ヘルマン・プライ&ヘルムート・ドイチュ(Hermann Prey & Helmut Deutsch)/ブラームス『四つの厳粛な歌(Vier ernste Gesänge)』(1984年)他
ヘルマン・プライとヘルムート・ドイチュが、ブラームスの歌曲集『四つの厳粛な歌』とおそらくアンコールとしてドイツ民謡集から1曲を演奏した1984年の貴重なライヴ録音がアップされていました(場所は不明)。
HERMANN PREY: Brahms Four Serious Songs
動画投稿者:Jussi TT van Vick - 'The Opera Addict'
ブラームス/歌曲集『四つの厳粛な歌(Vier ernste Gesänge, Op. 121)』
0:00 人の子らの運命と動物の運命は同じであり(Denn es gehet dem Menschen)
4:57 私は再び太陽の下で行われるあらゆる虐げを見た(Ich wandte mich, und sahe an)
9:36 ああ死よ、お前を思い出すのはなんとつらいことか(O Tod, wie bitter bist du)
14:30 たとえ、人々の異言、天使たちの異言を語ろうとも(Wenn ich mit Menschen- und mit Engelszungen redete)
20:35 ブラームス/ぼくの娘はバラのように赤い口をしている(Mein Mädel hat einen Rosenmund)
録音:1984年、場所不詳
ヘルマン・プライ(Hermann Prey)(BR)
ヘルムート・ドイチュ(Helmut Deutsch)(P)
当時55歳のプライの歌唱が楽しめます。噛みしめるように一語一語に思いをこめたプライの歌は、若かりし頃とは異なる重みがあって、聴いていて背筋の伸びる思いがします。
ドイチュも当時のプライのたっぷりとしたテンポに合わせるように、丁寧で硬質な響きを美しく奏でています。
アンコールのブラームス編曲によるドイツ民謡集ではシリアスな雰囲気から解放されて、プライ節全開ですね。
この短い1曲に彼の魅力が詰まっています。
プライは前へ前へ畳みかけるかと思えば、極上のピアニッシモを聞かせたりと、その押したり引いたりの駆け引きが素晴らしく(ドイチュも完全に一体になっていて素晴らしいです)、息が吹き込まれて曲が喜んでいるかのようです。
アンコールが終わった後の熱烈な拍手が会場の状況を伝えてくれていますね!
(参考文献)
Wikipedia:4つの厳粛な歌
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もう1つ、プライの動画がアップされていました。1968年12月14日放映のドイツのクイズ番組(1時間46分もの長時間番組!)の中で歌を披露するプライの映像を見ることが出来ます。
「勝つのは一人(Einer wird gewinnen)」というクイズ番組のようですが、ところどころに歌が挿入され、しかも収録会場で歌っているようです。
これまでプライの歌ったところだけを抜き出して動画サイトにアップされていましたが、こうして番組全体で見ると、どういう流れでプライが登場したのかが分かって興味深いです。
ルチア・ポップも登場してロッシーニの『セビリアの理髪師』のロジーナのアリアを歌っています(28:11)。とても若々しい美声でコロコロ声を転がし、容姿も美しいです。
Einer wird gewinnen (BRD 1968) Kulenkampff, R.Blanco, H.Prey
動画投稿者:Mario Thieme
1:30:05 司会者がプライを紹介する
1:30:37 トンマーゾ・ジョルダーニ(Tommaso Giordani)/カロ・ミオ・ベン(Caro mio ben)
1:34:08 エドゥアルト・エーベル(Eduard Ebel)/静かに雪が降る(Leise rieselt der Schnee)(プライ&ヴィーン少年合唱団)
1968年の映像ですが、映りがとても鮮明で時代を感じさせません。
若かりしプライの甘い美声が堪能できます!
たった7分間の演奏の為にプライにオファーするとは贅沢ですね。
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コメント
フランツさん、こんばんは。
まず、楽しそうなこちらをまず、拝見しました。
〉たった7分間の演奏の為にプライにオファーするとは贅沢ですね。
本当にそうですね!
この頃、プライさんは精力的にテレビに出ていたようですね。
部分的に見たこの映像。面白いボックスにオケが入っているなあと、思っていましたが、こういう番組だったんですね。
よくぞ見つけて下さいました(*^^*)
映像も、53年も前のものとは思えないきれいなものですね。
ブラームス聞いたらまた、コメントしますね♪
投稿: 真子 | 2021年5月14日 (金曜日) 20時50分
フランツさん、こんばんは。
名唱でした!
素晴らしかったです。
どこまでも伸びていく、と評された朗々と響く声に酔いしれました。
バスバリトン的な音色になり、やや渋みを加えたこの時期のプライさんの声と荘厳な曲がよく合ってぃすね。
しかしながら、第三曲では甘みも聞かせてくれますね。
高音から低音までの広い音域を、音色を変えずに豊かに響かせることができるのは、プライさんならでは。
若い頃より言葉に重きを変えたかにみえながら、メロディラインは滑らかなのも素晴らしい特性ですよね。
やっぱりプライさんの歌はいいなあ、と思いました。
彼はこの曲を好きなようですね。若い頃から何度も録音しています。
私も大好きです。出だしから印象的で惹き付けられます。
EMIclassics盤の解説には「リートの限界ぎりぎりの作品である」と、書かれています。
第1、2曲は、旧約聖書「コヘレト(伝道)の書」から歌詞が取られていますが、この書は「空の空。一切は空である」と、いうまるで般若心経のような文言で始まります。
一見虚無的でありますが、
印象的な聖句が散りばめられた、とても魅力的な書です。
第3曲は、旧約聖書続編「シラ書」から取られています。
カトリック教会では正典ですが、プロテスタントの聖書には入っていません。
第4曲は、新約聖書から。使徒パウロが書いた有名な「愛の讃歌」と呼ばれている、コリントの信徒への手紙第一13章から取られています。
「愛がなければ無に等しい。・・・
信仰と希望と愛はいつまでも残る。その中でもっとも大いなるものは愛である。」
と、パウロは語ります。
アンコールのドイツ民謡も素晴らしいですね! この曲もプライさんはお好きなようですね。自由自在に曲を操りながらも嫌みにならないところはさすがです。
素晴らしい音源を見つけてくださってありがとうございます。
しばらく繰り返し聴くことになりそうです(^^)
投稿: 真子 | 2021年5月14日 (金曜日) 23時05分
真子さん、こんばんは。
早速聴いてくださり、有難うございます。
>部分的に見たこの映像。面白いボックスにオケが入っているなあと、思っていましたが、こういう番組だったんですね。
普通のコンサート会場ではないボックスで演奏していて面白いですよね。テレビ番組のセットと分かると納得ですね。
>バスバリトン的な音色になり、やや渋みを加えたこの時期のプライさんの声と荘厳な曲がよく合ってぃすね。
80年代以降のプライは貫禄が加わって、声の響きがより厚みを増しているように感じます。
>若い頃より言葉に重きを変えたかにみえながら、メロディラインは滑らかなのも素晴らしい特性ですよね。
言葉の重視と滑らかなメロディーラインを両立させるのは結構難しいのではないかと想像しますが、プライはこともなげに実現していますね!
>やっぱりプライさんの歌はいいなあ、と思いました。
本当に歌を聴くという純粋な楽しみを思い出させてくれますよね。
>彼はこの曲を好きなようですね。若い頃から何度も録音しています。
私も大好きです。出だしから印象的で惹き付けられます。
私の知る限りでは、ディーター・ツェヒリン、マルティン・メルツァー、ジェラルド・ムーアと録音しています。
ドイチュとは80年代にブラームス歌曲集を録音していますが、『四つの厳粛な歌』は含まれていませんでしたので、今回ライヴ音源が聞けて良かったです。
>EMIclassics盤の解説には「リートの限界ぎりぎりの作品である」と、書かれています。
従来のリートの枠に収まらない作品なのかもしれませんね。
それから『四つの厳粛な歌』のテキストの解説を有難うございます。
テキストが聖書からとられているので、真子さんに教えていただけて勉強になりました。
一切は空であるというのはなんだか仏教っぽいなぁとは思っていました。確かに般若心経を思い出しました。
第3曲のテキストはプロテスタントの聖書には含まれていないのですね。
「愛がなければ無に等しい」というのは素晴らしいメッセージですね。万物に対する無償の愛でしょうか。
アンコールも含めて気に入っていただけて良かったです。やはり思いがけずライヴ音源がアップされていると嬉しいものです。
今後も何か見つかりましたらご紹介しますね。
投稿: フランツ | 2021年5月15日 (土曜日) 19時45分
フランツさん、こんにちは。
今年は梅雨入りが早くなりそうですね。今も激しく降りだしましたが、プライさんの声を聞くと気持ちが晴れます。
さて、私は「ブラームスの四つの厳粛な歌」においても、プライさんの歌から安らぎを感じます。
〉「愛がなければ無に等しい」というのは素晴らしいメッセージですね。万物に対する無償の愛でしょうか。
そうですね。そういう愛です。
新約聖書は、ギリシャ語で書かれているのですが、ここでの「愛」は、ギリシャ的特色の強い「エロース」を避け、当時あまり用いれていなかった「アガペー」によって表したようです。
それは、おっしゃるような無償の愛、自己犠牲的な愛を表します。
私など、禁欲的なイメージも持っています。
しかしながら、プライさんが歌う第四曲(コリントの信徒への手紙から)を聞いていますと、アガペーやエロースの区別はないかのように聞こえるのです(特に後半から最終行は、まさに愛の讃歌です)。
それは、バッハのかンタータを聞いていても感じる点です。
神への愛も、恋する異性への愛も根っこは同じなんだという、彼のメッセージなのかもしれないという気がします。
第二曲は甘ささえ加えて歌っていますよね。
伝統的に虚無的ものとして、コヘレトの言葉は読まれてきました。
が、この書の研究者である小友聡先生は、一貫して「生きよ」とコヘレトは呼び掛けていると解きます。虐げられた者へ温かい眼差しを向け、現状は理不尽で辛いけれど、それでも生きよ、という励ましの書なのだと。
ブラームスが生きた時代には、このような読み方はされていなかったでしょうし、プライさんも耳にしていないかと思います。
しかし、この詞にこのような曲をつけたブラームスと、このように歌ったプライさん。
小友先生がおっしゃったような事を、もし頭のどこかで感じていたとしたらすごいなあ、などと思いながら聞きました。
私にとっても絶妙なタイミングでのこの曲のご紹介で、何か不思議なめぐりあわせすら感じています。感謝です。
曲の性質から、少々宗教的な内容になってしまいました。
もし、不適切なら削除してくださいね。
また貴重な音源がありましたら、よろしくお願いいたします(^^)
投稿: | 2021年5月16日 (日曜日) 11時50分
真子さん、こんにちは。
関東も昨日からずっと雨模様で、今日は風も強いです。
梅雨に早く入ったとしても、早く抜けてくれるといいなぁと思います。
『四つの厳粛な歌』についてのご説明を有難うございます。
やはり聖書が身近な真子さんにいろいろ教えていただけますと理解が深まります。
愛というのはアガペーとエロースがあるのですね。
エロースを避けて「無償の愛、自己犠牲的な愛」を意味するアガペーが使われていたとのこと、広い意味での愛なのですね。
>虐げられた者へ温かい眼差しを向け、現状は理不尽で辛いけれど、それでも生きよ、という励ましの書なのだと。
なるほど勉強になります。
辛い境遇の方へ温かい目を向けておられるのですね。
なんだか現在の自粛を強いられているあらゆる人々へのメッセージのようにも感じられました。
>曲の性質から、少々宗教的な内容になってしまいました。
もし、不適切なら削除してくださいね。
いえいえ、西洋音楽を語るうえでキリスト教は欠かすことの出来ない要素ですし、私にそのあたりの理解が不足しているので、こうして解説していただけますと大変助かります。
聖書のテキストにも注目しながら『四つの厳粛な歌』をあらためて聴いてみます。
有難うございました!
投稿: フランツ | 2021年5月17日 (月曜日) 07時55分