ベートーヴェン「愛(Die Liebe, Op. 52, No. 6)」
Die Liebe (Lied), Op. 52, No. 6
愛 (歌)
Ohne Liebe
Lebe, wer da kann;
Wenn er auch ein Mensch schon bliebe,
Bleibt er doch kein Mann.
愛なしに
生きるがいい、現に可能な者は。
その者は人間のままでいられるとしても
男ではない。
Süße Liebe
Mach' mein Leben süß,
Stille ein die regen Triebe
Sonder Hindernis!
甘い愛よ、
私の人生を甘くしておくれ、
旺盛な欲望を満たしてくれ、
滞りなく!
Schmachten lassen
Sei der Schönen Pflicht;
Nur uns ewig schmachten lassen,
Dieses sei sie nicht!
焦がれ苦しませることが
美女の義務であれ。
ただ我らを永遠に苦しませること、
これは義務ではないように!
詩:Gotthold Ephraim Lessing (1729-1781)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)
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Op. 52の第6曲は、啓蒙思想で知られるゴットホルト・エフライム・レッスィングの詩による「愛」です。
短い愛の賛歌ですね。
第2節第3行の"ein"はレッスィングのオリジナルでは"nie(決して~ない)"であり「旺盛な欲望を静めないでくれ」という意味になります。
ベートーヴェンの曲は3節の有節形式による快活な作品です。
歌声部は十六分音符のメリスマが印象的です。
ピアノパートの右手は完全に歌声部をなぞっています(楽譜はそれぞれ別に書いています)。
2/4拍子
ヘ長調(F-dur)
Allegretto
●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & イェルク・デームス(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Jörg Demus(P)
堂々たる貫禄すら感じられる語り口の見事なF=ディースカウの歌唱です。デームスの軽快なタッチがなんともチャーミングです。
●ヘルマン・プライ(BR) & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Leonard Hokanson(P)
プライの歌唱は酸いも甘いも噛み分けた人生経験豊かな男性のように感じられます。
●ペーター・シュライアー(T) & ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T) & Walter Olbertz(P)
シュライアーの若々しい美声で歌われると爽やかな風が吹いてくるかのようです。
●マックス・ファン・エフモント(BR) & ヴィルヘルム・クルムバハ(Hammerflügel)
Max van Egmond(BR) & Wilhelm Krumbach(Hammerflügel)
エフモントのハイバリトンの声はここでもとても魅力的に響きます。
●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ハルトムート・ヘル(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Hartmut Höll(P)
デームスとの録音よりも随分趣が異なり、達観したようなF=ディースカウの歌唱です。ヘルが最後の後奏を名残惜しそうに弾くのが印象的でした。
●ディルク・クラインケ(T) & クリス・カルトナー(P)
Dirk Kleinke(T) & Chris Cartner(P)
録画:2020年春, Staatstheater Cottbus。柔らかい声質の美しい歌唱ですね。
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コメント
フランツさん、こんにちは。
いかにもベートーベンといった感じの歌曲ですね。
最初のディースカウさんは、まさに堂々たる王者の風格がありますね。実は、彼女に振り回されてはいないのかもしれません。
プライさんの晩年は、大人の男性の色気と渋みが絡み合っていますよね。余裕を感じさせる演奏で、若き日の、高まる感情を抑えようとはしない歌いぶりから、時が経った事を感じます。
シュライヤーの若々しい伸びやかな歌からは、恋の苦悩より恋の甘美さが感じられました。
恋には、苦しいけど、それは甘美な苦しさ、という面もありますよね。
エフモントのおおらかな美声も魅力的ですよね。彼のバッハカンタータ56番と82番のCDを買いましたが、バッハに心が向いた真摯な演奏が染みました。
ヘルとのディースカウさん、ため息なども交えた感情豊な演奏ですよね。ひたすら理知的なイメージがあったので、違う一面をみた気がします。
クラインケは、本当に柔らかいテノールですね。僕を苦しめないでと懇願するような細やかな歌い口が魅力的でした。
話は変わりますが、Amy Broadbentというソプラノをご存知ですか? YouTubeを見ていたら出て来たのですが、容姿も声もチャーミングです。
シューマン歌曲がいい感じです(*^^*)
投稿: 真子 | 2021年4月17日 (土曜日) 16時33分
真子さん、こんばんは。
今回もコメントを有難うございます。
ピアノ後奏の右手のパッセージを後半短くするところなど、確かにベートーヴェン的だなぁと思いました。
F=ディースカウとデームスの録音は本当に風格にあふれていますね。一方のヘルとの録音は後年に特徴的なほのかな哀愁も言葉のはしばしに漂わせているのが味わい深いですね。彼はおっしゃるように理知的な歌唱だと思いますが、意外と大胆な感情表現も聴かせてくれます。
プライも若かりし頃の感情を前面に出した歌からより抑制の効いた大人の響きに変化していきましたね。円熟期ならではの歌だと思いました。
シュライアーの歌唱についての「恋の苦悩より恋の甘美さが感じられ」たというご感想、あらためて聞いてみたところ確かにそのように聞こえますね。爽やかで前向きな恋という印象です。
エフモントは本当に声が魅力的でディクションも素晴らしいですね。バッハの録音も良かったそうですね(^^)
クラインケの映像は繊細な感じがまた他の演奏と違っていて良かったです。
Amy Broadbentというソプラノのご紹介を有難うございます。今回はじめて聞いたのですが、美しい清楚な響きですね。シューマンも素敵ですね。他に「メサイア」からのアリアが清澄な響きでとても美しく感じました。まだまだ知らない歌手が沢山いるので、こうした出会いは有難いです。
投稿: フランツ | 2021年4月18日 (日曜日) 19時54分