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ベートーヴェン「自由な男(Der freie Mann, WoO. 117)」

Der freie Mann, WoO. 117
 自由な男

1:
Wer, wer ist ein freier Mann?
Der, dem nur eigner Wille
Und keines Zwingherrn Grille
Gesetze geben kann;
Der ist ein freier Mann!
Ein freier, freier Mann!
 誰が、誰が自由な男なのか?
 それは、自らの意志だけで、
 暴君の気まぐれではなく、
 法をつくることが出来る男。
 彼こそ自由な男!
 自由な男、自由な男だ!

2:
Wer, wer ist ein freier Mann?
Der das Gesetz verehret,
Nichts tut, was es verwehret,
Nichts will, als was er kann;
Der ist ein freier Mann!
Ein freier, freier Mann!
 誰が、誰が自由な男なのか?
 法を尊重し、
 禁じられたことは何もせず、
 出来ること以上を何も望まぬ男。
 彼こそ自由な男!
 自由な男、自由な男だ!

3(この節は出版譜に記載されていません):
Wer ist ein freier Mann?
Wem seinen hellen Glauben
Kein frecher Spötter rauben,
Kein Priester meistern kann;
Der ist ein freier Mann!
Ein freier, freier Mann!
 誰が、誰が自由な男なのか?
 その男の明晰な信念を
 奪える無遠慮な皮肉屋や、
 制御できる聖職者はいない。
 彼こそ自由な男!
 自由な男、自由な男だ!

4(この節は出版譜に記載されていません):
Wer, wer ist ein freier Mann?
Der selbst in einem Heiden
Den Menschen unterscheiden,
Die Tugend schätzen kann;
Der ist ein freier Mann!
Ein freier, freier Mann!
 誰が、誰が自由な男なのか?
 その男は異教徒の中でさえ
 人を見分け、
 徳を重んじることが出来る。
 彼こそ自由な男!
 自由な男、自由な男だ!

5(3):
Wer, wer ist ein freier Mann?
Dem nicht Geburt noch Titel,
Nicht Samtrock oder Kittel
Den Bruder bergen kann;
Der ist ein freier Mann!
Ein freier, freier Mann!
 誰が、誰が自由な男なのか?
 その男にとって、家柄でも肩書でも
 ビロードのスカートでも上っ張りでもない、
 同胞を救えるのは!
 彼こそ自由な男!
 自由な男、自由な男だ!

6(この節は出版譜に記載されていません):
Wer, wer ist ein freier Mann?
Wem kein gekrönter Würger
Mehr, als der Namen Bürger
Ihm wert ist, geben kann;
Der ist ein freier Mann!
Ein freier, freier Mann!
 誰が、誰が自由な男なのか?
 絞殺する王様という名前ではない、
 男は市民という名に
 ふさわしいが、その男に より与え得る名前は。
 彼こそ自由な男!
 自由な男、自由な男だ!

7(4):
Wer, wer ist ein freier Mann?
Der, in sich selbst verschlossen,
Der feilen Gunst der Großen
Und Kleinen trotzen kann;
Der ist ein freier Mann!
Ein freier, freier Mann!
 誰が、誰が自由な男なのか?
 その男は、自らの中に閉じこもり、
 大人や子供の金で買える好意に
 抗うことが出来る。
 彼こそ自由な男!
 自由な男、自由な男だ!

8(5):
Wer, wer ist ein freier Mann?
Der, fest auf seinem Stande,
Auch selbst vom Vaterlande
Den Undank dulden kann;
Der ist ein freier Mann!
Ein freier, freier Mann!
 誰が、誰が自由な男なのか?
 その男は、確固たる立場で、
 祖国からの
 忘恩さえも耐えられる。
 彼こそ自由な男!
 自由な男、自由な男だ!

9(6):
Wer, wer ist ein freier Mann?
Der, muß er Gut und Leben
Gleich für die Freiheit geben,
Doch nichts verlieren kann;
Der ist ein freier Mann!
Ein freier, freier Mann!
 誰が、誰が自由な男なのか?
 その男は、財産や人生を
 すぐに、自由を得る代わりに与えなければならないが、
 何ひとつ失うことは出来ない。
 彼こそ自由な男!
 自由な男、自由な男だ!

10(7):
Wer, wer ist ein freier Mann?
Der bei des Todes Rufe
Keck auf des Grabes Stufe
Und rückwärts blicken kann;
Der ist ein freier Mann!
Ein freier, freier Mann!
 誰が、誰が自由な男なのか?
 それは、死に呼ばれた時、
 向こう見ずにも墓の段の上で
 後ろを振り返って見ることが出来る男。
 彼こそ自由な男!
 自由な男、自由な男だ!

詩:Gottlieb Konrad Pfeffel (1736-1809)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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ゴットリープ・コンラート・プフェッフェルは、後に14歳のシューベルトが書いた「父を殺した男(Der Vatermörder, D 10)」という物騒な歌曲の詩人でもあります。

ベートーヴェンはまず第1稿(Hess 146)を1792年にボンで作曲し、その後、1794年終わりから1795年始めにヴィーンで改訂して第2稿(WoO. 117)となりました。初出版は1808年で、作品番号はないもののSimrock社から「ドイツ歌曲集(Deutsche Lieder)」として「新しい愛、新しい生命(Neue Liebe neues Leben, WoO 127)」「奉献歌(Opferlied, WoO 126)」と一緒に出版されました。

出版譜には上記の第1,2,5,7,8,9,10節が記されており、第3,4,6節は省略されています。

この曲は独唱と斉唱の歌う場所がベートーヴェンによって指定されており、例えば第1節を例にとると、下の歌詞の1行目と7~8行目が斉唱(Chor)、それ以外が独唱(Eine Stimme)で歌われます。

Wer[, wer] ist ein freier Mann?
Der, dem nur eigner Wille
Und keines Zwingherrn Grille
Gesetze geben kann;
Der ist ein freier Mann!
[Ein freier, freier Mann!]
[Der ist ein freier Mann!]
[Ein freier, freier Mann!]

※[]内はベートーヴェンによる繰り返し箇所

思想的な集会でスピーチする人と賛同者が掛け合う様を描いているのでしょうか。そのわりにはのどかな雰囲気もあって、酒場の歌と錯覚しそうです。
ピアノ後奏の弱拍にsfがついているのは、弱者の抵抗の意味合いが込められているのかもしれませんね。

2/2拍子
ハ長調(C-dur)
Moderato(中庸に)

●ヘルマン・プライ(BR) & ハインリヒ・シュッツ・クライス・ベルリン & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Heinrich Schütz-Kreis Berlín & Leonard Hokanson(P)

第1,7,9節。プライの独唱と合唱団との掛け合いが楽しいです。実際に集会で歌っているかのような雰囲気がいいですね。

●ペーター・シュライアー(T) & ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T) & Walter Olbertz(P)

第1,2,9節。シュライアーが斉唱パートも一人で歌っています。こういう歌も全く違和感なく聴かせるシュライアーはやはり凄いです!

●ヴァンサン・リエーヴル=ピカール(T) & ジョン・バーナード(T) & ジャン=フランソワ・ルッション(BR) & ジャン=ピエール・アルマンゴー(P)
Vincent Lièvre-Picard(T) & John Bernard(T) & Jean-François Rouchon(BR) & Jean-Pierre Armengaud(P)

第1,7,9節。ややゆっくり目のテンポで慎重に演奏されています。

●コンスタンティン・グラーフ・フォン・ヴァルダードルフ(BR) & ヴィーン・グスタフ・マーラー合唱団 & クリスティン・オーカーランド(P)
Constantin Graf von Walderdorff(BR) & Gustav Mahler Chor Wien & Kristin Okerlund(P)

第1-10節。プフェッフェルの原詩を全部歌っています。

●第1稿(Hess 146: 1792年作曲)
コンスタンティン・グラーフ・フォン・ヴァルダードルフ(BR) & ヴィーン・グスタフ・マーラー合唱団 & クリスティン・オーカーランド(P)
Constantin Graf von Walderdorff(BR) & Gustav Mahler Chor Wien & Kristin Okerlund(P)

第1-10節。第1稿は楽譜で確認は出来ていないのですが、第2稿との顕著な違いはピアノ後奏でしょう。

●第1稿(Hess 146: 1792年作曲)
タベア・ゲルストグラッサー(S), シュテファン・タウバー(T), カントゥス・ノヴス・ヴィーン, ディアナ・フックス(P), トーマス・ホルメス(C)
Tabea Gerstgrasser(S), Stefan Tauber(T), Cantus Novus Wien, Diána Fuchs(P), Thomas Holmes(C)

第1節。2019年1月20日Wien録音。こちらも第1稿です。素朴な演奏でした。

●ピアノパートのみ(Marco Santià: piano)

7回演奏されています!

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コメント

フランツさん、こんにちは。

コロナがまた増えつつある今、こういう曲を聞くと爽快ですね。

いかにもドイツ、ベートーベンという曲ですが、プライさんが歌うと民謡のようですらあります。
お酒の席で楽しんでいるようにも聞こえますよね。

シュライアーは、ザ・ベートーベンて感じがしました。

次の男声アンサンブルは、ベートーベンのもつ重厚な感じが出ていたように思います。テンポのせいでしょうかね。

ヴァルダードルフとマーラー合唱団の、打って変わって速いテンポ。全節聞かせるにはこのテンポなのでしょうか。

ビアノパートの前奏部分。同じベートーベンの「自然における神の栄光」を想起させました。

ソプラノとテノールと合唱。確かに素朴でおとなしい演奏ですよね。この曲を強い意志を感じさせない演奏にしたのも、おもしろかったです。

投稿: 真子 | 2021年5月12日 (水曜日) 17時28分

真子さん、こんばんは。

なんだかインドで大変なことになっているようで、1年経っても重い雰囲気が漂っていますね。こういう時はやはり音楽で気持ちだけでも前向きにいきたいですよね(^^)

プライは確かに民謡っぽい感じもしますね。彼の先導する歌にのって周りの人たちが声を合わせる情景が思い浮かびました。

シュライアーは抒情的な作品だけでなく、こういう声を張った感じの曲もいいなぁと思いました。

>次の男声アンサンブルは、ベートーベンのもつ重厚な感じが出ていたように思います。テンポのせいでしょうかね。

本当にテンポの違いは大きいですね。しかめっ面をしたベートーヴェンが思い浮かびます。

ヴァルダードルフのテンポ、確かに全節歌う為に速めの設定にしたという可能性はありますね。

>ソプラノとテノールと合唱。確かに素朴でおとなしい演奏ですよね。この曲を強い意志を感じさせない演奏にしたのも、おもしろかったです。

「強い意志を感じさせない演奏」-本当にそうですね!あえて詩の内容に同調しない演奏を狙ったのでしょうかね。真子さんの視点にはっとしました!

「自然における神の栄光」のピアノパートも多くの部分でオクターブで力強く演奏されますよね。この曲の始まり方と似ていることに言われるまで気付きませんでした。有難うございます!

投稿: フランツ | 2021年5月12日 (水曜日) 19時13分

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