ベートーヴェン「奉献歌(Opferlied, WoO. 126)」
Opferlied, WoO. 126
奉献歌
Die Flamme lodert, milder Schein
Durchglänzt den düstern Eichenhain
Und Weihrauchdüfte wallen.
O neig' ein gnädig Ohr zu mir,
Und laß des Jünglings Opfer dir,
Du, Höchster, wohlgefallen!
炎が燃え上がり、穏やかな光が
ほの暗いナラの林を照らし、
乳香の香りが沸き立つ。
おお、慈悲深く私に耳を貸しておくれ、
そしてその若者のいけにえが
至高の方よ、あなたの気に入りますように!
Sei stets der Freiheit Wehr und Schild!
Dein Lebensgeist durchatme mild
Luft, Erde, Feur und Fluten!
Gib mir, als Jüngling und als Greis,
Am väterlichen Herd, o Zeus,
Das Schöne zu dem Guten!
常に自由の防具や盾であれ!
あなたの生命力は穏やかに息吹をみなぎらせよ、
空気、大地、火、大河の息吹を!
若者として、老人として、
父の炉のそばで、おおゼウスよ、
善へ向かう美を私に与えたまえ!
詩:Friedrich von Matthisson (1761-1831)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)
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フリードリヒ・フォン・マッティソンの「奉献歌」という2節からなる詩をベートーヴェンは気に入っていたのでしょうか、スケッチから様々な編成の歌曲まで生涯をかけて作曲し続けました。詩の内容はいまいち分かりにくかったですが、人身御供をゼウスに捧げる儀式でしょうか。
この詩の第1節2行目の"Eiche"は、日本語でナラ(楢)、英語でオークと呼ばれる落葉樹とのことです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%82%AF
曲は1794年終わりから1795年始めにスケッチが書かれ、1798年に改訂されたようです。
https://www.beethoven.de/de/work/view/4664324509401088/%26quot%3BOpferlied%26quot%3B%2C+Lied+f%C3%BCr+Singstimme+und+Klavier+WoO+126?fromArchive=5937910725476352
https://www.beethoven.de/en/media/view/5750001745526784/scan/0
https://ontomo-mag.com/article/playlist/oyasumi058-20200211/
2節からなる完全な有節歌曲で(リピート記号で繰り返される形)、コラール風に進行する荘厳な作品です。
ピアノパートの高音部は歌声部の旋律をなぞっています。
2/2拍子
ホ長調(E-dur)
Langsam und feierlich (ゆっくりと、荘厳に)
このマッティソンの詩「奉献歌」に、ベートーヴェンは後年さらに別の編成でも作曲しています。ピアノ歌曲よりも随分拡大されていますが、基本的にはピアノ歌曲の構想を発展させたものと感じました。
Op.121b
第1稿(1. Fassung):ソプラノ、アルト、テノール独唱、合唱、管弦楽(drei Solostimmen, Chor und Orchester)
第2稿(2. Fassung):ソプラノ独唱、合唱、管弦楽(Sopran, Chor und Orchester)
●シャーンドル・シュヴェート(BR) & エンドレ・ペトリ(P)
Sándor Svéd(BR) & Endre Petri(P)
シュヴェートの低音が心に響きました。
●ペーター・シュライアー(T) & ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T) & Walter Olbertz(P)
いつもながらシュライアーの誠実な語りかけが印象的です。
●ヘルマン・プライ(BR) & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Leonard Hokanson(P)
プライの歌唱は真摯で滲み出る味わいがあります。
●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & イェルク・デームス(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Jörg Demus(P)
F=ディースカウはやはりディクションが素晴らしいです。
●奉献歌(Opferlied, Hess 145) (WoO 126の第1稿スケッチ)
パウル・アルミン・エーデルマン(BR) & ベルナデッテ・バルトス(P)
Paul Armin Edelmann(BR) & Bernadette Bartos(P)
第1稿スケッチです。WoO 126と大きな違いはないように思えますが、第2節最後の後奏が途中で切れています。
●作品121b
0:00- 第1稿(ソプラノ、アルト、テノール独唱と四声合唱、クラリネット、ホルン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスのための)
7:27- 第2稿(ソプラノ独唱と四声合唱、管弦楽のための)
「symphony7526」さん投稿の動画。独唱歌曲の後で別編成の歌曲として作られた作品。楽譜を追いながら第1稿と第2稿を続けて聴ける至れり尽くせりの動画です。
演奏者の詳細や解説はこちら
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コメント
フランツさん、こんばんは。
この極も出だしが、「自然における神の栄光」に雰囲気が似ていますね。
メロディだけ聞くと、このような歌詞がついていると思えないです。
確かに難解な歌詞ですよね。
ギリシャ神話の人身御供の話でしょうかね。
「若者のいけにえ」と、「常に自由の防具や盾であれ」がそぐわない難しい詩です。
いけにえによって、善へ向かう美を得られるということでしょうか。
それを踏まえて聞きますと、プライドさんの演奏は、なんだか人身御供になった若者を悼んでいるかのように聞こえます。そういう詩ではないのですが。
シュベートは、初めて聞きましたが、心地よく響く低音がいいですね。曲と歌いぶりがぴったりでした。
シュライアーの張りのあるテノールも魅力的。バリトンとの趣の違いがよく分かります。
ディースカウさんは、声も充実していて、朗々と響かせる中に語りがあり、素晴らしいですね。
エーデルマンいい声ですね。好きな声です。真摯な歌いぶりもよかったです。
第一投稿、美しいですね。聖歌を聞いているようです。
ソブラノの音色がとても美しい。
第2稿は、さらに広がりがありますね。
和音の響きに時々第九の第四楽章を感じます。
独唱バージョンとは別物ですね。
投稿: 真子 | 2021年5月19日 (水曜日) 20時54分
真子さん、こんばんは。
この曲もピアノ前奏がユニゾンで進行し、コラール風な荘厳さがあるので「自然における神の栄光」に近い雰囲気がありますね。
この詩、私も自信はないのですが、「魔笛」の秘教的な雰囲気を思い出しました。様々な試練を経てある境地にたどり着くという感じでしょうか。若者を捧げるというのはちょっと怖い気もしますが...。
確かにプライの歌唱は、共感あふれる味わいが感じられたので、若者を悼んでいる視点なのかもしれませんね。プライの声の層の厚さは聴き方によって何色にも変わりうる感じがします。
シュヴェートの歌唱は恰幅のよい豊かなバスバリトンっぽい響きがこの曲の荘厳な雰囲気に合っていますよね。
シュライアーやF=ディースカウはいつもながらのディクションの冴えがあって安心して聞けます。
エーデルマンいいですよね。
同じテキストによる後年のオーケストラ伴奏歌曲も響きが豊かでおっしゃるように広がりがありますよね。基本的には独唱歌曲版に沿って発展させたように感じられますが、随分雰囲気は変わりましたよね。第九はいきなりの発想ではなく、この曲のようないくつかの試みを集約したのかもしれませんね。
投稿: フランツ | 2021年5月20日 (木曜日) 19時01分