« アーメリングと共演した2人の指揮者 | トップページ | ヴォルフ/受難週(Karwoche) »

シューベルト「さすらい(Das Wandern)」(「美しい水車屋の娘」より)を聴く

Das Wandern, D 795-1 (aus "Die schöne Müllerin")
 さすらい(「美しい水車屋の娘」D795~第1曲)

Das Wandern ist des Müllers Lust,
Das Wandern!
[Das Wandern ist des Müllers Lust,]
[Das Wandern!]
Das muß ein schlechter Müller sein,
Dem niemals fiel das Wandern ein,
Das Wandern.
[Das Wandern.]
[Das Wandern.]
[Das Wandern.]
 さすらいは粉ひき職人の喜びだ、
 さすらいは!
 さすらいを思いつきもしないやつなんて
 駄目な粉ひき職人にちがいない、
 さすらいを。

Vom Wasser haben wir's gelernt,
Vom Wasser!
[Vom Wasser haben wir's gelernt,]
[Vom Wasser!]
Das hat nicht Rast bei Tag und Nacht,
Ist stets auf Wanderschaft bedacht,
Das Wasser.
[Das Wasser.]
[Das Wasser.]
[Das Wasser.]
 水からぼくらはそれを学んだんだ、
 水から!
 水は昼も夜も休むことなく、
 いつも旅することを考えている、
 水は。

Das sehn wir auch den Rädern ab,
Den Rädern!
[Das sehn wir auch den Rädern ab,]
[Den Rädern!]
Die gar nicht gerne stille stehn,
Die sich mein Tag nicht müde drehn,
Die Räder.
[Die Räder.]
[Die Räder.]
[Die Räder.]
 ぼくらは水車からも見習っている、
 水車からも!
 水車は全く止まろうとしないで、
 疲れることなく毎日回っているんだ、
 水車は。

Die Steine selbst, so schwer sie sind,
Die Steine!
[Die Steine selbst, so schwer sie sind,]
[Die Steine!]
Sie tanzen mit den muntern Reihn
Und wollen gar noch schneller sein,
Die Steine.
[Die Steine.]
[Die Steine.]
[Die Steine.]
 石臼からさえも見習うんだ、あんなに重いのに、
 石臼からも!
 石臼は元気に輪舞を踊り、
 徐々に速く進もうとさえする、
 石臼は。

O Wandern, Wandern, meine Lust,
O Wandern!
[O Wandern, Wandern, meine Lust,]
[O Wandern!]
Herr Meister und Frau Meisterin,
Laßt mich in Frieden weiterziehn
Und wandern.
[Und wandern.]
[Und wandern.]
[Und wandern.]
 おお、さすらい、さすらい、ぼくの喜び、
 おお、さすらいよ!
 親方様、奥様、
 安心してぼくを行かせてください、
 さすらいの旅に。

詩:Wilhelm Müller (1794-1827)
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828)

------------

シューベルトの20曲からなる歌曲集「美しい水車屋の娘」D795の冒頭の曲を聴き比べようと思います。
水車屋の修行の旅に出かけた青年が、ある水車屋で美しい娘に出会い、デートまでこぎつけるのですが、恋敵の狩人に奪われ、失意のうちに入水自殺するという切ない内容になっています。
オリジナルにはプロローグとエピローグがあり、さらにシューベルトが作曲しなかったテキストもいくつかあります。
それらを完全収録したのが、Hyperionのシューベルト歌曲全集のボストリッジ&グレアム・ジョンソンのCDで、作曲されなかった詩の朗読をあのフィッシャー=ディースカウが担当しています。
興味のある方はそちらもチェックしてみてはいかがでしょうか。

この第1曲「さすらい」の詩人ミュラーによる原題は"Wanderschaft(さすらい、旅などの意味)"だそうです。
全5節からなる有節歌曲で、民謡調の響きがテキストの趣を反映していると思います。
ジェラルド・ムーアが各節を描き分けることを提唱して以来、ピアノパートはムーアの演奏が手本になっている感があります。
下記のいくつかの録音でそれを確認できますが、一方で独自の解釈を聞かせるピアニストもいます。しかし、もちろんムーアを意識していることは確かと思われます。
この曲は高声によって魅力を放つと言われ、かのハンス・ホッターも全曲歌おうかと思ったが諦めたと語っています(「どこへ」など単独ではホッターも録音しています)。
女声ではロッテ・レーマンやブリギッテ・ファスベンダーなどの例はありますが、ほとんど歌われません。
「冬の旅」を多くの女声が挑戦するのとはやはり違うのでしょうね。

詩の朗読(Johannes Held)

フリッツ・ヴンダーリヒ(T) & フーベルト・ギーセン(P)
Fritz Wunderlich(T) & Hubert Giesen(P)

ヴンダーリヒのみずみずしい美声は比類ない独自のものでした。この歌曲集の持ち味とこれほどぴったりはまる歌い手もそうは多くないでしょう。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)

1961年12月のEMI録音。速めのテンポで快適に進むディースカウとムーアの爽快な演奏が素晴らしいです。私はこのコンビの3種の中ではこの録音が一番好きです。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)

1971年のDG録音。2人とも円熟期の余裕があり、かなり節ごとに表情を変えているのが興味深いです。

ヘルマン・プライ(BR) & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Leonard Hokanson(P)

1980年代初頭の映像作品。プライはドイツ語のごつごつした響きをリズミカルに表現する一方で、各節の締めは柔らかい表情を聞かせて、まさに1曲で多彩な表現を聞かせています。ホカンソンも温かみのある演奏です。

オーラフ・ベーア(BR) & ジェフリー・パーソンズ(P)
Olaf Bär(BR) & Geoffrey Parsons(P)

ベーアが彗星のごとく現れて知られるようになった録音です。若々しくみずみずしいハイバリトンがなんとも魅力的です。そしてパーソンズのかっちりした見事なピアノにいつもながら聞きほれてしまいます。

ピーター・ピアーズ(T) & ベンジャミン・ブリテン(P)
Peter Pears(T) & Benjamin Britten(P)

演奏の映像です。公私ともに良きパートナーだったピアーズ&ブリテンの貴重な記録です。ピアーズは生き生きと明瞭に歌い、ブリテンはノンレガートを貫きながらもペダルを時に使って表情を描き分けています。

クリスティアン・ゲルハーエル(BR) & ゲロルト・フーバー(P)
Christian Gerhaher(BR) & Gerold Huber(P)

2003年録音。まだ彼らが無名に近かった頃の録音。ゲルハーエルのハイバリトンの美声は魅力的で将来の大成を予感させます。フーバーも細かく表情を描いています。

フローリアン・ベッシュ(BR) & マルコム・マーティノー(P)
Florian Boesch(BR) & Malcom Martineau(P)

2013年録音。ベッシュの声は柔らかくて、押しつけがましくないです。マーティノーも控えめですが、ノンレガート主体で演奏し表情はこまやかです。

ヨナス・カウフマン(T) & ヘルムート・ドイチュ(P)
Jonas Kaufmann(T) & Helmut Deutsch(P)

2018年1月20日, Carnegie Hall録音。演奏の映像を見ることが出来ます。暗めの声質をもったテノールのカウフマンですが、歌声の表情は明朗そのものです。ドイチュもノンレガート主体で、第4節も特に石臼の重みを強調していないところに彼の主張が感じられます。

イアン・ボストリッジ(T) & 内田光子(P)
Ian Bostridge(T) & Mitsuko Uchida(P)

2004年3月サントリーホールでの映像。全曲の録画なので、第1曲のみを聴く場合は3:00あたりで動画を止めてください。ボストリッジの美声とシューベルティアン、内田の絶妙な演奏。魅力的です。

フランシスコ・アライサ(T) & アーウィン・ゲイジ(P)
Francisco Araiza(T) & Irwin Gage(P)

1980年代はFMラジオでアライサのライヴが沢山放送されました。アライサはドイツ人のようには演奏しないと言い切っていました。確かにラテンの熱い美声なのですが、土台がしっかりしているせいか違和感はありません。ゲイジはとてもゆっくりめのテンポですが、丁寧な演奏です。

クリストフ・プレガルディアン(T) & ミヒャエル・ゲース(P)
Christoph Prégardien(T) & Michael Gees(P)

演奏の映像です。プレガルディアンは歌声部に時折装飾を加えているのが興味深いです。ゲースのペダリングとタッチは個性的ながら魅了されます。

ペーター・シュライアー(T) & コンラート・ラゴスニク(Guitar)
Peter Schreier(T) & Konrad Ragossnig(Guitar)

シュライアーは1980年にハンマークラヴィーア版、ギター版、シューベルトの親友フォーグルによる変更を反映した楽譜によるピアノ版、といった3種類の水車屋を録音しました。このギターとの共演では、起伏を抑えて、しっとりと美しいメロディーを歌っています。

フランツ・リストによるピアノ独奏編曲版の演奏(Franz Liszt - Müllerlieder von Franz Schubert, G 350/1, S. 565 (1846))
セルゲイ・ラフマニノフ(P)
Sergei Rachmaninoff(P)

1925年4月14日録音。リスト編曲の独奏版を、あの大作曲家で大ピアニストのラフマニノフが演奏しています。ラフマニノフは美しい歌曲を多く作曲していることでも知られていますね。

|

« アーメリングと共演した2人の指揮者 | トップページ | ヴォルフ/受難週(Karwoche) »

音楽」カテゴリの記事

」カテゴリの記事

シューベルト」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« アーメリングと共演した2人の指揮者 | トップページ | ヴォルフ/受難週(Karwoche) »