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イェルク・デームス(Jörg Demus)逝く

オーストリア出身のピアニストで、毎年のように来日して日本の聴衆にも親しまれたイェルク・デームス(Jörg Demus)が、2019年4月16日に短い闘病の末ヴィーンで亡くなりました。
1928年12月2日生まれとのことなので、享年90歳でした。

 こちら(オーストリアの記事)

日本の複数のニュースにも掲載されていましたから、それほど日本人にとって知られていたということでしょう。

彼はフリードリヒ・グルダ、パウル・バドゥラ・スコダと共に「ヴィーンの三羽烏」と呼ばれて親しまれていました。

ドイツ系のレパートリーはもちろん、フランス音楽やショパンなども演奏し、その録音がどれほど膨大なのか想像もつかないほどです。
彼は独奏者としてまず著名でしたが、歌曲ファンにとっては、歌曲ピアニストとしてなじみ深い存在でした。
彼の共演した歌手を挙げてみると、有名どころだけでも錚々たる名前が連なります。

エリーザベト・シュヴァルツコプフ(Elisabeth Schwarzkopf)
マリーア・シュターダー(Maria Stader)
エリー・アーメリング(Elly Ameling)
エディト・マティス(Edith Mathis)
ペーター・シュライアー(Peter Schreier)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)
ヘルマン・プライ(Hermann Prey)
ヴォルフガング・ホルツマイア(Wolfgang Holzmair)
小松英典(Hidenori Komatsu)
アンドレアス・シュミット(Andreas Schmidt)
トーマス・E. バウアー(Thomas E. Bauer)
テーオ・アーダム(Theo Adam)

私は幸いにもマティス、アーダム、バウアーのリサイタルで共演したデームスを生で聞くことが出来ましたし、日本人歌手との共演も聞きました。
デームスの独奏も聞きました。
彼の演奏はやはり今いなくなりつつある古き時代の「巨匠」の伝統を受け継いでいるように感じられます。
決して丁寧に真っ当に正統的に演奏するわけではない。
しかし、その響き、タッチ、色彩、リズムにえもいえぬ味わいがある-そういうピアニストだったように思います。

数年前に関西でアーメリング&デームスの両巨匠によるマスタークラスを幸いにも聞けたのですが、その時のデームスさんはお元気でした。
お元気過ぎてかなり癇癪を爆発させたり、アーメリングとも討論したりもしていましたから、周りのお弟子さんやお世話する方たちはなかなか大変だろうなと思いながら聴講していました。

レッスンが終わって、デームスさんのところに行き、写真撮影していいか尋ねると、「どんどん撮りなさい」というようなことをおっしゃってくれました(お弟子さんが会話を助けてくださいました)。
「それだけでいいのか。もっと撮れ」というようなことを、レッスン中の強い口調のままおっしゃるのですが、なぜか怖くは感じませんでした。
怒っているように見えても急に微笑んだりもして、実際はそれほど怒ってはいないのではないかと感じました。
ただ、レッスン中の手拍子や足の踏み鳴らし、大声は、やはり受講生の方には気の毒でしたが・・・。

言葉を交わさせていただいた時の茶目っ気のある対応と言葉、そしてその時に撮らせていただいたアーメリングさんとの写真は忘れられない思い出となりました。

イェルク・デームスさんのご冥福をお祈りいたします。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ 「冬の旅」 から ”おやすみ”(1966年のF-D2度目の来日公演で共演した時の映像)
Schubert: Gute Nacht, D911-1 (Dietrich Fischer-Dieskau(BR))

シューベルト/即興曲D899-3
Jorg Demus - Schubert Impromptu op.90 no.3

シューマン/トロイメライOp.15-7
Jörg Demus plays Schumann Kinderszenen Op.15 - 7. Träumerei

シューマン/月夜Op.39-5(エリー・アーメリング(S))1979年録音
Schumann, Liederkreis, op. 39, #5, Mondnacht, Ameling/Demus

ブラームス/間奏曲Op.117-2
Joerg Demus plays Brahms - Intermezzo op. 117 n. 2

ショパン/幻想即興曲Op.66(韓国(?)でのライヴ映像)

ドビュッシー/月の光(2016年1月2日のライヴ映像)
Claude Debussy "Clair de Lune"

指導者としてのデームス(ショパン/ピアノソナタ第3番Op.58)
Piano Master Class by Jorg Demus

おそらく中国での公開講座と思われます。徐々に声を荒げる場面は、日本でのマスタークラスでも見られました(でもこの動画はまだ優しいほうですね)。受講生は途中から萎縮してしまったようです。しかし、いつかこの日のことが役に立つ日が来ますように。

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コメント

フランツさん、こんばんは。

デムス亡くなったのですね。ニュースで出たとの事ですが、知らずにいました。

写真を撮られた時のエピソード、面白いですね! もっと撮れって 笑 気性の激しいお茶目な方のようですね。

今は技術もあり、上手い演奏家は増えましたが、強烈な個性を持った演奏家は少なくなった気がしますね。
正統でなくてもアクやクセが個性を生んで、その人にしか出せない独特の味わいが、ファンには堪らない魅力なんですよね。
そんな巨匠がまた1人亡くなり、寂しい限りです。
ご冥福をお祈り致します。、

投稿: 真子 | 2019年4月25日 (木曜日) 21時15分

真子さん、こんばんは。

デームスはインターネットの新聞各紙に掲載されていました。紙媒体の新聞に掲載されていたかどうかは分からないのですが。

そうなんです。写真を1枚ぐらいで済ませようとしたら、「もっと撮らんでいいのか?」というような感じで言っていただきました。今となってはいい思い出です。
あのレッスンでの癇癪ももう聞けないと思うとちょっぴり寂しいです。

個性の時代の巨匠がまた一人去ったという感は拭えませんね。おっしゃるように、その人だけの味わいというものが過去の巨匠にはあったんですよね。針音のするSP録音時代の巨匠が今でも聞き継がれているということはそういう魅力が色あせていないということなのでしょうね。

幸い録音や映像の形で後世に残っていくのは救いですね。

投稿: フランツ | 2019年4月27日 (土曜日) 20時17分

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