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グルック、シューベルト、ファニー・ヘンゼルの「夏の夜(Die Sommernacht)」を聴く

Die Sommernacht, D.289
 夏の夜

Wenn der Schimmer von dem Monde nun herab
[In]1 die Wälder sich ergießt, und Gerüche
Mit den Düften von der Linde
In den Kühlungen wehn;
 微光が月から今
 森に降り注ぎ、
 ボダイジュの香りの混ざったにおいが
 涼しさの中 吹くときに

So umschatten mich Gedanken an das Grab
[Der]2 Geliebten, und ich seh' [in dem]3 Walde
Nur es dämmern, und es weht mir
Von der Blüthe nicht her.
 恋人の墓に向ける思いが私を影で覆う、
 そして私は森の中で
 ただあたりがたそがれるのを見る、そして私に向けて
 花々から風が吹き寄せることはない。

[Ich genoß einst, o ihr Todten, es mit euch!]4
Wie umwehten uns der Duft und die Kühlung,
Wie verschönt warst von dem Monde,
Du, o schöne Natur!
 私はかつて楽しんだものだった、おお死者たちよ、君たちと共に!
 いかに香りや涼しさが私たちの周りを吹いたことか、
 いかに月に美しく照らされたことか、
 おまえ、おお美しい自然よ!

詩:Friedrich Gottlieb Klopstock (1724-1803)

1 Schubert (first version): "Auf"
2 Schubert: "Meiner"
3 Schubert: "im"
4 Schubert: "Ich genoß einst, o ihr Todten, ich genoß es einst mit euch!"

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クロップシュトックの詩による「夏の夜(Die Sommernacht)」のテクストに何人もの作曲家が曲をつけていますが、
ここではグルック、シューベルト、ファニー・ヘンゼルによる作品を聴き比べてみたいと思います。

グルックの作品は、3節の有節形式で作曲されています。
歌声部は3節とも完全に一致しています。
殆どの小節が同じリズムで進行するのは、詩の韻律に忠実である為でしょうが、それでも最後にクライマックスを持ってくるメロディは見事という他ないです。
寂しげで耳に残る美しいメロディは詩全体を覆う雰囲気と合致しているように感じます。
4分の4拍子。ハ短調。Moderato e legato (C.F.Peters版)

シューベルトの作品は、通作形式で、レチタティーヴォ風に始まり、過去の日々を回想する最後の3行で美しいメロディーが聞かれます。
1815年9月14日作曲。
第1稿:4分の4拍子。ハ長調。Nicht zu langsam (ゆっくり過ぎず)
第2稿:4分の4拍子。ハ長調。Langsam, feierlich (ゆっくりと、荘厳に)
2つの稿は基本的には同じですが、繰り返しの有無やリズムの違いなど細かい所に相違があります。

フェーリックス・メンデルスゾーンの姉ファニー・ヘンゼルの作品は、A-B-A'の形式です。
爽やかで親しみやすい作品なので、個人的には結構気に入っていますが、商業録音は少なくともCDでは今のところ皆無かもしれません。
ピアノパートの分散和音も美しいです。
8分の9拍子。変ホ長調(ネットで見つけた楽譜がLow Voice用の楽譜なので原調ではないと思われる)。Largo maestoso。1827年9月12日作曲。(Alfred Music)

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●グルック:夏の夜 Wq.49, No. 5
Christoph Willibald von Gluck (1714-1787): Die Sommernacht (7 Oden und Lieder, Wq.49: No. 5)

ヘルマン・プライ(BR) & レナード・ホカンソン(Harpsichord)
Hermann Prey(BR) & Leonard Hokanson(Harpsichord)
プライは暗さの中に甘美さも加わり、彼独自の味わいが感じられます。

ロリ・ライル(MS) & ミリセント・シルヴァー(Harpsichord)
Lorri Lail(MS) & Millicent Silver(Harpsichord)
ノルウェーのメゾ、ライルが包容力のある声で語りかけています。チェンバロの響きも美しいです。

ドミニク・ボワシー(Tenor Recorder) & Guitar
[Arr: Ralf Behrens] Tenor Recorder: Dominique Boissy & Play-along guitar
リコーダーの響きが得も言われぬ味わいを出しています。歌の息継ぎ箇所とは異なりますが、編曲なのですから問題ないでしょう。

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●シューベルト:夏の夜 D 289
Franz Peter Schubert (1797-1828): Die Sommernacht, D 289

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P) (第2稿)
ディースカウの歯切れの良さとムーアのレガートの美しさが印象的です。ディースカウはレチタティーヴォも楽譜に書かれてある音(本来装飾音が付いていると想定される箇所でも)で歌っていますが、後に録音するシュパイザーやゲルネは装飾音と解釈して歌っています(出版楽譜の違いかもしれませんが)。

エリーザベト・シュパイザー(S) & アーウィン・ゲイジ(P)
Elisabeth Speiser(S) & Irwin Gage(P) (第2稿)
シュパイザーの芯のある響きもまた魅力的です。ゲイジはシュパイザーの伸縮を把握した見事な演奏です。

マティアス・ゲルネ(BR) & アレクサンダー・シュマルツ(P)
Matthias Goerne(BR) & Alexander Schmalcz(P) (第1稿)
ゲルネはいつもながら包み込むような深々とした声で歌っています。

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●ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル:夏の夜
Fanny Mendelssohn-Hensel (1805-1847): Die Sommernacht

アシュリー・ロング(MS) & ピアニスト
Ashley Long(MS) & unknown pianist

ダニエル・フィドラー(Voice) & クリストファー・タング(P)
Daniel Fidler(Voice) & Christopher Tang(P)

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コメント

フランツ様

マティアス・ゲルネがこの中で1番好きです。プライはこの曲はとても暗くて、同じ曲とは思えませんでした。
ゲルネをこの動画で初めて知り、他の曲も聴いてみました。シューベルトを多く歌っている方のようですね。
とても悲しい内容の詩なのですが、ゲルネの歌い方は、どん底の暗さではなく、優しさを感じます。
ご紹介、どうもありがとうございました。

投稿: ライラック | 2020年9月 7日 (月曜日) 18時22分

ライラックさん、こんにちは。
コメントを有難うございます!

同じテキストですが、プライはグルックの作曲、ゲルネはシューベルトの作曲なので、雰囲気が随分違うと思います。
プライは普段明るいキャラクターなだけあって、真摯な感情を吐露する短調の歌とのギャップがとてもいいと思います。

ゲルネはライラックさんも気に入って下さったようですね!
シューベルトはharmonia mundiレーベルに10枚以上のCDを録音しています。
包みこむようなふかふかのカーペットのような歌声が魅力的です。

投稿: フランツ | 2020年9月 8日 (火曜日) 12時52分

フランツ様、こんにちは。
>同じテキストですが、プライはグルックの作曲、ゲルネはシューベルトの作曲なので、雰囲気が随分違うと思います。

ありがとうございます。早とちりしました。

>プライは普段明るいキャラクターなだけあって、真摯な感情を吐露する短調の歌とのギャップがとてもいいと思います。

そうですね。確かご本人は、どちらかといえば明るいキャラクターではないと言われたような気がします。それなのに、フィガロのような明るいキャラがよく似合ってしまう。

>ふかふかのカーペット
言いえて妙です!もしくはふわふわ上質の羽毛布団。

プライのファルセットの曲、甘くて優しい曲ですね。向こうにお返事しました。ありがとうございます。

投稿: ライラック | 2020年9月 8日 (火曜日) 17時37分


フランツさん、こんにちは。
1か月ほど家の工事をしていて、なかなかゆっくり音楽が聞けないでいました。
まだ工事はしばらく続きますが、尾とが止んだ合間にグルックをききました。

グルックは、バロックの終りの頃の作曲家だからか、ややまだその雰囲気を残している感じがしますね。
フランツさんも書かれているように、普段は屈託ない歌唱で、声も明るい彼が、このような曲を歌うとまた違った魅力があり好きです。彼の声の甘さがどこか救いになっていますしね。

ライルは初めてききましあが、素敵なメゾですね。レコードのパチパチ音が聞こえたので古い録音のようですね。プライさんより陰鬱に聞こえましたが、それもまた魅力に思います。

リコーダーはいつも物悲しい音色だと感じます。チェンバロとの共演がいっそう悲しさを掻き立てるようです。

続きもまたききますね♪

投稿: 真子 | 2020年9月12日 (土曜日) 15時07分

すみません。
文中の彼、とはプライさんのことです(^-^;

投稿: 真子 | 2020年9月12日 (土曜日) 15時10分

ライラックさん、こんにちは。
ご返事を有難うございます。

プライは実際には必ずしも明るいキャラクターというわけではないのですね。
一般的なイメージはあくまでも聴衆が彼に求めるものなのかもしれませんね。

ライラックさんのブログのご返事、有難うございます。拝見しますね!

投稿: フランツ | 2020年9月13日 (日曜日) 19時18分

真子さん、こんにちは。

残暑厳しい時期の工事は大変ですね。
少しでも記事が気休めになれば幸いです。

グルックは歌曲の歴史でそれほど名前が挙がるわけではないですが、いくつか書いているようです。
シュヴァルツコプフは彼のオペラアリア「流れる小川」という曲をリサイタルで頻繁に歌っていました。
この「夏の夜」も哀しげな味わいがあってなかなか魅力的な作品だと思います。
プライの歌唱はこのような暗い作品でもおっしゃるように「救い」が感じられるのがいいですね。

ロリ・ライルは私も今回確かはじめて聴いたのですが、この曲が収められているCDにムーアと共演した演奏もあり、ムーアの共演した人の幅広さにあらためて驚かされます。
ライルは深みのある声でいいですよね。

PS.「彼」がプライを指していること、なんの迷いもなく理解していました(^^)

投稿: フランツ | 2020年9月13日 (日曜日) 19時19分

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