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ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)生誕95周年(2020.5.28)

往年の名バリトン、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)が1925年5月28日に生まれて、今日で95年が経ちました。
残念ながら2012年に亡くなっていますが、F=ディースカウの実演を何度か聞くことが出来たことは私にとって最高の思い出になっています。

スタジオ録音は聞ききれないほど膨大な量ですが、インターネットでも彼のライヴをストリーミングで聞くことが出来ます。

オランダの放送局で収録したF=ディースカウとアルフレート・ブレンデルの『冬の旅』のライヴが下記のリンク先で聞けます。
ライヴとは思えないほどの完成度の高さで二人が円熟の演奏を聞かせてくれますので、ぜひお聞きください。

https://www.nporadio4.nl/concerten/4738-legendarisch-archief-winterreise-door-dietrich-fischer-dieskau

●Legendarisch archief: Winterreise door Dietrich Fischer-Dieskau

vrijdag 29 juni 1984, Concertgebouw, Amsterdam

Dietrich Fischer-Dieskau (bariton)
Alfred Brendel (piano)

Franz Schubert(シューベルト): Winterreise(冬の旅), D911

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エディト・マティス&ペーター・シュライアー&エリク・ヴェルバ(Mathis, Schreier & Werba)/ヴォルフ『イタリア歌曲集』ザルツブルク音楽祭ライヴ1976年

ソプラノのエディト・マティスとテノールのペーター・シュライアーがエリク・ヴェルバのピアノでザルツブルク音楽祭で歌ったヴォルフ『イタリア歌曲集』全曲の録音がアップされていました。

曲順はヴォルフの出版時のものとは異なり、入れ替えられているので、おそらくヴォルフ研究者でもあるヴェルバが順番を考えたのではないかと想像されます。
関連のあるストーリーを並べると同時に、各まとまりにおいても統一感を考慮しているようです。
例えば最初のグループは「小さなものでも私たちをうっとりとさせることは出来るの」で始まり、「私の恋人はとってもちっちゃいの」で終わるという流れによって、小さなもの(歌曲というジャンルへの意味合いも込められているのでしょう)への賛美を描こうとしているのではないかと思います。

マティスはみずみずしい美声による真摯な表現が素晴らしく、シュライアーはディクションの美しさが際立ち、セリフが生き生きとしています。
そしてヴェルバは楽譜の音価通りではなく、曲調によって自在に変化させているのはいつも通りですが、それがごく自然になされているという点で見事だと思います。
ただし、終曲「あたし、ペンナに住んでる恋人がいるの」の華麗なピアノ後奏はしっかり楽譜通りに弾いてほしかったですが...。

マティスとシュライアーはDeutsche Grammophonレーベルにエンゲルのピアノと共にこの歌曲集全曲を録音していますが、未だに全曲のCD化がされていません(最近マティスの組み物アンソロジーに一部復活しましたが)。
そういう意味で、このライヴの音源は貴重で意義深いと思います。
ぜひお時間のある時に少しずつでも聞いてみて下さい。

ライヴ録音:12 Augst 1976, Kleines Festspielhaus, Salzburg

Edith Mathis, Sopran エディト・マティス(S)
Peter Schreier, Tenor ペーター・シュライアー(T)
Erik Werba, Klavier エリク・ヴェルバ(P)

Hugo Wolf: Italienisches Liederbuch ヴォルフ:『イタリア歌曲集』

1(S)  Auch kleine Dinge können uns entzücken 小さなものでも私たちをうっとりとさせることは出来るの
18(T)  Heb' auf dein blondes Haupt und schlafe nicht ブロンドの頭をあげておくれ、眠るんじゃないよ
19(S)  Wir haben beide lange Zeit geschwiegen 私たちは二人とも、長いこと押し黙っていました
4(T)  Gesegnet sei,durch den die Welt entstund この世界の生みの親に祝福あれ
10(S)  Du denkst mit einem Fädchen mich zu fangen あなたは細い糸たった一本で私を捕まえて
3(T)  Ihr seid die Allerschönste weit und breit あなたは世界で一番美しい
2(S)  Mir ward gesagt,du reisest in die Ferne 遠いところに旅立つそうね
9(T)  Daß doch gemalt all deine Reize wären 君の魅力がすべて描かれて
15(S)  Mein Liebster ist so klein,daß ohne Bücken 私の恋人はとってもちっちゃいの

17:30-
14(T)  Geselle,woll'n wir uns in Kutten hüllen 相棒よ、おれたちゃ修道服でもまとって
11(S)  Wie lange schon war immer mein Verlangen もうどれほどずっと待ち焦がれてきたことでしょう
22(T)  Ein Ständchen Euch zu bringen kam ich her セレナードを捧げにわたくし参りました
12(S)  Nein,junger Herr,so treibt man's nicht,fürwahr 駄目、お若い方、そんな事しちゃ嫌
5(T)  Selig ihr Blinden,die ihr nicht zu schauen 目の見えない人は幸いだ
16(S)  Ihr jungen Leute,die ihr zieht ins Feld 戦場に向かわれるお若い方々
7(T)  Der Mond hat eine schwere Klag' erhoben 月がひどい不満をぶちまけ
6(S)  Wer rief dich denn? 一体誰があんたを呼んだのよ
13(T)  Hoffärtig seid Ihr,schönes Kind ふんぞり返っておいでだな、麗しき娘よ
21(S)  Man sagt mir,deine Mutter woll es nicht あなたのお母さんがお望みでないらしいわね
8(T)  Nun laß uns Frieden schließen,liebstes Leben もう仲直りしようよ、いとしい人
20(S)  Mein Liebster singt am Haus im Mondenscheine あたしの恋人が月明りの注ぐ家の前で歌っているわ
17(T)  Und willst du deinen Liebsten sterben sehen 君の彼氏が死ぬところを見たいのなら

40:27-
41(S)  Heut' Nacht erhob ich mich um Mitternacht 昨夜、真夜中に私が起き上がると
34(T)  Und steht Ihr früh am Morgen auf vom Bette それから、あなたが朝早くベッドから起き上がり
29(S)  Wohl kenn' ich Euren Stand,der nicht gering 賤しからぬあなた様の御身分は重々承知しておりますわ
35(T)  Benedeit die sel'ge Mutter 今は亡き君の母上に祝福あれ
39(S)  Gesegnet sei das Grün und wer es trägt! 緑色と、緑を身にまとう人に幸ありますように
38(T)  Wenn du mich mit den Augen streifst und lachst 君が僕をちら見して笑い出し
40(S)  O wär' dein Haus durchsichtig wie ein Glas ああ、あなたのお家がガラスみたいに透き通っていたらいいのに
23(T)  Was für ein Lied soll dir gesungen werden 君にはどんな歌を歌ってあげたらいいのかな
36(S)  Wenn du,mein Liebster,steigst zum Himmel auf あなたが、愛する方よ、天国に昇る時がきたら
33(T)  Sterb' ich,so hüllt in Blumen meine Glieder 僕が死んだら、この体を花で包みこんでおくれ

1:02:52-
26(T)  Ich ließ mir sagen und mir ward erzählt 私がしょっちゅう聞かされた噂では
24(S)  Ich esse nun mein Brot nicht trocken mehr 私はもう濡れていないパンを食べることはありません
42(T)  Nicht länger kann ich singen,denn der Wind ぼくはもう歌えないよ、だって風が
43(S)  Schweig einmal still,du garst'ger Schwätzer dort ちょっと黙ってよ、そこの不愉快なおしゃべり男
31(T)  Wie soll ich fröhlich sein und lachen gar どうして陽気でいられるもんか、まして笑うことなんて
28(S)  Du sagst mir,daß ich keine Fürstin sei 侯爵夫人様じゃないんだからって、あたしに言うけど
27(T)  Schon streckt' ich aus im Bett die müden Glieder ベッドの中でへとへとの体を大きく伸ばしているというのに
25(S)  Mein Liebster hat zu Tische mich geladen 彼氏があたしを食事に招いてくれたの
44(T)  O wüßtest du,wie viel ich deinetwegen おお、お前は分かっているのだろうか、どれほど俺がお前を思って
32(S)  Was soll der Zorn,mein Schatz,der dich erhitzt? なにを怒っているの、大切な方、そんなに熱くなって
37(T)  Wie viele Zeit verlor ich,dich zu lieben 君を愛することで、どれほどの時間を無駄使いしてきたことか
45(S)  Verschling' der Abgrund meines Liebsten Hütte 深淵が恋人の小屋を飲み込んでしまえ
30(T)  Laß sie nur gehn,die so die Stolze spielt 放っておけばいいさ、あんな高慢ちきを演じる女なんか
46(S)  Ich hab' in Penna einen Liebsten wohnen あたし、ペンナに住んでる恋人がいるの

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プライ&エンドレス(Prey & Endres)映像;オージェ&ボールドウィン(Augér & Baldwin)1984年NYリサイタル音源

長い新型コロナウイルス対策、皆様大変お疲れ様です。
音楽がお好きな方々は、最近アップしてくださった素敵な映像や音源で一息ついて下さいね。

●ヘルマン・プライ(BR)&ミヒャエル・エンドレス(P)
シューベルト「美しい水車屋の娘」より~1.さすらい

Hermann Prey, baritone
Michael Endres, piano

Die schöne Müllerin, D 795: 1. Das Wandern


●アーリーン・オージェ(S)&ドルトン・ボールドウィン(P)1984年ニューヨーク・リサイタル

Recital
録音:25 January 1984, Alice Tully Hall, New York City (live)

Arleen Augér(アーリーン・オージェ), soprano
Dalton Baldwin(ドルトン・ボールドウィン), piano

Mozart(モーツァルト):
- Das Veilchen(すみれ) 0:00
- Die Verschweigung() 2:43
- Als Luise die Briefe …ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼いた時) 5:55
- Sehnsucht nach dem Frühling(春への憧れ) 7:37
- Abendempfindung(夕暮れの感情) 9:35
Schumann(シューマン):
- Widmung(献身) 15:11
- Röselein, Röselein!(ばらよ、ばらよ!) 17:40
- Er ist’s!(あの季節だ!) 20:27
- Geisternähe(魂の近さ) 21:55
- Mondnacht(月夜) 24:18
- Aufträge(ことずて) 28:40
- Des Sennen Abschied(羊飼いの別れ) 31:04
- Kennst du das Land?(あの国をご存知でしょうか) 32:58
- Singet nicht in Trauertönen(悲しい音色で歌わないで) 37:09
Debussy(ドビュッシー):
- Romance(ロマンス) 39:12
- Mandoline(マンドリン) 41:31
- Clair de lune(月の光) 42:54
- Apparition(現れ) 45:36
Strauss(シュトラウス):
- Waldseligkeit(森の至福) 48:52
- Glückes genug(十分幸せ) 51:55
- Schlechtes Wetter(悪天候) 54:32
- Ach Lieb, ich muß nun scheiden(ああ恋人よ、ぼくはもう別れなければならない) 56:54
- Gefunden(見つけた) 59:15
- Hat gesagt - bleibt’s nicht dabei(言いました-それだけでは済みません) 1:02:01
Wolf(ヴォルフ): (encore)
- Auch kleine Dinge(小さなものでも私たちをうっとりさせることが出来るの) 1:03:58
Mozart(モーツァルト): (encore)
- Alleluia(アレルヤ) 1:06:51

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シューベルト/シラーの詩による「春に寄せて(An den Frühling)」を聞く

An den Frühling, D 283 (1815); D 587 (1817)
 春に寄せて

Willkommen schöner Jüngling!
Du Wonne der Natur!
Mit deinem Blumenkörbchen
Willkommen auf der Flur!
 ようこそ美しい若者よ!
 きみは自然の喜びだ!
 きみの花籠を
 野原で待ち望んでいたよ!

Ei! ei! Da bist ja wieder!
Und bist so lieb und schön!
Und freun wir uns so herzlich,
Entgegen dir zu gehn.
 やあ、やあ、また来てくれたんだね!
 きみはとても愛らしく美しい!
 そしてぼくらはこんなに心から喜んでいるのだ、
 きみのもとに向かうことを。

Denkst auch noch an mein Mädchen?
Ei lieber denke doch!
Dort liebte mich das Mädchen,
Und 's Mädchen liebt mich noch!
 ぼくの彼女のこともまだ思ってくれているかい?
 いやむしろ思っていておくれ!
 あそこで娘はぼくを愛していたけれど
 まだぼくのことを愛し続けているんだ!

Fürs Mädchen manches Blümchen
Erbat ich mir von dir -
Ich komm' und bitte wieder,
Und du? - du gibst es mir?
 あの娘のためにいくつもの花々を
 きみに頼んだものだったね。
 ぼくはまたお願いしに来たんだ。
 それできみは?きみはぼくに花々をくれるのかい?

詩:Friedrich von Schiller (1759 - 1805)
曲:Franz Peter Schubert (1797 - 1828)

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シューベルトは春をテーマにした歌曲を沢山作りましたが、このシラーのテキストによる作品も三回に渡って作曲しました。

・D283:1815年9月6日作曲。独唱とピアノ。Mässig, heiter。2節(詩の2つ分を1節にまとめて)の有節形式
・D338:1816年?作曲。テノール二声+バス二声。Etwas geschwind。4節(詩の節と音楽の節が同じ)の有節形式
・D587:1815年8月(第1稿:旧番号D245),1817年10月(第2稿)作曲。独唱とピアノ。両方の稿ともEtwas geschwind。第1稿は3節(詩の2つ分を1節にまとめて)の有節形式(第3節は第1節を繰り返す)。第2稿は2節の有節形式

●D283
ヘルマン・プライ(BR)&カール・エンゲル(P)

Hermann Prey · Karl Engel
プライは私の知る限りD587を録音しませんでしたが、一方F=ディースカウはD283を録音しませんでした。二人の個性がより引き立つ方を選んだということなのかもしれませんね。
プライの温かみのある美声は聞いていて本当に心地よいです。

●D283
ヘルマン・プライ(BR)&ジェラルド・ムーア(P)

Hermann Prey
Gerald Moore
Studio recording, Berlin-Zehlendorf, 16-18.I.1960
上記のエンゲル盤の前にプライはムーアとも録音していました。こちらは若い頃の甘美な声に魅了されますね。

●D338
ロバート・ショー・チェンバー・シンガーズ

Robert Shaw Chamber Singers conducted by Robert Shaw
男声四部合唱(無伴奏)。各節の最後にラ・ラ(la la)という部分を加えています。合唱ならではの各声部の呼応する様が爽やかな作品です。

●D587 (1st version)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)&ジェラルド・ムーア(P)

Dietrich Fischer-Dieskau--Baritone
Gerald Moore--Piano
1970
F=ディースカウが第2稿ではなく、あえてより素朴な第1稿を選んで録音したのが興味深いです。いつもながら説得力のある歌唱です。

●D587 (2nd version)
ヴォルフガング・ホルツマイア(BR)&ジェラール・ヴィス(P)

Wolfgang Holzmair & Gérard Wyss
ホルツマイアの柔らかい声が春の微風のように爽やかです。

●D587 (2nd version)
エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S)&ミヒャエル・ラウハイゼン(P)

Elisabeth Schwarzkopf
Michael Raucheisen
Studio recording, 1940s
シュヴァルツコプフが若かりし頃はこの曲を歌っていたのですね。香り立つ気品が感じられる歌唱です。

●D587
ランヒル・クリスティナ・モッツフェルト(S)&トレヴィジ・ギター・トリオ

Ragnhild Kristina Motzfeldt · Trevigi Guitar Trio
ギター伴奏も味わいがあっていいですね。サロンで聞いているような雰囲気です。歌手はノルウェー出身のようです。

※英国のピアニスト、グレアム・ジョンソンによるハイペリオン・シューベルト歌曲全集では、D283をエリー・アーメリング、D587をジャネット・ベイカーが録音しています。
以下のリンク先で1分ほど試聴出来ます。

●D283: Elly Ameling(S), Graham Johnson(P)
https://www.hyperion-records.co.uk/dw.asp?dc=W2260_GBAJY9000716

●D587 (2nd version): Janet Baker(MS), Graham Johnson(P)
https://www.hyperion-records.co.uk/dw.asp?dc=W2417_GBAJY8800116

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