ベートーヴェン最初期の歌曲「ある乙女の描写(Schilderung eines Mädchens, WoO 107)」
Schilderung eines Mädchens, WoO 107
ある乙女の描写
Schildern, willst du, Freund! soll ich
Dir Elisen?
Möchte Uzens Geist in mich
Sich ergiessen!
友よ、君は私に
エリーゼを描写してほしいというのか。
ウーツの精神が私の中に
流れ込んでほしいものだ。
Wie in einer Winternacht
Sterne stralen,
Würde ihrer Augen Pracht
Oeser malen.
冬の夜に
星々が輝くように
彼女の目の輝きを
エーザーが描いてくれたらいいのに。
Finden wirst du voll und rund
Ihre Wangen,
Und den Purpur auf dem Mund
Herrlich prangen.
きみは気付くだろう、
彼女の頬がふっくらと丸いことに。
そして口もとが深紅に
見事に輝いていることに。
Und den stolzen Thron der Lust,
Sich zur Ehre,
Bildete nach ihrer Brust
Selbst Cythere.
そして誇り高き欲望の王座を。
名誉なことに
彼女の胸を模して出来たのだ、
キティラ島でさえ。
Wie sich, wenn ein Zephyr weht,
Wölkchen heben,
Scheint das Mädchen, wenn sie geht,
Nur zu schweben.
西風が吹くと
雲が沸き上がるように、
あの娘(こ)が歩くと
ただ空中を進んでいるように見える。
Sahst du je der Grazien
Jüngste hüpfen:
O so hast du sie gesehn
Tanzend schlüpfen.
君がかつてグラティアの
末っ子がとび跳ねるのを見たのなら
おお、君は彼女が
踊りながらするりと進むのを見たのだ。
Welchen Reiz dem Körper noch,
Sag es, fehle?
Zehnmal findst du schöner doch
Ihre Seele.
その身体にさらに
どんな魅力が欠けているというのか?
十倍も美しいことが君には分かるだろう、
彼女の魂は。
Wenn sie weit auf Gottes Flur
Umher blicket,
Wie wird sie durch dich, Natur!
Ganz entzücket!
彼女がはるか神の野で
あたりを見回すとき
どれほど彼女が、自然よ、君に
見とれていることだろう!
Fern ist sie von niederm Schmäh'n,
Fern von Neide.
Glücklich alle Welt zu sehn
Wär' ihr Freude.
彼女は低俗な誹謗から距離をとり
嫉妬からも離れている。
世界中の幸せを見ることが
彼女の喜びだろう。
Für ihr Herz, das edel denkt,
Welche Ehre,
Wenn sie Menschenelend schenkt
Eine Zähre!
気高い考え方をする彼女の心にとって
なんと名誉なことだろう、
彼女が人の卑しさに
一粒の涙を送るならば!
Hält sie einst von Liebe warm,
Wie die Sonne,
Mich in ihrem weichen Arm:
Welche Wonne!
彼女がいつか愛してくれて
太陽のように温かく
彼女の柔らかい腕の中でぼくを抱いてくれたら
どんなに嬉しいことだろう!
詩:不詳 (Unidentified Author)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)
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*Johann Peter Uz (1720-1796), a German poet
*Adam Friedrich Oeser (1717-1799), a German painter
前奏なし
ト長調
6/8拍子
19小節
Tempo giusto (正しいテンポで)
作者不詳のテキスト「ある乙女の描写」は11節からなります。ベートーヴェンが10歳の時に作曲した(Componirt im 11. Lebenjahre.)と出版譜に書かれています。主人公はエリーゼ(あるいはエリーザ)という女性の美しさを称え、最後には彼女に愛してもらいたいと願うという内容です。
彼は1~2節をまとめた形で作曲しましたので、他の節も2節ずつをまとめて有節形式として演奏することは可能ですが、奇数節の為、1節余ってしまいます。
Constantin Graf von Walderdorff(BSBR), Kristin Okerlund(P)の録音のように余った最終節を2回歌うという方法もありますが、あえて繰り返さないでベートーヴェンの作曲した1~2節のみを歌うことが多いようです。
出版譜ではピアノの二段楽譜で書かれていて、右手の一番上の声部が歌の旋律です。
最初の歌詞"Schildern"の1音節目を「2点ト音→2点ロ音」のメリスマで歌うようになっており、冒頭から「2点ロ音」を出さなければならない歌手は大変そうです。
強弱記号もfとff、fに向けてのcresc.のみでかなり元気よく歌うことを想定していたものと思われます。
●ペーター・シュライアー(T) & ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T) & Walter Olbertz(P)
第1-2節。シュライアーの生き生きとした歌いぶりとオルベルツの弾むような演奏が聴く者を一気に引き込んでくれます。
●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & イェルク・デームス(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Jörg Demus(P)
第1-2節。F=ディースカウのテノールのような美声が魅力的です。
●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ハルトムート・ヘル(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Hartmut Höll(P)
第1-2節。1980年代前半の録音。デームス共演の時よりも低く移調して歌っています。ヘルの曲の終わり方が余韻を感じさせて素敵でした。
●ヘルマン・プライ(BR) & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Leonard Hokanson(P)
第1-2節。シュライアーやF=ディースカウとは別の曲に思えるほど、プライはかなりゆったりしたテンポで噛みしめるように歌っています。それぞれの解釈を楽しめますね。
●コンスタンティン・グラーフ・フォン・ヴァルダードルフ(BSBR) & クリスティン・オーカーランド(P)
Constantin Graf von Walderdorff(BSBR) & Kristin Okerlund(P)
第1-11節(第11節は2回繰り返す)。詩の全部の節を歌った貴重な録音です。ヴァルダードルフの巧まない自然な歌い方がこのような作品にはふさわしく感じられます。
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コメント
フランツさん、こんばんは。
動画聴かせて頂きました。
が、今書道課題に追われていまして、提出したら、ゆっくりコメントさせて下さいね♪(*^^*)
今年も楽しい記事を楽しみにしています!
投稿: 真子 | 2021年1月 6日 (水曜日) 22時21分
真子さん、こんばんは。
書道の課題をされているのですね。コメントはいつでも結構ですので課題頑張って下さいね!
有難うございます^_^
今年もマイペースに投稿しますのでよろしくお願いいたします。
投稿: フランツ | 2021年1月 7日 (木曜日) 19時27分
フランツさん、こんばんは。
昨日、6課題まとめて出してきました。師範取得のための理論やお手本書きに追われてました。朱液ばかり見てたので目が変です 笑
話が脱線したしたが、、
ペーター・シュライアーの生き生き感、高揚感すごいですね!
ディースカウさんは、最初の演奏はかなりテノーラルで、晩年の演奏との違いが興味深かったです。
プライさんは、手元のライナーノーツによると、詳細が載っておらず、1987年から1989年の間の、いずれかの録音のようです。
おっしゃる通りの別物のような演奏ですね。でも、晩年の父性あふれる包容力の増した声とマッチして素敵です(*^^*)♪
「彼女がいつか愛してくれて
太陽のように温かく
彼女の柔らかい腕の中でぼくを抱いてくれたら
どんなに嬉しいことだろう!」
の歌詞が成就したかのような歌いぶりだと思いました。
余談ですが、彼がショパンの「別れの曲」(ドイツ語歌詞)を歌うと、別れは永遠ではなく、また会えるかのように聞こえます。(塩田美奈子さんで聞くと、日本語ということもあって、別れが切実で泣けてきますが)
「冬の旅」にも希望ある温もりをかんじますから、プライさんが歌うと、冬の歌も春になるんですね。
確かに、ヴァルダードルフの演奏はオーソドックスながら、一番しっくりくるかもしれませんね。
投稿: 真子 | 2021年1月12日 (火曜日) 20時25分
真子さん、こんばんは。
課題無事提出されたのですね!お疲れ様でした。
師範になられたら凄いですね。
応援しています!
書道の朱液、懐かしいです。
先生はどうしてあんなに失敗せずに赤い墨で直せるのだろうとよく思ったものでした。
今回もお忙しい中、音源を聴いて下さり、丁寧にコメントも下さいまして有難うございます。
シュライアーの歌、元気ですよね。
ディースカウはおっしゃるようにバリトンの中でもテノールのような高い響きがしますよね。後年はもっと渋くなりましたが。
ここでのプライは本当に他の人の歌唱とあまりに違うのでびっくりしましたが、これもまた聞き比べの醍醐味ですね。
「父性あふれる包容力の増した声」-まさにおっしゃる通りだと思います。
「冬の旅」が彼ほど温かい歌唱はなかなかないですよね。
ヴァルダードルフは素朴さゆえに、ベートーヴェンの若書き的な初々しさと一致していると言えると思います。
いつもコメント有難うございます(^^)
投稿: フランツ | 2021年1月13日 (水曜日) 20時58分