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マーラー「高遠なる知性の賛美(Lob des hohen Verstandes)」を聴く

Lob des hohen Verstandes
 高遠なる知性の賛美

Einstmals in einem tiefen Tal
Kukuk und Nachtigall
Täten ein Wett' anschlagen:
Zu singen um das Meisterstück,
Gewinn' es Kunst, gewinn' es Glück:
Dank soll er davon tragen.
 昔、ある深い谷で
 かっこうとナイチンゲールが
 見事な作品を歌うための
 競技を企てた。 
 芸と幸運を手に入れたら
 感謝してもらおう。

Der Kukuk sprach: "So dir's gefällt,
Hab' ich den Richter wählt",
Und tät gleich den Esel ernennen.
"Denn weil er hat zwei Ohren groß, [Ohren groß, Ohren groß,]
So kann er hören desto bos
Und, was recht ist, kennen!"
 かっこうは言った「きみさえ良ければ
 ぼくが審査員を選んでおいたよ」
 そしてすぐにロバを指名した。
 「だってロバは二つの大きな耳があるから
 悪いところがいっそう聞こえるだろうし、
 正しいことを知っているだろうからね!」

Sie flogen vor den Richter bald.
Wie dem die Sache ward erzählt,
Schuf er, sie sollten singen.
Die Nachtigall sang lieblich aus!
Der Esel sprach: "Du machst mir's kraus! [Du machst mir's kraus! Ija! Ija!]
Ich kann's in Kopf nicht bringen!"
 彼らはすぐに審査員の前まで飛んで行った。
 事の次第を聞かされたロバは
 二羽に歌うように告げた。
 ナイチンゲールは愛らしく歌った。
 ロバは言った「きみの歌はわけが分からんよ![イーヤー!]
 頭の中に入ってこない!」

Der Kukuk drauf fing an geschwind
Sein Sang durch Terz und Quart und Quint.
Dem Esel g'fiels, er sprach nur "Wart! [Wart! Wart!]
Dein Urteil will ich sprechen[, ja sprechen].
 続いてかっこうが急いで歌い始めた、
 三度と四度と五度音程の歌を。
 ロバは気に入り、こう言った「待て!
 判定を言い渡そう。

Wohl sungen hast du, Nachtigall!
Aber Kukuk, singst gut Choral! [gut Choral!]
Und hältst den Takt fein innen! [fein innen!]
Das sprech' ich nach mein' hoh'n Verstand! [hoh'n Verstand! hoh'n Verstand!]
Und kost' es gleich ein ganzes Land,
So laß ich's dich gewinnen! [gewinnen!]"
[Kukuk! Kukuk! Ija!]
 きみもよく歌ったよ、ナイチンゲール!
 だがかっこうよ、きみはコラールを上手に歌ったな!
 拍の中にうまく収まっておったぞ!
 わが高遠なる知性にかけて申す!
 きみの歌はまるごと一国に値する、
 よってきみの勝ちとする!」
 [カッコー!カッコー!イーヤー!]

詩:Achim von Arnim (1781-1831) und Clemens Brentano (1778-1842) aus "Des Knaben Wunderhorn"
曲:Gustav Mahler (1860-1911)

※今回の訳詞を作成するにあたって、かなり迷った箇所もありましたので、あくまで参考程度にご覧ください。
第2節第5行の"bos"は、私の見た範囲ではどの辞書にも載っておらず、"böse(悪い)"のことと想像しました。
おそらくオリジナル詩集の注を見れば何らかのヒントが載っているのかもしれませんが、もし分かりましたら反映したいと思います。

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オリジナルのタイトルは"Wettstreit des Kukuks mit der Nachtigal(かっこうとナイチンゲールの競い合い)"

オリジナルのテキストは下記のリンク先をご覧ください。
 こちら

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先日の記事で、ロバの登場するヴォルフの歌曲をご紹介しましたが、今回はそのマーラー編です。
マーラーがアルニム&ブレンターノの編纂した「子供の魔法の角笛(Des Knaben Wunderhorn)」の中の詩に手を加えて歌曲集を作りました。
その中の1つが、「高遠なる知性の賛美(Lob des hohen Verstandes)」です。

歌自慢のかっこうとナイチンゲールが、歌を競い合おうということになり、審査員に耳の大きなロバを指名します。
ロバは審査員を引き受けましたが、ナイチンゲールの歌は難しすぎて理解できませんでした。
そこでかっこうに歌ってもらうと、例の「カッコー」という音程の単純な下降がロバの耳には分かりやすく、かっこうを勝者にします。
その理由が「拍の中にうまく収まっておった」からで、ロバにも理解できたということなのでしょう。
ロバは「わが高遠なる知性にかけて(nach mein' hoh'n Verstand)」判定の正しさを主張します。
その歌声は一国まるまるの価値があるとまで言い放ちます。
これらの鳥や動物を通じて、耳に馴染みやすいものを評価し、斬新な響きには聞く耳を持たないという批評家、聴衆たちを皮肉っていることは明白でしょう。

マーラーがこの詩を音楽にする際に、一見コミカルな響きの中に、強烈な音楽業界への皮肉を込めているのがはっきりと感じられます。
ナイチンゲールの歌う場面でマーラーが用いた音楽は、シューベルトのピアノソナタ第18番ト長調D894「幻想」の第4楽章を思い起こさせます。
(参考文献:こちら

歌声に時折トリルを加えたり、ロバの鳴き声を極端に広い音程で表現したり、グロテスクな表情はいたるところに散りばめられています。
この曲にはオーケストラ版とピアノ版の両方がありますが、最初にピアノ版で聞いて想像をふくらませた後に、オーケストラ版を聞くと、より鮮明に動物たちの響きが聞こえてくると思います。

ここでもロバは結局、頭の固い無知な者という位置づけがされていますが、あくまで象徴として使われているだけであって、実際のロバがどうなのかということはまた別問題だと思います。
それぞれの名演を楽しんでください。

かっこう(der Kuckuck)の鳴き声

ナイチンゲール(die Nachtigall)の鳴き声

ロバ(der Esel)の鳴き声

詩の朗読(Susanna Proskura)

Christa Ludwig(MS), Gerald Moore(P)
クリスタ・ルートヴィヒ(MS), ジェラルド・ムーア(P)

1957年録音。ルートヴィヒの語り口の鮮やかなことといったら!雄弁なムーアのピアノと共に表情が見事です。

Anne Sofie von Otter(MS), Ralf Gothoni(P)
アンネ・ソフィー・フォン・オッター(MS), ラルフ・ゴトーニ(P)

1989年録音。彼女のディクションの上手さが見事に生かされています。ゴトーニは「ナイチンゲール」の響きが特に美しかったです。

Thomas Hampson(BR), Geoffrey Parsons(P)
トマス・ハンプソン(BR), ジェフリー・パーソンズ(P)

マーラーを得意とするハンプソンの余裕をもった歌唱とロバのいななきが聴きどころです。パーソンズはいつも同様うまいです。

Elisabeth Schwarzkopf(S), The London Symphony Orchestra, George Szell(C)
エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S), ロンドン交響楽団, ジョージ・セル(C)

1968年録音。シュヴァルツコプフのユーモラスな側面を聴くことが出来ます。

Brigitte Fassbaender(MS), Rundfunk-Sinfonieorchester Saarbrücken, Hans Zender(C)
ブリギッテ・ファスベンダー(MS), ザールブリュッケン放送交響楽団, ハンス・ツェンダー(C)

1979年4月録音。ファスベンダーの歌っている姿が見られます。彼女も声色のパレットの豊富な歌手でした。そのパレットを存分に発揮しています。

【参考】シューベルト: ピアノソナタ第18番ト長調D894「幻想」の第4楽章(スヴャトスラフ・リヒテル(Sviatoslav Richter)の1977年の演奏)

0:24-0:26等の音型(その後も何度か出てきます)が、マーラーのこの歌曲のナイチンゲールの響きに取り入れられていると考えられます。

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