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シューベルトの「ただ憧れを知る人だけが(Nur wer die Sehnsucht kennt)」の6種類の曲を聞く

Nur wer die Sehnsucht kennt
Weiß, was ich leide!
Allein und abgetrennt
Von aller Freude
Seh ich an's Firmament
Nach jener Seite.
Ach, der mich liebt und kennt,
Ist in der Weite.
Es schwindelt mir, es brennt
Mein Eingeweide.
Nur wer die Sehnsucht kennt
Weiß, was ich leide!
 ただ憧れを知る人だけが
 私が何に苦しんでいるのか分かるのです!
 ひとり
 あらゆる喜びから引き離されて
 私は天空の
 あちら側に目をやります。
 ああ、私を愛し、知る方は
 遠方にいるのです。
 私は眩暈がして、
 はらわたがちくちく痛みます。
 ただ憧れを知る人だけが
 私が何に苦しんでいるのか分かるのです!

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), "Mignon", written 1785, appears in Wilhelm Meisters Lehrjahre, first published 1795
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828)

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シューベルトは、ゲーテの詩による有名なミニョン(Mignon)の「ただ憧れを知る人だけが(Nur wer die Sehnsucht kennt)」に6回作曲しました(1回目のD 310は2つの稿があります)。
D 310の第1稿のみネット動画で見つけられませんでしたが、あのアーメリング(Elly Ameling)がグレアム・ジョンソン(Graham Johnson)とHyperionに2つの稿をまとめて録音していますので、ご興味のある方はそちらをお聞きください。
また、Naxosレーベルにはルート・ツィーザク(S)とウルリヒ・アイゼンローア(P)が、ミニョン関係のシューベルトの歌曲を1枚にまとめて録音していますので、そちらもシューベルトファンには興味深いと思います。
第1作~第3作、第6作は独唱とピアノ、第4作は無伴奏男声五部合唱、第5作はミニョン(女声)と竪琴弾き(男声)の二重唱とピアノという編成です。
最も有名なのは第6作ですが、ここに至るまでこれだけシューベルトが試行錯誤を繰り返してきたかが分かるとまた感慨深いものがあります。
もちろんさすがシューベルトだけあって、初期の作品からすでに非凡さが感じられ、聞く人によっては好みが分かれるかもしれませんね。

●第1作(第1稿、第2稿):「憧れ」D 310a, D 310b
Sehnsucht, D 310 (1815), published 1895 [voice, piano], first setting (2 versions)
Erste Fassung(第1稿) : 18 Oct. 1815, Sehr langsam, mit Ausdruck, 2/2, As-dur
Zweite Fassung(第2稿) : 18 Oct. 1815, Sehr langsam, mit höchstem Affekt, 2/2, F-dur, 第2稿の最後の行の追加 "der nur weiß, was ich leide!"

D 310b(第2稿) : Dorothee Jansen(S) & Francis Grier(P)

●第2作:「憧れ」D 359
Sehnsucht, D 359 (1816), published 1872 [voice, piano], second setting
1816, Mässig, 6/8, d-moll

Ruth Ziesak(S) & Ulrich Eisenlohr(P)

●第3作:「憧れ」D 481
Sehnsucht, D 481 (1816), published 1895 [voice, piano], third setting
Sep. 1816, Langsam, 2/4, a-moll

Arleen Auger(S) & Walter Olbertz(P)

●第4作:「憧れ」D 656
Sehnsucht, D 656 (1819), published 1867, first performed 1868 [vocal quintet for male voices], fourth setting
T I, T II, BS I, BS II, BS III, Apr. 1819, Langsam, 2/2, E-dur

Robert Shaw Chamber Singers & Robert Shaw(C)

●第5作:「ミニョンと竪琴弾き」D 877-1 (『ヴィルヘルム・マイスターからの歌曲』より)
Mignon und der Harfner, D 877 no. 1 (aus "Gesänge aus Wilhelm Meister, op. 62") (1826), published 1827 [vocal duet with piano], from Gesänge aus Wilhelm Meister, no. 1, fifth setting
Jan. 1826, Langsam, 4/4, h-moll

Victoria de los Angeles(S) & Dietrich Ficher-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)

●第6作:「ミニョンの歌」D 877-4 (『ヴィルヘルム・マイスターからの歌曲』より)
Lied der Mignon, D 877 no. 4 (aus "Gesänge aus Wilhelm Meister, op. 62") (1826), published 1827 [voice, piano], from Gesänge aus Wilhelm Meister, no. 4, sixth setting
Jan. 1826, Langsam, 6/8, a-moll

Barbara Bonney(S) & Geoffrey Parsons(P)

◎おまけ:第6作(「ミニョンの歌」D 877-4)のピアノパート演奏
Lied der Mignon - KARAOKE / PIANO ACCOMPANIMENT - op.62 n.4 - Schubert

Héctor Valls(P)

◎朗読
Johann Wolfgang Goethe „Nur wer die Sehnsucht kennt" (1795)

Fritz Stavenhagen(Rezitation)

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ブラームス/「目隠し鬼ごっこ(Blinde Kuh, Op. 58-1)」を聴く

Blinde Kuh, Op. 58, No. 1
 目隠し鬼ごっこ

Im Finstern geh' ich suchen,
Mein Kind, wo steckst du wohl?
Ach, sie versteckt sich immer,
Daß ich verschmachten soll!
 暗闇の中、ぼくは探しに行こう、
 いとしい子よ、きみはどこに隠れているんだい?
 ああ、彼女はいつも隠れてしまうんだ、
 ぼくを苦しませようとしてね。

Im Finstern geh' ich suchen,
Mein Kind, wo steckst du wohl?
Ich, der den Ort nicht finde,
Ich irr' im Kreis umher!
 暗闇の中、ぼくは探しに行こう、
 いとしい子よ、きみはどこに隠れているんだい?
 ぼくは、居場所を見つけられずに、
 ぐるぐる回ってさまようのさ!

Wer um dich stirbt,
Der hat keine Ruh'!
Kindchen erbarm dich,
Und komm herzu!
Ja, komm herzu,
Herzu, herzu!
 きみを思って焦がれ死ぬ奴に
 安らぎはない!
 娘さん、憐れんでおくれ、
 こっちへ来てくれよ!
 そう、こっちへおいで、
 こっちへ、こっちへ!

詩:August Kopisch (1799-1853)
曲:Johannes Brahms (1833-1897)

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ブラームスは謹厳実直なイメージが付いていますが、歌曲においてとても親しみやすい作品も書いています。その一つがこの「目隠し鬼ごっこ」です。このコーピッシュのテキストでは、主人公の男の子が暗闇に隠れている好きな女の子に向けて、「どこにいるんだい、ここにおいで」と語りかけるという内容になっています。ピアノパートのせわしなく動く様がその様をうまく描写して微笑ましいですね。

目隠し鬼ごっこのかわいらしい映像がありましたので貼っておきます。
Wir spielen blinde Kuh(ぼくらは目隠し鬼ごっこをしているよ)


エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S) & ジェフリー・パーソンズ(P)
Elisabeth Schwarzkopf(S) & Geoffrey Parsons(P)

シュヴァルツコプフがDECCAの為に録音した最後のスタジオ録音より。この録音で初めてこの曲を聴いたので、思い出深いです。シュヴァルツコプフの「Komm herzu(おいで)」という表情の巧みさ、パーソンズの見事なまでの盛り上げ方等、大好きな録音です。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ダニエル・バレンボイム(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Daniel Barenboim(P)

F=ディースカウはさすがにうまいですね。巧者バレンボイムはノリノリですが、ブラームスなのでもう少しスタイリッシュな方が個人的には好みです。

レベッカ・シュテーア(S) & トビアス・ハルトリープ(P)
Rebekka Stöhr(S) & Tobias Hartlieb(P)

シュテーアの素直な歌いぶりは好感がもてます。ピアノのハルトリープはノンレガートで見事に描写しています。

ヘルムート・クレープス(T) & ジェルジ・シェベーク(P)
Helmut Krebs(T) & György Sebők(P)

クレープスの爽やかなテノールで聞くのもいいですね。シュタルケルやグリュミオーといった著名な弦楽器奏者の共演者として知られているシェベークが歌曲を演奏している貴重な録音で、とてもいい演奏です。

エリーザベト・シューマン(S) & レオ・ローゼネク(P)
Elisabeth Schumann(S) & Leo Rosenek(P)

往年の名ソプラノ、E.シューマンのチャーミングな語り口も魅力的です。

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エリー・アーメリング(Elly Ameling)のインタビュー(nrc.nl、2019.5.15付、Mischa Spelによるインタビュー)

オランダのゼイスト(Zeist)でのマスタークラスが近づき、今度は先日の記事とは別のインタビュアーによるエリー・アーメリングへのインタビューが掲載されました。

 こちら

上部のアーメリングの写真は最近のものでしょうか。
年輪を刻んだ素敵なポートレートです。

今回もオランダ語でのインタビューですので、Google翻訳の助けを借りることにしましょう。

 日本語訳(Google翻訳による)

オランダ語を読みこなせない私には、Google翻訳に頼る以外に方法はないのですが、もちろんGoogle翻訳の精度があがっているとはいえ、これが完璧ではないことは明白です。

大体こんなことを言っているということが分かるだけでも、ファンにとってはうれしいです。

自分のレコードを聴く前にはオレンジのウォッカを飲んで酔わないと聴けないというのはアーメリングの有名なエピソードですね。
自分の理想との違いが気になってしまうからというのは、芸術の探究者ならではでしょう。
その他、余暇の楽しみなどについても語っています。

ぜひご覧ください。

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エリー・アーメリング(Elly Ameling)の最新インタビュー(Opus Klassiek、2019.5、Aart van der Walによるインタビュー)

2019年5月付のAart van der Walによるエリー・アーメリングへのインタビューが下記のサイトに掲載されています。

 こちら

原文がオランダ語ですので、機械翻訳に頼るしかないですね。

 日本語訳(ただし機械翻訳なのでおおよその内容をつかむぐらいにしておきたいです)

途中でイェルク・デームスの急死を知り、アーメリングが葬式に出席する為にヴィーンに出発することになったというのが胸が熱くなります。
京都で二人が並んで指導していた場面がまざまざとよみがえります。
あの数時間は間違いなくかけがえのない時間でした。

アーメリングにとって、デームスがいかに特別な共演者であったのかこの機械翻訳からも伝わってきます。

原文の下の方にアーメリングによる歌手にとっての十か条が書かれていますが、アーメリングの日本でのマスタークラスに関するFacebook(Ellyamelingjapan)にその邦訳が掲載されていますので、ぜひご覧ください。ギリシャ、ローマ神話や新旧約聖書について知識をもつことを挙げておられるのは耳が痛いですが、ドイツリートを理解するうえでそれらは必要不可欠なことなのですね。

 こちら

彼女は今月下旬にロンドンでマスタークラスを催します。
相変わらず多忙な毎日を送っておられるようで、ただただお元気で過ごしていただきたいです。

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ヴォルフ/「あたし、ペンナに住んでる恋人がいるの(Ich hab' in Penna einen Liebsten wohnen)」を聴く

Ich hab' in Penna einen Liebsten wohnen
 あたし、ペンナに住んでる恋人がいるの

Ich hab' in Penna einen Liebsten wohnen,
In der Maremmenebne einen andern,
Einen im schönen Hafen von Ancona,
Zum Vierten muß ich nach Viterbo wandern;
Ein andrer wohnt in Casentino dort,
Der nächste lebt mit mir am selben Ort,
Und wieder einen hab' ich in Magione,
Vier in La Fratta,zehn in Castiglione.
 あたし、ペンナに住んでる恋人がいるの、
 マレンマの平野にも一人いるし、
 アンコーナの素敵な港にだって一人いるわ、
 四人目はヴィテルボまで行かなきゃなんないけどね。
 カセンティーノの方にはさらに一人いて、
 もう一人はあたしと同じ町にいるのよ。
 それでもって、マジョーネにもう一人いて、
 ラ・フラッタには四人、カスティリオーネには十人もいるんだから。

詩:Paul Heyse (1830-1914)
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

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ヴォルフの46曲からなるパウル・ハイゼのテキストによる「イタリア歌曲集(Italienisches Liederbuch)」の最後の曲を取り上げたいと思います。
この歌曲集は男女の恋の駆け引きが1、2分、長くても4分ぐらいの短い歌の連なりで出来ています。
ヴォルフ自身の曲順で歌ってももちろん効果的ですが、演奏家自身でよりドラマティックな配列に直して歌うこともあります。
演奏家による順序の並べ替えを最初に提唱したのはおそらくオーストリアの歌曲ピアニストで教育者、批評家でもあったエリク・ヴェルバでしょう。
ヴェルバはヴォルフの伝記も著し、日本語訳も出版されているので、ヴォルフでの愛着ぶりがうかがえます。

さて、この「あたし、ペンナに住んでる恋人がいるの」ですが、実は以前に藤井さん、甲斐さんが管理されていた「詩と音楽」(現在は藤井さんのみの管理)に「イタリア歌曲集」全曲について投稿したことがあり、この曲についても書かせていただいたので、そちらのリンクを貼っておきます。
よろしければご覧ください。

 こちら

私にはあちらこちらの町に恋人がいるからあなたなんか眼中にないのよと、目の前の彼氏を嫉妬させて喜ぶ女性の姿が目に浮かぶようです。
よくドン・ジョヴァンニの「カタログの歌」にたとえられますが、こちらの女性は自慢することよりも、彼氏を嫉妬させて、自分に振り向かせようという策略に感じられます。

歌手は早口で、畳みかけるように歌います。
ピアノのリズムに歌が入ることの難しさをジェラルド・ムーアは「ちょうどなわをとぶ女の子の顔に見受けられたような、迷い、躊躇、決意、当惑のいろいろな表情をよく発見する」(『歌手と伴奏者』(大島正泰訳、音楽之友社、1960年))と言っています。
実際、一流の歌手たちの録音を聴いていても、必ずしもヴォルフのリズム通りに歌っているとは限らず、本来の拍より前後していることが少なからず聞かれます。

ところで、この曲にはピアニストの腕の見せ所である華麗で技巧的なピアノ後奏が付けられています。
ムーアは前述の著書の中で「ソロモンやホロヴィッツでさえ、一生懸命練習しなくてはできないような、まるで巨匠のために書かれたようなパッセージである」と、その難しさを強調しています。
私の見た感じでは左手はほぼ同じ和音をおさえるだけなので、急速なパッセージはほぼ右手に偏っていて、ホロヴィッツなら難なく弾けそうに思いますが、演奏効果があることは確かです。
普段伴奏者は歌手の影に隠れて...という印象を持たれていた時代は、歌手にとってこのパッセージが邪魔だったらしく、ムーアも、この後奏を弾かずに、簡単な和音で終わらせてほしいと女声歌手に言われたことがあったそうです(もちろん実行しなかったそうですが)。

また、この曲は歌が終わった後で、待ちきれない聴衆が長いピアノ後奏を拍手でかき消してしまうことが多かったようで、ムーアが皮肉っぽく「三、四人の赤ん坊がブリキの太鼓を叩いてわめきながら母親を求めているところで練習したらよいと思う。...伴奏者を頑固にするには役立つかもしれない」と前述の著書に書いています。
その例を最初に映像で見てみたいと思います。

●エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S) & ジェフリー・パーソンズ(P)
Elisabeth Schwarzkopf(S) & Geoffrey Parsons(P)

1977年アムステルダム映像。ムーアが著書で言っていたことはこういうことかと分かる貴重な映像です。パーソンズが後奏を弾き始めると、すぐに大きな拍手が沸き起こり、シュヴァルツコプフがまだパーソンズが弾いている途中にもう終わったと勘違いするほど拍手にかき消されています。それでも高い技術で見事に最後まで演奏するパーソンズはやはり素晴らしいピアニストです。

それでは、1分に満たない短い作品ですが、華やかで演奏効果抜群のこの曲を聴き比べてみたいと思います。

●ドーン・アップショー(S) & ヘルムート・ドイチュ(P)
Dawn Upshaw(S) & Helmut Deutsch(P)

アップショーは美声で完璧に歌い、ドイチュは輝かしい後奏を聞かせ、最後の小節に向けて速度を速めるなど、高い技巧で聞き手を興奮させてくれます。

●エディト・マティス(S) & カール・エンゲル(P)
Edith Mathis(S) & Karl Engel(P)

マティスは硬質な美声を生かして、オペラの一場面のような表情の豊かさを聞かせます。エンゲルの最後の締めの和音をあえて軽めにすることでコミカルな味わいを出すことに成功しています。

●ジェラルディン・マクグリーヴィー(S) & ショルト・カイノク(P)
Geraldine McGreevy(S) & Sholto Kynoch(P)

英国系の演奏。マクグリーヴィーは楽譜通りに見事に歌っており、カイノクも完璧な演奏です。

●イルムガルト・ゼーフリート(S) & エリク・ヴェルバ(P)
Irmgard Seefried(S) & Erik Werba(P)

ゼーフリートはリズムも言葉さばきも見事です。ヴェルバは後奏で若干あやしい所もありますが、うまく辻褄を合わせて貫禄を見せています。

●エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S) & ジェラルド・ムーア(P)
Elisabeth Schwarzkopf(S) & Gerald Moore(P)

シュヴァルツコプフはさすがの貫禄で見事な歌唱です。ムーアはこの曲の録音に関してはミスタッチが聞かれることがあるのですが、この時の後奏は調子が良かったようです。ただ、最後の三連符で畳みかける箇所はもっとキレが欲しいところです。

●エリー・アーメリング(S) & アーウィン・ゲイジ(P)
Elly Ameling(S) & Irwin Gage(P)

アーメリングは、wohnen(1行目), andern(2行目)の音価を旧盤(ボールドウィン共演のPHILIPS盤)同様に楽譜よりも長く伸ばしているので、あえてそうしているのかもしれません。ゲイジはペダルをたっぷり使って色合いのある後奏を聞かせています。

●ベニタ・ヴァレンテ(S) & リチャード・グッド(P)
Benita Valente(S) & Richard Goode(P)

ヴァレンテもアーメリングと同じ箇所で音価を伸ばしています。グッドは高い技術を思い切り見せつけて見事な後奏でした。

●ディアナ・ダムラウ(S) & ヘルムート・ドイチュ(P)
Diana Damrau(S) & Helmut Deutsch(P)

ライヴならではの熱気が感じられます。ダムラウは、wohnen(1行目)は楽譜通りですが、andern(2行目)は音価を伸ばしています。ライヴならではのハプニングかもしれません。ドイチュはアップショーとのスタジオ録音に比べると、安定を求めたのか、落ち着いた出来になっています。

●レジーヌ・クレスパン(S) & ジョン・ワストマン(P)
Régine Crespin(S) & John Wustman(P)

クレスパンもダムラウ同様wohnen(1行目)は楽譜通りですが、andern(2行目)は音価を伸ばしています。ワストマンはアメリカ人らしいスマートな表現とスピーディーな後奏が見事でした。

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万葉集による歌曲

今日(2019.5.1(水))からいよいよ新元号「令和」になりましたね。
「平成」に変わった時とは事情が異なることもあり、懐古の気持ちだけでなく、晴れやかな気持ちで迎えることが出来ます。

ところで、この「令和」がはじめて日本の古典から引用された元号になったということで話題になりました。
「万葉集」からの引用だそうです。

この「万葉集」をテキストにした歌曲といえば、ゴジラの音楽で著名な伊福部昭の作曲した「因幡万葉の歌五首(1994)」という歌曲集があります。

知られざる日本歌曲の開拓者として第一人者であるソプラノの藍川由美さんが伊福部歌曲全曲を2枚組のCDに収録しており、その中でこの歌曲集も聞くことが出来ます。

アルトフルート(中川昌巳)と二十五絃箏(野坂惠子)と歌という編成がなんとも艶めかしく、原初の響きを思わせるような伊福部メロディーを藍川さんが実に素晴らしく歌っていますので、興味のある方はぜひお聞きください。

5曲中、最初の4曲のテキストが大伴家持(おおとものやかもち)の作、最後の1曲がその叔母であり義母でもある大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ)の作です。

1.あらたしき(大伴家持)
新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事
 テキストの解説、訳はこちら

2.はるののに(大伴家持)
春の野に霞たなびきうら悲しこの夕かげに鶯鳴くも
 テキストの解説、訳はこちら

3.はるのその(大伴家持)
春の園紅にほふ桃の花下照る道に出で立つをとめ
 テキストの解説、訳はこちら

4.さよふけて(大伴家持)
さ夜更けて暁月に影見えて鳴く霍公鳥聞けばなつかし
 テキストの解説、訳はこちら(ページの一番上)

5.わがせこが(大伴坂上郎女)
我が背子が面影山のさかゐまに我のみ恋ひて見ぬはねたしも
 テキストの解説、訳はこちら(ページの下の方)

第3曲のみが同じテキストを何度も繰り返す軽やかな雰囲気の作品で、それ以外は官能的なメロディーがしっとりとかみしめるように歌われます。

「詩と音楽」のサイトに藤井さんの素晴らしい解説がありますので、ぜひそちらもご覧ください。

 こちら

下記の動画は、因幡一宮 宇部神社 拝殿において、田中修一氏がさらに多くの楽器と二人の歌手のために編曲した版が演奏されています。
二人の歌手は万葉集からのテキストを歌いながら、 原曲におけるアルトフルートのメロディーもハミングで歌っています。
風の音も入っていて、荘厳な雰囲気に引き込まれます。

「因幡万葉の歌 五首」作曲*伊福部昭 編作*田中修一

「Omaggio a Akira IFUKUBE」作曲*田中修一
「因幡万葉の歌 五首」作曲*伊福部昭 編作*田中修一
Ten.*種田光洋 Bar.*川西顕
雲鑼*伊福部玲 太鼓*弓田真理子 月琴*甲田潤 阮咸*長尾博子
箏I 箏II 十七絃*鈴木晴梛・溝淵節子・村角貴子
指揮*田中修一
2009年4月20日
因幡一宮 宇部神社 拝殿

※上記リンクを貼らせていただきましたサイトの方々、有難うございます。もし不都合がございましたら、コメント欄にお知らせください。

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