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ベートーヴェン「五月の歌(Maigesang (Mailied), Op. 52, No. 4)」

Maigesang (Mailied), Op. 52, No. 4
 五月の歌

Wie herrlich leuchtet
Mir die Natur!
Wie glänzt die Sonne!
Wie lacht die Flur!
 なんと素晴らしく
 自然は私を照らすことか!
 なんと太陽が輝くことか!
 なんと野原が笑っていることか!

Es dringen Blüten
Aus jedem Zweig
Und tausend Stimmen
Aus dem Gesträuch,
 花々は
 それぞれの枝から咲き、
 千もの声が
 茂みから上がる。

Und Freud und Wonne
Aus jeder Brust.
O Erd', o Sonne!
O Glück, o Lust!
 そして楽しさや歓喜が
 それぞれの胸から沸き上がる。
 おお大地、おお太陽!
 おお幸せ、おお欲望よ!

O Lieb', o Liebe!
So golden schön,
Wie Morgenwolken
Auf jenen Höhn!
 おお愛、おお愛よ!
 こんなにも黄金色に美しい、
 朝の雲のようだ、
 あの丘の上の雲のよう!

Du segnest herrlich
Das frische Feld,
Im Blütendampfe
Die volle Welt.
 あなたは素晴らしく祝福する、
 新鮮な野原を、
 花々にかかる霧の中の
 世界全体を。

O Mädchen, Mädchen,
Wie lieb ich dich!
Wie blickt dein Auge,
Wie liebst du mich!
 おお娘さん、娘さん、
 どれほどぼくはきみを愛していることか!
 きみの瞳がいかに見えることか、
 どれほどきみはぼくを愛していることか!

So liebt die Lerche
Gesang und Luft,
Und Morgenblumen
Den Himmelsduft,
 ひばりは
 歌と空を愛し、
 朝の花々は
 空の香りを愛する。

Wie ich dich liebe
Mit warmen Blut,
Die du mir Jugend
Und Freud und Mut
 どれほどぼくは、
 温かい血の通ったきみを愛していることか、
 その血はぼくに、若さと
 喜びと勇気を

Zu neuen Liedern
Und Tänzen gibst.
Sei ewig glücklich,
Wie du mich liebst!
 新しい歌と
 ダンスに与えてくれる。
 永遠に幸せであれ、
 きみがぼくを愛するように!

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), "Mailied", written 1771
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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Op. 52の第4曲はゲーテの詩による「五月の歌」です。
五月になりあらゆるものが素晴らしく輝くさまと恋人への思いを明るく軽快に描いた詩です。

作曲年は不明ですが、改訂は1795年か1796年(ベートーヴェン25歳か26歳)だそうです。

ベートーヴェンは原詩の3つの節を1つにまとめた3節からなる変形有節形式で作曲しました。
曲の最初の2節分は同一といっていいでしょう(楽譜上はリピート記号ではなく、別々に書かれています)。
最後の1節に変化がありますが、基本的には同じ楽想です。
明るく親しみやすい曲なので、ベートーヴェンの歌曲の中でも比較的よく演奏されます。

2/4拍子
変ホ長調(Es-dur)
Allegro

なお、1795年の5月30日以前に作曲された「ソプラノまたはテノールと管弦楽のためのイグナーツ・ウムラウフのジングシュピール『美しい靴屋の娘』への2つの挿入アリア(Zwei Einlagearien zu Ignaz Umlaufs Singspiel "Die schöne Schusterin" für Sopran bzw. Tenor und Orchester, WoO 91)」から第1曲「おお、なんという人生!(O welch ein Leben!, WoO 91-1)」に、この「五月の歌」の音楽がそっくりそのまま引用されています(平野昭氏によると、「五月の歌」が先に作られ、その後に「おお、なんという人生!」が作られたようです)。
 このアリアに関する平野昭氏の解説はこちら

ファニー・ヘンゼルやプフィッツナー、シェックもこのテキストに作曲しているので、ぜひ聴き比べてみて下さい。

●詩の朗読(Rezitation: Fritz Stavenhagen)

とても感情のこもった美しい朗読で、あたかも音楽を聞いているかのようです。ちなみに"Maifest"というのはゲーテが後に"Mailied"から変更したタイトルです。

●アンネ・ソフィー・フォン・オッター(MS) & メルヴィン・タン(Fortepiano)
Anne Sofie von Otter(MS) & Melvyn Tan(Fortepiano)

オッターは細やかなディクションと表情で涼風が吹き抜ける心地よさです。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)

ザルツブルク音楽祭でのライヴ音源。他のどの演奏よりも速いテンポで溌剌と歌い、生き生きと演奏しています。

●フリッツ・ヴンダーリヒ(T) & フーベルト・ギーゼン(P)
Fritz Wunderlich(T) & Hubert Giesen(P)

1965年8月19日, Mozarteumライヴ録音。ヴンダーリヒのとろけるような美声に魅了されます。

●ヘルマン・プライ(BR) & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Leonard Hokanson(P)

プライはここでゆっくりめのテンポで噛みしめて歌っていて、過去を回顧しているかのようです。1980年代にサヴァリシュと共演した録音ではより速いテンポで解放的な演奏でしたので、今回の録音では年輪を重ねてたどり着いた解釈と言えるかもしれません。

●オーラフ・ベーア(BR) & ジェフリー・パーソンズ(P)
Olaf Bär(BR) & Geoffrey Parsons(P)

ベーアの柔らかい声がこの曲の明るさを見事に描いています。そしてパーソンズのピアノの美しいこと!

●ペーター・シュライアー(T) & ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T) & Walter Olbertz(P)

シュライアーはここで五月のわくわく感を表現するというよりも、コラールのように丁寧に歌っています。

●マックス・ファン・エフモント(BR) & ヴィルヘルム・クルムバハ(Hammerflügel)
Max van Egmond(BR) & Wilhelm Krumbach(Hammerflügel)

エフモントの爽快で明るい表現が、このテキストと音楽によく合っていると思います。

●ピアノパートのみ

概要欄に詳細は書かれていませんが、電子ピアノのように聞こえます。ピアノだけで聴くとコラールのように響きますね。

●ベートーヴェンが「五月の歌」と同じ音楽を付けた曲「ウムラウフのジングシュピール『美しい靴屋の娘』への2つの挿入アリア~第1曲:おお、なんという人生!(Zwei Einlagearien zu Ignaz Umlaufs Singspiel "Die schöne Schusterin" WoO 91: Nr. 1: O welch ein Leben!)」
ニコライ・ゲッダ(T) & コンヴィヴィウム・ムジクム・ミュンヒェン & エーリヒ・ケラー(C)
Nicolai Gedda(T) & Convivium musicum München & Erich Keller(C)

全く同じ音楽が使われています。テキストは Johann Gottlieb Stephanie der Jüngere (1741-1800)という人の作です。

●ファニー・ヘンゼル作曲「五月の歌」
Fanny Hensel: Mailied
トビアス・ベルント(BR) & アレクサンダー・フライシャー(P)
Tobias Berndt(BR) & Alexander Fleischer(P)

フェーリクス・メンデルスゾーンの姉ファニーによる作品。素朴な作風ながら、最後に大きなメリスマで歌手の聴かせどころを作っています。

●プフィッツナー作曲「五月の歌 Op. 26, No. 5」
Pfitzner: Mailied, Op. 26, No. 5
コリン・バルツァー(T) & クラウス・ジモン(P)
Colin Balzer(T) & Klaus Simon(P)

プフィッツナーがゲーテの同じテキストに作曲した歌曲では、雄弁なピアノに包まれるように爽快で外向的な歌が歌われます。

●シェック作曲「五月の歌 Op. 19a, No. 3」
Schoeck: Mailied, Op. 19a, No. 3
ディートリヒ・ヘンシェル(BR) & ヴォルフラム・リーガー(P)
Dietrich Henschel(BR) & Wolfram Rieger(P)

シェックは20世紀に活動した作曲家ながら、ロマン派の流れをくんだ膨大なドイツ歌曲を作曲しました。このテキストによる作品でも濃密だけれども素直で爽やかさも感じられます。

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濱田滋郎氏逝去

スペイン音楽の研究者として名高い濱田滋郎さんが3月21日に亡くなったそうです。
https://artespublishing.com/news/20210321_hamadajiro_obituary/

クラシックファンにとっては濱田さんの書く音楽評論は馴染み深いと思います。

スペインの歌やギター音楽等の専門家でありながら、クラシック音楽の幅広い分野に造詣が深く、『レコード芸術』誌でも健筆を振るわれました。

アーメリングの来日公演パンフレットやCD解説なども書かれていて、温かみのある文章は読んでいてとても気持ちのよいものでした。

私は一度だけ濱田滋郎さんをステージで見たことがありました。
311の1ヶ月後に川口リリアのホールで「プラテーロと私」という作品が上演された時に解説者としてお話されました。
立て板に水というタイプではなかった記憶がありますが、濱田さんの言葉からはいつも音楽への愛情と音楽家への愛情が感じられたものでした。

若かりし頃にレコ芸やCD解説でなじみ深かった方々も随分旅立たれました。つい先日は歌崎和彦さんも亡くなられたのだとか。

寂しくなります。
ご冥福をお祈りいたします。

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ベートーヴェン「憩いの歌(Das Liedchen von der Ruhe, Op. 52, No. 3)」

Das Liedchen von der Ruhe, Op. 52, No. 3
 憩いの歌

Im Arm der Liebe ruht sich's wohl,
Wohl auch im Schoß der Erde.
Ob's dort noch, oder hier sein soll,
Wo Ruh' ich finden werde:
Das forscht mein Geist und sinnt und denkt
Und fleht zur Vorsicht, die sie schenkt.
 愛する人の腕の中にいると休らぎ、
 大地のふところの中も同様だ。
 あちらだろうがこちらだろうが
 私は憩いを見出すだろう。
 そのことを私の心は探究し、思案し、考え、
 歎願する、彼女が注意喚起を与えてくれるとき。

In Arm der Liebe ruht sich's wohl,
Mir winkt sie ach! vergebens.
Bei dir Elise fänd ich wohl
Die Ruhe meines Lebens.
Dich wehrt mir harter Menschen Sinn
Und in der Blüte welk' ich hin!
 愛する人の腕の中にいると休らぐ、
 彼女は私に手を振って知らせるが、ああ!むだなことだ。
 あなた、エリーゼのそばにいられるのなら
 人生の憩いを見出すだろう。
 かたくなな人の考えが私からあなたを阻止し、
 花の盛りに私は生気を失ってしまう!

Im Schoß der Erde ruht sich's wohl,
So still und ungestöret,
Hier ist das Herz so kummervoll
Dort wird's durch nichts beschweret.
Man schläft so sanft, schläft sich so süß
Hinüber in das Paradies.
 大地のふところの中にいると休らぎ、
 とても静かで邪魔されない。
 こちらでは心は苦しみに満ち、
 あちらでは何も苦しまないだろう。
 とても穏やかに眠れ、とても安らかに眠れる、
 あちらの天国へ行けば。

Ach, wo ich wohl noch ruhen soll
Von jeglicher Beschwerde,
In Arm der Liebe ruht sich's wohl,
Wohl auch im Schoß der Erde!
Bald muß ich ruh'n und wo es sei,
Dies ist dem Müden einerlei.
 ああ、私が
 どんな苦難からも休まるところ、
 愛する人の腕の中にいると休らぎ、
 大地のふところの中も同様だ!
 まもなく私は休まねばならない、どこであろうと
 疲れた者にとっては同じことだ。

詩:Hermann Wilhelm Franz Ueltzen (1759-1808)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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Op. 52の第3曲に置かれたのはヘルマン・ヴィルヘルム・フランツ・ユルツェンの詩による「憩いの歌」です。スケッチが書かれたのがおそらく1793年(ベートーヴェン23歳)とのことです。

詩は、亡くなった恋人のエリーゼを思い、疲れた自分が休むのはエリーゼのいる天上でも、今いる地上でも同じことだと歌います。

ベートーヴェンの作品は全4節の有節歌曲です。第1節のみ第3行の"oder"の前に四分休符が入り、"oder"は八分音符2つで歌われますが、第2節以降は四分休符がなく、次の2つの音節は付点四分音符+八分音符で歌われます。
これは詩のリズムを反映した為であり、ベートーヴェンが有節形式であっても各節の言葉に気を配っている証と言えそうです。
亡き恋人を思う詩の主人公の重い心情を癒すかのような穏やかな音楽が、聴き手の心をほぐしてくれるかのようです。

2/2拍子
ヘ長調(F-dur)
Adagio

ちなみに、このテキストの第1節第1行、第4節第5行途中~第6行、第3節第1行を使った三声のためのカノンをベートーヴェンは作曲しています(Im Arm der Liebe ruht sich's wohl, WoO 159)。独唱曲の少し後の1794年終わりから1795年始めに作曲されました。

Im Arm der Liebe ruht sich's wohl.
Wo es sei,
Das ist dem Müden einerlei.
Im Schoß der Erde ruht sich's wohl.

●ヘルマン・プライ(BR) & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Leonard Hokanson(P)

プライの胸に切々と迫ってくる感動的な名唱!素晴らしいです!ホカンソンもそんなプライのつくる音楽を完全に把握した演奏です。

●アン・マリー(MS) & イアン・バーンサイド(P)
Ann Murray(MS) & Iain Burnside(P)

深みのあるマリーの美声に心をほぐされるようです。

●マティアス・ゲルネ(BR) & ヤン・リシエツキ(P)
Matthias Goerne(BR) & Jan Lisiecki(P)

ゲルネの声は本当に聴いていて癒されます。

●ペーター・シュライアー(T) & ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T) & Walter Olbertz(P)

シュライアーの歌唱もいつもながら端正で美しいです。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ヘルタ・クルスト(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Hertha Klust(P)

第4節は省略されています。若かりしF=ディースカウが劇的に心情を吐露しています。

●マックス・ファン・エフモント(BR) & ヴィルヘルム・クルムバハ(Hammerflügel)
Max van Egmond(BR) & Wilhelm Krumbach(Hammerflügel)

エフモントは感情の機微を声で見事に表現していて素晴らしいです!

※水越啓(T) & 重岡麻衣(Fortepiano)のCDでは、1,2,4節を歌っていました。

●三声のためのカノン「愛する人の腕の中にいると休まる(Im Arm der Liebe ruht sich's wohl, WoO 159)」
重唱:アクサンチュス
Accentus

このテキストの第1節第1行、第4節第5行途中~第6行、第3節第1行を使った三声のためのカノンです。数年前の独唱曲のテキストを再び使用したということは、この詩にベートーヴェンは愛着があったということではないでしょうか。

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ベートーヴェン「炎色(Feuerfarb', Op. 52 No. 2)」

Feuerfarb', Op. 52 No. 2
 炎色(ほのおいろ)

1
Ich weiß eine Farbe, der bin ich so hold,
Die achte ich höher als Silber und Gold;
Die trag' ich so gerne um Stirn und Gewand
Und habe sie ,,Farbe der Wahrheit'' genannt.
 私は自分のとても好きな色を知っている、
 それは銀色や金色よりはるかに尊く思っている、
 その色を額や服にまとうのがとても好きで
 「真理の色」と名付けた。

2
Wohl blühet in lieblicher, sanfter Gestalt
Die glühende Rose, doch bleichet sie bald.
Drum weihte zur Blume der Liebe man sie;
Ihr Reiz ist unendlich, doch welket er früh.
 愛らしくやさしい姿で咲くのは
 赤く輝くバラ、しかしじきに枯れてしまう。
 それゆえ愛の花に任命された。
 その魅力は無限だが、はやく褪せてしまう。

3
Die Bläue des Himmels strahlt herrlich und mild,
D'rum gab man der Treue dies freundliche Bild.
Doch trübet manch' Wölkchen den Äther so rein!
So schleichen beim Treuen oft Sorgen sich ein.
 空の青色は見事に柔らかく輝いている、
 それゆえ忠誠さにこの気持ちのいい光景が与えられた。
 だがいくつかの雲がこれほど澄み切った空を曇らせる!
 こうして忠誠さに、しばしば心配事が忍び込む。

4
Die Farbe des Schnees, so strahlend und licht,
Heißt Farbe der Unschuld, doch dauert sie nicht.
Bald ist es verdunkelt, das blendende Kleid,
So trüben auch Unschuld Verläumdung und Neid.
 雪の色は、とても輝いて明るく、
 無垢の色と呼ばれるが、長く続かない。
 じきにまばゆい衣装は黒ずむ、
 こうして無垢もまた誹謗とねたみによって汚れるのだ。

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(※5,6節は1805年出版の初版や、Breitkopf und Härtel出版のベートーヴェン全集で省かれている。)

5
Und Frühlings, von schmeichelnden Lüften entbrannt,
Trägt Wäldchen und Wiese der Hoffnung Gewand.
Bald welken die Blätter und sinken hinab:
So sinkt oft der Hoffnungen liebste in's Grab.
 春には、風にまとわりつかれて燃え上がり、
 森や草原は希望の衣装を身にまとう。
 まもなく葉は枯れ、落ちる。
 こうしてしばしば希望の恋人は墓の下に沈む。

6
Nur Wahrheit bleibt ewig, und wandelt sich nicht:
Sie flammt wie der Sonne allleuchtendes Licht.
Ihr hab' ich mich ewig zu eigen geweiht.
Wohl dem, der ihr blitzendes Auge nicht scheut!
 ただ真理だけが永遠で不変である。
 それは太陽のまばゆい光のように燃える。
 私は永遠に真理に身を捧げた。
 真理の光る瞳を恐れない者は幸いだ!

-----

7
Warum ich, so fragt ihr, der Farbe so hold
Den heiligen Namen der Wahrheit gezollt?
Weil flammender Schimmer von ihr sich ergießt
Und ruhige Dauer sie schützend umschließt.
 なぜ私は、と君たちは尋ねた、この好きな色に
 真理という聖なる名前を付けたのか?
 きらきら輝く微光があふれ出て、
 平穏な時間が色を保護しつつ包み込むから。

8
Ihr schadet der nässende Regenguß nicht,
Noch bleicht sie der Sonne verzehrendes Licht:
D'rum trag' ich so gern sie um Stirn' und Gewand
Und habe sie ,,Farbe der Wahrheit'' genannt.
 土砂降りでずぶ濡れになっても損なわれることもなく、
 太陽の焼き尽くすような光に色落ちすることもない。
 それゆえその色を額や服にまとうのがとても好きで
 「真理の色」と名付けたのだ。

詩:Sophie Mereau (1770-1806) 
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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ベートーヴェン『8つの歌曲』Op. 52の第2曲に置かれたのは、ゾフィー・メローの詩に1792年11月以前に作曲された「炎色(Feuerfarb', Op. 52 No. 2)」です。

詩人のゾフィー・メローはベートーヴェンと同年生まれの作家で、旧姓をシューバルト(Schubart)といい、1回目に結婚した相手(Friedrich Ernst Carl Mereau)の姓メローの名でいくつかの作品を残しました。メローと離婚後にクレメンス・ブレンターノ(Clemens Brentano:『子供の魔法の角笛』が有名)と結婚しましたが36歳で亡くなりました。

詩は様々な色と比較して、煌々と輝く炎色はどんな豪雨に色あせることもなく永遠に持続する「真理の色」だと賞賛します(「炎色」という言葉はタイトルにしか出てきませんが)。

曲は、原詩の2つ分を1節とした完全な有節形式です。メローの原詩は8節からなりますが、5~6節目は、Op. 52として1805年に出版された初版や、Breitkopf und Härtel出版のベートーヴェン全集に記載されていない為、おそらくベートーヴェン自身が省略したのだと思います。ほとんどの録音で省略して歌っていますが、数年前にリリースされたヴァルダードルフ&オーカーランドの録音では5~6節目を復元して全節を演奏しています。

歌は素朴で明るい響きで一貫し、ピアノ右手はほぼ歌声部のメロディをなぞります。
ピアノ後奏でト長調のフレーズを繰り返す際に一瞬影を落とすのがいいですね。

6/8拍子
ト長調(G-dur)
Andante con moto

●メローの詩の朗読(Rezitation: Daniel Jankowski)(全8節)
Feuerfarb - Sophie Mereau

ゾフィー・メローの原詩全8節を朗読しています。第2節はベートーヴェンの採用した詩と異なるので、メローが改訂した版なのかもしれません。

●アン・マリー(MS) & イアン・バーンサイド(P)
Ann Murray(MS) & Iain Burnside(P)

1-4,7-8節。アン・マリーはメゾですが重くならずとても美しい響きです。

●ペーター・シュライアー(T) & ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T) & Walter Olbertz(P)

1-4,7-8節。シュライアーのめりはりのついた語り口は素晴らしいです。オルベルツもさすがぴったりのアンサンブルです。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ハルトムート・ヘル(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Hartmut Höll(P)

1-4,7-8節。80年代のF=ディースカウの声も独自の味わいがあります。

●パメラ・コバーン(S) & レナード・ホカンソン(P)
Pamela Voburn(S) & Leonard Hokanson(P)

1-4,7-8節。コバーンの丁寧な歌いぶりもまた好感がもてます。

●マックス・ファン・エフモント(BR) & ヴィルヘルム・クルムバハ(Hammerflügel)
Max van Egmond(BR) & Wilhelm Krumbach(Hammerflügel)

1-4,7-8節。エフモントの明晰な歌唱とハンマーフリューゲルの響きが心地よいです。

●コンスタンティン・グラーフ・フォン・ヴァルダードルフ(BSBR) & クリスティン・オーカーランド(P)
Constantin Graf von Walderdorff(BSBR) & Kristin Okerlund(P)

1-8節。第5-6節は詩の内容的に意味のあることを述べているように思えるので、こうしてあえて復元して歌う試みは歓迎です!

●第1稿(Hess 144)
コンスタンティン・グラーフ・フォン・ヴァルダードルフ(BSBR) & クリスティン・オーカーランド(P)
Constantin Graf von Walderdorff(BSBR) & Kristin Okerlund(P)

1-8節。第1稿で演奏しています。第2稿とはピアノパート、後奏に違いが見られますが、基本的には同じ楽想です。

●第1稿(Hess 144)
パウル・アルミン・エーデルマン(BR) & ベルナデッテ・バルトス(P)
Paul Armin Edelmann(BR) & Bernadette Bartos(P)

1-4,7-8節。こちらも第1稿の演奏です。エーデルマンの穏やかな低音が心地よいですね。

●ピアノパートのみ(Toomas Kaldaru)
Beethoven Feuerfarb' accompaniment

曲は2回分演奏されています。明晰で歌いやすい演奏だと思います。

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ベートーヴェン「ウーリアンの世界旅行(Urians Reise um die Welt, Op. 52 No. 1)」

Urians Reise um die Welt, Op. 52 No. 1
 ウーリアンの世界旅行

1:
Wenn jemand eine Reise tut,
So kann er was verzählen.
D'rum nahm ich meinen Stock und Hut
Und tät das Reisen wählen.
Da hat er gar nicht übel dran getan,
Verzähl' er doch weiter, Herr Urian!
 人は旅をすると
 何かを語れるようになる。
 だから私はステッキと帽子をとって
 旅することを選んだのだ。
 この人は全く悪さをしなかったぞ、
 続きを話しておくれよ、ウーリアンさん!

2:
Zuerst ging's an den Nordpol hin;
Da war es kalt bei Ehre!
Da dacht' ich denn in meinem Sinn,
Daß es hier beßer wäre.
Da hat er gar nicht übel dran getan,
Verzähl' er doch weiter, Herr Urian!
 まず北極に行ったんだ、
 名誉にかけて言うが、そこは寒かった!
 その時私が思ったのは、
 ここにいた方が良かったということ。
 この人は全く悪さをしなかったぞ、
 続きを話しておくれよ、ウーリアンさん!

3:
In Grönland freuten sie sich sehr,
Mich ihres Ort's zu sehen,
Und setzten mir den Trankrug her:
Ich ließ ihn aber stehen.
Da hat er gar nicht übel dran getan,
Verzähl' er doch weiter, Herr Urian!
 グリーンランドでは人々が
 彼らの土地を訪ねたことをとても喜んでくれて、
 酒のジョッキを持ってきてくれた。
 だが私は手をつけなかった。
 この人は全く悪さをしなかったぞ、
 続きを話しておくれよ、ウーリアンさん!

4:
Die Eskimos sind wild und groß,
Zu allen Guten träge:
Da schalt ich Einen einen Kloß
Und kriegte viele Schläge.
Da hat er gar nicht übel dran getan,
Verzähl' er doch weiter, Herr Urian!
 エスキモーは粗野で大柄、
 どんな善い人に対しても面倒くさそうに接する。
 私がそのうちの一人に平手打ちしたところ
 たくさん殴られてしまった。
 この人は全く悪さをしなかったぞ、
 続きを話しておくれよ、ウーリアンさん!

5:
Nun war ich in Amerika!
Da sagt ich zu mir: Lieber!
Nordwestpassage ist doch da,
Mach' dich einmal darüber.
Da hat er gar nicht übel dran getan,
Verzähl' er doch weiter, Herr Urian!
 さて私はアメリカに来た!
 そこで私は独り言を言った、ここの方がいいぞ!
 北西航路がある、
 さあ始めるんだ。
 この人は全く悪さをしなかったぞ、
 続きを話しておくれよ、ウーリアンさん!

6:
Flugs ich an Bord und aus in's Meer,
Den Tubus festgebunden,
Und suchte sie die Kreuz und Quer
Und hab' sie nicht gefunden.
Da hat er gar nicht übel dran getan,
Verzähl' er doch weiter, Herr Urian!
 急いで私は海に行き、船を乗降し、
 望遠鏡を結びつけ、
 あちこち探しまわったが
 北西航路は見つからなかった。
 この人は全く悪さをしなかったぞ、
 続きを話しておくれよ、ウーリアンさん!

7:
Von hier ging ich nach Mexico -
Ist weiter als nach Bremen -
Da, dacht' ich, liegt das Gold wie Stroh;
Du sollst 'n Sack voll nehmen.
Da hat er gar nicht übel dran getan,
Verzähl' er doch weiter, Herr Urian!
 ここから私はメキシコに行った、
 ブレーメンへ行くよりも遠いのだ。
 そこには、私が考えていたところでは、黄金が藁のようにある、
 袋いっぱいに取ってこなければ。
 この人は全く悪さをしなかったぞ、
 続きを話しておくれよ、ウーリアンさん!

8:
Allein, allein, allein, allein,
Wie kann ein Mensch sich trügen!
Ich fand da nichts als Sand und Stein,
Und ließ den Sack da liegen.
Da hat er gar nicht übel dran getan,
Verzähl' er doch weiter, Herr Urian!
 ひとり、ひとり、ひとり、どこまでもひとりぼっち、
 いかに人は間違い得ることか!
 そこには砂と石のほか何も見当たらなかったので
 袋をそこに置き去りにした。
 この人は全く悪さをしなかったぞ、
 続きを話しておくれよ、ウーリアンさん!

9:
D'rauf kauft' ich etwas kalte Kost
Und Kieler Sprott und Kuchen
Und setzte mich auf Extrapost,
Land Asia zu besuchen.
Da hat er gar nicht übel dran getan,
Verzähl' er doch weiter, Herr Urian!
 その後私は何か冷たい食べ物と
 キール産のニシンとケーキを買って、
 特別馬車に腰をおろした、
 アジアの地を訪れるために。
 この人は全く悪さをしなかったぞ、
 続きを話しておくれよ、ウーリアンさん!

10:
Der Mogul ist ein großer Mann
Und gnädig über Massen
Und klug; er war itzt eben dran,
'n Zahn auszieh'n zu lassen.
Da hat er gar nicht übel dran getan,
Verzähl' er doch weiter, Herr Urian!
 ムガル帝国の皇帝は大男で
 とてつもなく寛大で
 賢い人だ。彼は今
 歯を抜いてもらわなければならなかった。
 この人は全く悪さをしなかったぞ、
 続きを話しておくれよ、ウーリアンさん!

11:
Hm! dacht' ich, der hat Zähnepein,
Bei aller Größ' und Gaben!
Was hilfts denn auch noch Mogul sein?
Die kann man so wohl haben!
Da hat er gar nicht übel dran getan,
Verzähl' er doch weiter, Herr Urian!
 ふむ!私は思った、皇帝は歯が痛いのだ、
 威容と天賦の才をもっていながら!
 ムガル帝国皇帝であることが何の助けになろうか?
 歯痛はおそらく誰でもなりうるだろう!
 この人は全く悪さをしなかったぞ、
 続きを話しておくれよ、ウーリアンさん!

12:
Ich gab dem Wirt mein Ehrenwort,
Ihn nächstens zu bezahlen;
Und damit reist' ich weiter fort,
Nach China und Bengalen.
Da hat er gar nicht übel dran getan,
Verzähl' er doch weiter, Herr Urian!
 私は主人に誓った、
 次回に支払うと。
 それで私はさらに旅を続けた、
 中国やベンガルへ。
 この人は全く悪さをしなかったぞ、
 続きを話しておくれよ、ウーリアンさん!

13:
Nach Java und nach Otaheit
Und Afrika nicht minder;
Und sah bei der Gelegenheit
Viel Städt' und Menschenkinder.
Da hat er gar nicht übel dran getan,
Verzähl' er doch weiter, Herr Urian!
 ジャワ島へ、さらにタヒチや
 アフリカへも行った、
 そして折々に
 多くの町や人を見た。
 この人は全く悪さをしなかったぞ、
 続きを話しておくれよ、ウーリアンさん!

14:
Und fand es überall wie hier,
Fand überall 'n Sparren,
Die Menschen grade so wie wir,
Und eben solche Narren.
Da hat er übel, übel dran getan,
Verzähl' er nicht weiter, Herr Urian!
 そしてどこもここと同じと分かり、
 どこも風変わりだと分かった。
 人々はまさに我々と同じで
 このような愚か者である。
 この人は、ひどい、ひどい仕打ちをした、
 話の続きはもう結構です、ウーリアンさん!

詩:Matthias Claudius (1740-1815)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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ベートーヴェンの作品番号52の『8つの歌(Acht Lieder)』は1805年にWienのBureau des Arts et d'Industrie (Kunst- und Industrie-Comptoir)から出版されました。この歌曲集に含まれる曲はほぼ初期作品で(作曲年代が不明な曲もありますが)、この「ウーリアンの世界旅行」は1792年11月以前の作曲(ベートーヴェン21歳)とのことです。

詩のタイトルにある"Urian"というのは、ウーリアン(発音記号的に表記すると「ウーリアーン」)という人名なのですが、小学館の独和辞典によると、婉曲な表現で「Teufel(悪魔)」の別称、もしくは「好ましからぬ客」のことらしいです。
世界中を旅した男性は当時の人の目には悪魔のように思えたのかもしれません。
どんな話が聞けるのか目を輝かせて男性を取り囲む人々の姿が目に浮かぶようです。

クラウディウスの原詩は、各節最後の2行の前に"Tutti(全員)"と記されており、ベートーヴェンの作品も楽譜の該当箇所のうえに"Tutti"と記しており、その部分を斉唱することを示唆しています。

すべてを1人の歌手が独唱曲として歌う場合と、Tuttiを数人の歌手、もしくは合唱団が斉唱する場合があります。
ピアノ右手高音と歌声部の旋律が同一(楽譜は分かれています)なので、ピアノ独奏で演奏することも可能ではあります。

歌詞は14節あり、完全な有節形式なので、独唱者が全14節歌うのか、あるいは抜粋で歌うのか、後者の場合、どの節を歌うのか等、演奏者の意図を想像してみるのも楽しいと思います。
歌手には演出の巧みさも求められると思います。
実際下記の録音は皆さん芸達者でした!
ぜひどんなふうに歌われるのか楽しんで下さい!地名が沢山出てくるのも面白いですね。

3/4拍子
イ短調(独唱)-イ長調(Tutti)
8小節(独唱)-4小節(Tutti)
冒頭に記されたベートーヴェンの指示:In einer mässigen geschwinden Bewegung mit einer komischen Art gesungen. (適度に速く、コミカルに歌う)

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & イェルク・デームス(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Jörg Demus(P)

1-14節
全節歌っていますが、斉唱パートもフィッシャー=ディースカウが一人で歌っています。さすが芸達者のF=ディースカウ、お見事としか言いようのない語り口です!

●ペーター・シュライアー(T) & ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T) & Walter Olbertz(P)

1,2,3,7,9,10,11,12,14節
シュライアーもまた語りに定評のある人で、有節形式でも飽きさせずに聞き手を惹き込んでしまいます。

●ヘルマン・プライ(BR) & ベルリン・ハインリヒ・シュッツ・クライス & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Heinrich-Schütz-Kreis Berlin & Leonard Hokanson(P)

1,2,5,7,9,13,14節
プライが歌うと一気に酒場の情景が目に浮かびますね。持って生まれたキャラクターゆえでしょうか。

●ロデリック・ウィリアムズ(BR) & イアン・バーンサイド(P)
Roderick Williams(BR) & Iain Burnside(P)

1-5,7-14節
第6節のみ省略で、それ以外すべて歌っています。英国人ウィリアムズは現役ばりばりのバリトン歌手ですが、語りがとても素晴らしく、声も魅力的です。

●コンスタンティン・グラーフ・フォン・ヴァルダードルフ(BSBR) & ヴィーン・グスタフ・マーラー合唱団 & クリスティン・オーカーランド(P)
Constantin Graf von Walderdorff(BSBR) & Gustav Mahler Chor Wien & Kristin Okerlund(P)

1-14節
全節歌っています。斉唱部分は第4節のエスキモーのくだりでは男声合唱で他は混声合唱と、詩の内容によって変えています。

●ヴァンサン・リエーヴル=ピカール(T) & ダニア・エル・ゼイン(S) & ナタリー・ペレス(MS) & ジャン=フランソワ・ルッション(BR) & ジャン=ピエール・アルマンゴー(P)
Vincent Lièvre-Picard(T), Dania el Zein(S), Natalie Pérez(MS), Jean-François Rouchon(BR), Jean-Pierre Armengaud(P)

1,2,4,7,8,13,14節
Tがソロ、他の声部が斉唱担当。斉唱パートが少人数なので、合唱団の時と雰囲気が違って面白いですね。

●マックス・ファン・エフモント(BR) & 男声合唱団 & ヴィルヘルム・クルムバハ(Hammerklavier)
Max van Egmond(BR) & Männerchor & Wilhelm Krumbach(Hammerklavier)

1-14節
全節歌っています。エフモントのハイバリトンの美声が心地よく響きます。クルムバハのハンマークラヴィーアの響きもいいですね。

その他に、水越啓(T) & 重岡麻衣(Fortepiano)のCDでは最初と最後の節(1,14節)のみ歌っていました。このCD、ベートーヴェンの初期歌曲がまとめられていてとてもいいのでお勧めです!

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シューマン「くるみの木(Der Nußbaum, Op. 25 No. 3)」を聴く

Der Nußbaum, Op. 25 No. 3
 くるみの木

Es grünet ein Nußbaum vor dem Haus,
Duftig,
Luftig
Breitet er blättrig die [Äste]1 aus.
 くるみの木が家の前で緑映えている、
 香りたち、
 風たち、
 葉が生い茂った木は枝を広げている。

Viel liebliche Blüten stehen dran;
Linde
Winde
Kommen, sie herzlich zu umfahn.
 沢山の愛らしい花が木から咲き出ている、
 穏やかな
 風が
 吹き寄せる、花々を心をこめて包み込もうとして。

Es flüstern je zwei zu zwei gepaart,
Neigend,
Beugend
Zierlich zum Kusse die Häuptchen zart.
 二輪ずつ二組対になってささやく、
 傾けて
 かがめるのは
 愛くるしくキスしようとするきゃしゃな頭。

Sie flüstern von einem Mägdlein, das
Dächte
Die Nächte,
Und Tage lang, [wusste]2, ach! selber nicht was.
 花々はある娘のことをささやく、その娘は
 考えていたのだと、
 夜も
 昼もずっと、ああ、自分では何についてなのか分からなかったのだ。

Sie flüstern - wer mag verstehn so gar
Leise
Weis'? -
Flüstern [von]3 Bräut'gam und nächstem Jahr.
 花々はささやく、誰が聞き取れようか、そんな
 ひそひそした
 しゃべり方では。
 ささやくのは花婿と来年のこと。

Das Mägdlein horchet, es rauscht im Baum;
Sehnend,
Wähnend
Sinkt es lächelnd in Schlaf und Traum.
 娘は聴き耳を立てる、木がざわざわ葉擦れの音をたてている。
 思い慕い、
 妄想して、
 娘は微笑みつつ眠りと夢の中に沈みこんでいく。

詩:Julius Mosen (1803-1867)
曲:Robert Schumann (1810-1856)

1 Mosen: "Blätter", Schumann: "Äste"
2 Clara Schumann編纂の楽譜では"wüsste"。Mosenの詩では"wusste"
3 Clara Schumann編纂の楽譜では"vom"

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ローベルト・シューマンが結婚相手のクラーラに贈った歌曲集『ミルテ』Op. 25の第3曲に置かれているのが「くるみの木」です。
知名度では第1曲「献呈」に及びませんが、曲の美しさでは決して負けていません。
最もシューマンらしい歌曲として私なら「くるみの木」を挙げます。ロマンティックなピアノと歌との掛け合いの美しさはちょっと比類がないほどだと思います。
1行目を歌った後にピアノの間奏が入り、2行目以降に進み、最終行は歌とピアノが一緒に歌います。まさに対話しているかのようですね。
ピアノの分散和音は短いフレーズですぐに主和音に戻り、安定した響きが全体を支配しているので、時々展開する和声が生きてくると思います。

6/8拍子
ト長調(G-dur)
Allegretto

●詩の朗読:ズザンナ・プロスクラ(speaker)
Susanna Proskura(speaker)

ゆっくりと発音しているので、歌う人の発音の確認にちょうど良さそうです。ちなみに朗読しているプロスクラはソプラノ歌手です。

●エディト・マティス(S) & カール・エンゲル(P)
Edith Mathis(S) & Karl Engel(P)

芯があって知的で表情豊かでチャーミングで、どれだけ形容してもしきれないほど最高の歌唱です!マティスはコンサートなどではこの曲をよく歌っていたようですがなぜかスタジオ録音がされなかったので、つい最近リリースされたこのLuzern音楽祭ライヴ録音は待ちに待った音源でした!

●バーバラ・ボニー(S) & ヴラディーミル・アシュケナージ(P)
Barbara Bonney(S) & Vladimir Ashkenazy(P)

第1節Äste→Blätterに変更して歌っています。ボニーの声はこの曲を歌うのにうってつけですね。なんとも可憐で伸びやかで大好きな歌唱です。アシュケナージも常に磨かれた美音で素晴らしいです。

●白井光子(MS) & ハルトムート・ヘル(P)
Mitsuko Shirai(MS) & Hartmut Höll(P)

白井さんの歌は言葉の意味をイメージさせてくれます。例えば1節目の"Breitet"という言葉を彼女が語ると、枝が大きく広がるイメージが浮かんできます。言葉のもつ意味をこれほど伝えてくれる歌唱はなかなかないのではないでしょうか。

●エリー・アーメリング(S) & イェルク・デームス(Fortepiano)
Elly Ameling(S) & Jörg Demus(Fortepiano)

若かりしアーメリングの柔らかく甘い美声が味わえます。この数年後にEMIに録音したシューマン歌曲集のLPでの歌唱も素晴らしいので、いつか復活してほしいものです。

●エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S) & ジェラルド・ムーア(P)
Elisabeth Schwarzkopf(S) & Gerald Moore(P)

第1節Äste→Blätterに変更して歌っています。シュヴァルツコプフは馥郁たる気品漂う歌唱ですね。ムーアがいつもながら美しくピアノを歌わせていて聴き惚れます!

●エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S) & ジェフリー・パーソンズ(P)
Elisabeth Schwarzkopf(S) & Geoffrey Parsons(P)

ムーアの録音より随分後に録音されたこの音源は、テンポが前回に比べてずっとゆっくりになっていることに驚かされます(演奏時間が5分近い!)。年代ごとに演奏家の解釈は変わりますが、ここまで変わるのはなかなかないと思います。こういう聞き比べも興味深いと思います。

●ベルナルダ・フィンク(MS) & ロジャー・ヴィニョールズ(P)
Bernarda Fink(MS) & Roger Vignoles(P)

フィンクの深みのある低い声で聴くと味わい深さが感じられていいです。

●ロッテ・レーマン(S) & ポール・ウラノウスキー(P)
Lotte Lehmann(S) & Paul Ulanowsky(P)

レーマンの表情の豊かさといったら!歌いまわしは多少時代を感じますが、それでも最高です!

●レオ・スレツァーク(T) & ピアニスト
Leo Slezak(T) & pianist

第1節Äste→Zweige(枝)に変更して歌っています。1928年録音。リートの演奏史にはこういう時代がありました。ポルタメントやフェルマータの多用はありながら、それらを皆魅力に変えてしまう魔法のような声と表現力です。弱声の美しさにぐっと惹き込まれてしまうのは私だけでしょうか。

●ディアナ・ダムラウ(S) & グザヴィエ・ドゥ・メストレ(Harp)
Diana Damrau(S) & Xavier de Maistre(Harp)

ピアノパートをハープに編曲して演奏しています。今最も多忙なソプラノ、ダムラウの伸びやかな歌唱とメストレの美しいハープが溶け合って素晴らしいです。ちなみに彼女はピアノ伴奏でも2種類録音を残しています。

●ピアノパートのみ(ピアニスト名記載なし)
Unidentified pianist

投稿者:Karaoke for singers オペラ・歌曲伴奏音源。手元が近くから見られます。とても美しい演奏です。ピアノパートだけでも独立したピアノ曲として聴けるほどです。

●クラーラ・シューマンによるピアノ独奏用編曲:クラウディオ・コロンボ(P)
Arranged for Piano Solo by Clara Schumann: Claudio Colombo(P)

クラーラ・シューマンは夫ローベルトの歌曲をいくつかピアノ独奏用に編曲していますが、ほぼ原曲通りなので、歌曲を一人で演奏したい時にうってつけだと思います。

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