ベートーヴェン「ミナに(An Minna, WoO. 115)」
An Minna, WoO. 115
ミナに
Nur bei dir, an deinem Herzen,
fliehen Sorge, Gram und Schmerzen
und die Stifterin der Leiden,
Uns're Liebe schafft uns Freuden,
die kein Gott mir ohne dich,
die kein Gott dir ohne mich
schaffen, keiner geben kann,
du mein Weib und ich dein Mann.
ただあなたのそばにいて、あなたの心に寄り添えば
心配事も悲嘆も苦悩も
苦しみの基となった女性も消え失せてしまいます。
私たちの愛は我々に喜びをもたらしてくれます。
その喜びは神があなたなしに私にもたらすことはなく、
神が私なしにあなたにもたらすことはなく、
誰も与えることの出来ないものです。
あなたは私の妻で、私はあなたの夫です。
詩:Anonymous
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)
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1792年頃(ベートーヴェン22歳)はベートーヴェンが比較的多くの歌曲を生み出した年でした。
その中の一つ「ミナに」は、作者不詳の短いテキストに作曲されました。夫から妻ミナへの愛情のこもった恋文のようなものでしょう(若干三角関係の匂いはしますが...)。曲は穏やかで優美です。
3/4拍子
ニ長調(D-dur)
Allegretto
全22小節
歌声部の最高音:2点ホ音(E)
歌声部の最低音:1点ニ音(D)
●ヘルマン・プライ(BR) & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Leonard Hokanson(P)
プライは噛みしめるような語り口で、熟した表現を聞かせてくれます。
●ペーター・シュライアー(T) & ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T) & Walter Olbertz(P)
シュライアーは快適なテンポで爽やかに歌っています。オルベルツも爽快で美しい演奏です。
●ヴァンサン・リエーヴル=ピカール(T) & ジャン=ピエール・アルマンゴー(P)
Vincent Lièvre-Picard(T), Jean-Pierre Armengaud(P)
リエーヴル=ピカールの誠実そうな歌唱もいいですね。
他に水越啓(T) & 重岡麻衣(Fortepiano)(ALM Records)の録音も素敵でした。
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コメント
フランツさん、こんばんは。
この曲の歌詞、
「苦しみの基となった女性も消え失せてしまいます。」
は不思議ですね。
なぜこれを詩の中に入れたのか。リアル過ぎて、実体験なのかと思ってしまいます。
プライさんが歌うと、穏やかな夫婦愛が伝わって来ました。
シュライアーは、苦しみの基の女性の存在を消そうとしているかのようでした。爽やかな早口がかえって怪しい感じで笑
ピカールは本当に誠実ですね。
永遠の愛を神に誓っているかのようでした。声もいいですね!
投稿: 真子 | 2021年2月25日 (木曜日) 22時01分
真子さん、こんばんは。
鋭いご感想を有難うございます(^^)
"Stifter"というのは「(ある事柄を起こす)基となった人、(事件などを引き起こした)張本人、首謀者」という意味で、この詩に出てくる"Stifterin"はその女性版です。
詩人は判明していないようですが、何か実体験に基づいているのかもしれませんね。
プライのゆったりとした余裕のある歌は、長年寄り添った妻への賛歌として響きますね。
シュライアーの爽やかさに「怪しさ」を感じられたというご感想は面白いですね。そういう発想がなかったのでなるほど~と思いました(笑)
ピカールはどこまでも誠実な歌唱ですよね。
この曲についてベートーヴェン研究の大家平野昭さんが記事を書いておられますのでご参考までに。
https://ontomo-mag.com/article/playlist/oyasumi022-20200106/
投稿: フランツ | 2021年2月26日 (金曜日) 18時37分