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ベートーヴェン「独り言(Ein Selbstgespräch, WoO 114)」

Ein Selbstgespräch, WoO 114
 独り言

Ich, der mit flatterndem Sinn
Bisher ein Feind der Liebe bin,
Und es so gern beständig bliebe,
Ich! Ach! Ich glaube, daß ich liebe.
 私は移り気な男、
 これまでずっと愛の敵だ、
 一途でいられたらいいのだが。
 私は!ああ!私は今愛しているのだと思う。

Der ich sonst Hymen angeschwärzt,
Und mit der Liebe nur gescherzt,
Der ich im Wankelmuth mich übe,
Ich glaube, daß ich Doris liebe.
 私はかつて婚礼の神ヒュメナイオスを中傷し、
 愛をただからかっていた、
 私は移り気の修行をしてきた、
 そんな私がドーリスを愛しているのだと思う。

Denn ach! seitdem ich sie gesehn,
Ist mir kein andre Schöne schön,
Ach, die Tyrannin meiner Triebe;
Ich glaube gar, daß ich sie liebe.
 というのもああ!私が彼女に会って以来
 他の美女は私にとって美しく思えないのだ、
 ああ、わが欲望の専制君主よ、
 私は彼女を愛していると本当に思う。

詩:Johann Wilhelm Ludwig Gleim (1719-1803)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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グライムの詩により1792-173年に作曲されました。旧全集では"Ich, der mit flatterndem Sinn"という1行目の歌詞がタイトルに冠されていました。

2節目の最初の2行は「かつては処女を奪い、ただ女遊びにふけっていた」というふうにもとれます。ちょっと生々しいですが暗示されているのはそういうことだと思います。

左手と右手が交互にリズムを刻むピアノパートは後のシューマン「薔薇、百合、鳩、太陽」を予感させますが、シューマンはこのベートーヴェンの歌曲を知ることはなかったので(1888年頃初出版)、単なる相似ですね。
歌詞の繰り返しがかなり自由に行われていたり、突然の総休止(Generalpause)があったりと、22~23歳のベートーヴェンのチャレンジが感じられます。表情や強弱・テンポの指示が一切ないのは演奏家に委ねられているということなのでしょう。第2節第4行の"glaube"で歌手は10度上行しなければなりません。

2/4拍子
ホ長調 (E major)
160小節

●マーク・パドモア(T) & クリスティアン・ベザイデンハウト(Fortepiano)
Mark Padmore(T) & Kristian Bezuidenhout(Fortepiano)

現役イギリス人歌手の中で特にドイツ歌曲に優れた演奏を聴かせるパドモアのユーモラスで生き生きとした歌唱にブラボー!!ベザイデンハウトも楽しげな雰囲気が伝わってきますね。

●ペーター・シュライアー(T) & ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T) & Walter Olbertz(P)

さすが芸達者シュライアー、巧みな語りで聴き手を詩の世界に引き込みます。飛ばしすぎず落ち着いたテンポで歌われます。

●ヘルマン・プライ(BR) & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Leonard Hokanson(P)

プライは温かみのある声でゆとりを持って表現していますね。

●ジョン・マーク・エインスリー(T) & イアン・バーンサイド(P)
John Mark Ainsley(T) & Iain Burnside(P)

エインスリーの爽やかで誠実そうな美声が伊達男の告白を歌うギャップが面白い効果をあげていると思います。バーンサイドのピアノが音楽の展開に応じてタッチを自在に変えて聴きごたえがありました。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ハルトムート・ヘル(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Hartmut Höll(P)

F=ディースカウの語り口のうまさがここでも生きています。おそらくヘルと共演した最初の録音だったと思います。大御所を前にしてヘルも見事な演奏だと思います。

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コメント

フランツさん、こんばんは。

パドモア、いいですね。ブラボーと叫ばれた?の分かります!

シュライアーは、曲によっては歌い口がディースカウさんに近いなあと、思う事があるのですが、この曲もそのように感じました。ディースカウさんほどではないのですが。

プライさんは、円熟期の温かい声だからか、フランツさんが解説されているような生々しさをかんじしせないですね。

そういう視点からいえば、エインスリーもそうですが。エインスリー美声ですね。音色が好きです。
バリトン好きな私ですが、音色に好みがあるようです。最近の歌手でしょうか?
バーンサイドのピアノにも引き付けられました。

ディースカウさんは、やはり語りのディースカウ、という感じですね。ドイツ語がわかれば、その巧みさがさらに理解できるのでしょうけれど、、

投稿: 真子 | 2021年2月15日 (月曜日) 19時39分

真子さん、こんばんは。

今回も素敵なコメントを有難うございます(^^)

パドモアいいですよね。
実演も何度か聴いたことがあるのですが、本当に素晴らしい歌手です。
声質もディクションも最高です!
イギリスは歌手もピアニストもリート演奏の優れた伝統がありますね。

シュライアーの知的な語り口は確かにF=ディースカウのめりはりを思わせるところがありますよね。
F=ディースカウの一歩手前ぐらいの感じでしょうか。
常にコントロールをきかせているところも彼の歌の魅力のひとつだと思います。

プライの歌は酸いも甘いも噛み分けた大人の歌唱という感じですね。
1980年代のプライはそういう印象をもつことが多くなりました。

エインスリーも気に入っていただけて嬉しいです。
彼もイギリスの歌曲・オペラの両方で活躍したテノールなのですが、
白血病の闘病生活を経て最近復帰公演をする予定だったようですので、
うまく回復されたのではないかと思います(世情によって公演延期になったようです)。
バーンサイドも英国の優れた歌曲ピアニストです。

F=ディースカウの語りの巧さはここでも生きていますよね。

投稿: フランツ | 2021年2月16日 (火曜日) 20時23分

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