ブラームス/若き歌Ⅰ「私の恋は緑」(Junge Lieder I "Meine Liebe ist grün", Op. 63, No. 5)を聴く
Junge Lieder I "Meine Liebe ist grün", Op. 63, No. 5
若き歌Ⅰ「私の恋は緑」
Meine Liebe ist grün wie der Fliederbusch,
und mein Lieb ist schön wie die Sonne,
die glänzt wohl herab auf den Fliederbusch
und füllt ihn mit Duft und mit Wonne.
私の恋はライラックの茂みのように緑で、
私の恋人は太陽のように美しい、
太陽はライラックの茂みに光を降り注ぎ、
香りと喜びで茂みを満たすのだ。
Meine Seele hat Schwingen der Nachtigall,
und wiegt sich in blühendem Flieder,
und jauchzet und singet vom Duft berauscht
viel liebestrunkene Lieder.
私の魂はサヨナキドリの翼をもっていて、
花咲くライラックの中で揺れ動く。
そして歓声をあげ、香りに酔いしれて
多くの愛に陶酔した歌を歌うのだ。
詩:Felix Schumann (1854-1879)
曲:Johannes Brahms (1833-1897)
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緑映える時期にぴったりの歌曲をブラームスも作曲しています。「若き歌Ⅰ」という作品で、詩の冒頭から「私の恋は緑」という呼び名でも親しまれています。
詩の作者フェーリクス・シューマンは、あのローベルト&クラーラ・シューマンの末の息子です。肺結核にかかり、闘病生活を続けましたが、24歳の若さで亡くなりました。フェーリクスはいくつかの詩をしたため、彼の詩によってブラームスは3曲作曲しています(この曲の他には「若き歌Ⅱ:ニワトコのまわり(Junge Lieder II "Wenn um den Holunder", Op. 63, No. 6)」と「没頭(Versunken, Op. 86, No. 5)」)。
詩は、恋する主人公のわくわくする感情を、自然や鳥を織り交ぜながら描いています。
ちなみに1行目などに登場する"Flieder(ライラック、リラ)"の写真はこちらで見ることが出来ます。
ブラームスは1873年(当時フェーリクスは19歳!)に2節の有節形式として作曲しました。輝かしい歌声部は朗々と響き渡ります。ピアノは右手と左手のリズムがずれる形でほぼ一貫していて、歌と拮抗するかのように情熱的な音楽を奏でます。間奏や後奏で、fからクレッシェンドでぐいぐい畳みかけた後にpoco ten.(ポーコ・テヌート)で音を保持し、フェルマータで伸ばして一息ついてから、pで静かに続ける箇所はピアニストによって様々な表現が楽しめる箇所で、聴きどころの一つでもあると思います。ちなみにクレッシェンドで畳みかける箇所はアッチェレランドという指示は書かれていませんが、速度を速めていく演奏が多いです。それは演奏家による楽譜の解釈でしょうし、そうすることがむしろ自然に感じられます。
4/4拍子
Lebhaft (生き生きと)
嬰ヘ長調(Fis-dur)
●エディト・ヴィーンス(S) & ロジャー・ヴィニョールズ(P)
Edith Wiens(S) & Roger Vignoles(P)
なんとみずみずしく芯のある美声と見事なディクション!春の喜びが素晴らしく表現されていると思います。
●アンネ・ソフィー・フォン・オッター(MS) & ベングト・フォーシュバリ(P)
Anne Sofie von Otter(MS) & Bengt Forsberg(P)
オッターの知性的な歌唱も気品があって良いです。
●ジェスィー・ノーマン(S) & ジェフリー・パーソンズ(P)
Jessye Norman(S) & Geoffrey Parsons(P)
ノーマンの豊麗な声で聴くと、恋する者の溢れんばかりの思いが伝わってきます。パーソンズもとてもいいですね。
●エリーザベト・シュパイザー(S) & ジョン・バトリック(P)
Elisabeth Speiser(S) & John Buttrick(P)
シュパイザーは清楚で耳に心地よい美声で一瞬で惹き込まれました!
●シュザンヌ・ダンコ(S) & グイド・アゴスティ(P)
Suzanne Danco(S) & Guido Agosti(P)
フランス歌曲のイメージが強いダンコによるドイツ歌曲、素晴らしかったです。声がすぱっと響き渡る感じと素晴らしいドイツ語のディクション・表現をぜひ味わってみてください。アゴスティのピアノも見事です!
●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & カール・エンゲル(P)
Dietrich Fischer Dieskau(BR) & Karl Engel(P)
メリハリの効いたF=ディースカウならではの歌唱ですね。
●エルンスト・ヘフリガー(T) & ヘルタ・クルスト(P)
Ernst Haefliger(T) & Hertha Klust(P)
ヘフリガーの真摯な歌は本当に胸に迫ってきます。クルストの畳みかけるような後奏も良かったです。
●ピアノパートのみ(Rau Neuman: piano)
全体の構築から細かな表現まで理想的なピアノ演奏で素晴らしかったです!ピアノだけでも楽しめました!ブラームスは右手と左手のリズムをずらすのが好きですね。
これらの他に、動画サイトにはアップされていませんでしたが、プライ&ドイチュ(Prey & Deutsch: SAPHIR)、アーメリング&ヤンセン(Ameling & Jansen: Hyperion)、ベーア&ドイチュ(Bär & Deutsch: EMI)、シュライアー&レーゼル(Schreier & Rösel: DENON)、バトル&レヴァイン(Battle & Levine: RCA)、ストゥッツマン&セーダーグレン(Stutzmann & Södergren: RCA VICTOR)、トレーケル&ポール(Trekel & Pohl: ARTE NOVA)等の録音も素晴らしいので機会があれば是非!
人気曲だけあって、動画サイトにはライヴ映像も山のようにアップされていました。それらの中にも素晴らしい演奏があることと思いますので興味のある方はいろいろ聴いてみるのもいいかもしれませんね。
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コメント
フランツさん、こんばんは。
情熱的な歌曲ですね。
シューマンの息子の詩にブラームスが曲を付けたのですね。シューマンが病気になって以降、ブラームスとクララ・シューマンのブラトニックな関係が始まったと言われていますよね。
ブラームスとクララは実のところどうだったのか、とても興味があります。
さて、ヴィーンスの歌からは、恋する鼓動が聞き取れました。
オッターの、恋に翻弄されないかのような、おっしゃっるように知的な演奏もいいですね。
ノーマンの演奏は、まるでオペラのアリアのようです。情熱的な歌が一層熱を帯びますね。
シュパイザーの声いいですね。好きな声です。可憐な声で歌われると、初恋の喜びと戸惑いを聞いているような気がします。
ダンコの澄んだ明るい響きもいいですね。
「すぱっと響き渡る」、言い得て妙ですね!
ディースカウさんの語り部のような歌唱はさすがですね。でも、最近情熱的な一面も知って先入観を捨てて聞こうと思っています。
ヘフリガーは、バッハの福音史家のイメージが強いのですが、やはりどこまでも真摯ですよね。お人柄が出ているのでしょうか。
ビアノパートも聞きこたえがありました。右手と左手をずらした曲を弾くのはなんだか大変そうですね。
早くもツツジか咲き始め、新緑が輝きだす今の季節にぴったりですね。
私は、この時期にしか見られない、生まれたてのこのみどりに会うため、あちこち散歩します。
ライラックの写真まで張り付けてくださって、至れり尽くせりですね。
余談ですが、ライラックの別名「リラ」の名前が付いた万年筆(プラチナ製)を持っています。
紫がかったビンクの半透明の軸に、ピンクゴールド色のクリップ・リングが映えて、とても美しい万年筆なんです。
久しぶりに、それで日記を書こうかと思います。
投稿: 真子 | 2021年4月21日 (水曜日) 22時58分
真子さん、こんばんは。
ブラームスの歌曲にはこの曲のように情熱的な作品がいくつかありますが、歌とピアノが立体的な表現で迫ってくる感じがいいなぁと思います。
ブラームスとクラーラの関係はいろいろ憶測がされていますよね。
愛情というよりもお互いに尊敬し、理解しあえる関係なのかもしれませんね。
「恋する鼓動」-素敵な表現ですね!
「恋に翻弄されない」-歌の特徴から感じられることをこうして言葉で表現される真子さん、素晴らしいと思います(^^)
ノーマン、情熱的ですが、フレーズをしっかりキープしているのはさすがだと思います。
シュパイザー、いいですよね!これまでちゃんと聞いていなかったのですが、私も声が好きです。
ダンコはおっしゃるように「澄んだ明るい響き」が朗々と響き渡るのがいいですね。
F=ディースカウはやはり語りが際立っていますね!私はF=ディースカウは知的ではありますがドラマティックな歌を歌う人だと思っています。
ヘフリガーの歌は常に真摯で誠実ですよね。福音史家を得意としていることも関係あると思いますが、シュライアーとはまた違ったタイプですね。器用さと対極にある貴重な存在だと思います。お人柄もあるのかもしれませんね。
真子さんもこの時期いろいろ散歩されているそうですね。
出不精の私もこの春は近所の公園まで歩いて過ごす時間が週末の楽しみになっています。
ライラック(リラ)といえば、ショーソンの「リラの花咲く頃(Le temps des lilas)」や、ラフマニノフの「ライラック(Lilacs, Op. 21, No. 5)」という美しい歌曲が思い浮かびます。
詩人や作曲家を惹きつける題材なのかもしれませんね。
リラという名前の万年筆を使われているのですね。
素敵な名前ですね。
他の筆記用具とはまた違った気持ちで文字を書くことが出来そうですね。
投稿: フランツ | 2021年4月22日 (木曜日) 19時53分