« ペーター・シュライアーのドキュメンタリー(Peter Schreier - Zwischentöne, 1995) | トップページ | シューベルト/私の父の墓で(Bei dem Grabe meines Vaters, D 496) »

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)と共演したピアニストたち

リートの巨匠ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau: 1925年5月28日, Berlin - 2012年5月18日, Berg)がインタビューなどで共演したピアニストの数を尋ねられた時、大体100人から150人と答えていたように記憶しています。
彼はスタジオ録音に限ってもかなりの数のピアニストたちと共演しています。
例えば、ヘルタ・クルスト、ギュンター・ヴァイセンボルン、ジェラルド・ムーア、イェルク・デームス、カール・エンゲル、アリベルト・ライマン、ハルトムート・ヘルなどが挙げられるでしょう。
一方、音楽ジャーナリストたちはF=ディースカウが独奏者として名高いピアニスト、あるいはピアノがうまい指揮者と共演したことをとりわけ重視しているように感じられます。
ダニエル・バレンボイム、ヴォルフガング・サヴァリッシュ、スヴャトスラフ・リヒテル、クリストフ・エッシェンバッハ、アルフレート・ブレンデル、レナード・バーンスタインら一流の音楽家たちがF=ディースカウと組んだ録音は音楽評論家たちから激賞されています。
もう一つ気づくのは、これほど多くのピアニストたちと共演しているにもかかわらず、同時代に歌曲演奏で活躍したピアニスト、例えばジェフリー・パーソンズ、ドルトン・ボールドウィン、コンラート・リヒター、ルドルフ・ドゥンケルらとの共演記録が見当たらないことです。
いろいろな事情があるのだとは思いますが、ヘルマン・プライとしばしば共演していたヘルムート・ドイチュによると、ドイチュがF=ディースカウのカセットテープを持っていることを知ったプライファンの人にそのことを責められたとのことです。
ドイチュは、プライ自身F=ディースカウの録音を聴いていることをそのファンの人は知らないのだろうと述懐しています。
意識するしないにかかわらずある種の縄張りのようなものがあって、他の歌手と結びつきの強いピアニストとの共演は遠慮するということはあるのではないかと想像します。
パーソンズがシュヴァルツコプフ、F=ディースカウと3人で談笑している写真が残っていますが、それでもシュヴァルツコプフのほぼ専属的な立場にいたパーソンズと共演することはあえて避けたのではないかと推測します。

Monika Wolfという人がF=ディースカウ&ヴァラディ夫妻のサイトを立ち上げていて、その中にF=ディースカウのコンサート記録も含まれています。
http://mwolf.de/kalendarium/index.htm
1947年から亡くなる2012年まで記録がつけられています。
F=ディースカウ自身が出演記録をつけていたということも大きいと思いますが、その記録にプログラムなども紐づけられていて、とても貴重な記録となっています。
そこに共演者の名前も記載されていましたので、ピアニストと判断できる人をピックアップして、エクセルにまとめました。
そのエクセルファイルをPDF化したものをこちらで公開したいと思います。

ダウンロード - dietrich20fischerdieskaus20pianists.pdf

コンサート記録に掲載されていたピアニストとチェンバリストの名前とコンサートの日付と場所をまとめてあります。
さらにコンサート記録には出てこなくて録音(スタジオ録音、放送録音、共演したがお蔵入りの録音)でのみ共演した(と思われる)ピアニストはコンサート共演リストの下に録音データをまとめてあります(コンサートで共演しているピアニストについては録音データを記載していません)。
1992年12月31日をもって歌手活動から引退したF=ディースカウですが、その後も歌手以外の活動に精力的に取り組んでいます。
メロドラマ(朗読とピアノの組み合わせ)の朗読、作曲家や作家の手紙などの朗読、ピアニストとしての演奏(主に連弾)、あるいは指揮者として、マスタークラスの指導者としても活動しています。
歌手活動をしている時にあまり時間をさけなかった活動に夢中で取り組んでいるようで、本当に音楽家として生涯を全うしたことに敬意を感じます。
メロドラマでは特にR.シュトラウスの「イノック・アーデン」とウルマンの「旗手クリストフ・リルケの愛と死の歌」がお気に入りだったようで、歌手時代には共演しなかった若いピアニストたちともしばしば共演しています。
そのような朗読者として共演したピアニストもリストに含まれていますが、その場合は「D.F-D is narrator.」と記してありますので、分かると思います。

朗読者時代のピアニストを含めてもF=ディースカウが述べた100人という人数には及びませんでした。
Monika Wolfのコンサート記録にはピアニストの名前が書かれていない場合もあるので、おそらく他にも共演したピアニストはいるのだろうと思います。

ピアニストの国籍を見ていくとF=ディースカウはお気に入りのピアニストを演奏旅行に連れていく場合と、現地のピアニストと共演する場合の両方がありました。
アメリカ旅行ではポール・ウラノウスキー、イタリア旅行ではジョルジョ・ファヴァレット、そして我が日本でも小林道夫との共演記録があります(小林さんとのシューマン歌曲集はCD化されています)。

コンサートの回数でいくと、意外かもしれませんが、ギュンター・ヴァイセンボルンとの共演がデームスやムーア、ヘルを大きく引き離して最も多かったです。
ドイツ国内の各地を演奏旅行する時はヴァイセンボルンと共演することが多いようです。

いろいろ想像がふくらむ共演者リストになっておりますので、よろしければご覧ください。

ちなみに名前だけは下に列記しておきます(詳細はPDFをご覧ください)。

※参考文献:Dietrich Fischer-Dieskau: Verzeichnis der Tonaufnahmen

Gerhard Albersheim
ゲアハルト・アルバースハイム

Hans Altmann
ハンス・アルトマン (放送録音のみ)

Vladimir Ashkenazy
ヴラディーミル・アシュケナージ

Daniel Barenboim
ダニエル・バレンボイム

Leonard Bernstein
レナード・バーンスタイン

Klaus Billing
クラウス・ビリング

Otto Braun
オットー・ブラウン

Alfred Brendel
アルフレート・ブレンデル

Benjamin Britten
ベンジャミン・ブリテン

Gerhard Burgert
ゲアハルト・ブルゲルト

John Buttrick
ジョン・バトリック

Jörg Demus
イェルク・デームス

Karl Engel
カール・エンゲル

Christoph Eschenbach
クリストフ・エッシェンバハ

Giorgio Favaretto
ジョルジョ・ファヴァレット

Irwin Gage
アーウィン・ゲイジ

Cord Garben
コルト・ガルベン (放送録音のみ:CD化されている)

William Glock
ウィリアム・グロック

Florian Henschel
フローリアン・ヘンシェル

Hellmut Hideghéti
ヘルムート・ヒデゲティ

Ludwig Hoffmann
ルートヴィヒ・ホフマン

Franz Holetschek
フランツ・ホレチェク

Hartmut Höll
ハルトムート・ヘル

Vladimir Horowitz
ヴラディーミル・ホロヴィッツ

Raimund Hose
ライムント・ホーゼ

Theodor Jakobi
テオドア・ヤコビ

Rudolf Jansen
ルドルフ・ヤンセン (CD録音のみ)

Lotte Jekèli
ロッテ・イェケリ

Franz Jung
フランツ・ユング

Burkhard Kehring
ブルクハルト・ケーリング

Wilhelm Kempff
ヴィルヘルム・ケンプフ (LP録音のみ:CD化されている)

Hertha Klust
ヘルタ・クルスト

Michio Kobayashi (piano, harpsichord)
小林道夫

Ernst Křenek
エルンスト・クシェネク

Arni Kristiansson
アルニ・クリスティアンソン

Fritz Lehmann
フリッツ・レーマン

Daniel Levy
ダニエル・レヴィ (CD録音のみ)

Ernest Lush
アーネスト・ラッシュ (放送録音のみ)

George Malcolm (harpsichord)
ジョージ・マルコム

Martin Mälzer
マルティン・メルツァー

Siegfried Mauser
ジークフリート・マウザー

Erwin Milzkott
エアヴィン・ミルツコット

Gerald Moore
ジェラルド・ムーア

Fritz Neumeyer
フリッツ・ノイマイアー

Hans-Peter Olshausen
ハンス=ペーター・オルスハウゼン

Kjell Olsson
シェル・オルソン

Gerhard Oppitz
ゲアハルト・オピッツ

Murray Perahia
マリー・ペライア

Edith Picht-Axenfeld (harpsichord, piano)
エディト・ピヒト=アクセンフェルト

Maurizio Pollini
マウリツィオ・ポッリーニ

Michael Ponti
マイクル・ポンティ (LP録音のみ:CD化されている)

Michael Raucheisen
ミヒャエル・ラウハイゼン (放送録音のみ:CD化されている)

Ernst Reichert
エルンスト・ライヒェルト

Aribert Reimann
アリベルト・ライマン

Hermann Reutter
ヘルマン・ロイター

Sviatoslav Richter
スヴィャトスラフ・リフテル

Hans-Erich Riebensahm
ハンス=エーリヒ・リーベンザーム

Wolfram Rieger
ヴォルフラム・リーガー

Per Rundberg
ペール・ルンドバーリ

Wolfgang Sawallisch
ヴォルフガング・サヴァリシュ

Anneliese Schier-Tiessen
アネリーゼ・シーア=ティーセン

András Schiff
アンドラーシュ・シフ

Reinhard Schwarz-Schilling
ラインハルト・シュヴァルツ=シリング (放送録音のみ)

Joachim Seyer-Stephan
ヨアヒム・ザイアー=シュテファン

Norman Shetler
ノーマン・シェトラー

John Steele Ritter (harpsichord)
ジョン・スティール・リッター

Leo Stein
レオ・シュタイン (スタジオ録音のみ:一度も発売されていない)

Leo Taubman
レオ・タウプマン

Karola Theill
カローラ・タイル

Paul Ulanowsky
ポール・ウラノウスキー

Tamás Vásáry
タマーシュ・ヴァーシャーリ

Robert Veyron-Lacroix (harpsichord)
ロベール・ヴェイロン=ラクロワ

Otto Volkmann
オットー・フォルクマン

Charles Wadsworth
チャールズ・ワズワース

Margrit Weber
マルグリト・ヴェーバー

Roland Weber
ローラント・ヴェーバー

Günther Weißenborn
ギュンター・ヴァイセンボルン

Walter Welsch
ヴァルター・ヴェルシュ

Erik Werba
エリク・ヴェルバ

Rudolf Wille
ルドルフ・ヴィレ

Hans Zippel
ハンス・ツィッペル

|

« ペーター・シュライアーのドキュメンタリー(Peter Schreier - Zwischentöne, 1995) | トップページ | シューベルト/私の父の墓で(Bei dem Grabe meines Vaters, D 496) »

音楽」カテゴリの記事

ピアニスト」カテゴリの記事

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ」カテゴリの記事

コメント

フランツさん、こんにちは。

これはまた、すごい資料ですね。
Monika Wolfさんという方の情熱がまずすごいですし、これを見つけて分析されたフランツさんもすごいです。
ファンにとっては、眺め飽きることのない資料ですよね。

プライさんも手帳にずっと記録を付けていたようですから、こういう資料が出たらいいなあと思います。

>ヘルマン・プライとしばしば共演していたヘルムート・ドイチュによると、ドイチュがF=ディースカウのカセットテープを持っていることを知ったプライファンの人にそのことを責められたとのことです。
熱心なファンの中には、偏狭な気持ちになる人もいますね。
プライさんは、歌手デビューする前に既に、ディースカウさんの「冬の旅」を聞いて、「ここに完全に歌う歌手がいる。自分が歌手になる意味があるのか」と思ったと、自伝にありました。
歌手になってからも、日程が合えば、ディースカウさんのステージを聴きに行っていたかもしれませんね。探求心がなければ、一流にはなれないと思います。

この貴重な資料をじっくり楽しませていただきますね。
フランツさんの、ディースカウ愛を感じる記事でした(*^^*)

投稿: 真子 | 2020年8月10日 (月曜日) 09時48分

真子さん、こんにちは。
コメントと労いのお言葉を有難うございます(^^)


プライのピアニスト編は昔に記事にしたことがあったので、それ以来F=ディースカウのピアニストの記事も投稿しようとずっと思っていて、ようやく叶いました!

F=ディースカウとプライはメディアがライバルとして売り出してから本人たちも意識しだしたように思います。F=ディースカウ曰く最初はぎこちなかったそうです。でもプライがF=ディースカウを敬愛しているのはF=ディースカウもおそらく分かっていたと思いますし、後によき同僚となったようです。
ヘルムート・ドイチュは、プライがF=ディースカウを好んで聞いていたことは知っていましたが、やはりF=ディースカウとの共演はプライに配慮して意識的に避けたのではないかなと想像します(あるいはディースカウがドイチュにオファーを出すのを避けていたという可能性もありますよね)。
オーストリアのシューベルティアーデのアーカイブを見ていたら、一度だけディースカウとドイチュが同じコンサートに出演していたようで、もしや共演か!!と思ったのですが、その日は大勢の出演者がいたようで、この二人の演奏での共演は実現しなかったようです(挨拶をする際に同じステージ上に立つぐらいはあったかもしれませんが)。

プライもスケジュールを書き込んでいたのですね。それならば息子さんがいずれまとめて出版してくれることを期待したいですね!

今回のピアニスト一覧、プライの共演者との比較という意味でも楽しめるのではないかと思います。
よろしければ比べてみてくださいね!
いつも有難うございます!

投稿: フランツ | 2020年8月10日 (月曜日) 17時30分

フランツさん、こんにちは。

プライ&ビアニストの記事覚えていますよ♪ ファンにはありがたい貴重な資料です!!
ヘルマンプライ自伝にも断片的にですが、オペラやリートリサイタル、レコーディングの事が書かれています。
おっしゃるように、息子さんがお父さんの、歌手としての記録を出版してくれればなあと思います。
自伝は51歳で終わっていますから、そこからの晩年の姿も。

日本でのシューベルトイヤーのリサイタルの事や、シューベルト「冬の旅」のオーケストラ版を鈴木
行一さんとどのように作って行ったか、など聞いてみたいです。鈴木さんの思いは、ライナーノーツに載っていますが、プライさんの深い思いも、聞けるなら聞いてみたいです。

話が逸れてしまいましたね。
プライ&ビアニストも共に楽しみますね!
このように資料を調べ記事にされるのは、本当に骨の折れる作業だと思います。感謝です(*^^*)


投稿: 真子 | 2020年8月11日 (火曜日) 09時52分

真子さん、こんにちは。

よく考えたらプライは60代で亡くなっているんですよね。
一度引退して、70歳(80歳?ちょっと記憶が曖昧ですが)になったら「冬の旅」でカムバックするんだなんて自伝に書いてありましたから早すぎましたね。
自伝は51歳までなのですね。
その後の記録を息子さんがなんらかの形で公表してくれたら嬉しいですね。

そういえばプライが鈴木さん編曲の「冬の旅」をどう思っていたのかは確かに気になります。
複数の場所で歌っているのできっと気に入っていたのだろうとは思います。
日本でのシューベルトイヤーの連続リサイタルについては、「鳩の便り」が歌えずにいったん袖に戻った件は話題になりましたが、その他のリサイタルについても何か本人が語っていたらいいですよね。

今回のような集計作業は不思議と苦にならないんですよね。
どのピアニストとの共演が多いのかわくわくしながらエクセルに打ち込んでいました。

いつも私の記事に素敵なコメントをいただき、本当に有難うございます(^^)

投稿: フランツ | 2020年8月11日 (火曜日) 17時38分

ワクワクしながら集計されたのですね!素敵なエピソードです(*^^*)
私はエクセルは使えないので尊敬します!!

さて。
そうなんです。プライさんは69歳になってわすが10日で亡くなったんです。
いつかこういう日が来ることは覚悟していましたが、あまりに早すぎました。
でも、神が歌うのを止めなさいと言われるまで私は歌う。ステージで死ねたらと思う。
と、常々話していました。

自伝の最後は、1980年12月9日火曜日のできごとが書かれています。自伝は「75歳でカムバックするのさ!」で終わっています。
途中引退するような話は奥様との語らいのなかで、彼特有のジョークかなと思います(*^^*)
私は読めもしないのに、ドイツ語の原書も手に入れました。写真が日本語訳のものよりたくさん載っていて、時々出しては眺めています笑


1997年の、あれだけまとめての連続シューベルトリサイタルは、是非とも商品化して欲しいです!
様々な詩人によるシューベルトのプログラムなど、彼の言葉を聞いてみたかったです。

この連続シューベルトリサイタルが日本でできたことに、とても感謝されていたそうです。こちらこそありがとう、です(*^^*)
2月に予定されていたオケ版冬の旅は、体調が悪くなり一旦中止されましたが、必ず歌いにくると約束した通り、12月に再来日して歌ってくれました。
それが日本での最後の演奏になってしまうとは。。

それがあまりに悲しかったから、アメリング始め、ご高齢になられている演奏家の方々には一日も長く生きて頂きたいと願っています。
長くなってすみません(^-^;

投稿: 真子 | 2020年8月13日 (木曜日) 15時25分

真子さん、こんにちは。

プライは69歳になったばかりだったんですね。オケ版「冬の旅」を途中で延期したり体調は優れなかったとのこと、いつまでもお元気なイメージだったので残念ですね。

自伝のカムバックのお話、有難うございます。確か私もご夫婦の冗談のように書かれていた記憶があるのですが、本が部屋のどこかに紛れてしまって確認出来ませんでした。
原書もお持ちなのですね。違う写真が掲載されているのはいいですね!私は安価なペーパーバック版を輸入楽譜店でたまたま見かけて入手したのですが紙質がイマイチだった記憶があります(こちらも部屋のどこかにある筈です)。

シューベルトの連続シリーズはご本人が感謝されていたとのこと、本当にこちらこそ!という気持ちですよね。珍しい曲も沢山歌ってくれました。NHKがおそらく全日程録音していると思うので商品化期待したいですね。

高齢になられたご健在の方々は本当にいつまでもお元気でいていただきたいです。アーメリングは仕事が生きがいなのではと思うほど後進の指導を続けておられるので、きっとまだまだお元気で活動されるのではと思っています。

投稿: フランツ | 2020年8月14日 (金曜日) 10時19分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« ペーター・シュライアーのドキュメンタリー(Peter Schreier - Zwischentöne, 1995) | トップページ | シューベルト/私の父の墓で(Bei dem Grabe meines Vaters, D 496) »