シューベルト「愛のことづて(Liebesbotschaft, D 957-1)」を聴く
Liebesbotschaft, D 957-1
愛のことづて
Rauschendes Bächlein,
So silbern und hell,
Eilst zur Geliebten
So munter und schnell?
Ach, trautes Bächlein,
Mein Bote sei Du;
Bringe die Grüße
Des Fernen ihr zu.
さらさら流れる
銀色の明るい小川よ、
恋人のもとに急いでいるのか、
そんなに元気よく速く流れて?
ああ、いとしい小川よ、
ぼくの使者になって、
はるか離れた者からの挨拶を
彼女に届けておくれ。
All' ihre Blumen
Im Garten gepflegt,
Die sie so lieblich
Am Busen trägt,
Und ihre Rosen
In purpurner Glut,
Bächlein, erquicke
Mit kühlender Flut.
庭で手入れをしていた
彼女の花々をみな
こんなにも愛らしく彼女は
胸に飾っている、
そして彼女の薔薇は
深紅に燃えている。
小川よ、
冷たい水で爽快にさせてあげておくれ。
Wenn sie am Ufer,
In Träume versenkt,
Meiner gedenkend
Das Köpfchen hängt;
Tröste die Süße
Mit freundlichem Blick,
Denn der Geliebte
Kehrt bald zurück.
彼女が岸辺で
夢に沈みこみ
ぼくのことを思って
ふさぎこんでいたら
このかわいい子を
やさしい眼差しで慰めておくれ。
なぜならあの子の好きな人は
もうすぐ帰ってくるのだから。
Neigt sich die Sonne
Mit rötlichem Schein,
Wiege das Liebchen
In Schlummer ein.
Rausche sie murmelnd
In süße Ruh,
Flüstre ihr Träume
Der Liebe zu.
太陽が
赤く輝きながら傾いていくとき、
恋人を
ゆすって眠らせておくれ。
せせらぎの音で
甘い憩いにつかせておくれ。
彼女に
愛の夢をささやいておくれ。
詩:Ludwig Rellstab (1799-1860)
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828)
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歌曲集「白鳥の歌」の第1番目に置かれた歌曲が「愛のことづて(愛の便り)」です。
この歌曲集は最初の7曲がレルシュタープの詩、次の6曲がハイネの詩、そして最後の1曲がザイドルに詩による歌曲集です。
これらを「白鳥の歌」としてまとめたのは、シューベルトの意思ではなく、出版者ハスリンガーによるものです。
シューベルトの亡くなる年である1828年に作られました。
さらさら流れる小川に遠く離れた恋人への言伝を頼むというなんともロマンティックな内容のテキストに、シューベルトらしい爽やかな音楽が付けられています。亡くなる年の作品とは思えないほど明るく若々しい息吹に満ちた美しい作品です。
最初の節と最終節は詩行とピアノのみの箇所が交互に現れ、詩人と小川が対話をしているような効果をあげています。
詩の朗読(Susanna Proskura)
詩の朗読を聞くと、脚韻なども音として感じることが出来るのではないでしょうか。
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)
F=ディースカウのテノラールな美声とムーアの安心感のあるピアノで、大好きな録音です。
ハンス・ホッター(BSBR) & ジェラルド・ムーア(P)
Hans Hotter(BSBR) & Gerald Moore(P)
1954年5月28-30日, London録音。ホッターの深く温かい声がとても魅力的です。低く移調してもせせらぎを見事に表現したムーアが素晴らしいです。
ヘルマン・プライ(BR) & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Leonard Hokanson(P)
1980年代の円熟期の含蓄に富んだプライの映像を味わえます。ホカンソンも温かい演奏です。
ナタリー・ストゥッツマン(CA), インゲル・セーデルグレン(P)
Nathalie Stutzmann(CA), Inger Södergren(P)
2006年東京録画。落ち着いたストゥッツマンのコントラルトの声が心地よい響きを聞かせています。
マティアス・ゲルネ(BR) & クリストフ・エッシェンバハ(P)
Matthias Goerne(BR) & Christoph Eschenbach(P)
2012年録音。落ち着いたふかふかのカーペットのようなゲルネの声に包まれるのもいいです。
松原友(T) & 小林道夫(P)
Tomo Matsubara(T) & Michio Kobayashi(P)
日本の歌曲伴奏の巨匠といってもいい小林道夫氏が演奏している姿を見られます。無駄のないスタイリッシュな演奏が相変わらず素晴らしいです。松原さんの歌もさわやかです。
ピアノパートのみ(Anna Cardona(P))
ピアノ伴奏のみです(良い演奏です)。楽譜が一緒に流れるので、動画を見ながら歌えます。
リスト編曲のピアノ独奏版(ヴラジーミル・ホロヴィッツ(Vladimir Horowitz)(P))
1929年録音。あのホロヴィッツが、リストの歌曲編曲版を弾いています。
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コメント
フランツさん、こんにちは。
待っていました!聴き比べ♪
この曲を聴くと、プライさんのファンになりたてで、1963年の録音を見つけて大喜びで何度も何度も聞いたことを思い出します。
「美しい水車小屋の娘」(1971年テレフンケン盤)「冬の旅」(1971年フリップス盤)についで3枚めのCDでした。
さて、ディースカウさん、テノーラルですね。若い頃でしょうか。軽やかに川が流れていく光景が目に浮かびます。
ホッターの柔く深い声に癒されます。
歌詞を見なければ父親が遠く離れた娘に歌いかけているような歌にも聞こえます。
プライさんのこの録音は、再生させる機器もないのに、その昔レーザーディスクを買いました(笑)
コーラスの先輩が機会を持っていると聞き、厚かましくも頼み込んでダビングしてもらいました(^^;
確か1984年のものだったと思いますので、55歳の時ですね。
深みを増しながらも、やはり彼の歌からは「憧れ」
を感じます。
コントラルトで聴くリートもいいですね。
ホッターが父ならば、ストゥッツマンは母でしょうか。息子が彼女を慕う気持ちを「わかってやっておくれ」と言っている母のような。
こうして聞いているとリートにおいても、声の持つキャラクターというものはあるんだなあと思います。
ゲルネはゆったりと流れる川ですね。
穏やかな愛を小川に託しているゲルネも素敵です。
ふかふかのカーペットとは絶妙な表現ですね(*^^*)
ゲルネからのテノールの松原さんの声で、ああこれは若者の歌だったんだなあ、と。
春の草原の横に流れている小川が浮かんできました。
一旦ここで送信しますね。
続きはまた後ほどm(__)m
投稿: 真子 | 2019年1月21日 (月曜日) 12時22分
真子さん、こんにちは。
丁寧に聞いていただき、コメントを有難うございます!
真子さんとこの曲との出会いは63年のクリーン伴奏盤プライだったのですね。
あの録音はプライの全録音の中でも記念碑的な情熱的録音でしたね。
ディースカウはハイバリトンの美声が、この曲のキャラクターによく合っていますね。おそらく70年代前半の歌曲全集の一環として録音された音源だと思います。
ホッターの低く包容力のある声は確かに父親っぽさがありますね。年の差カップルの趣でしょうか。
プライの映像はLDで購入されたのですか!LDの再生機器を持っていなかった私は指をくわえて我慢するのみでしたが、さすが真子さんは行動的ですね。後にDVDで国内盤が出た時にようやく見ることが出来ました。80年代の円熟期のプライの血肉となった歌は聞き応えがありますね。永遠の青年というような見方をされていただけあってSehnsucht(憧れ)は彼の歌に常に込められているのかもしれませんね。
ストゥッツマンの声は耳で聞くだけだと中性的で、男女の垣根を超えたように感じられますが、映像で視覚を通して見ると女性の母性的なものが出ているように感じられます。
ゲルネのゆったりと落ち着いた歌、松原氏の若々しいテノールの歌と、いろいろな「愛のことづて」があるものだなぁと思いました。
真子さんの演奏から感じられたイメージも楽しく拝見しました。
素敵なコメント、感謝しています(^^)
投稿: フランツ | 2019年1月23日 (水曜日) 07時46分