シューマン「新緑(Erstes Grün, Op. 35, No. 4)」を聴く
Erstes Grün, Op. 35, No. 4
新緑
Du junges Grün, du frisches Gras!
Wie manches Herz durch dich genas,
Das von des Winters Schnee erkrankt,
O wie mein Herz nach dir verlangt!
若い緑よ、新鮮な草よ!
どれほど多くの心がきみのおかげで健やかさを取り戻したことか、
冬の雪に病んだ心が。
おお、私の心はどれほどきみを求めていたことか!
Schon wächst du aus der Erde Nacht,
Wie dir mein Aug' entgegen lacht!
Hier in des Waldes stillem Grund
Drück' ich dich, Grün, an Herz und Mund.
もうきみは大地の夜から育ってきているんだね、
きみに向けて私の目はどれほど笑っていることか!
ここにある森の静かな地面で
私の心と口に、緑よ、きみを押しつけよう。
Wie treibt's mich von den Menschen fort!
Mein Leid, das hebt kein Menschenwort,
Nur junges Grün ans Herz gelegt,
Macht, daß mein Herze stiller schlägt.
どれほど私を人から遠ざけてくれることか!
私の苦悩、それを人の言葉が助長することもなくなる。
ただ若い緑を心に押し当てて
私の心臓が前より静かに打つようにしてくれるのだ。
詩:Justinus (Andreas Christian) Kerner (1786-1862), "Frühlingskur(春の療養)"
曲:Robert Schumann (1810-1856)
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緑映える時期が到来しましたね!緑の中を散歩するのが気持ちよい時期になりました。ドイツの新緑はもう少し後かもしれませんが、ここでシューマンの新緑に寄せる歌曲をご紹介したいと思います。
「新緑」は、シューマンが「歌の年」と呼ばれる歌曲量産の年、1840年に作曲した作品で、翌1841年に『ユスティーヌス・ケルナーの12の詩(Zwölf Gedichte von Justinus Kerner)』の第4曲として出版されました。
シューマンの音楽は3節からなる有節歌曲です。歌は短調に終始しますが、ピアノ後奏が長調なのがいいですね。後奏でほのかに明るくなってほっとしていたのもつかの間、次の節の最初の和音が再び短和音で、そのまま短調の歌が続きます。明暗を行ったり来たりしているところがシューマンらしくてぐっときます。
テキストは決して暗いだけの内容ではなく、緑によって病んだ心が癒えたことを歌っているのですが、シューマンはまだ完全には傷が癒えておらず、吹っ切れるまでに至らない状況を描いているかのようです。
繊細な響きに魅了されます。
2/4拍子
Einfach (素朴に)
ト短調(g-moll)→後奏:ト長調(G-dur)
●ハンス・ホッター(BSBR) & ジェラルド・ムーア(P)
Hans Hotter(BSBR) & Gerald Moore(P)
1957年10-11月録音。往年のリートファンはこのホッターの録音でこの曲を知ったという方も多いのではないでしょうか。包み込むような感触の声は色あせることがありません。素晴らしい名唱です。
●ヘルマン・プライ(BR) & カール・エンゲル(P)
Hermann Prey(BR) & Karl Engel(P)
1962年5月録音。プライの言葉に応じた繊細な表情の付け方が胸に沁みます。例えば1節4行目の"mein Herz"の響きなどプライの声の魅力満載ですね。
●デイム・マーガレット・プライス(S) & ジェイムス・ロックハート(P)
Dame Margaret Price(S) & James Lockhart(P)
プライスのちょっと影のある響きがこの上なく美しいです!
●トマス・ハンプソン(BR) & ジェフリー・パーソンズ(P)
Thomas Hampson(BR) & Geoffrey Parsons(P)
ハンプソンの歌声がまず魅力的ですが、ちょっとした表情の陰りなどに胸をつかまれます。とても魅力的な歌唱でした。パーソンズのピアノは相変わらず美しいですね!
●ペーター・シュライアー(T) & ノーマン・シェトラー(P)
Peter Schreier(T) & Norman Shetler(P)
若き日の繊細なシュライアーの歌がこの歌によくマッチしていると思います。
●バーバラ・ヘンドリックス(S) & ローラント・ペンティネン(P)
Barbara Hendricks(S) & Roland Pöntinen(P)
ヘンドリックスの細身の声が傷つきやすい主人公の心情を真摯に表現していて素晴らしいです。
●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ヴォルフガング・サヴァリシュ(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Wolfgang Sawallisch(P)
1974年の映像。F=ディースカウの哀愁のこもった表情豊かな歌唱をサヴァリシュの演奏姿と共に映像で見られるのは貴重です!
●マティアス・ゲルネ(BR) & エリク・シュナイダー(P)
Matthias Goerne(BR) & Eric Schneider(P)
ゲルネの抑制した歌唱、シュナイダーの切迫した後奏などこちらもまた魅力的でした。
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コメント
フランツさん、こんばんは。
ビアノが明るい方へ向かおうとしては、歌が内向的な方へ引き戻す。明るい歌詞に短調のメロディをつけたシューマンの技が光った歌曲ですよね。
ホッターは、1957年の演奏とは思えないですね。全く古さを感じさせないです。
若き日のプライさんは、沸き上がる感情が声に乗るんですよね。何度聞いてもぐっと来ます。ささやくように歌うと、少しハスキーになるのも若い頃の特徴で、これがまた魅力的なんです。
プライスのソブラノ、影がある響きというのはぴったりな表現ですね。この曲の雰囲気とよく合っていますね。
ハンプソンは、華やかなイメージが強かったのですが、この演奏における内省的な表現も美しいです。
シュライヤーの細やかな歌い口は、メロディを引き立てますね。
ヘンドリックスも好きな歌手です。細身の声ながら奥行きのある声が、曲に深さを与えているように思います。
ディースカウさんの、緩急を巧みに操った歌唱はさすがのうまさですよね。前半の畳みかける感じが好きです。
豊な響きを持つゲルネが抑えて歌うと、独特の切迫感が生まれますね。
どの演奏も魅力的で、この美しく哀愁を帯びたメロディを満喫しました。
訳詞もじっくり楽しませていただいています♪
投稿: | 2021年4月14日 (水曜日) 21時57分
真子さん、こんばんは。
>ビアノが明るい方へ向かおうとしては、歌が内向的な方へ引き戻す。...
すごく分かりやすい説明ですね。本当にその通りで、次の節に明るいまま入ろうとするのをピアノの短和音がぴしゃっと遮っているかのようですね。
ホッター、本当に素晴らしい歌唱だと思います。これは後世まで残したい名録音ですね。
プライは、感情が言葉の一つ一つにしっかり込められるんですよね。まさに感情が「乗る」という言い方がぴったりですね。ハスキーな歌い方は気付きませんでした。注意して聞いてみますね。
ハンプソンは外交的な明るい歌を歌うイメージが強いですが、こういう内面に沈む歌もいいですよね。
ヘンドリックス、真子さんもお好きでしたか。彼女の声はこの曲と本当にぴったりだと思います。
F=ディースカウの映像はDVD化もされたドイツ歌曲の名曲集からの1曲なのですが、円熟期にさしかかった彼の映像がこうして残されているのは有難いです!本当に巧者だなぁとつくづく思います。
他の演奏家たちについてもご感想を有難うございました。
嬉しく拝見しました(^^)
投稿: フランツ | 2021年4月15日 (木曜日) 18時47分