« 2020年12月 | トップページ | 2021年2月 »

シューベルトの誕生日に寄せて「ダンス(Der Tanz, D 826)」

Der Tanz, D 826
 ダンス

Es redet und träumet die Jugend so viel,
Von Tanzen, Galoppen, Gelagen,
Auf einmal erreicht sie ein trügliches Ziel,
Da hört man sie seufzen und klagen.
Bald schmerzet der Hals, und bald schmerzet die Brust,
Verschwunden ist alle die himmlische Lust,
"Nur diesmal noch kehr' mir Gesundheit zurück!"
So flehet vom Himmel der hoffende Blick!
 若者たちは多く語ったり夢見たりするものだ、
 ダンスやギャロップや酒盛りを。
 突然目標を達成したかのように錯覚したかと思えば
 溜息をついたり嘆いたりするのが聞こえる。
 首を痛めるかと思えば胸を痛め、
 天上の喜びはみな消え去った。
 「今度だけは健康が私に戻ってきますように!」
 このように天に希望の眼差しで懇願する!

Jüngst wähnt' auch ein Fräulein mit trübem Gefühl,
Schon hätte ihr Stündlein geschlagen.
Doch stand noch das Rädchen der Parze nicht still,
Nun schöner die Freuden ihr tagen
Drum Freunde, erhebet den frohen Gesang,
Es lebe die teure Irene noch lang!
Sie denke zwar oft an das falsche Geschick,
Doch trübe sich nimmer ihr heiterer Blick.
 最近気分が塞いだ女性に
 すでに最期の時が到来したのかと思い込んでいた。
 だが、運命の女神パルカの歯車は止まっていなかった、
 より素晴らしい喜びが彼女を照らした、
 だから友人たちよ、陽気な歌を歌おう、
 いとしいイレーネが長生きしますように!
 彼女は確かにしばしば誤った運命を考えてしまうが
 彼女の明るい眼差しが決して曇りませんように。

詩:Karl Kolumban Schnitzer von Meerau (1795-1854)
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828)

---------

今日はシューベルトの誕生日です!短いけれど印象的な「ダンス」という作品をご紹介したいと思います。

シューベルトの最期の年1828年に作曲されたソプラノ、アルト、テノール、バス、ピアノの編成による歌曲。重唱でも合唱でも演奏可能です。

Breitkopf & Härtel版のシューベルト全集の楽譜では歌詞が1節しか掲載されていませんので、1節のみ歌ったり、1節を2回繰り返す録音もありましたが、最近は2節まで歌う録音も出てきました。(新シューベルト全集の楽譜に第2節が掲載されているのかもしれませんね。こちらは未確認です。)

6/8拍子
ハ長調 (C-dur) 
Allegro giusto

●エリー・アーメリング(S), ジャネット・ベイカー(MS), ペーター・シュライアー(T), ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), ジェラルド・ムーア(P)
Elly Ameling(S), Janet Baker(MS), Peter Schreier(T), Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Gerald Moore(P)

1972年録音。第1節のみ。この豪華な顔ぶれ!生き生きとした演奏!この録音(Deutsche Grammophon)の存在を初めて知った時に狂喜したことを今でも覚えています。シューベルティアン5人の贅沢な録音です。

●ジビュラ・ルベンス(S), インゲボルク・ダンツ(A), マルクス・ウルマン(T), マルクス・シュミードル(BS), ウルリヒ・アイゼンローア(P)
Sibylla Rubens(S), Ingeborg Danz(A), Marcus Ullmann(T), Marcus Schmidl(BS), Ulrich Eisenlohr(P)

全2節。2008年8月録音。NAXOSシューベルト歌曲全集の32巻収録。第2節の歌が終わった後に再度前奏を繰り返して終わっています。丁寧かつ新鮮で良かったです。

●ヨハネッテ・ゾーマー(S), エヒディユス四重唱団, アルテュール・スホーンデルヴルト(Fortepiano)
Johannette Zomer(S), Egidius Kwartet, Arthur Schoonderwoerd(Fortepiano)

全2節。フォルテピアノの味のある音色と、見事に溶け合った四重唱が非常に美しいです。

●アクサンテュス, エドゥアール・ギャルサン(P), ロランス・エキルベ(C)
Accentus, Edouard Garcin(P), Laurence Equilbey(C)

全2節。混声合唱団による演奏。1節と2節の間に間奏を入れないで演奏しています。合唱だとより奥行きが出ますね。とてもいいです。

| | コメント (2)

ベートーヴェン「パンチ酒の歌(Punschlied, WoO. 111)」

Punschlied, WoO. 111
 パンチ酒の歌

Wer nicht, wenn warm von Hand zu Hand
der Punsch im Kreise geht,
der Freude voll're Lust empfand,
der schleiche schnell hinweg.
Wir trinken alle hocherfreut,
so lang uns Punsch die Kumme beut.
 手から手へと
 温かいパンチ酒がぐるぐる渡るとき
 喜びいっぱいの楽しさを感じなかったヤツは
 さっさと忍び足で出て行くがいい。
 われらは皆高らかに喜んで飲むのだ、
 器がわれらにパンチ酒を提供してくれるかぎりは。

詩:Anonymous
曲:Ludwig van Beethoven (1770 - 1827)

-----------

独唱と斉唱とピアノの為の歌曲。1791~1792年頃(ベートーヴェン21~22歳頃)の作曲。これもまた「酒宴の歌(Trinklied, WoO. 109)」同様に酒場で仲間うちで歌うための歌ですね。
"Punsch"というのは、小学館の独和大辞典によると「アラク酒またはラム酒・レモン・香料・砂糖・茶または水の五つを混ぜて作る飲料。熱して飲む」とのことで「パンチ、ポンチ、ポンス」と呼ばれるお酒だそうです(フルーツポンチの「ポンチ」もこの飲み物が由来のようです)。"Punschlied"というタイトルの歌曲はシューベルトも複数作っていますので、当時よく飲まれていたお酒なのでしょうね。

最後の2行を独唱が繰り返した後で、斉唱が同様に繰り返します。パンチ酒の入った器を手から手へと渡しながら少しずつ飲む状況が目に浮かぶようです。

Feurig (燃えるように)
6/8拍子
ト長調 (G-dur)

●ヘルマン・プライ(BR) & ベルリン・ハインリヒ・シュッツ・クライス & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Heinrich Schütz-Kreis Berlin & Leonard Hokanson(P)

プライの威勢のいい歌声は聴く者を楽しい気分にさせてくれますね。"hocherfreut"の"hoch"はプライの良さ全開です!楽譜付きです。

●ペーター・シュライアー(T) & ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T) & Wlater Olbertz(P)

斉唱のパートもシュライアーが一人で歌っています。斉唱の部分に入ってからシュライアーはより開放的に歌っているように感じられます。

●コンスタンティン・グラーフ・フォン・ヴァルダードルフ(BSBR) & ヴィーン・グスタフ・マーラー合唱団 & クリスティン・オーカーランド(P)
Constantin Graf von Walderdorff(BSBR) & Gustav Mahler Chor Wien & Kristin Okerlund(P)

ヴァルダードルフの歌はここでも紳士的な感じですね。

| | コメント (0)

モーツァルトの誕生日に寄せて「喜びに寄せて(An die Freude)」

An die Freude, K. 53(47e)
 喜びに寄せて

1:
Freude, Königin der Weisen,
Die, mit Blumen um ihr Haupt,
Dich auf güld'ner Leier preisen,
Ruhig, wenn die Torheit schnaubt:
Höre mich von deinem Throne,
Kind der Weisheit, deren Hand
Immer selbst in deine Krone
Ihre schönsten Rosen band!
 喜び、それは賢さの女王、
 頭のまわりを花で飾り、
 金のライアーであなたを称え、
 愚かさが鼻息を荒げても、落ち着いている。
 あなたの玉座から私の話をお聞きください、
 賢さの子、その手は
 常に自分であなたの冠を
 もっとも美しいバラで編んでいた!

2:
Rosen, die mit frischen Blättern,
Trotz des Nords, unsterblich blüh'n,
Trotz des Südwinds, unter Wettern,
Wenn die Wolken Flammen sprüh'n:
Die dein lockicht Haar durchschlingen,
Nicht nur an Cytherens Brust,
Wenn die Grazien dir singen,
Oder bei Lyäens Lust.
 バラは青々した葉を付け、
 北方だろうが、枯れずに咲く、
 南風に吹かれようが、雷雨にさらされようが、
 雲が炎を放つときでも。
 バラはあなたの巻き毛の髪にもからみつくのだ、
 それは美の女神キュテレイア(アフロディーテ)の胸を飾るだけでない、
 美の女神グラティアがあなたに歌ったり、
 酒神リュシオス(ディオニュソス)のところで楽しむときに。

3:
Sie bekränzen dich in Zeiten,
Die kein Sonnenblick erhellt,
Sahen dich das Glück bestreiten,
Den Tyrannen uns'rer Welt,
Der um seine Riesenglieder
Donnerndes Gewölke zog
Und mit schrecklichem Gefieder
Zwischen Erd' und Himmel flog.
 バラはあなたを花輪で飾る、
 太陽の輝きが照らさない時に。
 幸福はあなたが反論しているのを見た、
 われらの世界の暴君に向かって。
 彼は巨大な四肢のまわりに
 雷鳴轟く雲の群れを浮かばせ、
 そしておそろしい羽で
 大地と空の間を飛び回った。

4:
Dich und deine Rosen sahen
Auch die Gegenden der Nacht
Sich des Todes Throne nahen,
Wo der kalte Schrecken wacht.
Deinen Pfad, wo du gegangen,
Zeichnete das sanfte Licht
Cynthiens mit vollen Wangen,
Die durch schwarze Schatten bricht.
 あなたとあなたのバラを見たのだ、
 夜になった地域でもまた、
 死の玉座がそれらに近づくのを。
 そこでは冷たい戦慄が目覚めている。
 あなたが歩んだ小道を
 穏やかな光が線を描いた、
 ふくよかな頬のキュテレイアの光が。
 彼女は黒い影の中から現れるのだ。

5:
Dir war dieser Herr des Lebens,
War der Tod nicht fürchterlich,
Und er schwenkete vergebens
Seinen Wurfspieß wider dich:
Weil im traurigen Gefilde
Hoffnung dir zur Seite ging
Und mit diamant'nem Schilde
Über deinem Haupte hing.
 あなたにはこの生の支配者である
 死は恐ろしくなかった。
 そして死は無駄に振り回した、
 投げ槍をあなたに向けて。
 なぜなら、わびしい平野で
 希望があなたの脇に行き、
 そしてダイアモンドの盾をもって
 あなたの頭上に掛かっていたから。

6:
Hab' ich meine kühnen Saiten
Dein lautschallend' Lob gelehrt,
Das vielleicht in späten Zeiten
Ungeborne Nachwelt hört;
Hab' ich den beblümten Pfaden,
Wo du wandelst, nachgespürt
Und von stürmischen Gestaden
Einige zu dir geführt:
 私は自らの大胆な心に、
 あなたに向けて大きく響き渡る賛美を教えた、
 ひょっとすると晩年に
 まだ生まれていない後世が聞くかもしれない賛美を。
 私は花咲き乱れた小道を、
 あなたが歩いた小道をたどり、
 そして嵐吹き荒れる岸辺から
 何人もあなたのもとへ連れて行った。

7:
Göttin, o so sei, ich flehe,
Deinem Dichter immer hold,
Daß er schimmernd' Glück verschmähe,
Reich in sich, auch ohne Gold;
Daß sein Leben zwar verborgen,
Aber ohne Sklaverei,
Ohne Flecken, ohne Sorgen
Weisen Freunden teuer sei!
 女神よ、おお、かくあれと、私は願う。
 あなたの詩人に常に好意をもっていておくれと、
 彼がかすかな幸福をすげなく拒絶して、
 金(きん)はなくとも、心豊かでいられるように。
 彼の人生は人に知られてはいないが、
 奴隷でなく、
 汚点もなく、心配事もない、
 賢い友にとってかけがえのない存在であれ!

詩:Johann Peter Uz (1720-1796)
曲:Wolfgang Amadeus Mozart (1756-1791)

------------------------------------

本日1月27日はモーツァルトの265歳の誕生日!というわけで、彼の一番最初の歌曲を聴き比べてみます。

モーツァルト12歳の時に作られた「喜びに寄せて」はウーツの詩による全7節からなる有節歌曲です。多くの録音では最初と最後の節(つまり第1節と第7節)を演奏していますが、プライのように第7節の代わりに第4節を歌うと、第1節との内容的なつながりが感じられます。
ちなみに以前この作品について投稿した記事はこちらです。

●ヘルマン・プライ(BR) & ベルンハルト・クレー(P)
Hermann Prey(BR) & Bernhard Klee(P)

第1,4節。1975年11月録音。プライがマティスのご主人のクレーのピアノで歌っています。Deutshce Grammophonでマティスと分担してモーツァルト歌曲全集を作った時の録音です。プライは荘厳な響きで真摯に歌っています。クレーは第4節で装飾を加えていて華やかさを加えています。

●ルート・ツィーザク(S) & ウルリヒ・アイゼンローア(P)
Ruth Ziesak(S) & Ulrich Eisenlohr(P)

第1,7節。ツィーザクのしっとりとした歌唱に聞き惚れてしまいます。

●バーバラ・ボニー(S) & ジェフリー・パーソンズ(P)
Barbara Bonney(S) & Geoffrey Parsons(P)

第1,7節。1990年8月録音。かなりゆっくり目のテンポで噛みしめるように歌うボニーの歌が素晴らしいです。楽譜付き

●エリー・アーメリング(S) & ドルトン・ボールドウィン(P)
Elly Ameling(S) & Dalton Baldwin(P)

第1,7節。1977年8月録音。アーメリングは他の歌手に比べて明るい表情で軽やかに歌っていて、楽しい気分にさせてくれます。ボールドウィンのタッチは明らかにこの当時の鍵盤楽器を意識した弾き方で、明瞭です。

●【ピアノパートのみ】フランクリン・アギラル(P)
Franklin Aguilar(P)

ゆっくり目のテンポなので合わせて歌いやすいと思います!2節分演奏しています。

| | コメント (5)

ヴォルフ/祈り(Gebet)

Gebet
 祈り

Herr, schicke was du willt,
Ein Liebes oder Leides;
Ich bin vergnügt, daß beides
Aus Deinen Händen quillt.
 主よ、お望みのままに、
 好ましいことでも残念なことでもお与えください。
 私は満足です、どちらでも
 あなたの御手から注がれるものでしたら。

Wollest mit Freuden
Und wollest mit Leiden
Mich nicht überschütten!
Doch in der Mitten,
Liegt holdes Bescheiden.
 喜びでも
 悲しみでも
 ありあまるほどは下さいませんように!
 ほどほどの中にこそ
 快い慎ましさがあるのです。

詩:Eduard Mörike (1804-1875)
曲:Hugo Wolf (1860-1903) 

●Hermann Prey(BR) & Gerald Moore(P)

ヴォルフの『メーリケ詩集』より第28曲。
喜びでも悲しみでも受け取れないほど多くはお与え下さいませんようにと主に祈る歌です。

| | コメント (2)

ベートーヴェン「酒宴の歌(Trinklied, WoO. 109)」

Trinklied (beim Abschied zu singen), WoO. 109
 (別れに際して歌う)酒宴の歌

Erhebt das Glas mit froher Hand
und trinkt euch heitren Mut.
Wenn schon, den Freundschaft euch verband,
nun das Geschicke trennt,
so heitert dennoch euren Schmerz
und kränket nicht des Freundes Herz.
 陽気な手でグラスを掲げて
 飲んで上機嫌になろうじゃないか。
 すでに結んだ友情を
 いまや運命が切り離しても
 苦しみを明るさに変え
 友の心を病ますことはない。

Nur trinkt, erhebt den Becher hoch,
ihr Bruder, hoch
und singt nach treuer Freunde weisem Brauch
und singt das frohe Lied.
Uns trennt das Schicksal, doch es bricht
die Freundschaft treuer Herzen nicht.
 さあ飲め、杯を高く掲げろ、
 きみたち兄弟よ、高く、
 そして誠実な友人の思慮深いしきたりに従って歌え、
 そして陽気な歌を歌え、
 われらを運命が引き裂くが
 変わらぬ心の友情を壊すことはない。

詩:Anonymous
曲:Ludwig van Beethoven (1770 - 1827)

-----------

独唱と斉唱とピアノの為の歌曲。1792年頃(ベートーヴェン22歳頃)の作曲。
作者不詳の2節からなる詩にA-A'の変形有節形式で作曲されましたが、2節目がはじまる楽譜の上に"5. Strophe(第5節)"と書かれている為、2~4節があったのかもしれません。
もしかしたらテキストはベートーヴェン自身の作で、2~4節は後で書こうとしたのかもしれません(根拠のない妄想ですが...)。文献にあたれば何か分かるかもしれません。誰の別れに際しての歌なのかも分かるといいのですが...。
斉唱は各節最後の2行を独唱に続いて繰り返します。いかにも酒場の歌という感じですね。

2/2拍子
ハ長調
Allegretto

●ヘルマン・プライ(BR) & ベルリン・ハインリヒ・シュッツ・クライス & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Heinrich Schütz-Kreis Berlin & Leonard Hokanson(P)

このタイプの歌を歌ったらプライは最強ですね(^^)

●ペーター・シュライアー(T) & ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T) & Wlater Olbertz(P)

映像に楽譜が表示されます。斉唱のパートもシュライアーが一人で歌っています。シュライアーが歌うと酒の歌も爽やかさを増しますね。

●コンスタンティン・グラーフ・フォン・ヴァルダードルフ(BSBR) & ヴィーン・グスタフ・マーラー合唱団 & クリスティン・オーカーランド(P)
Constantin Graf von Walderdorff(BSBR) & Gustav Mahler Chor Wien & Kristin Okerlund(P)

ヴァルダードルフは穏やかで朴訥な雰囲気の歌唱です。

●Consuelo Gallardo(solo) & Canto Lírico & Gerard Ramos(P)

おそらくリモートで合わせた映像なのでしょう。楽しい雰囲気が伝わってきます。

| | コメント (4)

シューベルト「孤独な男(Der Einsame, D 800)」を聴く

Der Einsame, D 800, Op. 41
 孤独な男

Wann meine Grillen schwirren,
Bei Nacht, am spät erwärmten Herd,
Dann sitz' ich, mit vergnügtem Sinn,
Vertraulich zu der Flamme hin,
 [Dann sitz' ich, mit vergnügtem Sinn,
 Vertraulich zu der Flamme hin,]
So leicht, so unbeschwert.
 [So leicht, so unbeschwert.]
 我がこおろぎたちが
 夜、遅い時間に温まった暖炉のそばで鳴くとき、
 私は楽しい気持ちで
 炎に体を向けて打ち解けて座っている、
 こんなにも気楽に、これほど屈託なく。

Ein trautes, stilles Stündchen
Bleibt man noch gern am Feuer wach.
Man schürt, wann sich die Lohe senkt,
Die Funken auf, und sinnt und denkt:
Nun abermal ein Tag!
 [Nun abermal ein Tag!]
 くつろいだ静かな時間に
 火のそばで目を覚ましているのが好きなのだ、
 炎が小さくなると
 火を燃え上がらせて、思いにくれては、考える。
 こうしてまた一日が過ぎる!

Was Liebes oder Leides
Sein Lauf für uns daher gebracht,
 [Was Liebes oder Leides
 Sein Lauf für uns daher gebracht,]
Es geht noch einmal durch den Sinn;
Allein das Böse wirft man hin.
Es störe nicht die Nacht.
 [Es störe nicht die Nacht.]
 好ましいことだろうが残念なことだろうが
 我々に向けてやって来る、
 それはもう一度頭に浮かんでくるのだが
 悪い事だけは投げ捨ててしまう。
 そうすれば夜を邪魔されずにすむだろう。

Zu einem frohen Traume
Bereitet man gemach sich zu.
Wann sorgelos ein holdes Bild
Mit sanfter Lust die Seele füllt,
Ergiebt man sich der Ruh.
 [Ergiebt man sich der Ruh.]
 楽しい夢を見るために
 くつろいで準備をする。
 心配事もなく、いとしい姿が
 穏やかな喜びで魂を満たすとき、
 みな休息に身を委ねる。

O wie ich mir gefalle
In meiner stillen Ländlichkeit!
Was in dem Schwarm der lauten Welt
Das irre Herz gefesselt hält,
Giebt nicht Zufriedenheit.
 [Giebt nicht Zufriedenheit.]
 おお、なんと私は
 我が静かな田園生活を気に入っていることだろう!
 騒々しい世間の群れの中で
 迷った心を拘束するものは
 平穏を与えることがない。

Zirpt immer, liebe Heimchen,
In meiner Klause eng und klein.
 [Zirpt immer, liebe Heimchen,
 In meiner Klause eng und klein.]
Ich duld' euch gern: ihr stört mich nicht.
Wann euer Lied das Schweigen bricht,
Bin ich nicht ganz allein.
 [Bin ich nicht ganz allein.]
 [Wann euer Lied das Schweigen bricht,
 Bin ich nicht ganz allein.
 Bin ich nicht ganz allein.
 Bin ich nicht ganz allein.]
 ずっと鳴き続けるがいい、いとしいこおろぎたちよ、
 狭くて小さい我が庵で。
 私は大目に見よう、きみたちは私の邪魔ではない。
 きみたちの歌が沈黙を破るとき
 私は全く一人ぼっちではないのだ。

※赤字はシューベルトによる繰り返し

詩:Karl Gottlieb Lappe (1773-1843), "Der Einsame", first published 1801 
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828)

-------------

冬の夜にぴったりの作品をご紹介しましょう。暖炉を前に、こおろぎの鳴き声が聞こえる中、一人気楽な時間を楽しむ男性の様子がぱっと浮かんでくるようなシューベルトの名作「孤独な男」です。「独りずまい」とも訳されることがあります。詩人ラッペの最初に出版された詩集におけるタイトルは「隠者の夕べの歌(Des Klausners Abendlied)」だったそうです。ピアノの左手に曲の間中現れる細かい音型は、こおろぎの鳴き声かもしれませんし、暖炉の火がパチパチ鳴っている音かもしれません。左手の八分音符の上下がジグザグになっていてユーモラスな雰囲気を醸し出しています。シューベルトは2つの稿を作っているのですが、例えば第1節最終行"So leicht, so unbeschwert."の繰り返しの歌の旋律が異なっていますし、歌の一番最後の"Bin ich nicht ganz allein."の締めくくり方も異なっています。ただ、私の知る限り第1稿は今のところ誰も録音していないようです。

歌は基本的に1つのテーマと間のエピソードが交互に現れる形をとっています。第1節の最終行が後のいくつかの節にも現れますが、リズムや音程が微妙に変化しているのがシューベルト円熟の技と言えるのではないでしょうか。

最終節の後半で「きみたちの歌が沈黙を破るとき」と歌われた後にピアノの間奏が演奏されるのですが、その弱拍に付けられたアクセント(譜例の赤丸)が沈黙を唐突に破ったコオロギの音を暗示しているように思えてなりません。そして「私は全く一人ぼっちではないのだ(Bin ich nicht ganz allein)」の歌声のジグザグの旋律(譜例の赤い四角)は、一人の時間を気楽に過ごしている主人公のわくわく感がなんと効果的に表現されていることでしょう。

Der-einsame

なお、この曲の詩や楽譜のコピーなどは下記のサイトで見ることが出来ます。

https://schubertlied.de/en/the-lied/der-einsame-ii

ラッペの詩の"wann"を"wenn"と歌っている演奏が圧倒的に多いですが、"wann"はMandyczewski編纂のBreitkopf & Härtel版、"wenn"はFriedlaender編纂のPeters版の表記です。
ベーレンライターの新シューベルト全集の楽譜がどちらを採用しているかは未確認です。
F=ディースカウはムーアとの1960年代後半のシューベルト歌曲全集では"wann"、その他の録音ではすべて"wenn"で歌っていました。
アーメリングは動画にあがっているスタジオ録音の他にライヴ録音3種類を聴きましたが、すべてラッペの原詩通りの"wann"で歌っていました。また、プレガルディアン&ゲースの録音も"wann"で歌っていましたが、その他の人の演奏は私の聴いた限りほぼ"wenn"で歌っていました。

1825年作曲
Mässig, ruhig(中ぐらいのテンポで、穏やかに)
4/4拍子
ト長調
全79小節
歌声部の最高音:2点ト音(G)
歌声部の最低音:1点ニ音(D)

●コオロギの鳴き声(動画最後に比較対象としてスズムシの鳴き声も聞けます)

●【詩の朗読】Susanna Proskura(Speaker)

ラッペのオリジナルのテキストを朗読しています。

●バリー・マクダニエル(BR) & ヘルタ・クルスト(P)
Barry McDaniel(BR) & Hertha Klust(P)

1964年録音。年老いた男性が暖炉に向かって至福のひとときを過ごす雰囲気がアメリカのバリトン、マクダニエルの深みのある声で伝わってきてとても魅力的です。F=ディースカウ等との共演で知られるクルストのピアノも明瞭なタッチで楽しげに弾いています。

●ヘルマン・プライ(BR) & カール・エンゲル(P)
Hermann Prey(BR) & Karl Engel(P)

最初の"Wenn"の重厚な響きからプライならではの魅力全開ですね。彼の歌の明るさがこの曲の特性とぴったり合致していると思います。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & アルフレート・ブレンデル(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Alfred Brendel(P)

老境に差し掛かり重みを増したF=ディースカウの声がこの曲に妙にマッチしているように感じます。もちろん若かりし頃の録音も素晴らしいのですが。ブレンデルのピアノもくっきりとした表現が魅力的です。

●フリッツ・ヴンダーリヒ(T) & フーベルト・ギーゼン(P)
Fritz Wunderlich(T) & Hubert Giesen(P)

「この曲は低声歌手のもの」というイメージを覆す素晴らしい演奏です。ヴンダーリヒの輝かしい声でこの曲の録音が残されたことに感謝です!ギーゼンの味のあるピアノも良いです。

●エリー・アーメリング(S) & ドルトン・ボールドウィン(P)
Elly Ameling(S) & Dalton Baldwin(P)

1972年。某声楽家の方がこの曲は内容的に男声が歌うのがふさわしいと書いておられて、その意味するところは分かるのですが、こういうチャーミングな歌唱を聴くと限定する必要はないのではと思ってしまいます。

●イルカー・アルカユレク(T) & サイモン・レッパー(P)
Ilker Arcayürek(T) & Simon Lepper(P)

トルコ出身の若いテノールのみずみずしい声もまた魅力的です。

●その他の録音の例(下記はすべてwann→wennに変更した版で歌っています。YouTubeで聴くことが出来ます。)
シュヴァルツコプフ&ムーア、F=ディースカウ&ムーアのEMI盤、F=ディースカウ&ブレンデル、F=ディースカウ&ヘル、ラプラント&ラシャンス、ポップ&ゲイジ、キーンリーサイド&マーティノー、ヘンドリックス&ルプー、ヴィーンス&ヤンセン、ゲルネ&シュナイダー、ギューラ&ベルナー、ボストリッジ&ドレイク、アップル&ベイリュー

| | コメント (0)

ベートーヴェン「嘆き(Klage)」 WoO. 113

Klage, WoO. 113
 嘆き

Dein Silber schien
Durch Eichengrün,
Das Kühlung gab,
Auf mich herab,
O Mond, und lachte Ruh
Mir frohen Knaben zu.
 おまえの銀色が
 樫の緑色の間から
 涼しさを与え
 私の上に輝き注ぐ。
 おお、月よ、憩いが
 陽気な子供の私に笑いかけた。

Wenn jetzt dein Licht
Durchs Fenster bricht,
Lachts keine Ruh
Mir Jüngling zu,
Siehts meine Wange blaß,
Mein Auge thränennaß.
 今おまえの光が
 窓から差し込むと
 憩いが
 若い私に笑いかけることはない、
 私の頬は青白く見え、
 私の目は涙に濡れる。

Bald, lieber Freund,
Ach, bald bescheint
Dein Silberschein
Den Leichenstein,
Der meine Asche birgt,
Des Jünglings Asche birgt!
 間もなく、いとしい友よ、
 ああ、間もなく
 おまえの銀色の輝きが
 墓石を照らす。
 その墓石は私の灰を納める、
 若い私の灰を納めるのだ!

詩:Ludwig Heinrich Christoph Hölty (1748-1776)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

------------

ヘルティの「嘆き」という詩にベートーヴェンは1790年前半頃(当時20歳)に作曲しました。
ヘルティの詩はもともと「月に寄せて(An den Mond)」という題でしたが、フォス(Johann Heinrich Voß)が改訂版を出版した際に「嘆き」という題に変更されたそうです。

通作形式
前奏4小節
ホ長調→ホ短調
2/4拍子→2/2拍子
全41小節

Langsam und sanft (ゆっくりと穏やかに) (1小節) - Sehr langsam und traurig (非常にゆっくりと悲しげに) (16小節:第2節)

ピアノパートの指示
1小節
Durchaus müssen die Töne geschliffen und so sehr als möglich aushalten und zusammengebunden werden. (一貫して音は磨きぬかれていて、出来るだけ音を保持し、連なっていなければならない。)

14小節
Hier wird die Bewegung nach und nach langsamer. (ここで動きは徐々にゆっくりになる)

歌声部最高音:2点イ音
歌声部最低音:1点嬰ニ音

同じ詩にシューベルトも作曲していますが、そちらも非常に魅力的な小品です(D436)。

●マティアス・ゲルネ(BR) & ヤン・リシエツキ(P)
Matthias Goerne(BR) & Jan Lisiecki(P)

深々とした声で哀しさと癒しの両方を感じるゲルネの表情豊かさが素晴らしかったです。

●ジョン・マーク・エインスリー(T) & イアン・バーンサイド(P)
John Mark Ainsley(T) & Iain Burnside(P)

爽やかな美声のエインスリーの真摯な歌いぶりに胸打たれます。バーンサイドの滴るような美しい音も聞きものです。

●ヘルマン・プライ(BR) & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Leonard Hokanson(P)

含蓄のあるかみしめるようなプライの歌が胸に響きます。

●ペーター・シュライアー(T) & ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T) & Walter Olbertz(P)

シュライアーは悲痛な表現も素晴らしいですね。

●【参考】シューベルトが同じテキストに作曲した「嘆き」D436
Franz Schubert (1797 - 1828), "Klage", D 436 (1816)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)

これはまたシューベルトらしい美しい音楽ですね。有節形式と思わせておいて第3節で異なる音楽をつけているのはシューベルトのテキストの読みなのでしょう。

| | コメント (2)

エリー・アーメリング(Elly Ameling)の映像(オルフェウス室内管弦楽団のドキュメンタリー:1984年(←1987年が正しいようです))

Orpheus Chamber Orchestra profile (1984)

投稿者:caramelorb

久しぶりにエリー・アーメリング(Elly Ameling)の映像がアップロードされているのを見つけました!
指揮者を置かないことで知られるオルフェウス室内管弦楽団(Orpheus Chamber Orchestra)のドキュメンタリーと思われます。
アーメリングはほんの2分間ぐらいですが、リハーサル、本番、インタビューのシーンを見ることが出来ます。

6:55頃からヴィヴァルディ作曲:オラトリオ『勝利のユディータ(Juditha triumphans, RV644)』~「松明と蛇で武装して(Armatae face)」の前奏が始まり、アーメリングは7:00に登場(おそらくリハーサルシーン)!
華麗なコロラトゥーラを見事に決めるアーメリング!
その歌っている表情もファンにはお宝です。

その後、オルフェウス室内管弦楽団についてアーメリングが語っています(7:29頃~)。

「音楽の中で起こっていることを表現するのに1人の指揮者が指揮棒で伝える代わりに、25人ものオーケストラメンバー全員が理解していなければなりません。しかし彼らはとても知性があり、音楽的で、素晴らしく温かみがあるので、それをやり遂げ、全員の意見がすべて一致するのだと思います。」

7:55頃からカーネギー・ホールで歌うアーメリングが遠巻きにですが映ります(8:30頃まで)。
1980年代に入ってからのアーメリングの絞り込んだ声の魔力にはぐっと惹きつけられます!!
曲はグルックの歌劇『パリスとヘレネー(Paride ed Elena)』~「おお、私のやさしい情熱が(Oh, del mio dolce ardor)」

---------------

(2021/2/6追記)

Sandmanさんにこのコンサートの情報を教えていただきました。

https://collections.carnegiehall.org/CS.aspx?VP3=SearchResult&VBID=2RRMLBHF8S70&SMLS=1&RW=1920&RH=937

このデータによると、1984年ではなく、1987年3月14日カーネギーホールのメインホール(14 March 1987, Main Hall, Carnegie Hall)でのコンサートというのが正しいようですね。

Sandmanさん、有難うございます!

| | コメント (4)

岡村喬生さん逝去

名バス歌手岡村喬生(Takao Okamura: 1931.10.25-2021.1.6)さんが、慢性腎不全のため東京都内の病院で亡くなったそうです。
89歳でした。

毎年のように「冬の旅」をピアニストを変えてコンサートで演奏し続けた歌手として記憶に残っています。
私は一度だけ彼の実演を聴くことが出来ましたが、その演目も「冬の旅」でした。
手帳やパンフレットを探せばどこかにその時の情報があると思うのですが、誰がピアニストだったか記憶が定かではありません(デームスだったかなぁ)。
うっすら覚えているのは、岡村さんは歌うというよりも語るような表現をしていたことです。
歌い続けることで「冬の旅」の核心に迫ろうという姿勢は素晴らしかったと思います。

彼はテレビ出演をしたり、ミュージカル(「ピーター・パン」等)に出演する一方、「ヒゲのおたまじゃくし」として執筆活動もしており、様々な著書を図書館でよく見かけてはちらっと斜め読みしたりしたものでした。
確か水難事故で亡くなった指揮者のケルテスの最後の瞬間にも岡村さんは立ち会っていて、同じくこの時に海水浴を楽しんでいた仲間にルチア・ポップがいたと書かれていた記憶があります。

岡村さんの東京文化会館の出演記録はこちらで見ることが出来ます。
https://i.t-bunka.jp/search/result?q=%E5%B2%A1%E6%9D%91%E5%96%AC%E7%94%9F

最初の出演は1963年1月25日(金)のリサイタルだったそうです。
東京文化会館小ホールの最後の出演は2017年5月6日(土)の渡辺康雄との「冬の旅」でした。生涯現役だったと言えるのではないでしょうか。

合掌

●東京文化会館で共演したピアニストたち
三石精一
森安耀子
三宅榛名
小林道夫
霧生トシ子
江戸京子
高橋悠治
林光
藤井一興
渡辺康雄
岩崎淑
デイヴィッド・スタイン(David Stein)
野平一郎
岡原慎也
伊藤康英
ポール・七子
イェルク・デームス(Jörg Demus)
みどり・オルトナー

●クラシック・ニュース 岡村喬生 永遠の「冬の旅」を歌って!

2013/3/18公開

| | コメント (2)

ベートーヴェン最初期の歌曲「乳児に寄せて(An einen Säugling, WoO 108)」

An einen Säugling, WoO 108
 乳児に寄せて

Noch weißt du nicht wes Kind du bist,
Wer dir die Windeln schenket,
Wer um dich wacht, und wer sie ist,
Die dich erwärmt und tränket.
 まだ分からないでしょうね、あなたが誰の子なのか、
 誰があなたにおしめを付けてくれるのか、
 誰があなたを見守っているのか、その人は誰なのか、
 あなたを温めたりミルクを飲ませてくれる人は。

Geneuß indes mit frommem Sinn,
Geneuß! Nach wenig Jahren
Wird sich in deiner Pflegerin
Die Mutter offenbaren.
 その間優しい心で楽しみなさい!
 楽しむのです!ほんの数年も経てば
 あなたをお守りしていたのは
 お母さんだったと分かるでしょう。

So hegt und pflegt uns alle hier,
Auf gleich verborgne Weise,
Ein Geber, Dank sei ihm dafür!
Mit Gütern, Trank und Speise.
 このようにここにいる私たちみんなを面倒見て、世話してくれます、
 等しく人知れぬやりかたで、
 施してくださる方に感謝を!
 その方は財産、飲み物、食べ物を下さるのです。

Zwar faßt ihn nicht mein dunkler Sinn,
Allein nach wenig Jahren,
Wird wenn ich fromm und gläubig bin,
Er mir sich offenbaren.
 確かに私の暗い心ではこの方のことが分かりませんが、
 ほんの数年の後に
 私が敬虔で信心深ければ
 この方のことが私に分かるでしょう。

詩:Johann von Döring, Drost zu Wolfenbüttel (1741-1818)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

---------------

ヨーハン・フォン・デーリングという代官でもあった人のテキストによる4節の有節歌曲です。この曲も1783/84年、ベートーヴェン13-14歳の作品で、楽譜は歌声部が分かれておらず、ピアノ右手パートの高声部を歌うようになっています。 つまり、ピアノ右手の低声部も別の人が歌えば重唱や合唱も可能ということですね。
詩は全4節からなり、前半2節はある乳飲み子への母親の問いかけですが、後半2節は"ein Geber(供給者)"という男性が登場し、主人公が数年後に敬虔で信心深ければこの供給者が誰なのか分かるでしょうとあり、おそらく救世主のことを言っているのではないかと思います。

前奏9小節、後奏4小節
イ長調
3/4拍子
29小節(テキスト1節分)
Arioso
最高音:2点イ音
最低音:イ音

●アデーレ・シュトルテ(S) & ヴァルター・オルベルツ(P)
Adele Stolte(S) & Walter Olbertz(P)

第1-2節。シュトルテは訓練されたしっかりした声で美しいフレーズを聞かせてくれます。ピアノ右手高声部のトリル箇所はトリルを付けずに歌っています。

●カレン・ヴィエルツバ(S), ナタリー・ペレス(MS), ジャン=ピエール・アルマンゴー(P)
Karen Wierzba(S), Natalie Pérez(MS), Jean-Pierre Armengaud(P)

第1-4節。ピアノの右手を二重唱で歌っています。二人のハーモニーがとても美しいです。

●ハイディ・ブルナー(MS) & クリスティン・オーカーランド(P)
Heidi Brunner(MS) & Kristin Okerlund(P)

第1-4節。すべての節でピアノ前奏を律儀に繰り返しています。

●ベルリン・ハインリヒ・シュッツ・クライス & レナード・ホカンソン(P)
Heinrich Schütz Kreis, Berlin & Leonard Hokanson(P)

第1-4節。女声合唱による演奏で、とても澄んだ響きに心洗われます。ピアノ右手のトリル箇所はトリルを付けずに歌っています。ホカンソンの味のあるピアノもとてもいいです。

| | コメント (2)

ヴォルフ/顕現節(Epiphanias)

Epiphanias
 顕現節

Die heiligen drei König mit ihrem Stern,
Sie essen, sie trinken, und bezahlen nicht gern;
Sie essen gern, sie trinken gern,
Sie essen, trinken und bezahlen nicht gern.
 星に導かれてきた東方の三博士
 彼らは食って飲んで、お勘定は嫌がる
 食うのは大好き、飲むのも大好き
 食って飲んで、お勘定は嫌がる

Die heiligen drei König sind kommen allhier,
Es sind ihrer drei und sind nicht ihrer vier:
Und wenn zu dreien der vierte wär,
So wär ein heilger Drei König mehr.
 東方の三博士がここに到着した
 彼らは三人であって、四人ではない
 三人がもし四人だったら
 もはや三博士とはいえないだろう

Ich erster bin der weiß und auch der schön,
Bei Tage solltet ihr erst mich sehn!
Doch ach, mit allen Spezerein
Werd ich sein Tag kein Mädchen mir erfrein.
 最初はわたくしでござい 色が白くてハンサムさ
 お日様のもとでわたしに会うべきだったろうよ
 だがああ どんな香辛料をもっていても
 わが光である娘っ子を喜ばせることが出来ないんだ

Ich aber bin der braun und bin der lang,
Bekannt bei Weibern wohl und bei Gesang.
Ich bringe Gold statt Spezerein,
Da werd ich überall willkommen sein.
 そして次はおれ 褐色の肌で背が高いんだ
 世に知られた女と歌好きさ
 香辛料の代わりに黄金を持参している
 だからあらゆる場所で歓迎の嵐さ

Ich endlich bin der schwarz und bin der klein,
Und mag auch wohl einmal recht lustig sein.
Ich esse gern, ich trinke gern,
Ich esse, trinke und bedanke mich gern.
 最後はぼく 色黒でちっこいんだ
 そして真の陽気者でありたい
 食うのは大好き、飲むのも大好き
 食って飲んだらお礼を言うのが好き

Die heiligen drei König sind wohlgesinnt,
Sie suchen die Mutter und das Kind;
Der Joseph fromm sitzt auch dabei,
Der Ochs und Esel liegen auf der Streu.
 東方の三博士は気さくな人たち
 彼らは母親とその子供を探している
 敬虔なヨセフがそのそばに座っている
 雄牛とろばが敷き藁の上に横になっている

Wir bringen Myrrhen, wir bringen Gold,
Dem Weihrauch sind die Damen hold;
Und haben wir Wein von gutem Gewächs,
So trinken wir drei so gut als ihrer sechs.
 われらは没薬をもっておる 黄金をもっておる
 乳香はご婦人方は好きだろう
 もし上質なワインがあったとしても
 われら三人で六人分を飲んでしまうだろう

Da wir nun hier schöne Herrn und Fraun,
Aber keine Ochsen und Esel schaun,
So sind wir nicht am rechten Ort
Und ziehen unseres Weges weiter fort.
 われらは今ここで素敵なご主人とご婦人に会ったが
 雄牛やろばが見当たらない
 目当ての場所ではないようだ
 旅をさらに続けることにしよう

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832)
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

---------

今日1月6日はキリスト教で「顕現節」というそうです。
東方の三博士がキリスト誕生の地を訪れた日で、子供たちが星を付けた棒を持って歌いながら家々を回る行事があるそうです。
ゲーテの詩は東方の三博士それぞれの性格描写がユーモラスですね。
曲はヴォルフの親しかった女性(メラニー・ケッヒェルト)の家で私的な初演がされて、彼女の3人の子供が芝居をしたそうです(名ピアニストのグレアム・ジョンソン曰く、この歌は子供が歌うには難しすぎるので、ヴォルフとメラニーが歌い、子供は芝居をしたのではないかと記しています)。

「公現祭(顕現節)」についてのWikipediaの記事

●詩の朗読(Florian Friedrich)

●Elisabeth Schwarzkopf(S) & Gerald Moore(P)

| | コメント (4)

ベートーヴェン最初期の歌曲「ある乙女の描写(Schilderung eines Mädchens, WoO 107)」

Schilderung eines Mädchens, WoO 107
 ある乙女の描写

Schildern, willst du, Freund! soll ich
   Dir Elisen?
Möchte Uzens Geist in mich
   Sich ergiessen!
 友よ、君は私に
 エリーゼを描写してほしいというのか。
 ウーツの精神が私の中に
 流れ込んでほしいものだ。

Wie in einer Winternacht
   Sterne stralen,
Würde ihrer Augen Pracht
   Oeser malen.
 冬の夜に
 星々が輝くように
 彼女の目の輝きを
 エーザーが描いてくれたらいいのに。

Finden wirst du voll und rund
   Ihre Wangen,
Und den Purpur auf dem Mund
   Herrlich prangen.
 きみは気付くだろう、
 彼女の頬がふっくらと丸いことに。
 そして口もとが深紅に
 見事に輝いていることに。

Und den stolzen Thron der Lust,
   Sich zur Ehre,
Bildete nach ihrer Brust
   Selbst Cythere.
 そして誇り高き欲望の王座を。
 名誉なことに
 彼女の胸を模して出来たのだ、
 キティラ島でさえ。

Wie sich, wenn ein Zephyr weht,
   Wölkchen heben,
Scheint das Mädchen, wenn sie geht,
   Nur zu schweben.
 西風が吹くと
 雲が沸き上がるように、
 あの娘(こ)が歩くと
 ただ空中を進んでいるように見える。

Sahst du je der Grazien
   Jüngste hüpfen:
O so hast du sie gesehn
   Tanzend schlüpfen.
 君がかつてグラティアの
 末っ子がとび跳ねるのを見たのなら
 おお、君は彼女が
 踊りながらするりと進むのを見たのだ。

Welchen Reiz dem Körper noch,
   Sag es, fehle?
Zehnmal findst du schöner doch
   Ihre Seele.
 その身体にさらに
 どんな魅力が欠けているというのか?
 十倍も美しいことが君には分かるだろう、
 彼女の魂は。

Wenn sie weit auf Gottes Flur
   Umher blicket,
Wie wird sie durch dich, Natur!
   Ganz entzücket!
 彼女がはるか神の野で
 あたりを見回すとき
 どれほど彼女が、自然よ、君に
 見とれていることだろう!

Fern ist sie von niederm Schmäh'n,
   Fern von Neide.
Glücklich alle Welt zu sehn
   Wär' ihr Freude.
 彼女は低俗な誹謗から距離をとり
 嫉妬からも離れている。
 世界中の幸せを見ることが
 彼女の喜びだろう。

Für ihr Herz, das edel denkt,
   Welche Ehre,
Wenn sie Menschenelend schenkt
   Eine Zähre!
 気高い考え方をする彼女の心にとって
 なんと名誉なことだろう、
 彼女が人の卑しさに
 一粒の涙を送るならば!

Hält sie einst von Liebe warm,
   Wie die Sonne,
Mich in ihrem weichen Arm:
   Welche Wonne!
 彼女がいつか愛してくれて
 太陽のように温かく
 彼女の柔らかい腕の中でぼくを抱いてくれたら
 どんなに嬉しいことだろう!

詩:不詳 (Unidentified Author)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

------------

*Johann Peter Uz (1720-1796), a German poet
*Adam Friedrich Oeser (1717-1799), a German painter

前奏なし
ト長調
6/8拍子
19小節
Tempo giusto (正しいテンポで)

作者不詳のテキスト「ある乙女の描写」は11節からなります。ベートーヴェンが10歳の時に作曲した(Componirt im 11. Lebenjahre.)と出版譜に書かれています。主人公はエリーゼ(あるいはエリーザ)という女性の美しさを称え、最後には彼女に愛してもらいたいと願うという内容です。

彼は1~2節をまとめた形で作曲しましたので、他の節も2節ずつをまとめて有節形式として演奏することは可能ですが、奇数節の為、1節余ってしまいます。
Constantin Graf von Walderdorff(BSBR), Kristin Okerlund(P)の録音のように余った最終節を2回歌うという方法もありますが、あえて繰り返さないでベートーヴェンの作曲した1~2節のみを歌うことが多いようです。

出版譜ではピアノの二段楽譜で書かれていて、右手の一番上の声部が歌の旋律です。

最初の歌詞"Schildern"の1音節目を「2点ト音→2点ロ音」のメリスマで歌うようになっており、冒頭から「2点ロ音」を出さなければならない歌手は大変そうです。

強弱記号もfとff、fに向けてのcresc.のみでかなり元気よく歌うことを想定していたものと思われます。

●ペーター・シュライアー(T) & ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T) & Walter Olbertz(P)

第1-2節。シュライアーの生き生きとした歌いぶりとオルベルツの弾むような演奏が聴く者を一気に引き込んでくれます。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & イェルク・デームス(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Jörg Demus(P)

第1-2節。F=ディースカウのテノールのような美声が魅力的です。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ハルトムート・ヘル(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Hartmut Höll(P)

第1-2節。1980年代前半の録音。デームス共演の時よりも低く移調して歌っています。ヘルの曲の終わり方が余韻を感じさせて素敵でした。

●ヘルマン・プライ(BR) & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Leonard Hokanson(P)

第1-2節。シュライアーやF=ディースカウとは別の曲に思えるほど、プライはかなりゆったりしたテンポで噛みしめるように歌っています。それぞれの解釈を楽しめますね。

●コンスタンティン・グラーフ・フォン・ヴァルダードルフ(BSBR) & クリスティン・オーカーランド(P)
Constantin Graf von Walderdorff(BSBR) & Kristin Okerlund(P)

第1-11節(第11節は2回繰り返す)。詩の全部の節を歌った貴重な録音です。ヴァルダードルフの巧まない自然な歌い方がこのような作品にはふさわしく感じられます。

| | コメント (4)

2021年 明けましておめでとうございます

皆様、昨年もご覧いただきまして誠に有難うございます。

ベートーヴェン生誕250年は12月15日まで(251歳の誕生日の前日まで)と勝手に解釈して、2021年は有名曲でないものも含めたベートーヴェン歌曲シリーズを投稿していこうと思っております。

ベートーヴェンの歌曲全集は、シュライアー&シュトルテ&オルベルツ盤、プライ&コバーン&ホカンソン盤、F=ディースカウのデームス&ヘルとの2種類の男声用歌曲選集、さらに数年前にTHOROFONレーベルからリリースされた全集(Constantin Graf von Walderdorff(BSBR), Heidi Brunner(MS), Kristin Okerlund(P))など多くの録音に恵まれています。
せっかくなので馴染みの薄かった初期の作品から聴いていき、記事に出来たらと思っております。

毎度のことですが、今年もマイペースに投稿予定ですので、気長にお付き合いいただけましたら幸いです。
本年も何卒よろしくお願いいたします!

| | コメント (2)

« 2020年12月 | トップページ | 2021年2月 »