シューベルト「リンツの試補ヨーゼフ・シュパウン氏に(Herrn Josef Spaun, Assessor in Linz) D 749」を聴く
Herrn Josef Spaun, Assessor in Linz, D 749
リンツの試補ヨーゼフ・シュパウン氏に
(Recitativo)
Und nimmer schreibst du?
Bleibest uns verloren,
Ein starr Verstummter, nun für ew'ge Zeit?
Vielleicht, weil neue Freunde du erkoren?
Wardst du Assessor denn am Tisch so breit,
Woran beim Aktenstoß seufzt Langeweile,
Um abzusterben aller Freudigkeit?
Doch nein, nur wir sind's, nur uns ward zu Teile
Dies Schweigen, dies Verstummen und Vergessen.
Armut und Not selbst an der kleinsten Zeile!
Für jeden bist du schriftkarg nicht gesessen;
Für manchen kamen Briefe angeflogen,
Und nach der Elle hast du sie gemessen;
Doch uns, Barbar, hast du dein Herz entzogen!
(レチタティーヴォ)
それではどうして君は手紙を書いてくれないんだ?
僕らの前から永遠に消えてしまったというのか、
かたくなに黙り込んだ君よ?
ひょっとして、新しい友人を選んだのか?
君は広い机で働く試補になり、
書類の山を前に退屈な溜息を吐き
あらゆる喜びがなくなってしまったとでもいうのか?
いや違う、僕らだけだ、僕らに対してだけなのだ、
このように口をつぐみ、押し黙り、忘れてしまったのは。
わずか数行でさえ話題に事欠き困り果てるとは!
誰に対しても君は手紙を出し渋ってじっと座っていたりなどしなかったし、
君からの手紙が飛ぶような速さで届いた人もいた。
君はエレの単位でその手紙を測ったものだった。
なのに僕らからは、野蛮人よ、君の心を取り上げてしまったのだ!
(Aria)
Schwingt euch kühn, zu bange Klagen,
Aus empörter Brust hervor,
Und von Melodien getragen,
Wagt euch an des Fernen Ohr!
Was er immer mag erwidern,
Dieses hier saget doch;
»Zwar vergessen, jenes Biedern
Denken wir in Liebe noch.«
(アリア)
思い切って飛んでこい、不安な嘆きに向けて
憤った胸からこちらへと。
そしてメロディーに乗って
遠くの男の耳に思い切って運ぶのだ!
彼がどう答えようとも
ここでこう言うのだ、
「たとえ忘れられたとしても、あの実直な男のことを
僕らは愛情をもって思っているからな。」
詩:Matthäus Kasimir von Collin (1779-1824)
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828)
名歌曲「夜と夢」の詩人として知られるコリンが、いとこのシュパウンにあてたユーモアあふれる苦情の手紙をテキストにした歌曲です。
仲間内ならではの愛情のこもった詩に、シューベルトもレチタティーヴォとアリアという形式を使ってあえて大げさな音楽を付けました。
歌手はレチタティーヴォ最後の行の"Barbar"で3点ハ音を出し、さらにポルタメントで1オクターヴ下降するという技巧を求められます。さらに終わり近くの"Aus empörter Brust, ja, aus empörter Brust hervor"の"aus"でも3点ハ音が登場して下降します。ひたすら真剣に怒りの感情を歌に乗せたシューベルトは作曲しながらほくそえんでいたに違いありません。
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)
フィッシャー=ディースカウの語り口の巧さが生きています。味のあるムーアと共に凄い演奏です!
ジャネット・ベイカー(MS) & ジェラルド・ムーア(P)
Janet Baker(MS) & Gerald Moore(P)
ベイカーのきっちりとした歌も魅力的です。彼女はレッパードとも録音を残しているのでお気に入りの曲なのでしょう。
ライナー・トロスト(T) & ウルリヒ・アイゼンローア(P)
Rainer Trost(T) & Ulrich Eisenlohr(P)
美声トロストの歌、後半不意をつかれます。種明かしはしないでおきますので聴いてみて下さい。
ヴェルナー・クレン(T) & ジェラルド・ムーア(P)
Werner Krenn(T) & Gerald Moore(P)
前半の3点ハ音はしっかり出していますが、最後の方の高音は出さずに低い旋律を歌っています。テノールであっても無理してまで高音を出さないというクレンの選択も尊重すべきでしょう。
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コメント
フランツ様
ご無沙汰しております。お元気でいらっしゃいますか。
シューベルトImpromptu D899の聴き比べをしました。
https://meinfavorit.hatenablog.com/entry/2020/11/26/224440?_ga=2.269187316.487540677.1606363675-1270723766.1605003451
もう1つ、バレエ「ラ・バヤデール」第三幕のPas de Deuxの曲が美しいので宜しかったら聴いてくださいませ。
https://meinfavorit.hatenablog.com/entry/2020/11/27/174659
投稿: ライラック | 2020年11月27日 (金曜日) 18時05分
ライラックさん、こんにちは。
こちらは元気です!
ライラックさんは沢山記事を更新しておられて素晴らしいですね♪
「ただ憧れを知る者だけが」の記事にアーメリング&ヤンセンの演奏を掲載しておられたので、コメントしようと思いつつ今にいたっております。
シューベルトの即興曲D899-3は素敵な曲ですよね。実は学生時代にちょっとピアノを習っていた時にこの曲も弾きました。
バヤデールの曲は聴いたことがないので聞いてみますね。
明日あたりにライラックさんのブログにコメントします(今日は難しいかもしれないので)。
投稿: フランツ | 2020年11月28日 (土曜日) 10時38分
フランツ様
たくさん詳しいコメントをありがとうございました!
ご教示いただいた「フリーク」とディースカウとの共演動画も追加致しました。贅沢な共演で、楽しめました。ありがとうございます。
11月28日に辻井さんの演奏のみ集めた記事もありますので、お時間のある時に楽しまれてくださいませ。ショパンコンクールに17歳で出場された際も、ファイナルまで行っていいほど上手だったと思います。辻井さんは、あそこで落ちたからこそ、猛練習して頑張れたと言われています。
投稿: ライラック | 2020年11月29日 (日曜日) 18時30分
ライラックさん、こんばんは。
早速ご返信いただき、有難うございます。
リヒテルは、F=ディースカウとシューベルト、ブラームス、ヴォルフで共演していて、いずれも商品化されています。楽しんでいただけたようで良かったです。
辻井さんは普段あまりクラシックに馴染みのない母がファンで、正月に実家に帰るとBSで放映される辻井さんのドキュメンタリーを毎回見ているので、私も一緒に見ています。彼は本当にタッチが美しいですね。素直な人格もまた演奏にあらわれているのかもしれません。
辻井さんの記事も後日またコメントさせていただきますね。
投稿: フランツ | 2020年11月29日 (日曜日) 21時26分