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エリー・アーメリング(Elly Ameling)の「イドメネオ(1970年)」「マタイ受難曲(1971年)」からの抜粋ライヴ

エリー・アーメリングのライヴ音源がアップされていました。
「イドメネオ」抜粋は、ハイティンク指揮の演奏会形式による1970年ライヴです。
「マタイ受難曲」からのアリアはヘイン・ヨルダンス指揮ブラバント管弦楽団との1971年ライヴです。
ぜひお楽しみ下さい!

●モーツァルト「イドメネオ」から第2・3幕の抜粋(各曲の詳細はコメント欄にSandmanさんが記載して下さっています。ぜひご覧下さい)
Elly Ameling & Ingeborg Hallstein - Idomeneo (LIVE 1970)
Excerpts from Acts 2 & 3 of Mozart's opera "Idomeneo", sung in Italian.

Ilia: Elly Ameling
Elettra: Ingeborg Hallstein 
Idomeneo: Ernst Haefliger
Idamante: Sophie van Sante
Conductor: Bernard Haitink

●バッハ「マタイ受難曲」より"われは汝に心を捧げん"
録音:1971年3月or4月 (live)
Matthäus Passion - Ich will dir mein Herze schenken - Elly Ameling - 1971

Elly Ameling(S)
Brabants Orkest
Hein Jordans(C)

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(2020/4/18追記)

上記の1971年「マタイ受難曲」の他のアリアと1965年の全曲演奏の音源がさらにアップされていましたので、追記します。

●バッハ「マタイ受難曲」より"かくてわがイエスはいまや捕らわれたり"
録音:1971年3月or4月 (live)
Matthäus Passion - Duet - Elly Ameling en Elisabeth Cooymans - 1971
So ist mein Jesus nun gefangen

Elly Ameling(S)
Elisabeth Cooymans(A)
Brabants Orkest
Hein Jordans(C)

●バッハ「マタイ受難曲」より"血を流せ、わが心よ!"
録音:1971年3月or4月 (live)
Matthäus Passion – Blute nur - Elly Ameling - 1971
Blute nur, du liebes Herz!

Elly Ameling(S)
Brabants Orkest
Hein Jordans(C)

●バッハ「マタイ受難曲」より"愛によりわが救い主は死に給わんとす"
録音:1971年3月or4月 (live)
Matthäus Passion - Aus Liebe - Elly Ameling - 1971
Aus Liebe will mein Heiland sterben

Elly Ameling(S)
Brabants Orkest
Hein Jordans(C)

●バッハ「マタイ受難曲」より第1部
録音:1965年4月10日, Philips Schouwburg in Eindhoven (live)
Matthäus Passion Philipskoor - Deel 1 - 1965

John van Kesteren(Evangelist, T)
Anton Elderling(Jesus)
Elly Ameling(S)
Aafje Heynis(A)
Günter Morbach(BS)
Philips' Philharmonisch Koor
Tivoli Jongenskoor
Brabants Orkest
Hein Jordans(C)

●バッハ「マタイ受難曲」より第2部
録音:1965年4月10日, Philips Schouwburg in Eindhoven (live)
Matthäus Passion Philipskoor - Deel 2 - 1965

John van Kesteren(Evangelist, T)
Anton Elderling(Jesus)
Elly Ameling(S)
Aafje Heynis(A)
Günter Morbach(BS)
Philips' Philharmonisch Koor
Tivoli Jongenskoor
Brabants Orkest
Hein Jordans(C)

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ペーター・シュライアー(Peter Schreier)の思い出

ペーター・シュライアー(Peter Schreier: 1935.7.29-2019.12.25)といってまず私が思い浮かべるのはシューベルトの歌曲集『美しい水車屋の娘』です。
希望に満ちた遍歴職人がある水車屋の門を叩き、職を得て、その親方の娘に恋をして、両想いになるも、恋敵に彼女をとられ、絶望して小川に眠るまでを、ナイーブな青年の心情そのままに清涼感と節度のある歌唱で静かに訴えかけてきました。とりわけ1974年にヴァルター・オルベルツ(Walter Olbertz: 1931-)と組んだ録音はみずみずしいシュライアーの美声が刻まれていて、不朽の名盤と言っていいのではないでしょうか。

私がドイツリートを聞き始めて少し経った頃、ペーター・シュライアーはこれまで一度も歌っていなかったシューベルトの歌曲集『冬の旅』をいよいよ披露しようとしていました。1935年生まれのシュライアーは、声が成熟する50歳まで歌うのを待っていたのでしょう。
1980年代半ばぐらいだったと思いますが、ピアノはヴァルター・オルベルツが担当し、シュライアーの日本での『冬の旅』公演は新聞でも好評でした。
私は残念ながらその公演は聴いていませんが、数年ごとに来日してくれるシュライアーのこと、その数年後に生で聴くことが出来ました。録音ではスヴャトスラフ・リフテル(Sviatoslav Richter: 1915.3.20-1997.8.1)とのライヴがPHILIPSから発売され、話題になりました。

シュライアーの「冬の旅」で特徴的なのはそのテンポ設定でしょう。共演のピアニストを変えてもテンポは一緒なので、シュライアー自身の解釈なのだと思います。「おやすみ」がたっぷりめのテンポなのはまだ分かるのですが、「からす」のこれまで聞いたことがないほどの速いテンポには正直驚きました。こんなに速くては歌いにくいのではないかと思うのですが、シュライアーが考えた末の解釈なのでしょう。それからもう一つ「鬼火」の歌唱旋律を一般的な楽譜とは異なるメロディーで歌い収めていることです。こちらは根拠があり、シューベルトの最初の稿がシュライアーの歌っていたメロディーだったのです。出版譜だけに頼らず、他の稿も見比べながら、シュライアーの「冬の旅」がつくりあげられていったのでしょう。

シュライアーは共演するピアニストが多いことも特徴の一つでしょう。専属のピアニストを雇わずに、コンサートごとに異なるピアニストと組むというやり方は、例えば白井光子が殆どハルトムート・ヘルのみと組むのとは対照的と言えます。しかし、異なるタイプのどのピアニストと組んでも見事に一体となった演奏を聴かせるのは、ピアニストの技量だけでなく、シュライアーの歌唱がそうさせるという面もあるのではないでしょうか。例えば、彼がよく組むノーマン・シェトラーとエリック・ヴェルバは決して似たタイプの演奏家ではありません。前者があくまで作品を尊重して誠実な音楽を奏でるのに対して、後者はヴィーン出身だからなのかかなり自由な表現で細かいところにあまりこだわらないように聞こえます。しかし、どちらの録音もシュライアーの歌声で聞くと素晴らしい音楽となっているのです。あえてピアニストを固定せず、それぞれの個性を楽しむタイプなのかもしれません。

シュライアーは1980年に歌曲集「美しい水車屋の娘(Die schöne Müllerin)」を3回録音しました。1年の間に3回というのは相当珍しいことではないでしょうか。とは言え、3種とも趣向を凝らしたものでした。

1.コンラート・ラゴスニク(Konrad Ragossnig: 1932-2018)のギターとの共演によるもの(録音:1980年1月5-7日, Lukaskirche, Dresden)。
2.スティーヴン・ゼア(Steven Zehr: 1944-)によるハンマークラヴィーアとの共演によるもの(録音:1980年2月28-29日, Schubert-Saal des Wiener Konzerthauses)。
3.ノーマン・シェトラー(Norman Shetler: 1931-)とのピアノで歌った録音はシューベルトの友人で彼の歌曲の普及に大きく貢献したフォーグル(Johann Michael Vogl: 1768-1840)による改変版によるもの(録音: 1980年8月22-23日, Große Aula der Universität Salzburg)。

シュライアーの初期の歌唱は清冽、明晰、丁寧で、耳なじみの良い歌い方でした。1980年代になると、シュライアーの歌い方がよりドラマティックになり、時にリートの歌唱において言葉の強調の仕方が極端だと非難されることもありました。おそらくこの歌い方の変化は、彼がバッハの福音史家(エヴァンゲリスト)を長年歌い続けてきた影響もあるのではないかと想像します。キリストの受難を聞きてに説明する役割をもった福音史家はいわゆる第三者です。しかし、場面が進むにつれてドラマティックな展開を見せる際に常に冷静でいられるはずがありません。シュライアーは第三者でありつつも、キリストに共感し、感情を込めることで、バッハの音楽をより鮮明に描こうとしたのではないかと思います。そういう姿勢がおのずと歌曲の歌唱にも影響して、かつての爽やかな歌唱だけでない、ドラマティックで必ずしも耳障りのいいだけではない声も表現の一つとして使うようになったのではないかと思います。それを良しとするかどうかは結局のところ好みの問題ではないかと思います。

シュライアーは、他のドイツリートの男声歌手が避けていた女声の歌もいくつか歌っています。例えばヴォルフの「夜明け前のひととき(Ein Stündlein wohl vor Tag)」は彼氏が別の女性と一夜を過ごしていることをつばめに告げられる女性の悲痛な心情を歌ったもので、これを男声が歌った例は他にないのではないでしょうか。他にも録音はしていませんが、ライヴで同じくシューベルトの「恋はあらゆる道にいて(Liebe schwärmt auf allen Wegen)」を歌っていました。さすがにシューマンの「女の愛と生涯」やシューベルトの「糸を紡ぐグレートヒェン」は歌っていないと思いますが、女声用歌曲への進出という意味で興味深いと思います。

シュライアーはそのレパートリーのほとんどを録音していたように思いますが、おそらくスタジオ録音を残していない重要な歌曲集があることを最近知りました。
世界のホールのWebサイトで過去のコンサートのアーカイブを検索できるようになっていることが多いのですが、彼はオルベルツとマーラーの歌曲集「遍歴職人の歌(さすらう若者の歌)(Lieder eines fahrenden Gesellen)」を歌っていることが分かりました(10 Dec. 1987, Mozart-Saal, Wiener Konzerthaus)。この歌曲集は女声もよく歌いますが、男声が歌う場合は圧倒的にバリトンが多いイメージがあります。音域的な事情でしょうか、あまりテノール歌手がこの曲集を歌った記憶がないのですが、シュライアーはライヴで歌っていました。いつかその音源が世に出るとうれしいのですが…。

※こちらのリンク先でWiener Konzerthausの過去のコンサートを検索出来ます。

ペーター・シュライアーは、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウやヘルマン・プライと同時期に活躍した最も優れたテノール歌手の一人で、彼にとって歌曲はその膨大な活動の中の一つの分野に過ぎません。しかし、オペラや宗教曲をあれだけ歌っていながら、歌曲にも情熱を傾け、日本のファンのために数年おきに来日してくれたのはやはりうれしいことでした。
シュライアーのドイツ語はとても美しく、歌声は変幻自在な表現力で聞き手を魅了しました。彼が歌曲の世界に向けた貢献は計り知れないものがあると思います。
本当に感謝あるのみです。
シュライアーさん、どうぞ安らかにお眠り下さい。

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