シューベルト「風吹くとき(Beim Winde, D 669)」を聴く
Beim Winde, D 669
風吹くとき
【A】
Es träumen die Wolken,
Die Sterne, der Mond,
[Es träumen die Wolken,
Die Sterne, der Mond,]
Die Bäume, die Vögel,
Die Blumen, der Strom.
Sie wiegen,
Und schmiegen
Sich tiefer zurück,
Zur ruhigen Stätte,
Zum thauigen Bette,
Zum heimlichen Glück.
[Sie wiegen,
Und schmiegen
Sich tiefer zurück,
Zum thauigen Bette,
Zur ruhigen Stätte,
Zum heimlichen Glück.
Zum heimlichen Glück.]
みな夢の中だ、雲も、
星々も、月も、
木々も、鳥たちも、
花々も、川も。
みな揺れては
戻り、より深く
かがみ込む、
静かな場所へ、
露に濡れたベッドへ、
ひそかな幸せへ。
【B】
Doch Blättergesäusel
Und Wellengekräusel
Verkünden Erwachen.
Denn ewig geschwinde,
Unruhige Winde,
Sie stören, sie fachen.
だが葉がさらさらと鳴り
波が立ち
目覚めよと告げる。
なぜなら絶えずすばやく
騒々しい風が
邪魔して、煽るのだ。
【C】
Erst schmeichelnde Regung,
Dann wilde Bewegung;
[Dann wilde Bewegung;]
Und dehnende Räume
Verschlingen die Träume.
[Verschlingen die Träume.]
まずは心地よく感じる動きで、
続いて荒々しい動きで。
するとますます広がっていく空間で
夢が飲みこまれていくのだ。
【D】
Im Busen, im reinen,
Bewahre die deinen;
[Im Busen, im reinen,
Bewahre die deinen;]
Es ströme dein Blut:
Vor rasenden Stürmen
Besonnen zu schirmen
Die heilige Gluth.
[zu schirmen
Die heilige Gluth.]
胸の中で、純粋な胸の中で
あなたの夢を守りなさい。
あなたの血潮よどっとほとばしれ、
荒れ狂う嵐から
落ち着いて
聖なる熱を守るために。
[【A】を繰り返す]
詩:Johann Baptist Mayrhofer (1787-1836)
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828)
※[ ]内(赤字)はシューベルトによる繰り返し。
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マイアホーファーの詩にシューベルトは50曲近く作曲しました。一時シューベルトは彼と一緒に住んでいたことがあり、気心の知れた仲間だったのでしょう。「風吹くとき」の詩は万物が眠りにつき夢見ているときに風が起こり、目覚めさせようとするが、夢を守りなさいという内容です。シューベルトはLieblich(愛らしく)という指示を冒頭に掲げています。【A】の箇所はほの暗い響きながら夢見るように美しく、メロディーメイカー、シューベルトの面目躍如といったところです。【B】では葉のそよぎや波立つテキストを描写するようにピアノパートの音型が細かくなり動きが出てきます。【D】でEtwas langsamer(前よりいくぶんゆっくりと)と少し落ち着きを取り戻します。血潮よほとばしれ、嵐が荒れ狂うと歌うところで、歌とピアノの両手がユニゾンを奏でるのは、後の『冬の旅』の「嵐の朝」に受け継がれている手法と言えるかもしれません。詩行が終わると、音楽は再び冒頭に戻り、【A】が再現されて終わります。シューベルトは、風に夢が妨げられることがなく、再び夢の世界の描写に戻って平穏に終わるという形にしようとしたのでしょう。
2/4拍子。ト短調。1819年10月作曲。歌声部最高音:2点ト音。歌声部最低音:1点変ホ音。
●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)
フィッシャー=ディースカウはさらりとした語り口で、情景の展開を見事にイメージさせてくれます。ムーアも場面展開を鮮やかに描いています。
●クリスティーネ・シェーファー(S) & アーウィン・ゲイジ(P)
Christine Schäfer(S) & Irwin Gage(P)
録音:1997年
シェーファーの芯のある細めの声質が冷たい夜の情景にぴったりです。それぞれの場面のテンポ設計(ゲイジの好サポート!)が細やかで素晴らしかったです。
●ロベルト・ホル(BSBR) & ルドルフ・ヤンセン(P)
Robert Holl(BSBR) & Rudolf Jansen(P)
録画:1995年5月14日
ホルはいつものようにメロディーをゆったりと歌い上げています。ヤンセンの立体的な演奏も素晴らしいです。
●ヴィオレタ・ウルマナ(MS) & ヘルムート・ドイチュ(P)
Violeta Urmana(MS) & Helmut Deutsch(P)
シューベルティアーデでのライヴ(2017年8月29日, Schubertiade Schwarzenberg)。リトアニア出身のウルマナの歌唱は繊細さと力強さの両方を持っていて良いですね。
●フローリアン・プライ(BR) & ビルギッタ・アイラ(P)
Florian Prey(BR) & Birgitta Eila(P)
ヘルマン・プライの息子のフローリアンの歌唱です。声を伸ばすところなどで父親の響きとの近さが感じられます。父ヘルマンはおそらくこの曲を録音していないと思います。
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コメント
フランツさん、こんにちは。
寒い日が続いていますね。
さて、素敵な曲のご紹介をありがとうございます。
初めて聴く曲ですが、魅力的な曲ですね。世界観を繋ぎながら曲想を変えて行くのは、シューベルトににしかできない技ですね。
シェーファーの演奏にとても心ひかれました。ホルとはまるで別の曲にすら感じましたが、ホルの豊潤な響きはいつもながら魅力的ですね。
フローリアンさんは、細身でお母様似だと思いますが、頭蓋骨や鼻、口は父ヘルマンさんにそっくりなんです。
そのためか、鼻腔に入って声が甘くなった時の響きは父ヘルマンさんを思わせます。お父様より軽い声ですが。
(A)6行目der Strom.や、(D)Im Busen, などの歌い回しというのか発音の仕方に、父ヘルマンさんを感じました。
父子ですものね(*^^*)
お書きになっているとおり、ヘルマンさんはこの曲を録音していないと思います。聞いてみたかったです(脳内演奏します!)
いつも素敵な曲のご紹介、ありがとうございます♪
投稿: 真子 | 2020年12月17日 (木曜日) 13時03分
真子さん、こんばんは。
すっかり寒くなりましたね。
いつもご感想のコメントを有難うございます!
とても嬉しく拝見しています(^^)
この曲素敵ですよね!
あまり知られていない作品の中にもこのような宝物が眠っているので、シューベルトの歌曲探索はやめられません。
シェーファー、私もとてもいいと思いました。
比較的ゆっくり目のテンポで丁寧に歌い紡いでいくのですが、そこにシェーファーの思いがこめられていてぐっと引き込まれます。
確かにホルとシェーファーではまるで雰囲気が違いますね。ホルはいつものメロディーラインを強調した歌い方でユニークな世界を築いていると思います。
フローリアンの顔の特徴などさすが真子さんです!
確かに父ヘルマンよりも軽く、さらっと鼻歌を歌っているかのような自然な歌い方ですね。
ところどころにヘルマンの響きを彷彿とさせるものがあって興味深いです。よく誰誰に似ていると言われるのを好まない演奏家がいますし、それももっともだとは思いますが、フローリアンは父の響きを受け継いでいることを決して嫌がってはいないように感じられます。父ヘルマンを心から尊敬しているからこそ、父と同じ道を歩んでいるのではないかと勝手に想像しています。
ヘルマンはやはりこの曲をスタジオ録音していないですよね。でも真子さんは脳内再生できるのでno problemですね(^^)
投稿: フランツ | 2020年12月17日 (木曜日) 20時17分
フランツ様
明けましておめでとうございます。プライさんの息子さんの歌唱、初めて聴きました。確かにちょっと似ている感じがします。ありがとうございました。
投稿: ライラック | 2021年1月 6日 (水曜日) 15時13分
ライラックさん、明けましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
プライの息子フローリアンを初めて聞かれたとのこと、やはり似ていますよね!
声の質は父親よりも軽く高いですが、声を伸ばすと「おおっ」と思います。
投稿: フランツ | 2021年1月 6日 (水曜日) 20時28分