンという1798年の終わりにウィーンにいた英国人が英語に訳したようです。しかしオリジナルのイタリア語詩は現在まで知られていません。

この曲は1798年下旬に作曲され、1799年12月12日にロンドンではじめて出版されました。

現在のところ楽譜を確認出来ていないのですが、比較的手の込んだ作風のように聞こえます。ピアノパートもなかなか雄弁です。第1節は穏やかに進みますが、第2節でドラマティックに展開するところが聞き所でしょうか。最終行の"destruction"を何度も繰り返しているのはベートーヴェンの思いがこの語に込められているのでしょう。最後に再び第1節を歌って締めくくります。

変ホ長調(Es-dur)

●ジョン・マーク・エインスリー(T) & イアン・バーンサイド(P)
John Mark Ainsley(T) & Iain Burnside(P)

エインスリーの美声と表現力、美しい英語のディクションが素晴らしいです。

●ペーター・シュライアー(T) & ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T) & Walter Olbertz(P)

シュライアーが最初の"ah"を「エイ」のように発音しているのが興味深いです。当時の発音なのでしょうか。シュライアーはいつも通りの端正な歌を聴かせてくれています。

●パメラ・コバーン(S) & レナード・ホカンソン(P)
Pamela Coburn(S) & Leonard Hokanson(P)

ここでのコバーンの歌、メロディーが美しく響き素晴らしかったです。ホカンソンが味のある演奏をしています。

●ヴァンサン・リエーヴル=ピカール(T) & ジャン=ピエール・アルマンゴー(P)
Vincent Lièvre-Picard(T) & Jean-Pierre Armengaud(P)

リエーヴル=ピカールが爽やかな声で表情豊かに歌っています。

(参考)

Hyperion - La Tiranna, WoO125

Beethoven-Haus Bonn - La Tiranna

「女暴君(ラ・ティランナ La Tiranna)」——ベートーヴェン唯一の英語の詩にのせた歌曲(平野昭監修)

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ベートーヴェン「オーストリア人の戦の歌(Kriegslied der Österreicher, WoO. 122)」

Kriegslied der Österreicher, WoO. 122
 オーストリア人の戦の歌

1:
Ein großes deutsches Volk sind wir,
Sind mächtig und gerecht.
Ihr Franken das bezweifelt ihr?
Ihr Franken kennt uns schlecht!
Denn unser Fürst ist gut,
Erhaben unser Mut,
Süß uns'rer Trauben Blut,
Und uns're Weiber schön;
Wie kann's uns beßer geh'n?
 我らは偉大なるドイツ民族、
 強力で公正だ。
 君たちフランク人は疑っているのか?
 君たちフランク人は我々のことを知らなすぎる!
 なぜなら我らの君主は善良で
 我らの気力は崇高だ、
 我らの赤ワインは甘く
 我らの女房はべっぴんだ、
 どうして我らに勝てようか。

2:
Wir streiten nicht für Ruhm und Sold,
Nur für des Friedens Glück!
Wir kehren, arm an fremden Gold,
Zu unser'm Herd zurück.
Denn guten Bürgern nur
Blüht Segen der Natur
Auf Weinberg, Wald und Flur.
Gerecht ist unser Krieg;
Uns, uns gehört der Sieg!
 我らが戦うのは栄誉や金のためではなく、
 ただ平和の幸せのためなのだ!
 我らは異国の金などほとんど持たずに
 我が家に帰還する。
 なぜなら善良な国民のみに
 自然の祝福が花咲くから
 ワイン畑や森や野原に。
 我らの戦争は正当だ、
 我らのもの、勝利は我らのもの!

3:
Mit Piken, Sensen und Geschoß
Eilt Klein und Groß herbei!
Für's Vaterland stimmt Klein und Groß,
Stimmt an das Feldgeschrei!
Da steh'n wir unverwandt
Für Haus und Hof und Land
Mit Waffen in der Hand
Und schlagen mutig d'rein,
Wie viel auch ihrer sei'n!
 長槍、大鎌や弾丸を装備して
 子供も大人も急いでこっちに来い!
 祖国のためを思い、子供も大人も
 合言葉はぴったり合う!
 そこに我らは目をそらさず立つ、
 家や庭や土地のために
 手に武器を持ち
 勇敢に殴るのだ、
 相手が何人いようと!

4:
Mann, Weib und Kind in Österreich
Fühlt tief den eig'nen Wert.
Nie, Franken! werden wir von euch
Besieget, nie betört.
Denn unser Fürst ist gut,
Erhaben unser Mut,
Süß uns'rer Trauben Blut,
Und uns're Weiber schön;
Wie kann's uns beßer geh'n?
 オーストリアの男も女も子供も
 心深く固有の価値を感じている。
 フランク人よ!決して我らは君たちに
 負けたり魅了されたりはしない。
 なぜなら我らの君主は善良で
 我らの気力は崇高だ、
 我らの赤ワインは甘く
 我らの女房はべっぴんだ、
 どうして我らに勝てようか。

詩:Josef Friedelberg (1781?-1800)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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1年前の作品「ヴィーン市民への別れの歌(Abschiedsgesang an Wiens Bürger, WoO. 121)」の詩を書いた義勇軍少尉ヨーゼフ・フリーデルベルクがこの曲でも詩を採用されています。

作曲の経緯については、平野昭氏が下記リンク先に記しておられます。
 「オーストリアの戦いの歌(クリークスリート)」――ナポレオン進軍に抗う軍歌

作曲は1797年3月下旬から4月上旬とのことです。

この曲は楽譜に合唱の歌う箇所(各節最後の1行)が明記されています。
それにしてもこういうドイツ系の戦争の歌は暗黙の了解でこう作曲するというような決まり事があるのでしょうか。進軍する様を模しているように一定のリズムが貫かれていたり、クライマックスに向けて音を段階的に高めていく手法など、どことなくモーツァルトの「私の願い(ドイツの戦の歌)K 539」を思い出しました。

2/2拍子
ハ長調 (C-dur)
Muthig (勇敢に)

●ヘルマン・プライ(BR) & ハインリヒ・シュッツ・クライス・ベルリン & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Heinrich Schütz Kreis, Berlin & Leonard Hokanson(P)

1~4節。プライは親分肌で周囲をぐいぐい引っ張っていく感じがします。

●フローリアン・プライ(BR) & 合唱 & ノルベルト・グロート(P)
Florian Prey(BR) & Chor & Norbert Groht(P)

1~4節。フローリアンの清涼感のある声は、軍を引っ張っていくというよりも周りから慕われている同僚という印象を受けました。

●コンスタンティン・グラーフ・フォン・ヴァルダードルフ(BR) & ヴィーン・グスタフ・マーラー合唱団 & クリスティン・オーカーランド(P)
Constantin Graf von Walderdorff(BR) & Gustav Mahler Chor Wien & Kristin Okerlund(P)

1~4節。ヴァルダードルフのいつもながらの朴訥とした歌唱が、戦争の歌であることを忘れさせてくれます。

●ヴァンサン・リエーヴル=ピカール(T) & ジョン・バーナード(T) & ジャン=フランソワ・ルッション(BR) & ジャン=ピエール・アルマンゴー(P)
Vincent Lièvre-Picard(T) & John Bernard(T) & Jean-François Rouchon(BR) & Jean-Pierre Armengaud(P)

1,4節。リエーヴル=ピカールの素直な歌いぶりは大衆の歌であることを思い出させてくれます。

●ピアノパートのみ(Marco Santià(P))(原調による演奏)
Sing with me - L. V. Beethoven - Kriegslied der Österreicher (high/medium voice)

ピアノパートのみですが、右手が歌声部を完全になぞっているので、これだけでも作品として成立しています。4回演奏しているので、全節歌えます!

(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

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ベートーヴェン「ヴィーン市民への別れの歌(Abschiedsgesang an Wiens Bürger, WoO. 121)」

Abschiedsgesang an Wiens Bürger, WoO. 121
 ヴィーン市民への別れの歌

1:
Keine Klage soll erschallen,
Wenn vom hier die Fahne zieht,
Tränen keinem Aug' entfallen,
Das im Scheiden nach ihr sieht.
Es ist Stolz auf diese Zierde
Und Gefühl der Bürgerwürde,
Was auf Aller Wangen glüht.
 嘆きの声を響かせるな、
 ここから旗を持って行くとき
 涙は目から消え
 目は別れの場面で彼女を見る。
 この装飾は誇らしく、
 市民としての尊厳を感じる、
 それは皆の頬に燃え上がる。

2:
Freunde! wünscht ihr Siegestönen
Uns zur edlen Reise Glück.
Heiter, folg' uns nach ihr Schönen!
Euer seelenvoller Blick!
Unser's Landes Ruhm zu mehren,
Zieh'n wir mutig hin und kehren
Würdiger zu euch zurück.
 友人たちよ!勝利の音を願え、
 我らの気高き旅に幸運を。
 元気を出せ!我らの後を続け、美しい彼女の方へ!
 君たちの心のこもった眼差し!
 我らの国の栄誉を増すために
 我らは勇敢にも進軍し
 堂々と君たちのもとに帰るのだ。

3:
Trotzend steh'n vor Donnerschlünden
Kann wohl auch der Bösewicht.
Milden Sinn und Mut verbinden,
Menschheit ehren kann er nicht!
Nie das Glück der Tugend trüben,
Brüderlich den Landmann lieben:
Das ist deutscher Helden Pflicht!
 反抗して雷の源の前に
 立つことなら悪者でもできる。
 穏やかな感覚と勇気を結び付けて
 人を敬うことが悪者には出来ないのだ!
 徳の幸運が曇ることはなく
 同胞として国民を愛す。
 これこそドイツの英雄の義務なのだ!

4:
Freu't euch, Väter, jubelt, Mütter!
Nirgend, wo das Corps erscheint,
Nicht bei Feinden, wird ihm bitter
Von der Unschuld nachgeweint.
Edel wollen wir uns rächen,
Schweigen bis die Taten sprechen,
Sie bewund're selbst der Feind!
 喜べ、父親たち、歓呼せよ、母親たち!
 軍があらわれる所どこでも
 敵軍のところでも
 純真さゆえに彼との別れを悲しんでさめざめと泣くことはない。
 高潔さをもって我らは報復しよう、
 行動が語るまでは沈黙だ、
 敵でさえ彼らには敬意を表する!

5:
Bess're Menschen, bess're Bürger,
Als wir nun von hinnen geh'n,
Keine sittenlose Würger,
Sollt ihr in uns wiederseh'n.
Unser Wien empfängt uns wieder,
Ruhmbekränzet, stark und bieder;
Auf! laßt hoch die Fahne weh'n!
 より良い人たちよ、より良い市民たちよ、
 我らが死ぬとき、
 不品行な絞殺者でなく
 君たちは我らに再会してほしい。
 我らのヴィーンは再び我らを出迎える、
 栄誉の冠をかぶり、力強く、実直に。
 さあ!高く旗をなびかせろ!

6:
Laßt uns folgen dieser Fahne,
Durch Theresens Kunstwerk reich;
Deren Goldband uns ermahne:
Tugend mach uns Fürsten gleich.
Ha! wenn wir zurück sie bringen,
Wollen wir im Jubel singen:
Dieses Band hielt Österreich!
 この旗のあとに続いて行こう、
 テレージアの見事な芸術作品によって、
 その金のリボンは我らに戒めるだろう、
 徳は我らも侯爵も平等にするのだと、
 さあ!我らが旗を持ち帰るとき
 歓声をあげて歌おう、
 このリボンがオーストリアを守ってきたのだ!

詩:Josef Friedelberg (1781?-1800)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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この歌曲の成立事情は平野昭氏の解説に詳しく書かれています。
https://ontomo-mag.com/article/playlist/oyasumi094-20200318/

当時オーストリアはナポレオン軍に脅かされ、その状況の中で義勇軍が組織されます。この詩を書いたヨーゼフ・フリーデルベルクはヴィーンの義勇軍少尉だそうです。旗には王妃直筆の言葉が刺繍されていたそうで(初版楽譜のコメントによる)、テキストの「装飾」とか「芸術作品」というのはそのことを指しているものと思われます。

ベートーヴェンは、この曲を1796年10月終わり、あるいは1796年11月始めに作曲しました。
全6節の有節歌曲で、各節最後の3行が繰り返されますが、多くの録音ではその繰り返しを合唱団が歌います(楽譜にはその指示はありません)。

ちなみにこの曲の初版楽譜では、タイトルは「ヴィーン義勇兵団の軍旗師団出発に際してのヴィーン市民への別れの歌(Abschiedsgesang an Wiens Bürger beim Auszug der Fahnendivision des Corps der Wiener Freiwilligen)」と記されています。

4/4拍子
ト長調(G-dur)
Entschlossen und feurig (決然として熱っぽく)

●ヘルマン・プライ(BR) & ハインリヒ・シュッツ・クライス・ベルリン & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Heinrich Schütz Kreis, Berlin & Leonard Hokanson(P)

1,2,6節。プライが歌うと別れの場面でも力強く背中を押されるような気がします。プライは最終節の合唱団のパートでも一緒に歌っていますが、その一番最後の締めのところを是非聞いてみて下さい!

●フローリアン・プライ(BR) & 合唱団 & ノルベルト・グロート(P)
Florian Prey(BR) & Chor & Norbert Groht(P)

1,2,5,6節。フローリアンの歌唱は先導するリーダーシップがありながらもノーブルな気品が漂っているように思いました。

●ギュンター・ライプ(BR) & ヴァルター・オルベルツ(P)
Günther Leib(BR) & Walter Olbertz(P)

1,3,5節。穏やかなライプの響きは聴いていて心地よいです。

●コンスタンティン・グラーフ・フォン・ヴァルダードルフ(BR) & ヴィーン・グスタフ・マーラー合唱団 & クリスティン・オーカーランド(P)
Constantin Graf von Walderdorff(BR) & Gustav Mahler Chor Wien & Kristin Okerlund(P)

1-6節。全節を歌った貴重な録音。ヴァルダードルフの朴訥とした響きがいいです。

●ヴァンサン・リエーヴル=ピカール(T) & ジャン=ピエール・アルマンゴー(P)
Vincent Lièvre-Picard(T) & Jean-Pierre Armengaud(P)

1,2,5,6節。実直な歌い方がこの曲に合っているように感じられます。

(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

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ベートーヴェン「優しい愛 "君を愛す"(Zärtliche Liebe "Ich liebe dich", WoO 123)」

Zärtliche Liebe "Ich liebe dich", WoO 123
 優しい愛 "君を愛す"

Ich liebe dich, so wie du mich,
Am Abend und am Morgen,
Noch war kein Tag, wo du und ich
Nicht teilten unsre Sorgen.
 ぼくは君を愛している、君がぼくを愛しているのと同じように、
 夕方も朝も
 君とぼくが
 ぼくたちの心配ごとを分かち合わない日などまだなかった。

Auch waren sie für dich und mich
Geteilt leicht zu ertragen;
Du tröstetest im Kummer mich,
Ich weint in deine Klagen.
 心配ごとも君とぼくで
 分かち合って容易に耐えられた。
 君はぼくが苦しんでいた時に慰めてくれて、
 ぼくは君が嘆き悲しんだ時に泣いたのだった。

Drum Gottes Segen über dir,
Du, meines Lebens Freude.
Gott schütze dich, erhalt dich mir,
Schütz und erhalt uns beide.
 だから君に神の祝福がありますように、
 君、ぼくの人生の喜びよ。
 君に神のご加護がありますように、いつまでもお元気で、
 ぼくら二人とも神のご加護があり、元気でいられますように。

詩:Karl Friedrich Wilhelm Herrosee (1764-1821), "Die Liebenden"
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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ベートーヴェンの歌曲中「アデライーデ」と共に非常に親しまれている「優しい愛(君を愛す)」は1795年に作曲され、1803年に初版が出版されました(「別れ(La partenza, WoO 124)」と同時に)。

曲はA-B-A'の形式からなり、分散和音に乗って、素朴で流麗な歌のメロディーが印象的です。調も最初のト長調から途中で属調のニ長調になり、最後に再びト長調に戻るという平和な展開です。最後の節では歌は締めくくりに高く盛り上がります。静かに愛を語っていたら、感極まって最後は盛り上がってしまったという感じでしょうかね。楽譜を見るとこの短い2ページの作品の中に強弱の指示などが細かく書かれているので、ベートーヴェンの思いがこの小品に詰まっていると言ってもいいのではないでしょうか。

人気曲だけあって、動画サイトにはコンサートで演奏された時などの映像がたっぷりアップされていました。お気に入りの演奏を探してみるのもいいですね。

2/4拍子
ト長調(G-dur)
Andante

●フリッツ・ヴンダーリヒ(T) & フーベルト・ギーゼン(P)
Fritz Wunderlich(T) & Hubert Giesen(P)

チャンネル名:フリッツ・ヴンダーリヒ - トピック
ヴンダーリヒの歌声の響きは稀有のものだと思います。こんなに甘くて美しい声でこの曲を歌う人がいるとはベートーヴェンも想像していなかったのでは。

●ヘルマン・プライ(BR) & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Leonard Hokanson(P)

チャンネル名:ヘルマン・プライ - トピック
神のご加護を願うところの歌い上げる感じがたまらなく素晴らしいです!

●ペーター・シュライアー(T) & ルドルフ・ブフビンダー(P)
Peter Schreier(T) & Rudolf Buchbinder(P)

チャンネル名:가곡듣자
一途な告白という感じですね。確か1970年代の映像だったと思います。シュライアー若いですね。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)

チャンネル名:SuperClassic Channel
ライヴ録音:1965/08/13, Mozarteum, Salzburg。F=ディースカウとは思えないほどゆったりテンポのロマンティックな歌唱に驚きました。こういう彼の歌唱は珍しいのでは?

●アーリーン・オージェ(S) & エリク・ヴェルバ(Hammerklavier)
Arleen Augér(S) & Erik Werba(Hammerklavier)

チャンネル名:Operazaile operazaile
1978年録音。ゆっくり目のテンポで思いをこめたオージェの透明な美声が心地よいです。ヴェルバは珍しくハンマークラヴィーアを演奏しています。

●エルンスト・ヘフリガー(T) & エリク・ヴェルバ(P)
Ernst Haefliger(T) & Erik Werba(P)

チャンネル名:エルンスト・ヘフリガー・トピック
誠実そのものといったヘフリガーの歌に胸をつかまれます。

●オーラフ・ベーア(BR) & ジェフリー・パーソンズ(P)
Olaf Bär(BR) & Geoffrey Parsons(P)

チャンネル名:オラフ・ベーア - トピック
ベーアの柔らかい歌唱は、繊細で夢見がちなロマンチストの歌というイメージが浮かびます。

●ピアノパートのみ(吉田幸央(P))
【ピアノ伴奏】君を愛す L.v.ベートーヴェン Ich liebe dich (Zärtliche Liebe) K.F.Herrosee/L.v.Beethoven "Piano Karaoke"

チャンネル名:ピアニスト吉田幸央Sachio Yoshida
吉田さんの演奏に合わせて一緒に歌ってみましょう!

<参考>
The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

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ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ1963年~1992年来日公演記録(Dietrich Fischer-Dieskau in Japan)

不世出の大バリトン、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)の誕生日(5月28日)に記事が書けなかったので、遅ればせながら彼の96回目の生誕記念日(2021年現在)を祝して、過去に書いたF=ディースカウの来日公演記録の目次(リンク集)を今日アップします。
1992年大晦日をもって歌手としての活動を終えた彼ですが、その後指揮者として来日予定だったところまでは記憶しているのですが、実際に来日したかどうか未確認です。
従って、下記の目次は歌手としてのF=ディースカウの来日公演全記録ということになります。
今思えば、彼ほどの歌手が数年おきに来日してくれたとは日本の招聘元に感謝しないといけませんね。もちろんF=ディースカウ本人にも感謝です。

1.フィッシャー=ディースカウ日本公演曲目1963年(初来日)

2.フィッシャー=ディースカウ日本公演曲目1966年(第2回来日)

3.フィッシャー=ディースカウ日本公演曲目1970年(第3回来日)

4.フィッシャー=ディースカウ日本公演曲目1974年(第4回来日)

5.フィッシャー=ディースカウ日本公演曲目1977年(第5回来日)

6.フィッシャー=ディースカウ日本公演曲目1979年(第6回来日)

7.フィッシャー=ディースカウ日本公演曲目1981年(第7回来日)

8.フィッシャー=ディースカウ日本公演曲目1983年(第8回来日)

9.フィッシャー=ディースカウ日本公演曲目1987年(第9回来日)

10.フィッシャー=ディースカウ日本公演曲目1989年(第10回来日)

11.フィッシャー=ディースカウ日本公演曲目1992年(第11回来日)

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ベートーヴェン「アデライーデ(Adelaide, Op. 46)」

Adelaide, Op. 46
 アデライーデ

Einsam wandelt dein Freund im Frühlingsgarten,
Mild vom lieblichen Zauberlicht umflossen,
Das durch wankende Blüthenzweige zittert,
Adelaide!
 ひとりきりであなたの友は春の庭をぶらつく、
 穏やかに、愛らしい魔法の光に包まれて、
 花々の枝がゆらぐことによって震える光に、
 アデライーデよ!

In der spiegelnden Fluth, im Schnee der Alpen,
In des sinkenden Tages Goldgewölke,
Im Gefilde der Sterne strahlt dein Bildniß,
Adelaide!
 きらめく大河で、アルプスの雪の中で、
 日が沈むころの金色の雲の中で、
 星々の広がる中で、あなたの姿が輝く、
 アデライーデよ!

Abendlüftchen im zarten Laube flüstern,
Silberglöckchen des Mais im Grase säuseln,
Wellen rauschen und Nachtigallen flöten:
Adelaide!
 柔らかい木の葉の中、夕暮れの風がささやき、
 五月の銀色の鐘状花は草地で音をたて、
 波はざわめき、サヨナキドリはさえずる、
 アデライーデよ!

Einst, o Wunder! entblüht, auf meinem Grabe,
Eine Blume der Asche meines Herzens;
Deutlich schimmert auf jedem Purpurblättchen:
Adelaide!
 いつの日か、おお奇跡ではないか!私の墓に
 わが心の灰の花が咲き、
 くっきりと深紅の葉っぱの上で微光を放つのだ、
 アデライーデよ!

詩:Friedrich von Matthisson (1761-1831), "Adelaide", written 1788, appears in In der Fremde (Schweiz und Frankreich) (1787-1794)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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ベートーヴェンの歌曲中、最も有名な中の1曲「アデライーデ」は24歳頃に着手し、26歳頃に完成しました(1794年終わり~1795年着手、1795年あるいは1796年終わりに完成)。

ベートーヴェンは、マッティソンのこのテキストの詩行を大量に繰り返して、壮大な歌曲に拡大しました。
繰り返しをすべて[ ]内(赤字)に記載して以下記してみます。

Einsam wandelt dein Freund im Frühlingsgarten,
Mild vom lieblichen Zauberlicht umflossen,
Das durch wankende Blüthenzweige zittert,
Adelaide!
[Adelaide!]

In der spiegelnden Fluth, im Schnee der Alpen,
In des sinkenden Tages Goldgewölke,
Im Gefilde der Sterne strahlt dein Bildniß,
 [dein Bildniß,]
Adelaide!
 [In des sinkenden Tages Goldgewölke,
 Im Gefilde der Sterne strahlt dein Bildniß,
 dein Bildniß,
 Adelaide!]

Abendlüftchen im zarten Laube flüstern,
Silberglöckchen des Mais im Grase säuseln,
Wellen rauschen und Nachtigallen flöten:
 [Wellen rauschen und Nachtigallen flöten:]
Adelaide!
 [Abendlüftchen im zarten Laube flüstern,
 Silberglöckchen des Mais im Grase säuseln,
 Wellen rauschen und Nachtigallen flöten:
 und Nachtigallen flöten:
 Adelaide!
 Adelaide!]

Einst, o Wunder! [o Wunder!] entblüht, auf meinem Grabe,
 [o Wunder! entblüht, auf meinem Grabe,]
Eine Blume der Asche meines Herzens;
 [der Asche meines Herzens;]
Deutlich schimmert [deutlich schimmert] auf jedem Purpurblättchen: [auf jedem Purpurblättchen:]
Adelaide!
 [Adelaide!]
 [Einst, o Wunder! einst, o Wunder! entblüht, ach entblüht, auf meinem Grabe,
 Eine Blume der Asche meines Herzens;
 der Asche meines Herzens;
 Deutlich schimmert, deutlich schimmert auf jedem Purpurblättchen: auf jedem Purpurblättchen:
 Adelaide!
 Adelaide!]
 [Deutlich schimmert auf jedem Purpurblättchen: auf jedem Purpurblättchen:
 Adelaide!
 Adelaide!
 Adelaide!]

この繰り返しの多さを見ると、マッティソンのテキストの世界を表現するというよりは、そのテキストを借りて抒情歌曲の範疇を超えた新たな試みをしたという感じでしょうか。
器楽曲のような展開に合わせて詩を繰り返し、うまくいかないところは新たな語を挿入したりしています(例えば第4節の"entblüht"の後に挿入された"ach")。
第4節の"Eine Blume der Asche meines Herzens(わが心の灰の花が);"を繰り返す時に最初の"Eine Blume"を除いて、"der Asche meines Herzens(わが心の灰の)"のみを繰り返すのは詩の意味的に考えるとあまり好ましくはないように感じます。ここの繰り返し方については、テキストの必然性によるのではなく、楽曲のメロディーの展開にうまくはめる為の策と理解してもいいように思います。
もちろん各節最後の「アデライーデよ!」と呼びかけるところに重点を置いている点はマティソンの詩に従っていると言えると思います。
従来の歌曲を超えた作品と言えなくもない「アデライーデ」ですが、作品のもつ輝きは昔から失せることはなく、動画サイトにアップされている映像の多さも、この曲の人気の高さを物語っていると思います。
ピアノパートは、歌うところ、和音連打するところ、分散和音にするところ等、様々なパターンを次々繰り広げて、器楽曲のような発想にも感じられましたが、波のざわめきやサヨナキドリの響きなどの描写はしっかり行っています。

4/4拍子-2/2拍子(第4節)
Larghetto-Allegro molto(第4節)
変ロ長調(B-dur)

なお、同じテキストにシューベルトも作曲しています(Adelaide, D 95)が、思いを寄せるアデライーデに向けた抒情的な作品です。こちらはベートーヴェンと対照的な爽やかな小品でもっと知られてもいいように思います。

余談ですが、Adelaideというとオーストラリアの都市アデレードと同じ綴りですね。この都市の名前は19世紀イギリス国王ウィリアム4世の王妃の名前に因んでいるのだそうです(Wikipedia)。

●フリッツ・ヴンダーリヒ(T) & フーベルト・ギーゼン(P)
Fritz Wunderlich(T) & Hubert Giesen(P)

これはもう不滅の名演奏です!この甘く流麗な美声にただただ酔いしれていたいです。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ヴォルフガング・サヴァリシュ(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Wolfgang Sawallisch(P)

1974年収録映像。徐々に円熟期に向かおうという時期のF=ディースカウの映像がこうして残されたのは有難いです。第1節の"Zauberlicht"の柔らかい歌い方のなんと魅力的なことでしょう!

●ヘルマン・プライ(BR) & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Leonard Hokanson(P)

プライの良さがすべて詰まった録音ですね。アデライーデへの熱く優しい語りかけが真実味をもって歌われていてとてもいいです。

●ペーター・シュライアー(T) & ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T) & Walter Olbertz(P)

シュライアーが歌うと、内省的な詩人が春の庭を静かに散歩している情景が思い浮かびます。

●アンネ・ソフィー・フォン・オッター(MS) & メルヴィン・タン(Fortepiano)
Anne Sofie von Otter(MS) & Melvyn Tan(Fortepiano)

オッターの歌唱は愛らしい雰囲気で、少年が年上の女性に向けて歌っているような感じでした。女声による演奏もいいですね。

●フランツ・リストによるピアノ独奏用編曲(Adelaide, S. 466 / R. 121)(Ian Yungwook Yoo (piano))
Liszt - Adelaide von Beethoven, S466iii (Yoo)

楽譜を見ながら聞くことが出来ます。最初の方はオリジナルに比較的忠実に進むのですが、途中から「アデライーデのテーマによるパラフレーズ」とでも言いたくなるようなピアニスティックな展開が盛り込まれていました。後半はまたオリジナルに沿って進み、締めくくります。魅力的な演奏でした。

●カール・チェルニーによるピアノ連弾用編曲(Adamar Piano Duo (piano))
Adelaide op 46 -Ludwig van Beethoven arr C. Czerny

チェルニーというのはピアノの教則本でお馴染みの作曲家、ピアノ指導者です。リスト編曲のような大胆な展開はなく、オリジナルの歌曲を尊重した編曲です。原曲を知らない人はリストよりもこちらを先に聴いた方がいいかもしれませんね。サロン風のスペースで実際に聞いているような気持ちになる素敵な映像でした。

●シューベルト作曲「アデライーデ(Adelaide, D 95)」
マルクス・ウルマン(T) & ウルリヒ・アイゼンローア(Fortepiano)
Marcus Ullmann(T) & Ulrich Eisenlohr(Fortepiano)

シューベルトによる同じテキストの作品は、A-B-C-Aの形式の抒情的な小品です。この短い作品の中で詩の内容に応じた細やかな描写が聞かれるのが興味深いです。一番最後に繰り返される"Adelaide!"で一瞬影を落とすところがシューベルトらしくていいですね。

<参考>
The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

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