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D.フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)&カローラ・タイル(Karola Theill)/R.シュトラウス「商人の鑑」より3曲(1990年、ベルリン)

往年の名バリトン、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)は、生涯に150人以上ものピアニストと共演したといいます。
その共演者リストを作成しようと調べていたのですが、1990年3月18日、ベルリンのフィルハーモニー(Philharmonie, Berlin)で、フィッシャー=ディースカウがR.シュトラウスの「商人の鑑(Krämerspiegel op. 66)」を歌ったという記録があります。
その時の共演ピアニストがカローラ・タイル(Karola Theill)という女性です。
このピアニストと共演していたことはおろか、カローラ・タイルというピアニストについて全く知らなかったので、演奏活動晩年のF=ディースカウが新たなピアニストと共演していたという事実に驚かされました。

幸いなことに、この時のライヴと思われる3曲がカローラ・タイルのWebサイトで聞けます。
 こちら

上記のサイトの一番下にあります。
聞きたい曲の行をクリックすると再生されます。
聞き終わったら右上の×印をクリックすると再生プレーヤーが消え、別の曲をあらたに聞くことが出来ます。

Richard Strauss: Krämerspiegel(「商人の鑑」), Op. 66より3曲

Nr. 6: O lieber Künstler sei ermahnt(おおいとしい芸術家よ、戒めを聞くように)
Nr. 7: Unser Feind ist, großer Gott, wie der Brite so der Schott(我々の敵は、偉大なる神よ、あのイギリス人同様、あのスコットランド人(ショット)である)
Nr. 10: Die Künstler sind die Schöpfer(芸術家は創造者である)

第7曲と第10曲は全曲聴けるのですが、第6曲のみピアノ間奏の後で切れてしまっています。
おそらく意図的なものではなく、うっかり終わったと思って演奏音源を切ってしまったのではないかと推測されます。

彼女はぱっと見たところ、F=ディースカウより随分年の離れた若いピアニストのようです。
きっとこれから活躍をして、名前を知られるようになるのでしょう。
この演奏を聴く限りでは清潔感がありつつ、雄弁さと細やかさを併せもっているように感じられました。

年齢を重ねたF=ディースカウが、ハルトムート・ヘルやカローラ・タイルのような年齢の離れたピアニストと共演することで、演奏に若さを吹き込もうとしたのではないかと思います。

よろしければ、上記の3曲を聞いてみて下さい。

【参考のWebサイト】
http://www.mwolf.de/kalendarium/1990.htm

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エリー・アーメリング(Elly Ameling)のラジオ・シリーズ全4回スタート(2018年9月23日,10月14日,10月28日,11月11日, Concertzender)

オランダのラジオ局"Concertzender"の"Thou singest ye carol"という番組のゲストにソプラノのエリー・アーメリング(Elly Ameling)が出演することが分かりました。
全4回のシリーズで、番組の進行役はEvert Jan Nagtegaalという人です。
オランダ語での会話になると思われますが、固有名詞などを頼りに雰囲気を楽しんでみるのもいいのではないかと思います。

 ソース(英語)

 ソース(オランダ語)

 ラジオを聴くにはこちら(英語)

 ラジオを聴くにはこちら(オランダ語)

「ラジオを聴くにはこちら」のリンク先の上にある"Listen Live"または"Luister Live"をクリックするとプレイヤーが表示されて聞けます。

日程は以下の通りです。

2018年9月23日(日)日本時間19:00-20:00(現地時間12:00-13:00)
2018年10月14日(日)日本時間19:00-20:00(現地時間12:00-13:00)
2018年10月28日(日)日本時間20:00-21:00(現地時間12:00-13:00)
2018年11月11日(日)日本時間20:00-21:00(現地時間12:00-13:00)

彼女のキャリアやレコーディングについて語られるようです。
彼女の最初期の録音や、シューベルトの同じ曲を10年間隔で録音したものの聴き比べもあるようで、今から楽しみです。
この記事を投稿した1時間後には第1回がスタートしますが、放送後も聞けるようですので、ご安心ください(下記のリンク先の三角マークをクリックすると聞けます。その後の日程分については、分かってから追記しますね)。

 2018/9/23の放送を聞くにはこちら

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●2018年9月23日(日)の放送

アーメリングさん、まだまだお元気な声を聞かせてくれました。以下に曲目を記載しておきます。

モーツァルト/クローエに(An Chloe, K. 524)
(エリー・アーメリングの弾き語り)

グノー/歌劇「ファウスト(Faust)」より~宝石の歌(Air des bijoux)
(コンセルトヘバウ管弦楽団(Koninklijk Concertgebouworkest), ベルナルト・ハイティンク(Bernard Haitink)(C))

バッハ/ヨハネ受難曲(Johannes-Passion, BWV245)より~流れよ、わが心よ(Zerfließe mein Herze)
(コンソルティウム・ムシクム(Consortium Musicum), ヴォルフガング・ゲネンヴァイン(Wolfgang Gönnenwein)(C))

ブラームス/あの下の谷底には(Da unten die Tale)
(ヘルマン・ウールホルン(Herman Uhlhorn)(P))

シューベルト/水の上で歌う(Auf dem Wasser zu singen, D774)~抜粋
(アーウィン・ゲイジ(Irwin Gage)(P))

シューベルト/水の上で歌う(Auf dem Wasser zu singen, D774)
(ルドルフ・ヤンセン(Rudolf Jansen)(P))

シューベルト/春の小川のほとりで(Am Bach im Frühling, D361)
(ルドルフ・ヤンセン(Rudolf Jansen)(P))

ジロー(Hubert Giraud)/パリの空の下(Sous le ciel de Paris)
(ルイ・ファン・デイク(Louis van Dijk)(P))

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フリッツ・ヴンダーリヒ(Fritz Wunderlich)、ドイツ・リートを歌う 1955~1965年 (CD)

Wunderlich_19551965_swr

早世した往年の名テノール、フリッツ・ヴンダーリヒ(Fritz Wunderlich)がSWR放送曲に録音した歌曲を集めた3枚組のCDが発売されるようです。
HMVの情報で2018年10月16日発売とのことで、まだamazonにも掲載されていないので、少し先なのですが、3枚たっぷりヴンダーリヒのドイツ・リートを聞けるというのは嬉しいです。

 こちら

詳細は上記のサイトにありますが、簡単に記しておきます。

●CD1

1955年11月録音:ブラームス民謡集&ヴォルフ「イタリア歌曲集」より:ヨーゼフ・ミュラー=マイエン(P)

1962年11月録音:ヴォルフ、ベートーヴェン、シューベルト、R.シュトラウス歌曲集:ロルフ・ラインハルト(P)

●CD2

1965年5月録音:シューマン「詩人の恋」、ベートーヴェン歌曲集、シューベルト歌曲集:フーベルト・ギーゼン(P)

●CD3

1964年2月録音:シューベルト「美しい水車屋の娘」:フーベルト・ギーゼン(P)

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CD2とCD3は名盤と名高いスタジオ録音が別にありますが、異なる日付、場所での演奏ということで、記録的価値は高いでしょう。

特に注目すべきはCD1です。
ブラームスのドイツ民謡集や、ヴォルフの「イタリア歌曲集」は、彼の正規のスタジオ録音にはこれまでなかったレパートリーと思われます。
1955年録音ということはヴンダーリヒ25歳の時の録音ということになります。
大歌手は早熟なことが多いですが、ヴンダーリヒもおそらくそうなのでしょう。

興味のある方は入手してみてはいかがでしょうか。

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シューベルト「収穫の歌(Erntelied, D434)」を聴く

Erntelied, D434
 収穫の歌

Sicheln schallen,
Ähren fallen
Unter Sichelschall;
Auf den Mädchenhüten
Zittern blaue Blüten,
Freud' ist überall.
[Freud' ist überall.]
 鎌で刈る音が鳴り、
 穂が落ちる、
 鎌の音とともに。
 娘たちの帽子の
 青い花飾りは震え、
 喜びはいたるところにある。

Sicheln klingen,
Mädchen singen
Unter Sichelklang,
Bis, vom Mond beschimmert,
Rings die Stoppel flimmert,
Tönt der Erntesang.
[Tönt der Erntesang.]
 鎌で刈る音が響き、
 娘たちは歌う、
 鎌の響きとともに。
 月に照らされて、
 周囲に切り株がきらめくまで、
 収穫の歌は響き続ける。

Alles springet,
Alles singet,
Was nur lallen kann.
Bei dem Erntemahle
Ißt aus einer Schale
Knecht und Bauersmann.
[Knecht und Bauersmann.]
 皆飛び跳ね、
 皆歌う、
 ろれつの回らぬまま話せることを。
 収穫時の食事では、
 一枚の深皿から食べるのだ、
 使用人も農夫も。

Jeder scherzet,
Jeder herzet
Dann sein Liebelein.
Nach geleerten Kannen
Gehen sie von dannen,
Singen und juchhei'n!
[Singen und juchhei'n!]
 それから誰もがふざけ、
 誰もが抱き合う、
 それぞれの恋人と。
 ジョッキを飲み干すと
 彼らはそこから帰り、
 歌ったり、歓声を挙げたりするのだ!

詩:Ludwig Heinrich Christoph Hölty (1748.12.21, Mariensee - 1776.9.1, Mariensee)
曲:Franz Peter Schubert (1797.1.31, Himmelpfortgrund - 1828.11.19, Wien)

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以前にこの曲について投稿した記事がありますので、よろしければ以下のリンク先からご覧ください。
 こちら

秋といえば収穫の季節です。
そんなわけで、今回聞き比べるのは、シューベルトの「収穫の歌」です。
ヘルティの4つの節からなる有節歌曲です。
スタッカートのピアノパートがうきうきした気分や無骨なダンスを想起させます。
歌は各節の最終行を繰り返します。

この曲は、私がクラシック音楽を聴き始めてまだ間もない頃に、シュヴァルツコプフがEMIに録音したシューベルト歌曲を2枚組にまとめたLPを買って、その中に収録されていたのがはじめての出会いです。
ピアノはG.パーソンズで、他の歌曲と若干毛色の違う親しみやすい曲だったので、すぐに気に入ったのを覚えています。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)

1970年録音。1,2,4節歌唱。歯切れのよいF=ディースカウの歌唱と、温かみのあるタッチのムーアの演奏がとてもチャーミングです。

●アンネ・ソフィー・フォン・オッター(MS) & ベングト・フォシュベリ(P)
Anne Sofie von Otter(MS) & Bengt Forsberg(P)

1996年録音。全4節歌唱。オッターの歌は威勢よく、明るく、理想的な歌唱と言えるでしょう。フォシュベリも雄弁です。

●マティアス・ゲルネ(BR) & アレクサンダー・シュマルツ(P)
Matthias Goerne(BR) & Alexander Schmalcz(P)

2009年録音。全4節歌唱。ゲルネは快活な歌を歌っている時でも真面目な感じが残っているのが面白いです。シュマルツは美しいタッチで演奏しています。

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シューベルト「秋(Herbst)」D945を聴く

Herbst, D945
 秋

Es rauschen die Winde
So herbstlich und kalt;
Verödet die Fluren,
Entblättert der Wald.
 風がざわめく、
 これほど秋めいて、冷たく。
 野は荒れ果て、
 森は葉を落とす。

Ihr blumigen Auen!
Du sonniges Grün!
So welken die Blüten
Des Lebens dahin.
[So welken die Blüten]
[Des Lebens dahin.]
 おまえたち、花咲いていた野よ!
 おまえ、日の光の照っていた緑よ!
 こうして人生の花々は
 枯れ果てるのだ。

Es ziehen die Wolken
So finster und grau;
Verschwunden die Sterne
Am himmlischen Blau!
 雲が流れる、
 これほど暗く灰色になって。
 星々は
 天上の青で消え去った!

Ach wie die Gestirne
Am Himmel entflieh'n,
So sinket die Hoffnung
Des Lebens dahin!
[So sinket die Hoffnung]
[Des Lebens dahin!]
 ああ、天の星が
 逃げるように、
 人生の希望は
 沈み去るのだ!

Ihr Tage des Lenzes
Mit Rosen geschmückt,
Wo ich die Geliebte
Ans Herze gedrückt!
 おまえたち、春の日々は
 バラに飾られ、
 私は恋人を
 胸に押し付けたものだった!

Kalt über den Hügel
Rauscht, Winde, dahin!
So sterben die Rosen
Der Liebe dahin!
[So sterben die Rosen]
[Der Liebe dahin!]
 丘の上を冷たく
 ざわめき去れ、風よ!
 こうして愛のバラは
 死に去るのだ!

詩:レルシュタープ(Heinrich Friedrich Ludwig Rellstab: 1799.4.13, Berlin - 1860.11.27, Berlin)
曲:シューベルト(Franz Peter Schubert: 1797.1.31, Himmelpfortgrund - 1828.11.19, Wien)

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暦の上では「秋」ですが、もうしばらくは「夏」の名残を感じながら過ごすことになるのでしょう。
せめて気分だけでも「秋」を味わうために、シューベルトのこの曲を聴き比べしたいと思います。

このシューベルトの歌曲「秋」については、以前投稿した記事で触れていますので、よろしければリンク先をご覧ください。
 こちら

私がはじめてシューベルトの「秋」という歌曲を聴いたのは、おそらく1980年代前半にF=ディースカウがブレンデルとPHILIPSレーベルに録音したシューベルト歌曲集のLPだったと思います。
そこで聴いたシューベルトの音楽は、ちょうど歌手人生の秋の時期を歩んでいた(ように感じられた)F=ディースカウの寂れたような声質も相俟って、印象に残りました。

この6節からなるレルシュタープの詩の2節ずつをまとめて1つにして、全部で3節からなる有節歌曲として作曲されました。
最後の2行を繰り返すのですが、繰り返された時の1行目最後の2音節が急激に上昇する箇所はぐっと引き寄せられます(Blüten, Hoffnung, Rosen)。

ピアノパートの絶え間ないトレモロが寂寥感を強調し、聞き手を秋の風吹くうら寂しい情景に連れて行きます。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)

これは名演です!F=ディースカウもムーアも気持ちの入った演奏で、惹きつけられます。

●ヘルマン・プライ(BR) & フィリップ・ビアンコニ(P)
Hermann Prey(BR) & Philippe Bianconi(P)
 こちら(これは埋め込み出来ない動画なので、リンクを貼っておきます。)
80年代に「白鳥の歌」の一環として録音された音源。速めのテンポで円熟期のプライが諦観よりもむしろ生の感情を素直に歌っていて、胸に染みます。ビアンコニも見事な描写力です。

●マティアス・ゲルネ(BR) & クリストフ・エッシェンバッハ(P)
Matthias Goerne(BR) & Christoph Eschenbach(P)

楽譜が演奏と共に映されています。ゲルネの深みのある弾力のある声が秋のもの悲しさを見事に表現しています。エッシェンバッハもさすがのうまさです。

●クリスティアン・ゲルハーエル(BR) & ゲロルト・フーバー(P)
Christian Gerhaher(BR) & Gerold Huber(P)

2014年録音。ゲルハーエルの明晰なディクションがここでも生きています。フーバーは抑揚の付け方が細やかでいい演奏です。

●クリスティアーネ・カルク(S) & ブルクハルト・ケーリング(P)
Christiane Karg(S) & Burkhard Kehring(P)

2009年録音。女声が歌うとまた違った雰囲気になります。彼女はかなりドラマティックな起伏を盛り込んで歌っていますね。ケーリングも歌に合わせた協調ぶりです。

●クリストフ・プレガルディアン(T) & アンドレアス・シュタイアー(P)
Christoph Prégardien(T) & Andreas Staier(P)

2008年録音。ここで注目すべきなのは、プレガルディアンが装飾を付けて歌っていることです。当時、シューベルトと共に彼のリートを歌ったフォーグルはかなり装飾を付けて歌ったらしく、それを意識した試みだと思われます。

●ピアノ伴奏のみ(Hye-Kyung Chung)(P)

トレモロを聴いているだけで肌寒い情景が目に浮かびます。速めのテンポで演奏されています。

【参考】管弦楽編曲版(ケヴィン・ハルピン編曲)
Orchestral arrangement by Kevin Halpin - strings, woodwinds and timpani.

様々な音色で、秋をドラマティックに描いています。面白い試みだと思います。

【参考】フランツ・リストによる同じテキストによる歌曲(グンドゥラ・ヤノヴィツ(S) & アーウィン・ゲイジ(P))
Liszt: Es rauschen die Winde (Gundula Janowitz(S) & Irwin Gage(P))

1977年ライヴ録音。同じ詩とは思えないほど、リストの音楽は濃厚で劇的です。

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マーラー「高遠なる知性の賛美(Lob des hohen Verstandes)」を聴く

Lob des hohen Verstandes
 高遠なる知性の賛美

Einstmals in einem tiefen Tal
Kukuk und Nachtigall
Täten ein Wett' anschlagen:
Zu singen um das Meisterstück,
Gewinn' es Kunst, gewinn' es Glück:
Dank soll er davon tragen.
 昔、ある深い谷で
 かっこうとナイチンゲールが
 見事な作品を歌うための
 競技を企てた。 
 芸と幸運を手に入れたら
 感謝してもらおう。

Der Kukuk sprach: "So dir's gefällt,
Hab' ich den Richter wählt",
Und tät gleich den Esel ernennen.
"Denn weil er hat zwei Ohren groß, [Ohren groß, Ohren groß,]
So kann er hören desto bos
Und, was recht ist, kennen!"
 かっこうは言った「きみさえ良ければ
 ぼくが審査員を選んでおいたよ」
 そしてすぐにロバを指名した。
 「だってロバは二つの大きな耳があるから
 悪いところがいっそう聞こえるだろうし、
 正しいことを知っているだろうからね!」

Sie flogen vor den Richter bald.
Wie dem die Sache ward erzählt,
Schuf er, sie sollten singen.
Die Nachtigall sang lieblich aus!
Der Esel sprach: "Du machst mir's kraus! [Du machst mir's kraus! Ija! Ija!]
Ich kann's in Kopf nicht bringen!"
 彼らはすぐに審査員の前まで飛んで行った。
 事の次第を聞かされたロバは
 二羽に歌うように告げた。
 ナイチンゲールは愛らしく歌った。
 ロバは言った「きみの歌はわけが分からんよ![イーヤー!]
 頭の中に入ってこない!」

Der Kukuk drauf fing an geschwind
Sein Sang durch Terz und Quart und Quint.
Dem Esel g'fiels, er sprach nur "Wart! [Wart! Wart!]
Dein Urteil will ich sprechen[, ja sprechen].
 続いてかっこうが急いで歌い始めた、
 三度と四度と五度音程の歌を。
 ロバは気に入り、こう言った「待て!
 判定を言い渡そう。

Wohl sungen hast du, Nachtigall!
Aber Kukuk, singst gut Choral! [gut Choral!]
Und hältst den Takt fein innen! [fein innen!]
Das sprech' ich nach mein' hoh'n Verstand! [hoh'n Verstand! hoh'n Verstand!]
Und kost' es gleich ein ganzes Land,
So laß ich's dich gewinnen! [gewinnen!]"
[Kukuk! Kukuk! Ija!]
 きみもよく歌ったよ、ナイチンゲール!
 だがかっこうよ、きみはコラールを上手に歌ったな!
 拍の中にうまく収まっておったぞ!
 わが高遠なる知性にかけて申す!
 きみの歌はまるごと一国に値する、
 よってきみの勝ちとする!」
 [カッコー!カッコー!イーヤー!]

詩:Achim von Arnim (1781-1831) und Clemens Brentano (1778-1842) aus "Des Knaben Wunderhorn"
曲:Gustav Mahler (1860-1911)

※今回の訳詞を作成するにあたって、かなり迷った箇所もありましたので、あくまで参考程度にご覧ください。
第2節第5行の"bos"は、私の見た範囲ではどの辞書にも載っておらず、"böse(悪い)"のことと想像しました。
おそらくオリジナル詩集の注を見れば何らかのヒントが載っているのかもしれませんが、もし分かりましたら反映したいと思います。

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オリジナルのタイトルは"Wettstreit des Kukuks mit der Nachtigal(かっこうとナイチンゲールの競い合い)"

オリジナルのテキストは下記のリンク先をご覧ください。
 こちら

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先日の記事で、ロバの登場するヴォルフの歌曲をご紹介しましたが、今回はそのマーラー編です。
マーラーがアルニム&ブレンターノの編纂した「子供の魔法の角笛(Des Knaben Wunderhorn)」の中の詩に手を加えて歌曲集を作りました。
その中の1つが、「高遠なる知性の賛美(Lob des hohen Verstandes)」です。

歌自慢のかっこうとナイチンゲールが、歌を競い合おうということになり、審査員に耳の大きなロバを指名します。
ロバは審査員を引き受けましたが、ナイチンゲールの歌は難しすぎて理解できませんでした。
そこでかっこうに歌ってもらうと、例の「カッコー」という音程の単純な下降がロバの耳には分かりやすく、かっこうを勝者にします。
その理由が「拍の中にうまく収まっておった」からで、ロバにも理解できたということなのでしょう。
ロバは「わが高遠なる知性にかけて(nach mein' hoh'n Verstand)」判定の正しさを主張します。
その歌声は一国まるまるの価値があるとまで言い放ちます。
これらの鳥や動物を通じて、耳に馴染みやすいものを評価し、斬新な響きには聞く耳を持たないという批評家、聴衆たちを皮肉っていることは明白でしょう。

マーラーがこの詩を音楽にする際に、一見コミカルな響きの中に、強烈な音楽業界への皮肉を込めているのがはっきりと感じられます。
ナイチンゲールの歌う場面でマーラーが用いた音楽は、シューベルトのピアノソナタ第18番ト長調D894「幻想」の第4楽章を思い起こさせます。
(参考文献:こちら

歌声に時折トリルを加えたり、ロバの鳴き声を極端に広い音程で表現したり、グロテスクな表情はいたるところに散りばめられています。
この曲にはオーケストラ版とピアノ版の両方がありますが、最初にピアノ版で聞いて想像をふくらませた後に、オーケストラ版を聞くと、より鮮明に動物たちの響きが聞こえてくると思います。

ここでもロバは結局、頭の固い無知な者という位置づけがされていますが、あくまで象徴として使われているだけであって、実際のロバがどうなのかということはまた別問題だと思います。
それぞれの名演を楽しんでください。

かっこう(der Kuckuck)の鳴き声

ナイチンゲール(die Nachtigall)の鳴き声

ロバ(der Esel)の鳴き声

詩の朗読(Susanna Proskura)

Christa Ludwig(MS), Gerald Moore(P)
クリスタ・ルートヴィヒ(MS), ジェラルド・ムーア(P)

1957年録音。ルートヴィヒの語り口の鮮やかなことといったら!雄弁なムーアのピアノと共に表情が見事です。

Anne Sofie von Otter(MS), Ralf Gothoni(P)
アンネ・ソフィー・フォン・オッター(MS), ラルフ・ゴトーニ(P)

1989年録音。彼女のディクションの上手さが見事に生かされています。ゴトーニは「ナイチンゲール」の響きが特に美しかったです。

Thomas Hampson(BR), Geoffrey Parsons(P)
トマス・ハンプソン(BR), ジェフリー・パーソンズ(P)

マーラーを得意とするハンプソンの余裕をもった歌唱とロバのいななきが聴きどころです。パーソンズはいつも同様うまいです。

Elisabeth Schwarzkopf(S), The London Symphony Orchestra, George Szell(C)
エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S), ロンドン交響楽団, ジョージ・セル(C)

1968年録音。シュヴァルツコプフのユーモラスな側面を聴くことが出来ます。

Brigitte Fassbaender(MS), Rundfunk-Sinfonieorchester Saarbrücken, Hans Zender(C)
ブリギッテ・ファスベンダー(MS), ザールブリュッケン放送交響楽団, ハンス・ツェンダー(C)

1979年4月録音。ファスベンダーの歌っている姿が見られます。彼女も声色のパレットの豊富な歌手でした。そのパレットを存分に発揮しています。

【参考】シューベルト: ピアノソナタ第18番ト長調D894「幻想」の第4楽章(スヴャトスラフ・リヒテル(Sviatoslav Richter)の1977年の演奏)

0:24-0:26等の音型(その後も何度か出てきます)が、マーラーのこの歌曲のナイチンゲールの響きに取り入れられていると考えられます。

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