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ジェラール・スゼー(Gérard Souzay)生誕100年~フランス歌曲12選

フランスの名バリトン歌手ジェラール・スゼー(Gérard Souzay, 1918年12月8日 – 2004年8月17日)が今年で生誕100年を迎えました(ちなみに、スゼーの生まれた年はドビュッシーの没年でもあり、つまり、ドビュッシーは没後100年にあたるわけです)。
パンゼラ、モラーヌ、ベルナックらの跡を継いだスゼーは膨大なフランス歌曲のアンソロジーを録音しました。
ドイツ歌曲に比べると、歌われたり聞かれたりすることの少ないフランス歌曲の復興にスゼーが遺した業績は膨大だと思います。
彼のビロードの美声は、往年のソプラノ歌手、ロッテ・レーマンを虜にし、「スゼーを聞くためならば世界のどこへでも行きたい」と言わしめたほどです。
EMIレーベルの体系的なフランス歌曲全集にも参加し、フォレ、ドビュッシー、ラヴェル、プランクの歌曲を歌ったほか、より若い時期にはPHILIPSレーベルに続々と作曲家ごとの録音を残しました。

彼はフランス歌曲だけでなく、ドイツ歌曲も得意とし、おそらくフィフティ・フィフティの割合だったのではないかと想像します。
以前自動車のCMのBGMとして、彼の「美しい水車屋の娘」の一節が流れたことがありますが、彼の爽やかな美声が疾走感を与えていたのを覚えています。

私がはじめてスゼーのLPレコードを買ったのが、シューベルトの「冬の旅」とシューベルト歌曲集で、PHILIPSレーベルの派生レーベルから安価で販売されていたものでした。
つまり、スゼーの最初の体験はドイツ歌曲だったわけですが、それだけ彼のドイツ歌曲は市場に浸透していたということなのでしょう。
彼の実演はただ一度、今は公には使われなくなってしまった津田ホールでの80年代のリサイタルを聴けました。
ピアノ共演はもちろんドルトン・ボールドウィンで、独仏の歌曲がプログラミングされていました。
当時の彼はすでに全盛期の声ではありませんでしたが、とても味わいのあるいいリサイタルでした。
別の年だったと思いますが、来日公演がFM東京で放送され、雑音がザーザー入りながらもエアチェックしたものでした。
当時学校の音楽の授業でブラームスの「日曜日」を全員歌わされたことがあるのですが、なぜか私が伴奏者の一人となり、このエアチェックのボールドウィンの演奏を聞きながら練習したのもよい思い出です。

そんな思い出深いスゼーの生誕100年を記念して、せっかくなのでフランス歌曲だけで12の録音を選んでみました(最初は10選の予定だったのですが、収まりませんでした)。
とりわけ彼の弱声は絶品だと思います。
この機会にぜひスゼーのフランス歌曲を堪能してみてはいかがでしょうか。
ちなみに下の録音はすべてボールドウィンがピアノを弾いています。

●グノー(1818-1893)「いない人」
Charles Gounod: L'absent

Gérard Souzay(BR), Dalton Baldwin(P), 1963

●ビゼー(1838-1875)「四月の歌」
Georges Bizet: Chanson d'avril

Gérard Souzay(BR), Dalton Baldwin(P), 1963

●シャブリエ(1841-1894):蝉
Emmanuel Chabrier: Les cigales

Gérard Souzay(BR), Dalton Baldwin(P), 1963

●フォレ(フォーレ)(1845-1924)「月の光」
Gabriel Fauré: Claire de lune, Op. 46-2

Gérard Souzay(BR), Dalton Baldwin(P)

●フォレ「ゆりかご」
Gabriel Fauré: Les berceaux, Op. 23-1

Gérard Souzay(BR), Dalton Baldwin(P), 1960

●デュパルク(1848-1933)「旅への誘い」(映像)
Henri Duparc: Invitation au voyage

Gérard Souzay(BR), Dalton Baldwin(P), 1960's

●デュパルク「溜息」
Henri Duparc: Soupir

Gérard Souzay(BR), Dalton Baldwin(P), 1962

●ドビュッシー(1862-1918)「艶なる宴 第1集」(ひそやかに/操り人形/月の光)
Claude Debussy: Fêtes galantes: Premier recueil L. 80 (En sourdine / Fantoches / Clair de lune)

Gérard Souzay(BR), Dalton Baldwin(P)

●ルッセル(ルーセル)(1869-1937)「サラマンカの学生」
Albert Roussel: Le bachelier de Salamanque

Gérard Souzay(BR), Dalton Baldwin(P), 1962

●レナルド・アンヌ(アーン)(1874-1947):恍惚の時
Reynaldo Hahn: L'heure exquise

Gérard Souzay(BR), Dalton Baldwin(P), 1963

●ラヴェル(1875-1937)「5つのギリシャ民謡」(花嫁の目覚め/向こうの教会へ/私と較べられる伊達者は誰?/乳香樹を摘む女たちの歌/何と楽しい)
Maurice Ravel: Cinq mélodies populaires grecques (Chanson de la mariée / Là-bas, vers l'église / Quel galant m'est comparable / Chanson des cueilleuses de lentisques / Tout gai!)

Gérard Souzay(BR), Dalton Baldwin(P), 1968

●プランク(プーランク)(1899-1963)「祭りに出かける若者たち」(『村人たちの歌』より)
Francis Poulenc: Les gars qui vont à la fête ("Chansons villageoises")

Gérard Souzay(BR), Dalton Baldwin(P), Edinborough Festival, September 3, 1967

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コメント

フランツさん、こんばんは。

スゼーは温厚な人だったのでしょうか。
お顔や歌いぶりから、真摯で紳士な雰囲気が出てますよね。
スゼーのPPは、まるで羽毛のようです。
少しずつ聞かせていただきますね♪

それにしても、はや生誕100年ですか。
こういう素晴らしい遺産は、ぜひとも後世にきちんと残して欲しいと思います。

>当時学校の音楽の授業でブラームスの「日曜日」を全員歌わされたことがあるのですが、なぜか私が伴奏者の一人となり、このエアチェックのボールドウィンの演奏を聞きながら練習したのもよい思い出です。
リートがお好きな先生だったのでしょうか。
伴奏されたお話は、以前にもお聞きしましたが、歌のみならずピアノへの深い造詣も、そういうご経験から来ているのだなあと思いながら、いつも記事を拝見しています。

スゼーーの声は本当に心地いいですね。
フランス歌曲は、どいつりーとほで聞いてはいませんが、漂う空気が少し艶かしくて素敵ですね。

投稿: 真子 | 2018年11月 2日 (金曜日) 19時15分

真子さん、こんばんは。

スゼーと親交の深かった家里さんの書籍を読んだことがあるのですが、とても紳士的な方だったようです。音楽に常に真摯に向き合う姿勢は、多くの録音からも感じられます。
絵の腕前も玄人はだしで、クレーがヴァイオリンを弾いたり、F=ディースカウが油絵を描いたように、音楽と美術の両才能を持っていたようです。

スゼーの録音はそこそこCD化されているようですが、日本で三浦洋一さんと録音したブラームス歌曲集や、ボールドウィン他と録音したプーランクの「仮面舞踏会」はまだ埋もれたままなので、CD復刻を期待したいところです。

>リートがお好きな先生だったのでしょうか。

歌のうまかった高校の音楽の先生でした。
授業で、教科書に載っていたドイツリートの勉強の締めくくりとしてだったと思いますが、突然ブラームスの「日曜日」を一人ずつ歌ってもらうと言われました。伴奏者はピアノを習っている人に各自頼むようにということで、私も何人かと共演することとなりました。
ドイツ語で歌う場合は1番だけ、日本語の歌詞で歌う場合は2番までということでしたが、私はどちらで歌ったのかはっきり覚えていません。でも伴奏のほうは、ピアノを習いたての私がうまく弾けたはずがなく、とりあえずミスをしないように弾くことで精一杯だったように思います。
しかし、以前にもお話したかもしれませんが、この音楽の先生が、地元のバッハのカンタータのアマチュア演奏会に誘ってくださり、有名な第147番の合唱を舞台で歌うことが出来たのは今思うととても貴重な体験だったなぁと思います。私が音楽好きだったことをどういう経緯だったか覚えていませんが、知っていたようです。

>スゼーの声は本当に心地いいですね。フランス歌曲は、...漂う空気が少し艶かしくて素敵ですね。

スゼーの声は本当に癒しですね。本格的な歌唱でありながら、聴く者の心に自然と染みわたっていきます。
ぜひこちらの動画もゆったりと聞いてみてくださいね。
フランス歌曲は艶めかしいというのも全く同感です。ちょっとアンニュイな響きだったり、お洒落だったり、ドイツリートとはだいぶ異なりますね。
とはいえ、グノーやビゼー、ベルリオーズらの歌曲はメロディーと呼ばれる前のロマンスにあたり、素朴な旋律が心地よいです。

投稿: フランツ | 2018年11月 3日 (土曜日) 19時17分

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