ベートーヴェン「嘆き(Klage)」 WoO. 113
Klage, WoO. 113
嘆き
Dein Silber schien
Durch Eichengrün,
Das Kühlung gab,
Auf mich herab,
O Mond, und lachte Ruh
Mir frohen Knaben zu.
おまえの銀色が
樫の緑色の間から
涼しさを与え
私の上に輝き注ぐ。
おお、月よ、憩いが
陽気な子供の私に笑いかけた。
Wenn jetzt dein Licht
Durchs Fenster bricht,
Lachts keine Ruh
Mir Jüngling zu,
Siehts meine Wange blaß,
Mein Auge thränennaß.
今おまえの光が
窓から差し込むと
憩いが
若い私に笑いかけることはない、
私の頬は青白く見え、
私の目は涙に濡れる。
Bald, lieber Freund,
Ach, bald bescheint
Dein Silberschein
Den Leichenstein,
Der meine Asche birgt,
Des Jünglings Asche birgt!
間もなく、いとしい友よ、
ああ、間もなく
おまえの銀色の輝きが
墓石を照らす。
その墓石は私の灰を納める、
若い私の灰を納めるのだ!
詩:Ludwig Heinrich Christoph Hölty (1748-1776)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)
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ヘルティの「嘆き」という詩にベートーヴェンは1790年前半頃(当時20歳)に作曲しました。
ヘルティの詩はもともと「月に寄せて(An den Mond)」という題でしたが、フォス(Johann Heinrich Voß)が改訂版を出版した際に「嘆き」という題に変更されたそうです。
通作形式
前奏4小節
ホ長調→ホ短調
2/4拍子→2/2拍子
全41小節
Langsam und sanft (ゆっくりと穏やかに) (1小節) - Sehr langsam und traurig (非常にゆっくりと悲しげに) (16小節:第2節)
ピアノパートの指示
1小節
Durchaus müssen die Töne geschliffen und so sehr als möglich aushalten und zusammengebunden werden. (一貫して音は磨きぬかれていて、出来るだけ音を保持し、連なっていなければならない。)
14小節
Hier wird die Bewegung nach und nach langsamer. (ここで動きは徐々にゆっくりになる)
歌声部最高音:2点イ音
歌声部最低音:1点嬰ニ音
同じ詩にシューベルトも作曲していますが、そちらも非常に魅力的な小品です(D436)。
●マティアス・ゲルネ(BR) & ヤン・リシエツキ(P)
Matthias Goerne(BR) & Jan Lisiecki(P)
深々とした声で哀しさと癒しの両方を感じるゲルネの表情豊かさが素晴らしかったです。
●ジョン・マーク・エインスリー(T) & イアン・バーンサイド(P)
John Mark Ainsley(T) & Iain Burnside(P)
爽やかな美声のエインスリーの真摯な歌いぶりに胸打たれます。バーンサイドの滴るような美しい音も聞きものです。
●ヘルマン・プライ(BR) & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Leonard Hokanson(P)
含蓄のあるかみしめるようなプライの歌が胸に響きます。
●ペーター・シュライアー(T) & ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T) & Walter Olbertz(P)
シュライアーは悲痛な表現も素晴らしいですね。
●【参考】シューベルトが同じテキストに作曲した「嘆き」D436
Franz Schubert (1797 - 1828), "Klage", D 436 (1816)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)
これはまたシューベルトらしい美しい音楽ですね。有節形式と思わせておいて第3節で異なる音楽をつけているのはシューベルトのテキストの読みなのでしょう。
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コメント
フランツさん、おはようございます。
深みのあるいい曲ですね。
これを20歳でつくったのですか。ベートーベンは、シューベルトには歌曲はかなわないと言っていたそうですが、シューベルトを思わせる曲でした。
プライさんのこの演奏、先日来よりご紹介下さっているパメラ・コバーンとのベートーベン全集に入っているんです。このCDあまり聞いていなかったので、この曲も初めて聞いた感じがします(^-^;、、
プライさんは晩年ならではの歌唱ですね。「私の灰を納める」という言葉は、本当に若い時には理解しえないもの。
想像としてしか歌えないですよね。やはり60を迎える年齢になると、いつかくる死を意識するものです。彼の歌からは切々としたものを感じるのはやはり年齢なのでしょうね。
それでも、歌そのものは温かいですよね。気のせいかホカンソンのビアノにも温かみがあるように聞こえました。
ゲルネの声は、何もかもつつみ込んでしまうような深みがあって、やはり魅力的ですね。
エインスリーの澄んだテノールもスバらしかったです。まっすぐな歌唱が心地よいですね。
取り敢えずここまで聞いたので、送信します。
続きはまたコメントしますね♪
投稿: 真子 | 2021年1月17日 (日曜日) 10時21分
真子さん、こんばんは。
早速聴いて下さり、有難うございます。
20歳ですでにこのような深みのある歌曲を書いたのですから、さすがベートーヴェンですよね。
ベートーヴェンがシューベルトの歌曲を評価していたと知ったら、シューベルトは狂喜したでしょうね。
プライのベートーヴェン全集、真子さんはあまりお聞きになっていないとのことですが、実は私もあまり聞いていませんでした。
歌曲全集は辞書的な意味合いで所持していることが多く、あまりまとめて聴く機会がなかったので、このタイミングで少しずつ聞いていくのもいいですよね。
プライの深みのある歌唱は素晴らしかったです。もうこの時期のプライならば特にあれこれ考えなくても自然にこの境地の歌唱を披露していたのかもしれませんね。おっしゃる通り、プライの年輪がこの死を歌ったテキストに説得力を与えているのかもしれませんね。声のもつ温かさは厳しい内容にも一筋の光を与えていて救われます。ホカンソンの味わい深い演奏も良いですね♪
ゲルネの脂の乗った歌唱も素晴らしいですが、エインスリーの透明な歌唱も今回あらためて聞いて感銘を受けました。エインスリーは白血病だったようですが、1月15日にウィグモアホールのステージに復帰予定だったそうで(ロックダウンの為延期になった模様です)、回復されたのだとしたら喜ばしいことですね。
いつもご丁寧なコメントを有難うございます(^^)
投稿: フランツ | 2021年1月17日 (日曜日) 22時17分